icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生45巻10号

1981年10月発行

雑誌目次

特集 予防接種

予防接種法の変遷と現行法

著者: 入山文郎 ,   本田一

ページ範囲:P.754 - P.761

■はじめに
 1.予防接種法の伝染病予防対策上の位置付け
 伝染病予防対策は,一般に感染源対策,感染経路対策及び感受性対策の3つの分野に分けて考えることができる.感染源対策は,感染源(感染個体)を早期に発見し,動物等の感染源は抹殺除去し,感染個体は社会集団から隔離し治療することによって伝染病のまん延を防止しようとするものであり,伝染病予防法及び検疫法等の主たる目的はこの点にある.感染経路対策は,伝染病の病源体の感染経路をしゃ断しようとするもので,伝染病予防法,検疫法等による衛生措置,あるいは上下水道の整備や食品衛生の向上といった環境衛生対策がある.感受性対策は,個人及び集団に対して伝染病に対する抵抗力を人工的に付与してそのまん延を防止しようとするもので,予防接種はこれを目的として行われるものである.伝染病予防対策はこれら3つの対策を相互に連携させ,効果的に運用することが必要であり,従って,予防接種のみが唯一絶対の対策ではないことはいうまでもない.

新ワクチン開発の現況

著者: 高橋理明

ページ範囲:P.762 - P.765

 現在開発中の新しいワクチンとしては水痘ワクチン,単純ヘルペスワクチン,サイトメガロワクチン,B型肝炎ワクチン,インフルエンザ生ワクチン,RSウイルスワクチン,アデノウイルスワクチン,細菌関係ではコレラワクチン等がある.新しく実用化されたワクチンとしてはムンプスワクチン,百日咳HAワクチンがある.本稿では紙数に限りがあるので以上のうち主なワクチンについて述べる.

BCG接種(結核予防法)

著者: 松島正視

ページ範囲:P.788 - P.794

■わが国のBCG接種の歩み1)
 BCG接種は結核に対する予防接種であるが,他の予防接種とは別に,結核予防法で規定されている.結核予防法は昭和26年に制定されたが,予防接種の他,健康診断,屈出・登録から医療にいたるまでの広汎な規定を含んでいる.BCG接種は本法制定前から始まっていたが(国民体力法昭和19年,予防接種法23年),26年本法制定と共にその中に組み入れられ,同時に,接種対象が拡大され,本格的に励行された.すなわち,国民は0歳から29歳まで,毎年ツ反応を検し,陰性・疑陽性者にはBCG接種,陽性・疑陽性者にはX線間接撮影を中心とした健康診断が行われた.以後49年の改正までに,全年齢を通じての既接種者の率は28年の34.1%から48年の58.5%に上昇し,5〜34歳では80%を越えた.しかし,完全に励行されていたのは小・中学生で,乳幼児の接種率はなお低く,0歳19%,1歳43%,4歳で初めて70%台となっている2)
 現行法は49年に改正された3,4,5).旧法では毎年ツ反応を検して陰性・疑陽性者にその度にBCGを再接種したが,現行法では他の予防接種と同じく定期接種となり,第1回は0〜3歳(4歳に達するまでの期間),第2回は小学1年生,第3回は中学2年生**にツ反応を検し,陰性者にBCGを接種する,と定められた.なお,第2回,第3回にBCGを接種した者は翌年再びツ反応を検することになっている(陰性者は再接種).

予防接種センターと地域医療—その役割りと現況

著者: 村瀬敏郎

ページ範囲:P.795 - P.799

■予防接種センターの性格
 予防接種センターは予防接種を専門に取扱う診療所ではあるが,医療法上の一般的な診療所とは多少その性格を異にしている.わが国の伝染病予防対策においてその主軸ともいえる予防接種法を背景に,行政の行う感受性対策の充実,補完が予防接種センター発足当初からの大きな役割りを占めているからである.
 東京都の特別区においては昭和38年以来区長の行う予防接種が地区医師会に業務委託されており,各医師会は接種率の向上を含めた業務の遂行に工夫をこらしていた.しかし,その手段として渋谷区医師会が予防接種センターを開設した昭和43年当時は,センターという名称の妥当性に執ような疑義が投げかけられこそすれ,その役割りについてはいささかの社会的反響もおきなかった.予防接種行政は一見無風状態にあり,感受性対策を地域医療に包括する論議も実践にはほど遠い段階にあった.

地域における予防接種の実践

著者: 渡辺喬三郎 ,   松島敏 ,   高木矗 ,   中沢董之

ページ範囲:P.800 - P.805

 地域社会に根をおろす医師会は,その地域における公衆衛生活動を社会的使命とし,これは会の定款にも明記されている.予防接種業務は,この公衆衛生活動の大半を占め,直接住民に接するサービス活動として大きなウエートをもっている.
 我々の活動を含め,予防接種に携わる全ての関係者の地道な努力により,各種感染症は著減した.しかし,その反面,これらの疾病に関する認識は稀薄となり,ワクチンの効果さえ必ずしも正当に論じられなくなった昨今である.加えて,予防接種による事故のみを強調するマスコミや,何かと権利を主張する住民の風潮などにより,実践の場も容易ならぬ状況に直面している.

