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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生44巻7号

1980年07月発行

雑誌目次

特集 かびと健康障害

かびと生活—公衆衛生実務者に望む

著者: 倉田浩

ページ範囲:P.452 - P.455

■はじめに
 医学の分野で病原微生物というと誰しもまずは細菌を,次にウイルスを想起するであろう.真菌(かび)は,考慮の中に入れないわけではないが,細菌と一緒に考えてしまっていることが多く,この両者を格別に分けて考える必要はないと考えている人が,まだまだ後を絶たないように思える.確かに,細菌を原因とする感染症に致死率の高い疾患が多いことは事実であるが,臨床家が知る限りの新規にして広領域な抗菌剤を駆使しても患者の生命を救うことができなかった症例の中に,剖検後の病理診断によってその原因が真菌であったことが判明した例がいかに多いことかを考えると,まことに悔やまれてならないのである.現在,真菌の分野に特別の関心を持った研究者や,医療に従事する基礎医学・臨床家の多くは,過去に必ずこうした事例を経験され,真菌の重要性を身をもって受け入れられた方々であろう.
 筆者には,微生物の人間生活へのかかわりあい,その多様性は考えれば考えるほど奥行が深く,未知の分野を含めると無限であると思えるのである.

かびの臨床疫学

著者: 原田誠一

ページ範囲:P.456 - P.461

■はじめに
 かびによる疾患は極めて多種にわたる.近年,抗生物質の投与,コルチコステロイド剤の使用頻度が高まるにつれて,一つは菌交替現象として,また一つは宿主の抵抗性の減弱につれて,かびによる疾患が急激に増加している.しかも,かびは諸種の薬剤に対して一般に抵抗が強く,ひとたび生体において病原性を発揮すると,菌を容易に死滅させることができない.大変やっかいなしろものなのである.
 かびによる疾患は極めて多種であり,これをいちいち述べることはできない.筆者はその専攻するところが皮膚科学である関係上,主として皮膚科領域におけるかびの疾患について述べようと思う.

かびによるヒトの感染症

著者: 久米光 ,   奥平雅彦

ページ範囲:P.462 - P.469

■はじめに
 いわゆる"かび"と呼ばれている微生物は,有史前の太古から人間生活と密接かつ多岐にわたる深いかかわりあいを持っている.このかかわりあいの中で現在までに10万種以上ときわめて多くのかび類が知られている.しかしながら,ヒトに感染を起こす,いわゆる病原真菌はこのうち100種前後と目されており1),とくに,わが国における主要な真菌症の起因菌は,たかだか18属50種程度であろうと推測される.
 ヒトの真菌感染症(以下,真菌症と略記する)の大部分は,白癬やカンジダ症に代表される表在性の皮膚真菌症であるが,抗生剤や抗癌剤あるいはステロイドホルモン剤などが広く使用され始めた1960年代ごろから,内臓真菌症の逐年的な増加が目立ち,近代医療の進歩とも相まって最近ではとくにその傾向が著しい.

かび毒の化学

著者: 山崎幹夫

ページ範囲:P.470 - P.476

■はじめに
 かび毒による健康の障害については最近,一部の専門家の間でその認識がようやく高まりつつあるが,まだ一般に正しい知識が普及しているとは言いがたい.それは恐らく,かび毒による健康障害が甚だとらえにくい実態を有することによるものと思われる.その詳細については別章に述べられると思うのでここでは詳述しないが,経過のはっきりした急性障害の発現するかび毒中毒の例はごくまれであり,多くは癌を主とする複雑な慢性障害として現われる.一方,かび毒と呼ばれる化合物にどのような化学的特徴があるかを考えてみると,結論的に言って,これにはあらゆるタイプの化合物が含まれる.こういう実情がかび毒の研究を非常に難しくしていると言えるだろう.
 以下に,かび毒の化学と,作用の発現に及ぼす構造的要因の概略を述べる.

