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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生45巻6号

1981年06月発行

雑誌目次

特集 乳幼児健診—その現代的課題を探る

乳幼児健診への一考察

著者: 黒梅恭芳 ,   長嶋完二

ページ範囲:P.430 - P.435

■はじめに
 0歳児の社会的発達は,ヒトの一生において決定的重要性を有するといわれており,身体的発達も含め,現在,乳幼児保健の重要性がますます強調されている.しかし,その内容や将来への動向に関しての知識や関心は,必ずしも十分とはいえないようである.小児の最大の特徴は"成長と発達"であり,この成長と発達との関連において,乳幼児保健の問題点と今後の方向について私見を述べてみたい.

計量分析に耐える乳幼児健診

著者: 西三郎

ページ範囲:P.436 - P.440

■はじめに
 「乳幼児健診の計量化について」という研究課題が,昭和50年度に厚生省から与えられた.しかし,実際に研究に取り組んでみると,健診の記録から,項目別の有所見(その他の)出現率にあまりにも違いがあり,計量化以前の事項の整理が必要なことを痛感させられた,そこで,ここでは,厚生省の研究報告の紹介ではなく,乳幼児健診の計量化に向けて,どう条件を整備していくことが必要かについて述べよう.

乳幼児健診における神経学的発達評価の実際

著者: 前川喜平

ページ範囲:P.441 - P.447

■はじめに
 健康診断1)とは,実際の診察により小児の発育状況を確認し,小児の健全育成に結びつけるものである.小児の特色として成長と発達があげられるが,成長とは身体的発育を意味し,発達とは生理的発達や精神・運動発達のような機能的発達を意味する.本論文の標題にある神経学的発達の評価は,このうちの精神・運動発達をいかに評価するかにある.顔面神経麻痺,弛緩性麻痺などの神経学的なものよりも,神経学的発達診断が主目的である.
 以下,具体的に乳幼児健診をどのように行なうかについて紹介しよう.

乳幼児の栄養指導

著者: 澤田啓司

ページ範囲:P.448 - P.453

■はじめに
 教科書的な乳幼児栄養指導に関しては参考文献がたくさんあるので,本稿では日常保健指導の場で遭遇することの多い,ありふれた問題を中心に述べることにしたい.

乳幼児健診と先天性代謝異常

著者: 北川照男

ページ範囲:P.454 - P.458

■先天性代謝異常症の成因とその治療
 先天性代謝異常症とは,遺伝子の異常により酵素蛋白に異常を生じ,そのために種々の症状を示す疾患の総称であり,これまでに数百種の疾患が報告されている.その成因を図示すると図のようであり,代謝障害の存在する部位の酵素の基質となる物質またはその異常代謝物質が蓄積するために障害が生ずる場合と,正常であれば当然生成されるべき物質が酵素障害のために形成されず,その欠乏によって障害が生ずる場合とに大別される.時には,五炭糖尿症のように,先天的な酵素の異常が存在しても,何ら臨床症状を示さない場合もあるが,大多数の代謝異常症においては何らかの障害が認められ,とくに脳障害や肝障害などが高頻度に認められる.そして,そのほとんどに,現在のところ有効な治療法がなく,その組織障害は不可逆的に進行するが,ごく一部の疾患においては,不可逆的な組織障害が生ずる以前に診断すれば,治療が可能である.
 成功しているか否かは別として,これまでに何らかの治療が試みられている疾患としては表1のようなものがあり,それらの治療方法は食餌療法,薬物療法に大別されている.臓器移植や酵素輸注療法もごく特殊な疾患に行なわれているが,これらは全くの試みの段階で,臨床的な改善は認められていない.

乳幼児健診と知能障害および精神障害

著者: 中島博徳 ,   牧野定夫

ページ範囲:P.459 - P.462

■はじめに
 従来の乳幼児健診は,一般小児科医により行なわれているものと,児童福祉法(昭和22年)および母子保健法(昭和41年)にもとづく行政的サービスとして保健所などで集団的に実施されているものとに大別される.都道府県における保健所の呼び出し健診のほかに,昭和48年には医療機関に委託して実施する健診が取り入れられた.従来の乳幼児健診の時期については行政上,健診上,能率のよい時期として3〜6か月および9〜18か月(昭和48年)に受診するよう指導されている.また幼児期については3歳児健診(昭和41年)のみであった.昭和52年には1歳6か月児健診が,地域の実情に即するので市町村事業として始まった.公費負担によるものは,昭和44年以来施行されている乳児健診の医療機関委託2回分と,ほかに1歳6か月児健診,3歳児健診があるが,委託健診は地域によってまだ一定していないようである.
 今日,小児科学教育の方向が小児疾病学中心であり,実際多くの乳幼児健診にたずさわる地域医療従事者は小児保健に関して興味や関心が不十分と思われる.

学童期の心身症と現代の学校教育をめぐる問題

著者: 長畑正道

ページ範囲:P.463 - P.466

■はじめに
 乳幼児期の健康診査の課題のもとに学童期の問題をとりあげるのには少し場違いな一面もあるが,学童期の子どもたちが直面する学校教育にさまざまな歪みがあり,幼児期にまでその歪みが影響を及ぼしている実態を否定することができない.この意味で,学童期の問題をここでとりあげることにする.そして,こういった背景に最も敏感に反応する子どもの心身の健康の障害は,心身症やそれと密接な関係にある行動異常であろう.

実験育児学

著者: 畠山富而

ページ範囲:P.467 - P.470

■はじめに
 近年,自閉様行動児,情緒障害児,言語障害児が増加している.一方,被虐待症候児など母子養育不適に関連すると考えられる行動症候が急増し,さらには育児ノイローゼ,自殺,また学校暴力なども社会問題となってきている.すでに平井信義氏1)も指摘するように,"母性愛"とか,"育児行動"とか,"本能的愛"とかは,変貌する社会の中で生態学的にも変化したのであろうか.この問題は,単にその時点の母子関係の重大性のみならず,次の世代にも大きな影響を及ぼすことが明らかとなってきている.
 そのような意味から考察すると,"本能的"ともいわれる母子相互作用の意義はきわめて重大である.育児行動といわれる一定の基本的対応行動は,"いつ,どこで,どのようにして"形成されているのであろうか.

母子相互作用

著者: 竹内徹

ページ範囲:P.471 - P.474

■母子相互作用とは
 母子相互作用という言葉は,mother-infant interactionにあたる訳語である.すなわち母子相互作用とは,母子関係(mother-infant relationship)を成立させるために,乳児期初期からとくに母子間において,知覚ないし感覚系を通じて情報を交換しながら展開される,行動的・心理的メカニズムと考えられる1)2)."interact" という英語は,act reciprocallyまたはact on each otherという意味であって,二方向性,すなわち一方的な働きかけではなくて,相互的に働き合うという意味を持っている.医学用語としては,薬剤相互間の作用を表わしたり,またfeto-maternal interaction3)として受胎,妊娠,分娩の過程で,母体と胎児間にみられる相互作用を表現するために使用されることがある.
 しかし,本来,母子相互作用というのは,主として小児の心理学,とくに発達心理学で多く用いられ始めた用語のようである.本稿では主として周産期から生後1〜2か月までの,なお新生児期と呼んでよい時期4)にみられる母子間の相互作用について焦点をしぼり,その意義を発達心理学的ないし臨床的な問題として考察するものである.

講座 公衆衛生学の最近の進歩・6

学校保健

著者: 植松稔

ページ範囲:P.475 - P.480

■はじめに
 学校保健プログラムの目的は,児童の健康および機能的な能力を保存し,増進させ,また回復させることである.この目的は,次のことによって達成される1).すなわち,
 ①最適の身体的および社会的環境,ならびに教育的条件を提供すること.

臨床から公衆衛生へ

恙虫病

著者: 坪井義昌

ページ範囲:P.484 - P.485

最近の疫学■
 恙虫病はツツガムシというダニの一種により媒介される,リケッチア性感染症である.
 この病気の存在は古くから,中国,日本では知られていたが,その後,太平洋戦争がきっかけとなり,東南アジアから西南太平洋に及ぶ広大な地域にも,存在することがわかった.

資料

米国の国際医療協力

著者: 斉藤勲

ページ範囲:P.493 - P.501

はじめに
 わが国の目覚ましい経済成長の結果,国際収支は黒字を基調とするようになり,その国力に応じた新しい国際的な役割はいかにあるべきかが議論されている.また,国外においても,経済協力開発機構(OECD),東南アジア諸国連合(ASEAN)などの場を通じて,わが国による開発途上国援助の拡充が要望されている.わが国としても,これらの要請にこたえるための施策の一環として国際医療協力の推進が考えられている.一方,米国は,国際医療協力の分野における永年の実績と豊富な経験を有しており,その実情を研究・調査することは,わが国が今後,国際医療協力を効率的に実施して行く上で有用であると思われる.
 筆者は昭和54年4月から6か月間,人事院の行政官短期在外研究員として,米国に滞在し,米国における国際医療協力の情況を研究・調査する機会を得たので,その概要を報告したい.

公衆衛生現任職員教育訓練—北海道におけるその12年

著者: 齋藤雍郎

ページ範囲:P.502 - P.504

■はじめに
 公衆衛生従事職員の教育については,昭和47年度「公衆衛生従事職員の地方における研修」があり,53年度厚生科学研究「公衆衛生職員の初任者研修の現状とあり方」がその実態を明らかにし,今後のあり方を体系化するとして,第38回日本公衆衛生学会で発表されるなど,実現の機運が生じつつある.しかし,そうはいえ,地方におけるこのことが現実性を帯びているとはいい難い.
 一方,北海道においては昭和43年以降,独自の考え方から現任職員の教育訓練を実施し,実績を積み重ねてきている.

発言あり

発言あり

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.427 - P.429

医師と医療のあり方
 医療は医師のためにあるものだ,とは誰も言わないだろう.ところが,医療の社会化とか民主化を主張する人の中には,医師を拘束し,その人たちによる医師の支配を目差している人たちがいるのではないか.高度な科学性と人間性を必要とする医療が医学に無関係な人たちによって支配されることは,国民のしあわせにつながるものではないと思う.
 医療は医学の社会的適用である,と主張したのは武見日本医師会会長であった.この考え方は,今では世界共通の考え方になっている.社会に適用させるための制度を定めるのは政治であるが,医療の内容にまで政治が関与するのは国営医療であって,それでは医師の職業的な自由はなく,ただ一方的に義務が課せられるだけである.

人と業績・12

国崎定洞(1894-1937)

著者: 山本俊一

ページ範囲:P.482 - P.483

 筆者が敗戦後間もなく東京大学医学部衛生学教室に入局させていただいた時には,国崎定洞は教室の中では伝説上の人物であった.東大医学部を首席で卒業し,若くしてわが教室の助教授となったが,文部省留学生としてドイツに行き,現地で結婚して共産党員となり,帰国せずに行方不明になったままである,ということであった.ところが,昨年夏に突如としてこの伝説が現実化し,遺児タツコ・レートリッヒさんが,国崎定洞の旧知である曽田長宗,有沢広巳,千田是也氏などの斡旋により来日され,亡父のおられた東大衛生学教室にも来訪されて,大きな感銘を受けてドイツへ帰って行かれた.

大学とフィールド

地域会社とともに歩む研究の伝統—〈岐阜大学医学部衛生学教室〉

著者: 宮田昭吾

ページ範囲:P.486 - P.487

●はじめに
 わが岐阜大学医学部の前身である岐阜県立医科大学医学部が設立されたのは昭和25年であり,それは公衆衛生活動が最も期待されている時期であった.したがって,衛生学教室,公衆衛生学教室ともに,岐阜県民の大きな活動を与える原動力となってきた.
 衛生学教室における現永田名誉教授を中心としてとりくまれた,農村の衛生学的研究,トラコーマの疫学的研究,水質汚濁の研究などは,岐阜県内をくまなく対象とした野外研究であった.

地域活動レポート

赤羽保健所の保健婦活動—成人病予防(その1)

著者: 安田美弥子

ページ範囲:P.490 - P.492

●ねたきり老人の実態調査で実情を知る
 昭和50年代に入り,ねたきり老人対策が各地で盛んに行なわれるようになってきた.北区においても,ねたきり老人訪問看護事業が計画され,それに先立ち,管内のねたきり老人の実態調査が昭和53年7月〜11月に実施された.質問紙による下調査と保健婦の全数訪問による実態調査で,老人とその介護者の生活状況がかなり詳細に把握できた.
 この調査で保健婦が出合った老人たちは平均年齢が男で73.5歳女で80.0歳とかなり高齢で,10年以上ねたきりの者が17%と臥床期間も長期にわたっており,ねたきり老人の介護によって家族の日常生活にも物心両面で負担が認められた.53歳の時に脳卒中の発作を起こし,それ以来枕元の小鳥を眺め,介護している妻に当たりながら20年間ねたきりでいるA老人,発作後に伊豆のリハビリテーション専門病院に1年間入院して歩けるようになって帰宅したものの,公団住宅の3階の住まいから外に出るのが困難なため家に閉じこもり,風邪をひいたのをきっかけにねたきりになったB老人,脳梗塞の発作後に安静にしているようにという医師の指示を忠実に守りすぎて,手足を伸展させたまま板のように身体が固まってしまい,寝返りもできないC老女,などなど…….

随想

ミネソタの実験

著者: 園田真人

ページ範囲:P.489 - P.489

 昭和20年,戦争が終ったときに学生時代をむかえた私たちは,勉学よりも,今日はなにを食べるかということが大事であった.
 あるときなど,食べるものがなくて2日間もフトンをかぶって寝ていた.米の配給ですよ,といわれても,起きる元気がなくて,炊いてもらったことがある.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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