各種予防接種の要点

インフルエンザワクチン

著者: 北山徹

ページ範囲:P.766 - P.768

 近年社会情勢の変貌,化学療法の発達,予防ワクチンの開発などによって,多くの伝染病の発生率は激減し,その様相も著しく変化してきた.しかしインフルエンザはポリオや麻疹などと違って,その制圧にはかなり難かしい点があって1),予防ワクチンも1944年ごろから実用化されながら,いまだほとんどその姿を変えず,毎年のように冬を迎えると規模の大小はあっても流行を繰り返している.わが国の統計であまり大流行のなかった1970〜75年の6年間でも,患者届け出数は約53万人,死亡者数9,147人にのぼり,また学童の最近の罹患者数をみると,1977年260万人,1978年300万人,1979年24万人で,休校数も2,438,1,714ならびに245となっている.さらにインフルエンザの流行に伴っての超過死亡数も大きな流行では1〜2万人,人口10万対平均32.9人という値を示している(米国の2〜3倍)2)
 ところでわが国では,おもに学童・生徒が高い感染率をもち,その流行増幅と,さらに家庭など周囲への主要なウイルス撒布者になるという流行疫学理論が,アジアかぜなどの経験から考えられ,学童・生徒を中心にした接種により社会への影響を減少させようとする意図で,1962年から勧奨接種,1976年からは義務接種として毎年くり返し実施されてきた.

改良百日咳・ジフテリア・破傷風混合ワクチン

著者: 水原春郎

ページ範囲:P.769 - P.772

 この雑誌が皆様のお手許に届くころには,新ししい百日咳HAワクチンを含んだ沈降精製百日咳ジフテリア破傷風混合ワクチン(以下PDTワクチンと略す)が市販され,秋からの予防接種のワクチンとして実際に使用されることになる予定である.したがって今回はこの改良PDTワクチンに的をしぼって述べることとする.

麻疹ワクチン

著者: 川上勝朗

ページ範囲:P.773 - P.777

 小児のウイルス性疾患は数多いが,麻疹はすべての人が一生に1度は罹患することを運命づけられた疾患であった."はしかは子供の命さだめ"とは古人の言であるが,麻疹は重症疾患であって,栄養失調や基礎疾患のある小児が罹患すると致命率は高い.わが国の統計でも敗戦後の昭和22年,2万人をこえる麻疹死亡が記録されているのである.もちろん,その後は衛生状態の改善,栄養の向上,抗生剤による二次感染としての肺炎の予防,治療などにより,わが国の,ここ10年間の麻疹年間死亡は年間約140〜400と減少しているのであるが,麻疹ワクチンの適切なる使用により,麻疹を減少,消滅せしめることも不可能ではない.
 以下,主としてわが国の麻疹ワクチンにつき,その大要,問題点を述べる.

風疹ワクチン

著者: 植田浩司

ページ範囲:P.778 - P.781

 昭和50〜53年の間にわが国では全国的規模の風疹流行を経験し,社会問題となった.その間,昭和52年度より風疹生ワクチンが定期予防接種として女子中学生を対象に開始された.最近,再び風疹流行が各地で発生しはじめ注目を集めている.風疹生ワクチンの目的には,これまでに開発されたワクチンとは大きな違いがある.従来のワクチンが,対象とする感染症の症状の軽減を目的としたのに対し,風疹生ワクチンの目的は妊婦の風疹感染に起因する先天異常,すなわち先天性風疹症候群,congenital rubella syndrome(CRS)の発生を予防することにある.風疹生ワクチンの開発は積極的に先天異常の1つの予防を可能にし,これを実現させようとするものであり,医学の歴史における画期的なできごとである.
 最近のわが国の風疹流行発生の背景と,風疹予防対策のための風疹生ワクチンの問題点について述べる.

ポリオワクチン

著者: 杉下知子

ページ範囲:P.782 - P.785

 ポリオワクチンは,わが国では生ポリオウイルスワクチンを経口的に投与しているが,副作用が殆んどみられず,しかも著効を示す点で他に類をみない優れたワクチンである.予防接種が個別接種の方向へ転換されつつあるなかで地域内で一斉に完了することが望ましいことから,今後とも集団接種方式が継続される唯一のワクチンである.

日本脳炎ワクチン

著者: 大谷明

ページ範囲:P.785 - P.787

 日本脳炎の予防接種については他に系統だった詳細な記述1)があるのでこれを参照されたい.この限られた紙面ではとくに近年明らかにされた事実,および古いことではあるが繰り返し実地医家または公衆衛生担当者から問い合わせのある問題点につき,その要点を説明することにする.

