icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生45巻12号

1981年12月発行

雑誌目次

特集 精神衛生の展開

精神科リハビリテーションの実際

著者: 臺弘

ページ範囲:P.930 - P.935

 精神科リハビリテーションの実際を語る時には,一般論や理念から始めると,何となく現実から離れてそらぞらしくなってしまう.といって,個々の事例に則する時にしか実際が語れないとなると,経験はいつまでたっても個人にとどまってひろがらない.それに精神科リハビリテーションは一括して述べるのがそもそも無理なので,例えば,分裂病者のリハビリテーションをアルコール症のそれと一諸に論ずるのは窮屈である.また同じ人でも時期により状況に応じて違ってくるものである.そこで本文では,リハビリテーション活動の実践の展開に沿いながら,各段階ででてくる諸問題を筆者の経験を交えて述べることにした.
 筆者の意見1)では,精神科リハビリテーションの眼目は,対象者の「生活のしづらさ」を克服するための援助にある.問題を生活レベルにしぼるという点が特色で,これによって,それにかかわるさまざまの職種の人々が協力し合えるようになるのである.医学的にはいろいろな診断をもつ人々も,「生活のしづらさ」という点から見ると,かなり共通した苦労に悩んでいる.それらは,1)生活の仕方のまずさ,2)人づき合いの上でのトラブル,3)就労能力の不足,4)生活経過の不安定さ,5)生きがいの乏しさなど,である.もともと生活のしづらさとは主として病歴にかかわって生じたものではあるけれども,本人の性格,生活歴,現在の病状,おかれている環境状況によっても規定されている多次元的な現象である.

精神衛生の世界的動向

著者: 加藤正明

ページ範囲:P.936 - P.942

■WHOの精神衛生活動
 精神衛生の広い領域を考えると,その世界的動向を展望することは,きわめて困難な仕事である.
 したがってまず,筆者がここ20年余にわたって関係してきたWHOの精神衛生活動を中心に,世界の動向を見渡してみたい.

精神衛生への期待と批判

社会心理学の立場から

著者: 早坂泰次郎

ページ範囲:P.918 - P.921

 児童生徒に頻発する登校拒否や校内・家庭内暴力,ステューデント・アパシーにモラトリアム現象,ゆきずり殺人,人間蒸発……といった現象が多発するのをみていると,精神衛生問題の重要さが,あらゆる理くつや解説をぬきにして,われわれの胸に迫ってくる.誰の眼にも,これらの現象の底に底知れぬ不安がひそんでいることは明らかであろう.現代は,いいかえればこの大衆(mass)の社会は「不安」の社会である.
 このことを社会学的な視点から明確にしたのはアメリカの社会学者リースマン(Riesman,David)であった.彼は名著「孤独な群衆」1)の中で,アメリカ人の社会的性格の歴史的変化について語る.

地域保健の立場から

著者: 篠崎英夫

ページ範囲:P.922 - P.926

■各国の精神衛生
 我が国の精神衛生への期待を語る時,諸外国での精神衛生活動の状況が比較材料として参考にされると思うが,筆者は1978年から2年間,WHO精神衛生課長(西太平洋地域)として諸外国の精神衛生活動を見聞する立場にあったので,まずこれらのあらましを述べることから論を始めたい.
 西太平洋地域には35ヵ国の政府があるが,この中で精神衛生法もしくは精神衛生審議会をもつものは10ヵ国余にすぎない.精神障害者を病者と位置づけ,精神病院への入退院に一定の基準を設け,政府として精神衛生活動を推進する姿勢を示す,この法律や審議会を大部分の政府はもっていない.つまり精神衛生に対するプライオリティーは各国とも非常に低いということがいえる.