マイコトキシンによる健康障害

著者: 大坪浩一郎

ページ範囲:P.477 - P.484

■マイコトキシンとは
 糸状菌(かび)が産生する二次代謝物中,ヒトや家畜などに有害作用を示すものをマイコトキシン,かび毒と呼んでいる.これによって起こる食中毒(あるいは食餌性疾患;foodborne disease)を真菌中毒症(mycotoxicosis)と呼ぶ.真菌による食中毒としては古くからキノコによる中毒,麦角菌による中毒(ergotism)が知られていたが,二次代謝産物であるマイコトキシンによる中毒症の認識は比較的新しい.第二次大戦後,東南アジア,エジプト,スペインなどから輸入された米から,強い肝臓障害を起こすかび毒を作るPenicillium islandicumが分離された"黄変米事件"を,まだ記憶している人も多いであろう1)2)
 マイコトキシンが世界的に注目を浴びるようになったのは,1960年代初めのaflatoxinの発見以後である.しかし,この極めて強い発癌物質をはじめ,マイコトキシンがヒトの健康障害,発癌に関連があるに違いないと考えられてきたのは,せいぜいここ10年くらいのことである3)〜6)13)

かび毒産生菌の生態

著者: 一言廣

ページ範囲:P.485 - P.491

■はじめに
 わが国におけるかび毒に関する研究が歴史的にも,実績の上でも世界のトップレベルにあるということは,自他ともに認めるところであろう.しかし,かび毒に関する多くの課題のうち最も研究の遅れている部分は,本課題であると思われる.わが国のかび毒研究についての組織活動はともかく,その最大の弱点はかびを取り扱う研究者,技術者の少ない点である.これまで,先輩諸氏の多大の努力にもかかわらず,諸外国に比べてわが国の本課題に関する資料は甚だ少ないが,手元にある限りの資料に基づいて今日までの研究成果の概要を解説し,参考に供したいと思う.

かび毒の食品汚染とその対策

著者: 一戸正勝

ページ範囲:P.492 - P.498

■はじめに
 今日,かび毒——マイコトキシン——として報告されている真菌類の生産する有毒代謝物を数え上げると,300余種を超える膨大なものになるという.これら個々のかび毒がクローズアップされてきた背景には,さまざまな要因が挙げられる.まず,ヒトもしくは家畜,家禽などの中毒事例に端を発して,中毒原因物質の追求の結果として見出されたものが中心をなすのは,当然のことであろう.歴史的にはいわゆるかび毒が問題とされる以前にも抗生物質としてかび代謝物が知られていながら,毒性の面で実用に至らなかったものもかなり含まれている.また,わが国の黄変米事件やアフラトキシン中毒を契機として,食品,家畜飼料などから分離したかび類が実験動物に対し毒性を示したことから,かび毒として認識されるに至ったものまで,さまざまな経路を経て,かび毒の仲間が構成されている.
 本稿では,単に毒性の面だけで評価するのではなく,実際のヒトの生活に直接,間接にかかわりあいを持つものとして,食品類の中に自然汚染の形で検出されるかび毒群——アフラトキシン,オクラトキシン,ステリグマトシスチン,パツリンおよび二,三のFusarium毒素類に限定して論を進めたい.

講座 感染症とワクチン

【Ⅱ】風疹および先天性風疹症候群と風疹ワクチン

著者: 杉下知子

ページ範囲:P.499 - P.504

 風疹は,わが国の場合,7〜8年の周期で幼児から学童にかけて大流行を起こす,小児期の軽症ウイルス感染症である.ところで,本症が先天異常の原因となりうることが明らかとなって以来,妊婦の風疹感染の重大さが認識され,妊婦が風疹にかからないようにするための対策,すなわちワクチンの開発と研究,検査法の開発,抗体保有状況の調査,先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)の診断や発生頻度調査など多面的な研究が世界的に繰り広げられてきた.ここでは最近の研究成果を紹介しながら,CRSをも含めてその動向を紹介する.

臨床から公衆衛生へ

過換気症候群

著者: 金上晴夫

ページ範囲:P.506 - P.507

はじめに■
 先日も,合唱の練習中に過換気症候群の発作を起こした女子学生が,保健センターに運ばれてきた.手足は硬直して歩行できず,友人数人に支えられ,激しい呼吸をつづけながら運ばれてきたのである.本人の苦しげな症状と息づかいはもちろんのことであるが,連れてきた友人たちも,いかにも不安げな表情である.
 これは,本人にとって初めての発作であるから仕方がないが,もし本人が発作が起こった時の治療の方法について教えられ,この過換気症候群について十分に理解していれば,発作が起こってもすぐ紙袋呼吸を行ない,自分で発作を止めることができたのにと,残念に思ったことである.

連載 戦後の公衆衛生

【Ⅳ】食生活と健康

著者: 麦谷眞里 ,   北井暁子 ,   安達一彦

ページ範囲:P.510 - P.512

■国民栄養調査
 昭和20年,占領軍最高司令官から日本政府にあてた「一般住民の栄養調査を実施すべき」旨の指令に基づき,国民栄養調査が始められた.当初,その目的は,日本人の栄養状態を統計的に知って,どのくらいの緊急食糧を必要とするかという科学的根拠を作ることにあったが,その後,調査対象の範囲が拡大され,さらに27年,栄養改善法が制定されるなどして,占領行政から離れた栄養改善事業の1つとしてこの調査は重要なものとなっていった.
 現在,この調査は,国民全体を対象とし,標本抽出法によって,栄養摂取の状況のみならず,体位,血圧,脈拍,身体症候などの調査についても,対象者を細かく分類して行なわれている.中でも昭和33年以来行なわれている血圧の測定は,成人病対策上にも重要な統計資料として使われている.

資料

群馬県の農山村における周産期の民間伝承

著者: 佐藤千春

ページ範囲:P.513 - P.517

■はじめに
 最近出産のほとんどが施設分娩になり,かつて自宅内で行なわれた出産様式やそれに伴う俗信の多くは影をひそめ,民間伝承として民族史の中に留まっている.筆者は群馬県の農村の若干の資料から周産期に関する民間伝承を抽出し,集約的に考察を試みた.

海外事情

アフリカの僻村における衛生教育—1

著者:

ページ範囲:P.518 - P.522

■はじめに
 西アフリカは1958年のガーナをはじめ,1970年までに旧植民地はそのほとんどが独立を達成した.しかし,医療衛生の業務は今日でもなお,人口の15%にしか行きわたっていない(写真1).筆者はこの政府発表の15%という数字も水増しで,実際は5〜10%ではないかと見積もっている.それらの国々では実情はこのようなものである.
 筆者は1971年から79年までの8年間,西アフリカのナイジェリアの医科大学で主に生化学と公衆栄養の教育と研究に従事してきた.筆者は医者ではないが,この8年間の経験に基づいて,第三世界の実情を紹介してみたい.

発言あり

夏休み

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.449 - P.451

実体験を積む時
 元来,夏休みは,教育の社会化と暑さという自然現象によって生まれたのだろう.早くから教育が社会化されたのは,人間の生き,暮らす営みにとってきわめて重要なものであるからだ.ところが,今や教育は,資格や学歴という《社会的なヨロイ》にゆがめられ,知識の伝授が中心となった.そして,親子ともどもそれを求めている.それだけ,人々は《社会的なヨロイ》を着て生きている,ということなのだろう.
 ともかく,《連続した自由な時の集合》としての夏休みの生活も,その延長線上に存在する羽目になる.本来,夏休みは,青少年が《生の》《全人格的な》《主体的な》実体験を経験すべき時である.

人と業績・1

ギロラモ・フラカストロ(1478-1553年)

著者: 小栗史朗

ページ範囲:P.508 - P.509

 梅毒にジヒリス(Syphilis)の病名をつけ普及させたフラカストロ(Fracastro,Girolamo)は,「伝染説にまともな哲学的説明をした最初の人であり,ヒポクラテスとパスツールとの間の伝染病因論史に,比肩する人のない巨峰」である.ウィンズロー(Winslow,C-E. A.)は,このように彼を評している.
 人類は,有史以来,繰り返し疫病に襲われ,惨禍をこうむってきた.その克服は,ようやく前世紀後半に入ってからである.今日の公衆衛生が駆使する伝染病対策の戦略・戦術の基盤である病因論を,フラカストロは16世紀に確立していた.

日本列島

散乱ゴミ対策の具体的検討へ—京都

著者: 山本繁

ページ範囲:P.517 - P.517

 京都市では,観光地などを持つ自治体に共通の悩みとなっている散乱ゴミ(空きカンなどの投げ捨てゴミ)への対応策を確立すべく,具体的な検討作業が取り組まれている.すなわち,長年,自然環境を守る運動を進めている「ごみを拾う市民の連絡会」,その他の市民の要望にこたえて,昭和54年11月に京都市散乱ごみ対策協議会を発足させた.この協議会の性格として,京都市長の諮問機関的色彩を持つとともに,散乱ゴミの追放をめざす市民運動の母体的役割も担っている.
 現在のところ,規制(条例化作業)については,関連法規との整合性を求める点で一定の時日を要するようなので,実態の把握や啓発活動の内容,さらにはボランティア活動への援助などに重点がおかれているようである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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