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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生45巻11号

1981年11月発行

雑誌目次

特集 地域歯科保健

地域歯科保健研究の動向と課題

著者: 大西正男

ページ範囲:P.834 - P.837

 地域歯科保健研究という言葉に対して,最初に議論しなければならないことは,保健あるいは健康という全体的な(holistic)概念に対して,医学の分科である歯科だけですますことのできる限られた特別のものがあるかという疑問である.私はこの問題は次の2段階に分解して考えることができると思っている.
 第1は地域保健とはあまりにも普遍的な領域であるだけに,それを医学という疾病治療を目的として発達したこのSubsystemがそのまゝ保健というTotal Systemを代表できると思えないことである.すなわち,地域保健の領域では,医学の治療技術でさえも,たとえそれが中心的な重要技術であっても,地域保健の指導原理に従わねばならないと思うからである.第2は歯科疾患を治療あるいは予防することの地域保健で果たす成果である.

歯科衛生行政の現状と問題点

著者: 三井男也

ページ範囲:P.838 - P.843

■歯科衛生行政の現状と問題点
 わが国における歯科衛生活動は,古くは明治時代から学校歯科活動を中心にしてむし歯問題がとり扱われてきたが,それが歯科衛生行政として体制を整えてきたのは,戦後の昭和23年7月厚生省に歯科衛生課が新設されたことに始まるといってよいと思う.
 一方,昭和22年9月保健所法が全面改正され,その事業に初めて「歯科衛生に関する事項」が加えられ今日に至っている.

小児のウ蝕抑制

著者: 祖父江鎭雄

ページ範囲:P.844 - P.848

 小児期に発生するウ蝕は,成人に発生するウ蝕とはいささか趣を異にする.6年間隔で実施されてきている厚生省の歯科疾患実態調査報告から特徴的諸点をひろいあげる.初発年齢は依然として低く,1歳児でウ蝕罹患者率がすでに10%にもなる.またウ蝕乳歯は多発性でしかも進行が速く,重症化しやすい.さらに重要なことは,年齢によってウ蝕好発部位が変化することがある.この現象は,出生後からの成長発育過程で生ずる諸変化によって説明づけられる.
 出生後小児は,摂取する食物の種類や摂取の仕方,摂取時間などからなる食生活パターンの変遷を遂げる.まず母乳期を経て,混合乳,人工乳,そして3〜4ヵ月頃から開始される離乳期を迎える.1歳6ヵ月頃までに離乳を完了し,離乳食から普通食へと移行する.2歳頃からは間食が次第に盛んとなり,幼稚園時代は自我の目覚めと共に間食の内容へと主張が加味されて行く.そして吸う,飲む,しゃぶる,咬むといった生理的な摂食運動の変化を見せる.一方口腔では,無歯期から6ヵ月頃には第一生歯を見,2歳6ヵ月頃までの乳歯萠出期を経て,乳歯列安定期を迎える.6歳時には永久歯が萠出を開始し,混合歯列期に入る.このような食生活の変化と口腔の生理的変化とにより,ウ蝕の好発時期と部位とに特徴的パターンが生ずるのである.

国際的にみた歯科医療関係者の動向

著者: 森本基

ページ範囲:P.849 - P.853

 歯科医療には,歯科医師をはじめ多くの人々が関与している.この歯科医療関係者の在り方は国によって異なり,その国の歴史的背景,特に医療の普及の度合いによってかなり異なるものである.
 わが国においても,明治以降今日までの100余年の間にも,歯科医師の誕生,地方庁によって鑑札の交付された入歯歯抜口中療治営業者による歯科医療,歯科技工士の誕生,その身分法の成立,歯科助手の自然発生,そして歯科衛生士法の成立と,なかなか変化に富むものである.

山口県歯科医師会公衆衛生活動について

著者: 緒方哲郎 ,   竹中岩男 ,   山根稔夫

ページ範囲:P.854 - P.861

 山口県歯科医師会は昭和38年より全県にわたり飲料水のフッ素含有量の調査を行い,う蝕と斑状歯との関係について研究し,昭和42年には巡回診断車の購入に伴って,「歯の健康を守る会」を発足させ,県下のへき地・離島の無料診療を続け,歯科疾患に悩みを持つ多くの人々のために奉仕活動を行い,学童・生徒に対する保健指導ならびにフッ素塗布を行って来た.49年には口腔保健センターの事業開始と同時に重度心身障害児(者)の歯科診療に鋭意とり組み,その成果を上げることが出来たことは,歯科医師会の偉大なる団結力とその推進力と考えている.今回はその概要について述べる.

新潟県における地域歯科保健の現状と課題

著者: 境脩

ページ範囲:P.862 - P.866

 新潟県衛生部では本年昭和56年度,新潟県歯科保健対策事業として「むし歯半減10ヵ年運動」を提唱し,その具体的な推進を始めた.
 この対策は県内各地の保健所,郡市歯科医師会を中核として各市町村,さらには学校区などを単位として計画的,総合的に歯科保健対策を進めようというものである.歯科保健のための啓蒙普及事業,研修会事業,う蝕予防事業,歯科疾患実態調査事業,健康診査事業,治療推進事業などを有機的に組み合わせ,昭和65年の10年後には相当な実績を挙げることを目的としたものである.

岩手県松尾村における歯科保健活動

著者: 田沢光正

ページ範囲:P.867 - P.872

 岩手県松尾村において,昭和49年以来全村の乳幼児および小・中学生を対象とした歯科保健活動が実施されている.
 本活動は,松尾村保健課および教育委員会,所轄保健所(岩手保健所),岩手医科大学歯学部口腔衛生学講座(以下大学と略す),県立衛生学院歯科衛生士科(以下衛生学院と略す),地元歯科診療所などの複数の機関により構成される組織によって,乳幼児期から学童期に至るまでの一貫したプログラムによって実施されていることが特徴としてあげられる.本稿では,今日に至るまでの活動の経緯,内容,成績などについての概要を紹介し,松尾村における歯科保健活動の今日的意義について考えてみたい.

今津保健所管内のむし歯予防活動

著者: 草野文嗣

ページ範囲:P.873 - P.877

 国民病ともいえるほど日本人に広くまん延しているむし歯は,幼小児期における防止対策が特に重要である.むし歯は予防法がある程度明らかになっており,防ぎうる疾患である.ただ,それを実行出来るか否かが大きなポイントになっている.幼小児のむし歯は,母親をはじめとして,家族がつくってしまうといっても過言ではなく,各家庭の生活習慣に由来する疾病でもある.したがってこれの予防には,各家庭の意識の向上と生活習慣の改善をしなければ十分の効果は期待できない.
 われわれの保健所管内は歯科医師数も人口10万対20と少なく,3歳児歯科健診の結果も悪く,6ヵ町村のうち1村では3歳児のむし歯罹患者率100%という状態であった.そこで,管内の歯科衛生の改善・幼小児のむし歯予防を目指して,昭和50年から高島群歯科医師会の全面的な協力を得て,むし歯予防対策を保健所の重点事業の1つとしてとり上げ積極的に活動をすすめてきた.

講座 公衆衛生学の最近の進歩・11

地域精神衛生の摸索—中間施設を中心として

著者: 佐々木武史

ページ範囲:P.878 - P.887

■中間施設との出会い
 1965年から1966年までニューヨーク市のコロンビヤ大学医学部の地域精神医学ディピジョンでヴァイオラ・バナード教授の御指導をいただいた.当時は地域精神医学のシステムが動き始めた頃で総合地域精神衛生センターも各地に設置されだし,講義でも「第2の公衆衛生」という言葉がよく使われた.私の仲間は15人くらいで,公衆衛生学は私1人,心理学が1人,その他は精神医で地域精神医1)の資格をとるための卒後教育であった.私は地域精神医学の方法論に公衆衛生の進めかたが応用されており,また同志社大学のデッソー教授(コロンビヤのスクール・オブ・ソーシャルワーク出身)から精神衛生ケースワークの指導や講義,医療ケースワーカーの現任研修を3年余りにわたり受けたことや学生カウンセラーなどの経験があったので地域精神医学も理解しやすく,抵抗を感じることなく参加することができた.大学のカリキュラムに週1回のフィールドトリップがあり,全員参加し終日現地で見学と担当スタッフの講義を受けた.

臨床から公衆衛生へ

サルコイドーシス

著者: 谷合哲

ページ範囲:P.888 - P.890

 サルコイドーシスSarcoidosisは,肺門リンパ節の腫脹,皮膚結節,眼のブドウ膜炎などを主症状とし,時に全身各臓器に発症する原因不明の疾患である.
 1869年Hutchinsonがこの疾患について報告し,その後BesnierやBoeckが,皮膚や粘膜に結節を生ずることを報告した.そのためBesnier-Boeck's diseaseと呼ぶことがある1)

発言あり

丸山ワクチン

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.831 - P.833

仕掛け人は誰か
 「薬九層倍」とは,売薬の利益がきわめて大きいこと,と辞書には書かれています.でも私の幼年期に教わった説明の方が,もっと気のきいたものだったように思うのです.「どんなに薬代が高かろうと命にはかえられない」と,その頃の病気がちであった私に幾種類もの苦い薬を,無理やり飲ませるのに懸命だった父と母の姿を思い出します.その私が,今は人の子の親となって,薬九層倍の代価に怯えつつ,医師の指示通りに,或いは家庭常備薬の中から,せっせと家族の老に薬を飲ませているのですから,まさに歴史はくり返すといったところ.
 丸山ワクチンは,こんな庶民の歴史や伝統や常識を大いにゆさぶってくれました.「もともと,そんなに効きめはないのだよ」「今もたいていの薬はクスリではありません」と,丸山ワクチンは正直に教えてくれたわけですから.私たち庶民にとって,これは誠にありがたい告白であったと思うのです,もともと効きめのないものを飲まされたり,薬でないものを注射されたり………,そのために幾世代にもわたって支払わねばならぬ膨大なお金と労力と命が,今回の告白を契機に大いに,いいえちょっとでも歯止めになるかも,と思うからです.

人と業績・17

ルイ・パストゥール(Pasteur, Louis;1822・1895)

著者: 小栗史朗

ページ範囲:P.908 - P.909

 パストゥール研究所の納骨地下室にある墓石のアーチには,彼の9大発見の碑銘がみられる,分子不斉(1848年),発酵(1857年),自然発生(1862年),葡萄酒の疾病(1863年),蚕の疾病(1865年),ビールの微生物(1871年),腐敗性疾病(1877年),予防用ワクチン(1880年),恐犬病(1885年)である.
 この一連の研究は,内面的には相互に関連して展開されたものであり,発酵に関する研究と「自然発生説の検討」が基軸となっている.

調査報告

学校検尿の意義と問題点—大学入学前の学校検尿異常と入学後の検尿成績

著者: 高杉昌幸 ,   宇都宮弘子 ,   伊規須英輝 ,   藤野武彦 ,   武谷溶

ページ範囲:P.891 - P.895

 九州大学では昭和43年以来,学生の健康管理の一環として,入学者全員の腎疾患病歴調査と健診時に検尿をおこない,腎疾患の早期発見,健康管理に努力してきた1〜3)
 この間,腎炎の予防,早期発見と慢性化防止を目的として昭和48年度から3歳児検診時の検尿が,昭和49年から小中高校の学校検尿が始められた.したがって今後大学に進学してくるものは,すでに尿検査による継続的な腎疾患のスクリーニングを受けてきていることになる.

連載 戦後の公衆衛生

【Ⅷ】保健指標(下)

著者: 麦谷眞里

ページ範囲:P.896 - P.900

Ⅳ.ヘルスケア供給完備の指標
 Ⅰ.カバーされる範囲
 「カバーされる範囲」と書かれてもピンと来ないかもしれない.原文はCoverageである.ヘルスケアによってカバーされる範囲,と解してもらえばよい.これに2つの面があることはWHO案にも次の通り明記してある.
 ひとつは,サービスの提供及び地理的分布に関係したもの,すなわちマンパワーや設備・施設などの面.(中略)もうひとつはサービスを必要としている人々によって使われた実際のサービスという面.