講座 公衆衛生学の最近の進歩・10

地域保健展望

著者: 山本幹夫 ,   東博文

ページ範囲:P.806 - P.814

 最近の地域保健活動で最も顕著な動きは,プライマリー・ヘルス・ケア(以下P・H・Cと略す)の考え方をとりいれた活動ではないだろうか.
 厚生省も「国民健康づくり運動」という名の下に活動を開始し,また保健婦活動の拠点としての市町村保健センターの整備を勧めている1,2)

臨床から公衆衛生へ

全身性エリテマトーデス(SLE)の知識

著者: 塩川優一

ページ範囲:P.826 - P.827

 SLEは膠原病の1つで,以前は紅斑性狼瘡ともよばれ,皮膚疾患と考えられていた.その後,本症には多くの内臓病変を伴うことがわかり,全身性疾患としてとり扱われるようになった.

発言あり

通り魔殺人

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.751 - P.753

この「必死の生」を見よ!!
 原稿メ切日が迫ってきました.とうとう明日1日しか猶予がありません.しかし,今回ばかりはどうしても筆がすすみません,というよりも,この件については,意見がないといった方が妥当です.
 頻繁に起きている通り魔殺人事件.思い出すだけでも恐しく,忌ましく,悲しいことです.忘れてしまいたい.これが私の偽らざる気持ちです.でも忘れてしまってはいけないことなのでしょう.

人と業績・16

ジョーン・サイモン—Simon, John;1816-1904

著者: 小栗史朗

ページ範囲:P.828 - P.829

 公衆衛生行政は,公衆衛生の実践組織である.19世紀後半,英国において創設された公衆衛生行政は,現代公衆衛生の開拓の一指標である.その頂点にあったサイモンは,「世界の公衆衛生史において,もっとも賢明で説得力をもち,また最も熱心な教師でもあった」(ウィンズロウ).
 彼は,1848年,それまでの病理学講師からロンドン市の保健医官(Medical Officer of Health;略称MOH)に就任した.リバプールのダンカン(Duncan, W. H.)に次ぐMOHである.54年に中央政府に転じ,76年にいたる22年間,中央政府の主任医官として,公衆衛生行政創設の衝に当たった.

研究

成人病検診時の血圧,体型と早期死亡群との関連

著者: 伊藤洋子

ページ範囲:P.816 - P.822

 成人病検診における受検群の予後を知ることは,検診方式の評価および健康教育的効果をみるという点で重要である.
 本報は群馬県内一農山村における循環器系疾患を中心とした成人病検診後6〜7年間の早期死亡群について対照群と比較検討したものである.さらに受検群について血圧,体型等の検診時所見およびそれらの関連性がその後の早期死亡群において,いかなる意味を有するか検討したものである.

女性の血圧と尿中Cl濃度の関係—既往歴別検討

著者: 角南重夫

ページ範囲:P.823 - P.825

はじめに
 食塩制限により血圧が下がる1)こと,食塩負荷によりラットに高血圧を発症できる2)ことなどから,食塩が高血圧の原因として注目されている.しかし,高血圧と食塩摂取との関係は,人の集団間比較では認められ3〜5)ても,集団内比較ではこれが認められる6,7)もの,認められない4,8)ものなどがある.これには調査対象の差のほかに,今までの研究では,性,年齢,既往歴などの分析が不十分であった点も関係していると考えられる.そこで今回,血圧と食塩摂取との関連を探るために,40〜69歳の女性について血圧と尿中Cl濃度(補正値)との関係を年齢別,既往歴別に検討した.

日本列島

「健康まつり」14年の三本木町—宮城

著者: 土屋真

ページ範囲:P.815 - P.815

 役場に「総健康課」が置かれている志田郡三本木町は人口7,829人,面積44.77km2の県北の内陸部農村で,中央を雄大な鳴瀬川の清流が,町を2分して流れている.かつては亜炭鉱山で栄えたとのこと.現在,町保健婦3名,栄養士1名と生活改良普及員が同課に属している.

昭和56年度がん征圧月間運動始まる—沖縄

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.822 - P.822

 今年も9月1日からがん征圧月間運動が始まった.沖縄県では昭和52年からがんが死因の第1位となっているが,55年も悪性新生物による死亡が1,133人あり,次いで脳血管疾患856,心疾患778,精神病の記載のない老衰480,肺炎及び気管支炎の順となっている.
 悪性新生物による死亡数は人口10万人当たり103.7で総死亡数の21.2%を占めているが,全国平均では139.1,22.4%となっていて,沖縄の人口10万人当たり死亡率は全国平均の74.5%である.また54年に比べると死亡数は126名,12.5%の増となり,人口10万人当たりも,92.4であったのが100をこえた.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら