文献詳細
文献概要
特集 公衆衛生の分野における国際化
公衆衛生分野の国際化と日本
著者: 橋本正己1
所属機関: 1国立公衆衛生院衛生行政学部
ページ範囲:P.4 - P.5
文献購入ページに移動近代公衆衛生の登場は,近代社会の成立と軌をひとつにするものであり,その歴史は200年を出るものではない.この約200年の間に,市民革命と産業革命を経て近代化を実現した欧米の諸国は,それぞれの近代化の条件と政治的特質に即して近代公衆衛生の態勢を形成してきた.これは,1798年にE.ジェンナーが牛痘法を発見して後,この輝かしい科学の成果が第二次大戦後の大規模な国際協力活動によって,遂に1979年10月26日,地上からの痘瘡根絶がWHOによって宣言されるに至る期間にほぼ対応している.
公衆衛生の分野で,国際化の動きが出てきたのは19世紀以降のことであり,交通手段の発達,貿易,国際交流の進展などがその動因であった.これらを背景に,伝染病対策のための国際協力の必要性がしだいに認められるようになったが,これが具体的に結実するまでには長い歳月を要した.1851年,地中海沿岸を中心に12か国が参加したパリの第1回国際会議は,後年の国際保健機構創設への第一歩であった.この種の国際会議は,その後,関係者の忍耐強い努力によって積み重ねられたが,これを通じて形成された公衆衛生に対する国際協力の理念が,具体的行動についての合意をみるには,19世紀末葉の予防医学の登場を待たねばならなかったのである.
掲載誌情報