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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生45巻7号

1981年07月発行

雑誌目次

特集 悪性新生物の疫学

世界各国における悪性新生物の動向—1950年代,1960年代

著者: 瀬木三雄

ページ範囲:P.510 - P.517

■はじめに
 筆者は諸国の癌の率(発生率,死亡率)の動向を観察するには,10年を一区切りとするのが適当であろうと考える.われわれは1950年以降,諸国の癌訂正死亡率を計算し,発表してきたが,この計算に着手した当初においては,この種の資料は全く整備されておらず,われわれとしても,人の世界における癌の率が動いている状況を予測することは全くできなかった.われわれは当初,世界の癌の率に地理的な差のあることは推測し得たが,これを数字的に理解するためには現実のデータを把握する必要があった.数年の調査年次を重ねるうちに,人の世界の癌の率が経年的に意外に動いていることが初めてわかってきた.このことは動物実験では全く推定することができないことであり,また他の時代のデータで置き替えることもできない.1960年代のデータは60年代独特のものであり,この時期を逸すれば再びこれを作ることはできない.
 人の世界の癌の率が動いていることは,われわれの「24力国癌死亡統計書」を丹念に見ていた米国研究者の注目を引き,早くも1965年,アメリカ癌協会主催のシンポジウムがニューヨークで開かれ,癌の地理的・年次的集積の問題が論議されるに至った.

わが国の悪性新生物の地域特性

著者: 柳川洋 ,   永井正規 ,   橋本勉 ,   簑輪眞澄 ,   川口毅

ページ範囲:P.518 - P.525

■はじめに
 死亡統計,罹患統計によって,わが国のがんの地域差をみると,部位によって全く異なった特徴を示す.がんの発生には長年の生活歴における環境条件,宿主の感受性など種々の要因が複雑にからみあっている.がんの地域差は,それぞれの地域におけるがん対策の浸透度,自然環境,生活習慣,食生活,社会経済条件などの違い,人種差などの影響を受けた結果,生じたものと考えられる.その意味で,がんの地域差のきめ細かな記述を行ない,上述した各種の関連要因との関係を観察することは,重要ながん疫学方法の1つであるといえる.
 わが国では周知のごとく世界的にも精度の高い死亡統計が完備されているので,全国レベルのがん地域差を比較的小さな地域単位で観察することが可能である.

がんの罹患とその推移

著者: 花井彩 ,   藤本伊三郎

ページ範囲:P.526 - P.533

■はじめに
 昭和54年に厚生省は,第4次悪性新生物実態調査を実施した1).その中の患者調査では,昭和50年にがん登録または実態調査を実施していた13道府県*2が,それぞれ登録している患者の中から,昭和50年4〜7月の3か月間に罹患したがん患者を選出し,その調査票を作成して提出する方法がとられた.この資料をもとに,全国罹患数が推定されている.しかし,この実態調査では,胃,肺,乳房,子宮の4部位しかとりあげられていないこと,調査期間が短いこと,ならびに第1次〜第3次悪性新生物実態調査では全国罹患数が推定されていないこと,などの理由から,本稿では,厚生省がん研究助成金による「地域がん登録」研究班*3が得た諸成績を紹介する.

日本人の悪性新生物の将来像

著者: 富永祐民

ページ範囲:P.534 - P.538

■はじめに
 今から約30年前の昭和25年当時,わが国のがんによる死亡老は全国で約65,000人であり,全死亡原因の6%弱を占めるにすぎなかったが,その後それは年々増加し,昭和55年には約160,000人に達し,全死亡原因の22.4%を占めるに至った.死亡原因の1位である脳卒中死亡が昭和45〜48年頃をピークとしてその後減少し,昭和55年にはがん死亡との差はわずか600人ほどになった1).がん死亡数は現在なお増加しているので,近い将来(おそらく昭和56年中に),がん死亡が死亡原因のトップになることは確実である.
 わが国のがん死亡の内訳をみると,1979年のがん死亡のうち,がん全体の3%以上を占める主な部位のがんとその割合は表1のとおりである1)

消化器がんをめぐる諸問題

著者: 加美山茂利

ページ範囲:P.539 - P.545

■はじめに
 従来のがん研究は,動物を中心とした細胞レベルの研究が中心をなし,輝かしい業績を打ち立ててきたが,最近このようながん研究の方向は1つの反省期に入っており,人間のがんを見直し,ここから再び研究の歩みをすすめようという機運にあるように見える.このような意味からも,人間のがんを対象とする疫学的研究ががんの臨床的研究者からも実験的研究者からも多くの注目を集めている,といってよいであろう.
 わが国におけるがんは部位別にみた場合,発生も死亡も胃がんが首位であることにその特徴がある.このことから,消化器がんについては従来から,臨床,実験,疫学のいずれの面からも多彩なアプローチがなされている.しかし,一言で消化器がんといっても,食道,胃,大腸,直腸,肝臓,膵臓などの種類によって,その疫学的様相はきわめて異なり,最近,それぞれがいずれも大きな変動を遂げている.社会的変動に伴うこのようながんの変動が逆に,これらのがんの発生要因の疫学的解明に手がかりを与えてもいる.

肺がんをめぐる諸問題

著者: 青木国雄 ,   佐々木隆一郎

ページ範囲:P.546 - P.550

■はじめに
 肺がんの問題の大きさ,緊急性は,以下の点からも首肯される.わが国の肺がん死亡率は第二次大戦後休止することなく,男女ともに増加をつづけており1),このまま経過すれば15年後には男女とも部位別がん死亡率で首位になると推測される.肺がんは致命率が高く,罹患と死亡数の比は1.2前後3)であり,がん登録からみた5年生存率はきわめて低い.肺がんは早期発見は可能ではあるが,その特性からみて効率があまりよくない.第一次予防としては喫煙対策があり,これが奏効すればかなりの患者減少が期待されていることなどがあげられる.
 こうした点をふまえて本稿では,肺がん増加の実態,病因とその対策の問題点について疫学面からふれてゆきたい.

乳がん死亡率の最近における上昇傾向

著者: 湯浅秀

ページ範囲:P.551 - P.554

■はじめに
 わが国の乳がん訂正死亡率は大戦後の長いあいだ,変動が小さく,ほぼ一定した値で推移してきた.ところが,昭和43年頃から上昇傾向になり,最近では目立った上昇を示している1)
 乳がん患者の治療方法の改善のために臨床方面では長いあいだ,研究が行なわれており,診療機器も進歩している.また,早期発見のための自己検診,集団検診なども普及されている.それにもかかわらず,死亡率は著しく上昇してきた.

子宮癌の動向

著者: 野田起一郎 ,   佐々木秀敏

ページ範囲:P.555 - P.558

■はじめに
 わが国の婦人における子宮癌の発生頻度が胃癌に次いで高いことは,周知のとおりである.全子宮癌のうち90%以上を占める子宮頸癌は,
 (1)その組織発生が,人体諸臓器の癌のうちで最もよく研究されているものの一つであること.

泌尿器癌の動向

著者: 渡辺泱 ,   三品輝男 ,   中尾昌宏

ページ範囲:P.559 - P.564

■はじめに
 悪性新生物による死亡者中に泌尿器癌が占める率は,男子においては1965年が3.6%,1978年が4.8%,女子においては1965年が1.5%,1978年が1.8%と,いずれも増加の傾向にある1)(表1).
 そこで,泌尿器癌のうち,膀胱癌,前立腺癌,腎癌,睾丸癌および陰茎癌について,それぞれの発症傾向を疫学的観点から明らかにし,問題点を指摘しようと思う.

小児の悪性新生物の動向

著者: 田口信行

ページ範囲:P.565 - P.568

■はじめに
 小児には発生過程の異常に関連する胎児性癌や奇形腫群があり,腫瘍の発生部位や組織像,治療に対する反応など多くの点で成人の腫瘍と異なる特性を有するものである.小児腫瘍の病類別頻度や年齢分布を知ることは,診断や発生要因を追究する上に重要である.
 第二次大戦後10年間は,小児腫瘍は稀なもの,予後不良なものとして十分な研究・診療も行なわれず,放置されていた感がある.小児悪性腫瘍(悪性新生物)に関する臨床統計も,大学病院の小児科学教室,外科学教室あるいは病理学教室などで,それぞれの施設で扱った資料のみによることが多く,わが国の小児腫瘍の実態については全く不明であった.

職業癌の諸問題

著者: 竹村望

ページ範囲:P.569 - P.573

■職業癌の教えるもの
 英国医学の一つの特徴は,疾病原因の探究において疫学的思考がその基礎に存することであろう.1775年にロンドンの外科医Percival Pottが陰のう癌が煙突掃除夫に多いことを観察し,病因を職業環境物質としての煤にあるとみた報告は,今日の職業癌のみならず癌研究そのものの重要な礎石となった.この伝統的な疫学思考による研究の成果は,現代でのバーキットによるアフリカ・リンパ腫の原因探究の輝かしい業績に至るまでつづいている.職業癌におけるイギリスでの重要な疫学研究の一つに.1945年におけるCaseら1)の染料工業での職業性膀胱癌に関する業績がある.
 これより先,1859年にドイツの外科医Rehn2)が,染料工場で働く労働者に職業性膀胱癌発生の可能性を示した重要な報告がある.アニリンから出発した染料化学は,ベンジジン,ベータ・ナフチルアミンなどの有用な染料中間体を開発して優秀な染料を生み,医学の面でも組織細胞や細菌染色の成功によって大きな進歩をもたらしたけれども,一方では多くの職業癌を生んだのである.前述のCaseらの疫学研究は第二次世界大戦直後の染料工業復興期に行われたものであるが,その研究結果は,染料工業全体での労働者の膀胱癌発生率は一般の人の30倍のリスクのあること,ベータ・ナフチルアミンを取り扱った者は61倍の高いリスクを,ベンジジンを取り扱った者は19倍の高いリスクのあることを示した.

講座 公衆衛生学の最近の進歩・7

食品衛生・国民栄養

著者: 藤原喜久夫

ページ範囲:P.574 - P.582

■はじめに
 食品衛生学の領域における最近の進歩としては,新種の食中毒病因物質に関するものと,既知の病原体の発症機構解明に顕著なものが認められるが,特にそれらの産生する毒素の作用機序の研究は,各毒素の精製が進むにつれて精細となり,多くの興味ある知見が得られている.他方,わが国の栄養関係の近来の話題として,視床下部性肥満に関する実験の報告があり,この種の肥満の発生機序がかなり明らかにされた.また最近,食物繊維の生理的意義に関して世界的な関心を持たれるようになり,特に糖尿病などの予防上からも種々検討されている.これらの諸点について,以下に順を追って概説しよう.

連載 ネパール&途上国・6

ヒマラヤの風で蕾が咲いた

著者: 岩村昇

ページ範囲:P.583 - P.587

■Community based health programの中のよき教育者
 ネパールの無医地帯の一つの村で "Community based TB control program" の走りが,草の根の人達自身のチーム・ワークででき上がりつつあった.その中心になったのは,自分が結核に罹って治った経験のある若き村長であり,カリスマのある民間療法師であり,元看護卒であり,しかも彼らはお互いにアプノ・マンチェ(身内,親しい友人,仲間同士)であった.
 この一つの小さな例を模範例として注目したのは,日本人公衆衛生医の岩村ではなく,アメリカ人外科医Dr. Carl Friedericksであった.つづいてネパール人外科医Dr. Mohin Shahであった.Dr. C. Friedericksは当時の1972年既にネパール生活歴20年という経験の持ち主で,後に母国,アメリカのケンタッキー大学でcommunity healthのfield professorとなられた.Dr. M. Shahはイギリスで王位外科学会員の専門医資格を獲得し,母国ネパールに帰って国立中央病院Bir Hospitalで敏腕をふるっておられたが,後に,第1報で述べたInstitute of Medicineの初代Deanとなられ,教え子のHealth AssistantsをCommunity Health Workersに仕立てることに腐心された.

発言あり

ベビーホテル

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.507 - P.509

老人ホームに隣接して併設すれば!!
 「ベビーホテル」——この名前からしてあまりいい感じのものではありません.マスコミで報道されるたびに,思わず目をそむけてしまう場面が多くありました.ベビーサークルの中におし込められている赤ちゃん.仕出屋の弁当に向かっている幼児.その傍らでおまるに座っている子供…….徳永 直の「太陽のない街」を思い出さずにはいられません.0歳児から,この子らには太陽がないのです.
 しかし,実際にはベビーホテルが,どんなに悪条件であっても存在するという現実.なぜか,それは必要だからです.まさに必要悪なのです.

人と業績・13

リリアン・ウォルド(Wald, Lillian 1867-1940年)

著者: 小栗史朗

ページ範囲:P.588 - P.589

 アメリカ合衆国における公衆衛生看護の開拓者として,ウォルドは公衆衛生史にその名を刻んでいる.現代看護事業の創設者ナイチンゲール(Nightingale, Florence;1820-1910年)は1893年に,家庭での健康教育の重要性に言及し,健康の伝導師であるべき保健伝導師の教育の必要を説いた.同じ年にウォルドはニューヨークでヘンリーストリート・セツルメントを開設し,20世紀の公衆衛生の新局面開拓の鍬を下ろした.

日本列島

衛生教育活動30年を集大成した衛生教育資料集刊行される—埼玉

著者: 堤隆信

ページ範囲:P.564 - P.564

健康づくり運動がスタートしてから2年が経過しているが,須川 豊氏(日本公衆衛生学会理事長)のことばを借りれば,「これはひとつのキャッチフレーズである」.この運動の中身は,地域における保健問題をいかに施策の中に反映させ,行政施策の体系化に位置づけるか,ということが,今後の公衆衛生活動のひとつのあり方を示唆する——ということを聞いたことがある
 このことは,昭和40年代後半から,いろんな場で論義されてきた"地域保健活動"がより具象化された形となって展開されることをもくろむ事業であると思う.

総合健康増進センターオープン!—沖縄

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.587 - P.587

 沖縄県総合健康増進センターが沖縄県浦添市に設置され,去る2月に業務を開始した.同センターは沖縄県が全額出資した財団法人沖縄県保健医療福祉事業団(理事長西銘順治沖縄県知事)が過去数年間計画をたて,昨日着工に漕ぎ着けたものである.センター敷地は16,340m2,建物は地下1階地上5階建,建築面積6,110m2,鉄骨鉄筋コンクリート造のモダンな建物で,総工費は13億6,146万円(敷地購入費を除く)となっている.
 総合というタイトルがついているとおり,施設は医学部門,体育部門,健康指導部門などからなり,その主なものとしては温水プール(25メートルコース),幼児用プール,体育館,格技室(柔道50畳,剣道50畳その他卓球6台など),バッサークール室(各種の水治療用風呂サウナ),トレーニング室(各種機器による体力増強)及び医学的検査室,体力測定室等がある.特に意を用いたのは健康度測定で,各種医学的検査を行い,さらに運動負荷をして心電図,脈博等を調べ,その個人にあう適正な運動量を心肺機能との関連で判断しようとするものである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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