臨床精神医学の立場から

著者: 吉松和哉

ページ範囲:P.927 - P.929

 この主題を編集者から与えられて,私自身実に微妙で,複雑な気持になる.というのは,短期間とはいえ,つい先頃まで私は大学保健学科の精神衛生学教室に在籍していたからであり,また現在或る精神医学研究所の社会精神医学研究室で仕事をしているからである.すなわち私はこの問題を投げかけつつ,また一方でこれに答える側にも立たされているわけである.こうして自分の中で自問自答の対話を,あるいは相克的な2面を経験せざるを得なくなる.しかもこの間題は,自ら最近数年間にわたり,自覚的に考え,更にはそのむつかしさを骨身に染みて体験してきた.まだ十分考えがまとまっていないだけに,このことについてこのような公けの場で述べることを甚だきびしく感ずるのである.そこで今回は自分の中で進行中の問題意識の一端を開陳させていただくことにしたい.

講座 公衆衛生学の最近の進歩・12

衛生行政・法規

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.944 - P.953

 衛生行政とは,公衆衛生の向上および増進を目的として,行政権の主体である国および地方公共団体が行う活動のことである.しかしWinslow(1877〜1957)が指摘するとおり,従来の公権力を手段とする行政法的な活動のみでは決しられない問題が続出し,組織的な地域社会の努力として,民間の自主的組織的活動も協力しなければ目的の達成が困難な場合がある1).つまりWinslowのorganized community effortsは国や地方公共団体の公的活動と民間団体の私的活動とが結合した地域保健計画に沿った活動ということになろう.
 わが国の衛生行政は諸外国と同様に関連法規に基づいて運用されている.したがって行政と法規とは不即不離の関係にあるので,最近の衛生行政についてまとめるには,法規の制定に基づいて記述しなければならない.

発言あり

(自由課題)

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.911 - P.913

 「美しく老いる」ことなどあり得ない ヘルパーとして10年の歳月がすぎていきました.その間,いろいろな老人と出合い,そしていろいろな別れ方をしてきました.何人かの野辺送りにも立ち合いました.柳コウリと小さな風呂敷包みを持って老人ホームへ行ったおばあさん.都会にいる息子夫婦にひきとられて行った老人.みんな,その方が幸せだと自分に言いきかせて.さまざまな生き様,死に様を見せてくれた老人たち.
 「老後」とは孤独との闘いです.「老いる」ということは残酷で耐えがたいことです.今まで見えていた花が見えなくなり,今まで聞こえていた小鳥のさえずりが聞こえなくなるのです.今まで茶わんを持っていた手が動かなくなり,今まで歩いて行ったトイレに行けなくなる.世間話の相手も旅の友も,櫛の歯が欠けるように1人いなくなり,2人いなくなり,そして孫の顔も遠のく.寝床にいることが多くなり,娑婆との接点も小さくなってしまうのです.

人と業績・18

ルドルフ・ウィルヒョウ—Virchow, Rudolf Ludwig Carl;1821-1902

著者: 小栗史朗

ページ範囲:P.976 - P.977

 19世紀後半,ドイツ医学は世界の医学センターでありメッカであった.そのドイツ医学の象徴的人物がウィルヒョウである.
 彼は,「医学は1つの社会科学であり,政治は医学を大きくしたものにすぎぬ」といい,医学者としてまた政治家としてきわめて巾広い活動をした.病理学・疫学・公衆衛生・人類学の諸領域にまたがる巨大な業績とビスマルクの政敵としての政治活動は,医史学者アッカークネヒトをして「その業績は聳え立ち,その人物像は希有である」と評させている.

論考

北海道における救急医療の現状と課題

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.954 - P.957

 昭和55年12月上旬,旭川赤十字病院の救命救急センター施設見学に出かけ,センター部長である菱山副院長の案内と説明を受けながら一通り見て廻ったが,大変勉強になったと同時に深い感銘を受けた.その時の印象と,北海道の救急医療の現状と将来像を報告してみる.
 旭川日赤病院は定床600床を持つ近代設備を誇る総合病院である.旭川市の人口は,352,556人(S.55.8.31.現在)で札幌市に次いで本道第2を誇り,道北及び道東の一部を差配する雄都である.したがって,救急患者の地域別搬入状況をみてもそのバック・グランドがはっきり理解される.昭和54年度の実数をみると,旭川市内の患者が655名で71.8%を占めるのは当然であるが,その他の主な市町村の来患患者数をみると,幌加内町9名,深川市9名,富良野市周辺18名,比布町9名,東川町10名,美瑛町11名,美深町8名,名寄市8名,士別市9名,留萌市9名,稚内市13名,北見市6名等となっている.その診療圏は図の通りである.

資料

母子健康手帳の記録について—脳性小児麻痺の事例から

著者: 岡本裕

ページ範囲:P.958 - P.961

 過去には医学や社会から見放されていた脳性小児麻痺(以下CPと略す)は,近年に至り早期診断,早期治療が予後に重大な意義を持つことが注目され関心がもたれるようになってきた.厚生省心身障害研究班などの努力により,主な医療施設では未熟児などのhigh riskをもつ小児の管理がシステム化され,心身障害児の早期診断に成果が上げられている.小児神経の専門施設ではVojta1)法などのすぐれた方法が開発されているが,まだ全般的なものではなく,保健所などでの集団的に行われている乳児検診には,対象人数や専門医の数などの問題点が多い.諸氏の報告からみて,CPに周産期の障害が明らかに多いことから,集団的には,まず危険因子をもつ小児の二次検診体制などによる重点管理が望まれている2),しかし,実際に周産期の情報を得ることは困難な場合が多い.
 著者らは,一般に広く使用されている母子健康手帳が,CPに関連して,妊娠,分娩などの状況の情報源として活用できるものかどうかを検討する目的で,これらの記載内容を調査したので報告する.

加藤勘十と労働衛生—労働衛生の夜明け

著者: 大森暢久

ページ範囲:P.962 - P.975

まえがき
 加藤勘十といえば「溶鉱炉の火は消えたり」で有名な八幡製鉄の大争議を指導して以来の労働運動のパイオニアで,「火の玉勘十」とあだなされる鉄火の情熱と冷厳な知性の持ち主がすぐ頭に浮かぶことであろう.体験にもとづく『日本労働運動史』を書き上げることを念願として努力していたが,志半ばにして昭和53年9月27日にこの世を去ったのである.この加藤勘十と労働衛生がどこで結びつくのか.その残された未発表の『日本労働運動史』の中に,労働衛生の原点が書かれていたのである.
 昭和53年9月上旬,義父,加藤勘十が病を得て私宅で療養中の時であった.保健会館の国井長次郎理事長が,私宅を訪れた,寄生虫学の権威,小宮義孝の追悼集1)をつくるための編集会議で,加藤勘十と小宮義孝が非常に親しかったことが話題になった.話題提供者は曽田長宗であるが,小宮との関係について聞きたいが面会してよろしいか,と見舞いの席で話された,義母,加藤シヅエが病室へ行き勘十に聞くと,よく知っているという.では,その話を聞きたいと,シヅエの仲介でそのつながりを国井長次郎3)が聞き始める.

大学とフィールド

フィールド—人と人と—〈弘前大学医学部衛生学教室・公衆衛生学教室〉

著者: 仁平將

ページ範囲:P.978 - P.979

 貴教室のフィールドはどこですか,と改めて問われると返答にとまどう.この地区がわが教室のフィールドだ,という意識がわれわれには少ない.また,その地区の人々にとっては,この地区が○○大学○○教室のフィールドだ,という意識はさらに少ないであろう.われわれは特定の地区についての健康問題の調査活動を行い,問題点の指摘と対策後の評価を行うが,対策を立てて行動するのはその地区の人々であり,われわれはその手伝いをしているものと思っている.
 フィールドについての考え方は種種あるものと思われるが,われわれにも研究・教育上お世話になっている地区がいくつかあるので,フィールドを広い意味に解釈して紹介してみる.特定の地区との出合いは,また人と人との出合いでもある.

日本列島

岩村昇先生の講演(東海農村医学会)—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.935 - P.935

 6月14日,第19回東海4県農村医学会(会長 星野睦夫氏)が岐阜市において催された,本学会は昭和30年代から毎年実施されてきており,岐阜,愛知,三重,静岡の4県の厚生連所属の医療機関従事者が中心となって運営されている.会場も各県回りもちである.一般演題は16題で,2,3のフィールドにおける検診や健康調査を除き,大多数は日常の病院内での診療活動にもとづくものであった.会員の大半が病院従事者であることから,この実態はやむをえないが,地域と一体となったフィールド活動の成果のより多くの報告を今後期待したい.
 本学会のメインである特別講演として,岩村 昇教授(神戸大医学研究国際交流センター)の講演「わたしのネパール,わたしの医療」が催された.ネパールの現地での20年にわたる氏の経験や人生観は,ともすると物中心の世相に流されやすい我々にとって,深い反省や物質主義から抜け難い焦躁感を呼び起こしたように思われた.ネパールの子供達は毎朝眼ざめる時まず何を見るか.それは,はるかにそびえ立つヒマラヤ山脈である.日本の子供達は何をみるか.

救急救助業務について—沖縄

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.942 - P.942

 消防庁は4月20日55年版の救急救助業務の現状(救急白書)を発表した.その白書によると54年1月〜12月の間に救急隊の出動した回数は1,869,163回で,53年に比べ4.8%増え,また搬送人員も1,787,651人で,前年より5.4%増加しており,国民61人に1人が搬送された計算になる.人口1万人当たりの出動回数は,大阪府が236回で最も多く,2位は東京都229回,3位が沖縄県223回となっている.
 沖縄県における搬送状況は昭和48年9,221人(うち航空機231)を1とすると,その後は49年1.43,50年1.84,51年1.97,52年2.1653年2.23,54年2.40と毎年ふえ続けている.54年は対前年全国数の伸びは5.4%であるのに比べ,本県は7.5%の増加になっている.

ハブ対策連絡会議を開く!!—沖縄

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.953 - P.953

 沖縄県の保健所業務のうち,他都道府県の保健所の実施していないものが3つある.その1つは保健所保健婦が全市町村に駐在して地域保健活動の中核的役割を果たしていること,更に保健所が結核,性病等の治療業務を行っていること,そして3つめにはハブ対策を担当していることである.いずれの業務も沖縄県の地理的社会的諸条件下において歴史的に行政経験を重ね創意工夫が凝らされて確立された制度である.特にハブ対策は沖縄県では重要な業務であり,春を迎えハブの活動が活発になって咬症患者が増える矢先,4月28日に県下6保健所(7つの保健所があるが,宮古保健所管内人口約6万人の居住地にはハブは生息していないので6保健所の業務となっている)からハブ対策担当者を集めた連絡会議が開催された.この連絡会議は今年度からハブ対策事業が保健所業務として正式に位置づけられたため,その事務の徹底と,市町村への指導,監督を強化していくために県環境保健部薬務課が主催して開かれたものである.なお薬務課が所管しているのは,ハブ咬症治療用血清の開発研究事業を当初から今日まで同課が所管してきたことから業務の1本化ということで定められたものである.
 ハブ対策は,咬症対策事業と咬症を未然に防止するための駆除対策事業等の両面から推進していく必要がある.

労働衛生医学協会の設立10年のあゆみ—宮城

著者: 土屋真

ページ範囲:P.961 - P.961

 労働衛生専門の巡回検診団体として,県内の工場企業体に働く労働者の定期健康診断,職業病による特殊健康診断,ならびに成人病検診を行っている「(財)宮城県労働衛生医学協会(錦戸弦一理事長)」が,創立10周年を迎えた.昭和56年6月6日,仙台シティーホテルに知事代理ほか約100名が集い,式典を祝ったが,筆者も列席したので資料等から紹介したい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら