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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生45巻2号

1981年02月発行

雑誌目次

特集 第21回社会医学研究会総会報告

第21回社会医学研究会総会主題「健康とその公的責任」のめざすもの—あいさつに代えて

著者: 芦沢正見

ページ範囲:P.93 - P.94

 1980年の幕が上がった今年は,ジャーナリズム挙げて80年代の展望におおわらわである.それらは異口同音に,80年代は国際的にも国内的にも予断を許さない厳しい時代であり,国際的にはエネルギーと資源問題,国内的には高齢化社会に向けての加速度的な驀進を筆頭に挙げて,政府・総資本もその対応策に迫られるであろうとし,他方,科学技術の驚異的進歩は医学・生物学の分野に限っても,たとえば遺伝子の組み替え技術と特許権の問題がアメリカでトピックになるなど,寡占・独占をめざして産学協同体どうしの激しい角逐が演ぜられるであろう,としている.これら一連の遣伝子工学といわれる科学技術が公的な制御機構を欠いたかたちでいったん巨大資本の手ににぎられた場合には,これが地球上の生態系に対するいまだかつてない人為的な干渉であるだけに,放置するならば人間存在の意味や社会存立の基本条件さえも揺るがしかねないインパクトを持っているといっても,いいすぎではなかろう.
 さて,われわれの保健の分野で最近目立つことは,周知のように,にわかに健康の維持・増進の自己責任論が政府関係筋より強調され,関連して△△センターづくりが推進されつつあることであるが,これは医療財政の赤字の累積と無縁ではあるまい.

総会プログラム

ページ範囲:P.94 - P.95

〈シンポジウム〉先天異常への対応と問題点
 《司会》西 三郎(国立公衆衛生院)
 木下 安子(東京都神経科学総合研究所)

要望課題101〜104抄録

著者: 藤島弘道 ,   督相子

ページ範囲:P.120 - P.123

101.1歳6か月児健診の委託問題にとりくんで
 私たちは,荒川区独自の手作り健診を誕生させてきた.ところが昭和54年5月,3者協(東京都医師会,衛生局,区側)は話し合いの結果,1歳6か月児健診を原則として医師会委託で実施する方針を出した.
 当区医師会も委託化を強硬に要請してきた.医師会側は個別のメリットについて,①健診で健康者と異常者とのふりわけが可能,②住民に密着しているので一貫した経過観察ができる,③今後は健診事業には医師会があたるべきで,保健所は計画立案などの事務面の役割を担うべきである,としている.

要望課題105〜109抄録

著者: 山下節義 ,   小栗史朗

ページ範囲:P.124 - P.128

105.老人の生活と健康の援助と公的責任
■一般施策と特殊施策との間隔の問題
 現在の公的責任による社会的援助は,国民全般を対象とする一般施策と,患者や生活困難者などを対象とする特殊施策とによって構成されている.しかし,老人の援助ニードは,そのどちらの施策でも満たされないことが多い.たとえば,生活維持のために働く必要のある老人の就労問題,老化によってヘルスケアのニードを生じた老人の援護,家族と同居しつつも孤立化した老人への対策などにおいては,両者の間隙にあって公的責任が果たされない.

要望課題209〜212抄録

著者: 山岸春江 ,   吉田恭子

ページ範囲:P.129 - P.132

209.欲しなかった妊娠,計画外であった妊娠に関する調査
 一公立産院において分娩した褥婦290名について調査した.31.4%が妊娠したくなかったにもかかわらず妊娠した.調査対象群は,年収300万円未満が82.1%,社会階層意識は「中の中」が62.4%,夫の平均年齢は30.6±4.5歳,妻の平均年齢は27.8±4.4歳,扶養子ども数は1人が45.9%,2人が38.3%,週の性交回数は平均2.3±1.2回,妊娠回数は2.37回,自然流産は18.7%,分娩回数は1.78回,生産児数は1.76人,母乳授乳は61.7%,1年以内の避妊の経験は59.7%,避妊方法はコンドームのみが74%,コンドーム+オギノ式が15%,性交中絶が4%,経口避妊薬が2%,IUDが1%・ペッサリーが1%で,人工妊娠中絶は30%であった.
 欲しなかった妊娠群の避妊実施率は71.4%で,対照群は53.6%であった.欲しなかった妊娠群は,今後の避妊に失敗した場合の対応では,「人工妊娠中絶をする」が19.7%,「わからない」が45.1%「仕方なく産む」が27.5%で,対照群は「人工妊娠中絶」が6.7%,「わからない」が46.6%であった.

要望課題310〜311抄録

著者: 前田信雄 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.133 - P.136

310.老人医療費制度の効用
 福祉・医療の見直しが進行し,老人医療費制度の後退策もはかられつつある.老人は有病率が高く,医療の効果も不明確で,医療の投資効果に批判を招きやすいが,病む老人にとって受療は死活問題である.制度の効用を検討し得る適切な指標を得ることも困難であるが,より長く生きること,しかも,いつまでも健康で活動力のある状態であることは,幸福の一条件であろう.そこで平均余命や有病率の動向などを検討し,老人医療費制度の効用を考察した.

一般演題201〜205抄録

著者: 乾死乃生 ,   吉田幸永

ページ範囲:P.137 - P.141

201.在宅診療におけるホームヘルパーとの協力
 府中病院神経内科の在宅診療対象患者(昭和53年12月〜54年11月)84名中,ホームヘルパーの援助を受けた22名について検討を行なった(表1参照).
 〔患者の状態〕ねたきり14名(63.6%),歩行不能6名(27.3%),経管栄養,留置カテーテル,気管切開など自宅で処置を要する者10名.

一般演題206〜208抄録

著者: 川村佐和子 ,   加藤春樹

ページ範囲:P.142 - P.145

206.ねたきり難病患者の在宅看護
 難病相談室の保健婦が昭和54年1月から12月までの1年間に家庭訪問を行なった40症例のうちから,継続訪問援助が必要と診断した20症例について,特に介護問題に的をしぼって分析・考察を加えた.

一般演題301〜304抄録

著者: 園田恭一 ,   上畑鉄之丞

ページ範囲:P.146 - P.150

301.農協組織を中心とした健康管理推進協議会の活動とその評価
はじめに
 地域における保健活動は,現状では行政対策としての各分野のとりくみも,技術的,財政的,体制的な阻害条件の中で十分に機能が発揮されていないといえよう.また,総合的保健活動を展開する基本機能を有していないと思われる現状においては,そこに至る組織づくりを局地的にも起こしていく必要があろう.

一般演題305〜309抄録

著者: 山田信也 ,   福地保馬

ページ範囲:P.151 - P.156

305.はきもの家内作業者の労働環境と健康状態
 昭和30年代のベンゾール中毒事件以来,はきもの家内作業者の労働実態と健康状態については十分につかまれていない.その中で,ノルマル・ヘキサンによる多発性神経炎の多発(昭和39年・三重)や女子中学生の中毒事例(昭和52年・大阪)など,依然として作業環境が不備なために起こる有機溶剤中毒の発症が懸念されている.
 演者らは,東京台東区内のはきもの家内作業者の労働環境と健康状態について,アンケート調査や有機溶剤の環境測定,健康診断を労働組合の協力を得て実施したが,その結果,以下のような現状を把握した.

自由集会Ⅰ〜Ⅲ 抄録

著者: 神谷昭典

ページ範囲:P.157 - P.160

Ⅰ.私の生きてきた時代と「医療の社会化」(続)--曾田長宗
■社会衛生学のこと
 1922年(大11)に私は大学へ入り,26年(昭元)に卒業しましたが,その間23年9月に関東大震災にぶつかったことを先回お話しました.私たち学生は東京帝大セツルメントに加わって,震災の救援活動をやっていたのですが,そのころ同じ国民健康保護といってもずいぶん違う考えがありました.
 ひとつは,「公衆衛生」の発達した英米流のもので,まず健康の問題が何より重要なんだ,被災者が一斉に,平等に救済されることが必要なんだ,というもので,ロックフェラー財団からは,ただ病院で医者の手伝いをするというのではなく,もっと積極的な対人保健サービスのための要員養成ということになら相当の資金援助をしよう,という話も来ていたのです.

シンポジウム

先天異常への対応と問題点

著者: 西三郎 ,   木下安子

ページ範囲:P.96 - P.117

Ⅰ.先天異常防止対策の現状
■先天異常の概念
 先天異常(birth defects,congenital anomalies)とは,出生前に客観的に存在する生化学的,構造的,機能的な障害ないし異常の総称と定義され,その内容については次のように分類されている.
 a.遺伝子病:遺伝子に異常のあるもの(先天代謝異常,血友病など).

特別講演

地域保健医療と公的責任—法的観点から

著者: 下山瑛二

ページ範囲:P.118 - P.119

■従来の保健医療制度と法的責任
 今日,われわれが生存,生活していくためには,生命・健康・居住・環境について,制度的保障が確保されていなければならぬことはいうまでもない.しかるに,現在の法制度は,かならずしも国民のかかる基本的人権を保障するまでにいたっていない.
 昨今,わが国が批准承認をした国際人権規約のA規約「経済的,社会的および文化的権利に関する国際規約」の第12条においても,「健康権」の規定が設けられている,すなわち,

講座 公衆衛生学の最近の進歩・2

疫学

著者: 山本俊一

ページ範囲:P.162 - P.167

はじめに
 疫学という名称は用いなかったにせよ,医学の歴史の中において,実体としての疫学の発生は非常に古い.ヒポクラテスは,ある意味で疫学者であった.少なくとも,彼の医学の中に疫学が1つの部門として含まれていたことは間違いない.そればかりではなく,疫学の歴史はこれよりもさらにさかのぼることができよう.人が疫病(流行病)の存在を認識し,それが科学的思考に立脚していたかどうかは別として,その原因を考察し,それに対する対策を模索したときに,疫学の原型が発生したということができよう.しかし,当然のことながら,科学の基盤の上に立った疫学が出現するのは,ごく近代のことである.

臨床から公衆衛生へ

突発性発疹(exanthema subitum)

著者: 浦田久

ページ範囲:P.161 - P.161

 突発性発疹は日常診療でしばしばみられる,乳幼児に特有な急性発疹性感染症である.
 本症が独立疾患として一般に受け入れられるようになったのは比較的近年のことで,Zahorskyが1910年にアメリカではじめてroseola infantumとして記載し,のちVeederとHempelmannが1921年にexanthema subitumという名称を用いた.

綜説

乳癌危険因子に関する最近の疫学的知見

著者: 山田裕 ,   ,   早川式彦 ,  

ページ範囲:P.173 - P.179

■はじめに
 乳癌の発生には,加齢差(高齢者に多い),地域・人種差(欧米白人に多い),社会階級差(上流階級に多い)が認められ,初潮年齢の低い女性や閉経年齢の高い女性では,乳癌発生率の高いことが知られている.晩婚,寡産女性での乳癌好発は,初回満期産年齢が高いことで説明され,初婚年齢,娩出児数,授乳期間は,危険因子としての意義が少ないとされる.その他の乳癌危険因子として,電離放射線,薬物などが挙げられる.
 これらの危険因子は,ホルモン(主にestrogen,prolactin)の発癌作用の面から病因学的に検討され,最近では,栄養や肥満が乳癌発生に及ぼす影響も示唆されている.

連載 ネパール&途上国・2

有医地帯の中での医(いや)す者の選択

著者: 岩村昇

ページ範囲:P.170 - P.172

■ボーダーライン="草の根"の人達
 ネパールの首都カトマンズ市およびその周辺のバクタプール市,パタン市,さらに農村を含むカトマンズ盆地の住民のうち3分の1は,3時間以内に医師の顔を見ることのできる有医地帯に住んでいる,というのが1979年現在の状況であるが,1964年から1979年に至るまでのあいだつづけて有医地帯であったカトマンズ市内およびタンコート村に住むそれぞれ100世帯について「家族の誰かが病気になったときに,一番初めにどこへ行ったか?」を調べた結果が,前報の表1であった.
 さて,この調査の対象になった世帯は1964年度と1979年度で必ずしも同一ではないが,これらの世帯はまず,カトマンズ市の場合すべて,ボーダーライン都市生活者*1か,それ以下の家庭である.たとえば,小学校の校長先生といっても月給は1964年で10,000円,1979年で16,000円相当くらい.それだけで夫婦と子供3人が借家住まいをしている.田舎にも,農地は持たないといった家庭をボーダーライン層として把握すれば,カトマンズではこの程度のボーダーライン層やそれ以下の生活者が1980年末現在で全住民の90%はいるだろうといわれている.以下,こうした住民を"草の根"の人達と呼ぶこととする.

発言あり

ジョギング

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.89 - P.91

流行という社会現象の真相
 ジョギングという課題は,私には難題である.そこで,傍観者的立場になるが,メンタルヘルスとスポーツということから書こう.
 「メンタルな面で健康破綻になった人たちの中に,どういう人がいないか」と考えてみると,いくつかあげられるが,スポーツを今現にやっている人がいないように感ぜられる.逆に,メンタルな病気がよくなるとスポーツを始めるとか,スポーツを始めたらメンタルな方がよくなっていった,という例をよくみる.

人と業績・8

長与専斎(1831-1902年)

著者: 山本俊一

ページ範囲:P.168 - P.169

 わが国の公衆衛生の歴史をさかのぼっていくと,その原点に存在するのが長与専斎である.この人は明治初年に英語のサニタリー(Sanitary),ドイツ語のゲズントハイツプレーゲ(Gesundheitspflege)という言葉を初めて「衛生」と訳し,それまでわが国にはなかったこの新しい分野を紹介するとともに,欧米視察から帰国すると直ちに衛生行政の最高責任者となって活躍し,さらにわが国最初の医学教育機関である長崎医学校(現在の長崎大学医学部)および東京医学校(現在の東京大学医学部)の創設期にも大きな功績があり,わが国の医学教育史上にその名を輝かせている.

学会だより 第53回日本産業衛生学会

産業保健の地道な浸透

著者: 加美山茂利

ページ範囲:P.180 - P.182

■はじめに
 第53回日本産業衛生学会は昨年5月15日から17日までの3日間,仙台市民会館において開催された.春の産業衛生学会の際には,日本産業医協議会も同時に開催されることになっており,この方は今回が第28回であった.また,前日の14日には,この学会の教育・資料委員会の活動として特別研修会が開催され,また,学会評議員会も行なわれたので,実質的には4日間にわたった.
 本学会は日本産業衛生学会・久保田重孝理事長を学会長として開かれたが,実質的には東北大学医学部衛生学教室・池田正之教授を委員長として,東北地方会に設けられた企画運営委員会により行なわれたといってよい.本学会が東北地方で開催されたのは昭和28年,昭和40年に次いで,今回が3度目であり,いずれも仙台市を会場として開かれている.

日本列島

空きかん回収問題のその後—京都

著者: 山本繁

ページ範囲:P.145 - P.145

 京都市では55年8月に,京都市空きかん条例専門委員会から「(京都市)飲料容器等の散乱防止及び再資源化促進に関する条例」(案)が答申された.
 そこで,56年3月を目途にして,条例制定をめざすべく内外の意見調整が進められているが,条例(案)の骨子が,①空きかん等の空容器は製造業者の責任で回収し,再資源化する,②小売業者や自動販売機設置者は,飲料品を売るときに,「預かり金(回収保証金)」をとり,空容器を返せば返金する,③これらに違反すれば罰則を科す,④不法投棄者は「廃棄物処理法」にもとづき告発する,となっているところから,製造業者などから激しい反対を受けている.

宮城県の産業医活動と加美郡労働衛生協議会の結成

著者: 土屋真

ページ範囲:P.150 - P.150

 当県の産業保健体制も年々進み,臨床医学から予防医学への意識転換の気運の盛り上がりが指摘されるほどになった.しかし,まだ組織づくりや活動に地域差があり,内容充実への努力が必要とされている.地域活動の1つとして,過日,県北にある当保健所管内で加美郡労働衛生懇談会が開催され,出席の機会を得たので紹介したい.

仙台循環器病センターの開院までの経過とその後—宮城

著者: 土屋真

ページ範囲:P.156 - P.156

 当県は循環器疾患の三次医療施設には,割に恵まれている.東北大学の脳外科や胸部外科があり,また同鳴子分院や国立鳴子病院では温泉を利用した脳卒中のリハビリテーションも行なわれている.さらに,結核療養所として活躍してきた県立瀬峰病院が,昭和57年度に改築予定であるが,ここでは結核・肺がんのほかに脳卒中・胸部外科を含めた循環器部門を計画中である.
 今回ご紹介する(財)心臓血管病予防協会は,長年当県で循環器検診を受託している検診団体である.検診のほか,さる昭和54年夏,やっと念願の「附属仙台循環器病センター」の開院にこぎつけ,三次医療の仲間入りをした.同年7月5日,仙台プラザホテルで盛大に開催された祝賀会には,東北大学,東京女子医大,県,市町村,医師会などの関係者ら約100名,および知事代理や医療陣である両大学の教授らも出席された.私も県職員であり,協会の評議員の一人として,これまでの複雑ないきさつを知るだけに,顔ぶれに安心したのを思い出す.さいわい今は心臓外科医も揃い手術も行なわれて,入院・外来とも順調に伸びており,ことに心臓の救急施設として住民からも大いに期待されている.

随想

3つの約束

著者: 園田直人

ページ範囲:P.183 - P.183

 医学への希望に胸をふくらませてうけた,第1時間目の解剖学の講義は,30年以上たった今でも鮮かに思いだすことができる.
 その講義は,進藤篤一先生の骨学であり,先生の大きな坊主あたまと銀ぶちの眼鏡の中で笑った瞳と引きしまった口もとが印象的であった.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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