資料

パラチフスB発生にともなう食品取り扱い者のサルモネラ保菌の実態について

著者: 渡辺周一 ,   長谷川孝明 ,   武藤銀治郎 ,   栗山秀雄 ,   後藤喜一

ページ範囲:P.901 - P.905

 昭和54年6月〜8月にわたり,郡上郡S町およびY村に保菌者を含め10名のパラチフスB菌排泄者をみたが,とくにS町では5名の患者の発生があった.このためS町,Y村に対し防疫対策の一環として感染源調査,とくに食品取り扱い者とその家族について糞便による保菌者検索を実施したところ,平常時の検便に比し比較的多数のサルモネラ菌保有者および2名のパラチフスB菌の保菌者が発見された.この現状に食品衛生の観点から種々の考察を加えた結果について報告する.

大学とフィールド

学際化,国際化するフィールド—〈長崎大学医学部公衆衛生学・衛生学〉

著者: 和泉喬 ,   平田文夫

ページ範囲:P.906 - P.907

●フィールドワークの歩み
 大正13年開講の衛生学教室と昭和28年に発足した公衆衛生学教室とそれぞれ歴史は異なるが,戦後の再出発が原爆によって研究設備が壊滅した状態からであったので,両教室ともフィールドに研究の場を求めざるを得なかった.
 栄養学,農村医学に永い伝統をもつ衛生学教室では,故藤本名誉教授のもとで,長崎および佐賀県下の農漁村で栄養調査,労働代謝に関するフィールドワークが展開され,さらに中村 正現教授のもとで,基礎代謝の地域変動,気候による修飾の面の研究にも発展し,沖縄県を含めた日本各地で気候順応や老化,体位,体格に関するフィールドワークが行われて来ている.

日本列島

第27回東海公衆衛生学会開かる—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.843 - P.843

 6月12日名古屋において第27回東海公衆衛生学会が開かれた.本学会は東海4県の大学関係者をはじめ.公衆衛生活動に従事する行政関係者やボランティアの参加のもとに催されており,東海地方における公衆衛生従事者の研鑚の場となっている.
 今学会は47題の一般演題と特別講演およびシンポジウムが催されたが,一般演題は地域保健や疫学に関するもの,環境保健に関するものが大半を占めており,保健所や衛生研究所等現場の活動を通しての発表も多くみられたが,大学関係者の発表が例年に比べより多いように思われた.演題数の多いためか,討論時間がやや制限されるきらいがあったが,盛り上りのある学会であった.

売春防止対策実施計画策定さる—沖縄

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.861 - P.861

 婦人保護事業は,いわゆる要保護女子(性行または環境に照らして売春を行うおそれのある女子)の保健更生を目的とする事業で,現に転落し売春を行っている要保護女子の保護更生対策をはじめ,転落のおそれのある者に対してその未然防止対策や社会環境の浄化のための広報,宣伝,啓蒙活動等が実施されている.昭和56年度では県は関係機関の連携のもとに次の施策を推進する.
 (1)潜在化,若年化かつ巧妙化する売春に対処するため,啓蒙活動を強化し売春防止法の趣旨の徹底と県民の良識を喚起する.

宮城県での「中国計画生育視察団」—宮城

著者: 土屋真

ページ範囲:P.887 - P.887

 このたび家族計画と母子保健視察のため来日された「中国計画生育視察団」は,昭和56年9月7日,東京に「家族計画国際協力財団」を訪問,説明を受けたあと来県された.さらに栃木・長野・京都・愛知・東京を視察し帰国されたと聞く.
 宮城県では9日,東北大学附属病院(病院における家族計画・母子保健指導),県対がん協会検診センターなどの施設を見学された.午後には県庁4階の大会議室で,県保健環境部の説明会がある.ここでは津軽副知事の挨拶,高野部長の県概況の紹介があり,続いて山口公衆衛生課長補佐から,県行政の立場からの母子保健のあらまし・行政サービスのあらまし・家族計画についての説明が行われた.通訳が要るので時間がかかったが,当県では74市町村のうち36市町村に母子健康センター(保健センターは別)があることや出生率・その他が話された.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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