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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生44巻9号

1980年09月発行

雑誌目次

特集 身体障害者の地域ケア

身体障害者福祉対策の現状と課題

著者: 河野康徳

ページ範囲:P.600 - P.606

■身体障害者の現状——身体障害者実態調査結果から——
 本年2月現在で身体障害者の全国調査が実施された.前回の調査は昭和45年10月であったから,およそ10年ぶりの調査であった.統計的なものと併せてニード調査も行なわれたのであるが,詳細な結果の発表には時間がかかるので,ここでは,このほど(8月)公表されたものの範囲で,わが国の身体障害者の現状をみることとしたい.

身体障害者のための社会資源

著者: 古森茂治 ,   保坂晴保

ページ範囲:P.607 - P.613

■はじめに
 近年,身体障害者に対する援護は経済,医療,職業,住宅保障といった,単なる生活維持のための施策にとどまらず,スポーツ,レクリエーション,教養講座などの社会文化活動の推進にまで向けられている.
 地域差こそあれ,進んだ地域においては身体障害者福祉センターが設置され,これらの活動の拠点としての役割を果たしているし,多くの自治体では重度の障害者の外出を促進するため,福祉タクシー制度などの施策も実施されている.一方,車椅子などの,障害者の街での行動がスムーズにできるようにガイドブックが作製され,観劇,飲食,買物などの行動に役立っている.

医師会による身体障害者の地域ケア—群馬県医師会沢渡温泉病院における地域医療

著者: 亀田実

ページ範囲:P.614 - P.619

■はじめに
 温泉を利用して病気を癒すことは,温泉の多い日本では《湯治》という言葉があるように古くから行なわれており,有馬温泉,草津温泉など有名な温泉が知られている.この温泉を利用し,西洋医学と温泉療養とを合わせ用いて,慢性の疾病に応用すべく,昭和37年7月,群馬県医師会により設立された当院(写真1)は,開設以来18年を経過し,地域医療に貢献している.新聞,テレビなどにより,リハビリテーションに対する一般の人の知識も向上し,重要性が認識されて,各地にリハビリテーションの病院が次々に建てられている.
 今回は当院の開設以来の状況を,昭和43年,48年,55年の3回施行した入院患者へのアンケートの結果と,昭和42年,54年の入院患者の統計およびその他毎年施行している統計をもとにして述べたいと思う.

身体障害者のための住宅改造

著者: 野村歓

ページ範囲:P.620 - P.624

■はじめに
 昨年,筆者はある調査・研究グループの一員として,A市に居住する約100名の在宅身体障害者(以下,身障者と略す)に対し,「社会・家庭で自立するための条件は何か」を中心に住宅,介護,緊急一時保護,外出の手段などについて訪問調査を行なった.その中で,住宅改造をすれば日常生活が独力でできるのに家族の介護を受けていたり,住宅改造をしていても十分な効果をあげていない例も,いくつか見られた.また,介護については家族はもとより本人にとっても負担が大きく,ホームヘルパー制度があるにせよ,時間的・内容的に必ずしも十分でないように思えるようなことが,しばしば見受けられた.
 しかし,いろいろな不便があるとしても,家族のいる住宅での日常生活は施設では得られない充実感がある.今日のようにコミュニティーケアが叫ばれ,在宅福祉施策の福祉行政の中心になってきたのも当然であり,今後インテグレーション,ノーマライゼーション,さらには国際障害者年(1981年)のテーマ「完全なる社会参加と平等」等等の動きから見ても,地域社会に居住し,社会参加する考え方が基本となろう.それを成り立たせるには,住宅は非常に重要な意味を持っているように思う.これを箇条書に整理してみると——.

身体障害者の雇用の現状と対策

著者: 河合諒二

ページ範囲:P.625 - P.630

■はじめに
 昭和35年に身体障害者雇用促進法が制定されて以来,20年が経過した.その間,身体障害者の雇用対策は着実に充実されてきた.特に,昭和51年の法改正では,飛躍的な発展をみた.身体障害者の雇用義務の強化,身体障害者雇用納付金制度の創設が主な改正点である.
 改正法の施行を契機として,身体障害者の雇用に関する社会的関心はかなり高まり,企業の雇入れも漸次進みつつあるものの,身体障害者の雇用の状況をみると,いまだ十分とは言えない.

身体障害者の精神的な支え—人工透析患者の自己管理の例

著者: 相磯富士雄

ページ範囲:P.631 - P.634

■はじめに
 わが国やヨーロッパの慢性透析患者の5年生存率は,50%を越してきている.また,ヨーロッパでの家庭透析のそれは,70%を越している1).もはや透析療法は,治療の段階を越えて生活の中に取りこまれ,社会復帰の手段となってきており,合併症がない限り健康人としての社会生活の一部になってきているのである2)
 しかし,長期透析患者は,週3〜2回,1回数時間,定期的に人工透析を受け,同時にヘマトクリット,塩分,水分,カリなどの自己管理を行なっていかなければならない3)4).当然のことであるが,飲物や食物などの摂取量の管理を適切に行なうことが,基本的な要件である.しかし,この自己管理の成否は,患者の行動を左右する生活諸条件に深くかかわっている.また,この自己管理という行動は,心理社会的側面からの行動理論によって説明できるのではなかろうか.

在宅生活援護の視点と方法—脳卒中後遺症者のリハビリテーション

著者: 大田仁史

ページ範囲:P.635 - P.640

■はじめに
 横山氏の推定1)によると,東京都において,脳卒中患者のリハビリテーション(以下,リハと略す)のために,なお1,700床の専門ベッドが必要であるという.この試算は数年前に行なわれたものだが,それ以後,事情が好転したという話は聞かない.
 つい先日の脳卒中患者の会でも,「入院中の病院でリハを行なってもらえないので,どこかリハの病院を教えてほしい」とか,「リハの病院を退院させられるのだが,その後どうすればよいだろうか」という質問を受けた.リハを受けようにも,その資源は少なく,また幸いリハ専門病院に入院できても,退院後の長期的なケアが受けられない.入院もできず,急性期から家で療養しているものはいうに及ばないが,たとえ一時期訓練をしても,それからの生活が不活発であれば,彼らはたちまち機能低下を来たし,ねたきりへの道をたどることになる.脳卒中センターが必要であるとか,リハセンターが必要であるとか,机上に理想を描くことは容易である.しかし,それだけでは今の問題の解決には役に立たない.難しい作業ではあっても,既存のシステムの中に新しい運用の手段を見出す方が,はるかに現実的である.

身障者の在宅生活問題と行政への対応—リウマチ患者の事例を通して

著者: 宮本二葉

ページ範囲:P.641 - P.645

■はじめに
 慢性関節リウマチは,結婚,出産,育児と家庭の中心的存在で,かつ社会においても活動的立場にある20〜30歳代の家庭の主婦に多く,その数は男子の約4倍であり,結核患者より多い昨今,正しい治療を受けている人がいったいどれだけいるだろうか.私たちは,早期発見,早期診断,早期治療によって重症にしないために,リウマチのこわさを機会のある限り訴え続けている.
 全国に40万とも50万ともいわれている患者数のほとんどが在宅療養で,慢性・急性に進行する病状と,また病気であるために起こる二次障害,社会的・経済的・環境的困難とたたかいながら,患者自身のこの病気に対する正しい理解とそれに基づく強い忍耐と心構え,家族の努力,支えによって生命が維持されているのが実情である.中には,専門的医療,看護さえ受けられず,病名もわからないまま病院を転々として不安のまま経過しているケースも数多く,また病院を"ハシゴ"しているうちに医者不信になって,経済的な問題もからんで放置され,寝たきりになっている人もある.

身障者の街づくり

著者: 井口要

ページ範囲:P.646 - P.649

■はじめに
 コミュニティケアとか,地域福祉とかいった問題が日本で顕在化してきたのは10年ほど前からだと聞くが,障害者福祉の分野でこの問題の重要性が目立って指摘され始めたのは,ここ4〜5年のことではないかと思う.これらの言葉の概念や意義については専門家の方々からさまざまな解釈が既に出されているので,私は新宿で《障害者の住みよい街づくり》の運動にかかわってきた中で教えられたことのいくつかについて,触れることにしたい.

連載 戦後の公衆衛生

【Ⅴ】公衆衛生と経済

著者: 麦谷眞里 ,   北井暁子

ページ範囲:P.650 - P.652

■はじめに
 戦後の公衆衛生を語るとき,わが国の経済成長による国民の生活環境の変化をこれから切り離すことはできない.戦後,とくに昭和30年代の終わりから.40年代の終わりにかけての10年間,世の中の移り変わりはめざましく,機械化の導入により筋肉労働は極端に減少した.食生活にしても,その質的変化は今までより以上に急速に進み,国民の衛生知識の著しい向上ともあいまって,戦前の死因の第1位を占めていた伝染病は激減した.それに代わり,最近の世の中の関心は,肥満,運動不足へと移り,半健康人の増加とともに,いわゆる成人病が注目されるに至った.
 今回は疾病構造の歴史的変化を中心に述べてみたい.

学会だより 第50回日本衛生学会総会

衛生学学習の反省と展望

著者: 滝澤行雄

ページ範囲:P.664 - P.667

■はじめに
 今年は,日本衛生学会が創立されてちょうど半世紀にあたる.新しい時代に入った衛生学の現状を俯瞰する第50回日本衛生学会総会は,東田敏夫名誉教授(関西医大)を会長として,去る4月1〜3日の3日間,大阪厚生年金会館・大阪科学技術センター(大阪府)において盛会裡に開催された.
 本学会の特徴は,総会シンポジウム「現代環境問題と衛生学」ならびに記念行事特別講演「環境発がん物質と衛生学への期待」,「毒性学の現状と未来展望」が示すように,その主題が衛生学学習の反省と展望として企画されていることである.また,いくつかの今日的なテーマについて,衛生学研究の方法論や基礎的研究技術の開拓に主眼をおいた特別報告が組み込まれており,衛生学の進歩の新しい流れの方向が明らかにされた重要な学会であった.一般口演は659題にのぼり,注目された研究も多かったが,ここでは,シンポジウムに焦点をあてて紹介したい.

発言あり

敬老

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.597 - P.599

《敬老》の言葉いらぬ時代を願う
 老人学級で,そのものズバリ,敬老とはどういうことであってほしいですか,とのぶしつけな質問をしてみても,遠慮深い高齢者の方々からは,答えは返ってこない.《敬老》イコール《敬老の日》という短絡があって,《敬老の日》設立の是非論になってくる.
 敬老はあくまでも,心の問題であろうが,精神主義では現実の老人を救えない.具体的に,敬老を表わす施策が考えられねばならない.形の上で,老人に席をゆずらなかったからといって,それで敬老心がないなどと,短絡的に反応する愚は,人生経験豊かな高齢者はすべきではない.医療費が無料化したからといって,病院をサロン代わりに使ったり,高額所得がありながら,無料でみてもらおうとするような心がけの悪い方に,《敬老》される資格があろうか,とも思う.しかし,そういうエゴをも包容するような寛容さも望ましいのだが——.

人と業績・3

ヨハン・ペーター・フランク(1745-1821年)

著者: 小栗史朗

ページ範囲:P.654 - P.655

 「健康と疾病の社会との関係を究めた思想史の道標の1つ」(ローゼン;Rosen)とされる不朽の著作『完全なる医事警察体系』(System einer vollstandigen Medizinischen Polizei)の著者,フランク(Frank,Johann Peter)は,むしろ臨床医,医学教育者また病院経営者として,当時のヨーロッパに高名であった.その著作は,彼の死後1世紀後に,初めて理解され評価されており,日本では暉峻義等博士が最初に紹介している(三浦豊彦著『労働と健康の歴史』第一巻).

講座 臨床から公衆衛生へ

腸チフス

著者: 村田三紗子 ,   斎藤誠

ページ範囲:P.656 - P.657

 腸チフスは,経口感染したチフス菌が腸管のリンパ組織に病変を起こさせ,増殖して血流により全身に運ばれる全身性感染症である.臨床的には長期におよぶ発熱が主症状であり,伝染病予防法による法定伝染病の一つである.診断した医師は直ちに,診定地の保健所長に患者発生を届け出る義務がある.

大学とフィールド

新設医大の5年間—〈山形大学医学部公衆衛生学講座〉

著者: 新井宏朋

ページ範囲:P.658 - P.659

●医学部の発足
 山形大学医学部は昭和48年に国の1県1医大政策の嚆矢として誕生した.当時,山形県は東北地方唯一の無医大県であり,医学部設置についての県民の要望は強かった.
 初代医学部長の中村隆教授は,「県民に開かれた医学部」を建学のひとつの柱とされていた.

保健・医療と福祉

発展する病院の保健福祉活動—静岡済生会病院

著者: 竹下豊

ページ範囲:P.661 - P.663

はじめに■
 静岡済生会病院は,患者数1日平均入院620名,外来900名の,静岡県下の中核的な病院で,社会福祉法人恩賜財団済生会が経営している.当病院は,昭和23年に開設され,その時代のニードに応じた福祉医療を実践してきたが,30年代になって社会保障の施策が整ってきたのに伴い,従来の医療保護事業からの脱皮が迫られ,新しい福祉病院のあり方が模索された結果,医療社会事業(MSW)を取り入れることとなり,昭和33年に医療ソーシャルワーカー(MSW)が採用された.その当時は面接室さえなく,MSWとは何かを知る職員もなく,事業の発展は容易なことではなかった.
 その後,関係者の努力によって38年に医療社会事業,心理,栄養,保健の4相談室から成る社会事業部が設立された.現在では,各室専任の専門職員9名,各室の相談室,成人病,子宮がんの各検診車,巡回車,映写機などを有する部門に成長しており,年間約4,800万円の予算で活動している.

日本列島

患者をかかえた病院の破産宣告—宮城

著者: 土屋真

ページ範囲:P.613 - P.613

 さる昭和55年1月,負債総額約12億円で倒産状態になった医療法人万年青(おもと)病院の問題は,入院患者をかかえたままであったので,私どもにとっても気になる話であった.
 ともかく,債権者の薬品納入業者3社の破産宣告申し立てと,病院側の和議申し立て不能の現状から,「今の理事長の万年青会による再建は不可能」として,6月16日,仙台地裁は病院の破産宣告を行なった.これにより破産管財人に財産管理がゆだねられ,競売されることとなり,次期経営者による再建の見通しが立ったのである.

国際家族計画広報教育セミナー—北海道

著者: 齋藤雍郎

ページ範囲:P.649 - P.649

 発展途上国に対する援助の一つであるこのセミナーのフィールド・トリップが,6月17日から3日間当所管内で行なわれた.東京で2週間のセミナーを終えて来道した一行は,前日,道の衛生概況の説明を受けたあと,1日目は保健所管内の概況説明と,3ヵ月児健診の機会を利用しての受胎調節指導見学,午後は厚田村へ行き村の概況説明を受けた.
 2日目は厚田村乳幼児健診見学,昼食と餅つきアトラクションをはさんで,午後は2グリープに分かれ,保健推進員と座談会.

基幹病院における医師師労働環境—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.663 - P.663

 地域の医療体制の中で2次医療を受け持つ適切な病院の存在が不可欠であることは,いうまでもない.いわゆる2次病院が十分な機能を発揮するためには,医療施設の充実のほか,医療従事者の適切な労働環境も重要である.岐阜大学医学部では公衆衛生学習として,専門3年生が毎年数カ月にわたり,各種のテーマで実地調査に取り組んでいる.54年度の学生実習の1つとして,1グループ(8人のメンバー)が岐阜県内の3総合病院の医師百数十名を対象に,勤務状況等を調査し報告している.対象となった総合病院はすべて公立であり,地域の2次病院として重要な役割を担っており,一般医療機関の信頼も高く,紹介患者も多い.
 主な調査結果は,次のとおりである.①7割以上の医師が1人当たり10人以上の入院患者を受け持っており,その診療に毎日2時間以上を費やしている.②6割近い医師が外来を週3回以上受け持っており,その大半が1日当たり40人以上の外来患者を診療している.

スポット

公衆衛生学会が払うべき重要関心事—米国公衆衛生学会(APHA)の主な会員へのアンケート調査結果

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.660 - P.660

 どんな課題を専門団体としての公衆衛生学会が取り上げるべきか,といった内容のアンケートへの答えが以下のとおりまとまった.これはゼロから3点までの点数記入方式で,もし全員がある項目に3をつければ100点となる,という方法をとったものである.
 まず,70点台にランクされた事項は,医療保障と医療費問題である.

随想

カネミ油症事件と化学物質

著者: 園田真人

ページ範囲:P.653 - P.653

 昭和43年10月10日,朝日新聞によって油症患者の発生が知らされた.4家族13名の患者が昭和43年6月から8月の間に九大医学部附属病院の皮膚科で受診し,家族に発生していることと食用油の使用状況から,油による中毒ではないかと報道されたのである.ライスオイルの販売網からみても福岡県を中心としてひろく影響されることが考えられ,行政当局も立ち上がった.
 新聞記事による波紋は大きくなり,届出てくる患者は西日本一帯におよびはじめ,早く原因を究明することが強く要望された.

話題 〈特別講演〉

プライマリ・ケアと福祉経済学/—江見康一

ページ範囲:P.645 - P.645

 去る6月14,15日の両日,慈恵医科大学において第3回日本プライマリ・ケア学会(会長=渡辺淳氏)が開催された.以下は,そのうち,15日,同大学中央講堂において行なわれた江見康一一橋大学教授・同経済研究所所長による特別講演の要旨である.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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