icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生45巻8号

1981年08月発行

雑誌目次

特集 グループワーク

グループワーク(論)への誘い

著者: 大利一雄

ページ範囲:P.594 - P.599

■はじめに
 本稿では「わが国の公衆衛生分野におけるグループワーク」ということを念頭におきつつも,北米の代表的なグループワーク論の紹介に焦点をあてている.というのも,わが国におけるグループワーク実践の現状とその問題点については,本書の他の論者が,各論的に詳細に述べられるであろうし,それらとの対比で,本稿を読まれることが,戦後に北米から直輸入されたグループワークのわが国での発展の現状と今後の課題を考えるうえでの一助になりうると考えるからである.
 グループワークがソーシャルワークの仲間入りを明確にするのは,北米においても,第二次大戦後になってからであり,それまでは,レクリエーションや社会教育と同義語にみられることも少なくなかった.YMCA運動やセツルメント運動などを母胎とするグループワークが,ソーシャルワークへの帰属を決定的にするのは,従来のAAGW(アメリカ・グループワーカー協会)を発展的に解消させて1955年に設立されたNASW(全米社会事業家協会)の1部門となったときである.

あなたにグループワーカーとしての適性はあるか

著者: 坂野公信

ページ範囲:P.600 - P.606

保健所においてグループワークを実践される方方には,医師,保健婦,医療社会事業員,精神衛生相談員など,さまざまな方がおられると思うが,ここでは"グループワーカー"と総称させて頂くことにする.(実は,私も医療ケースワーカーを4年やった経験がある.)
 グループワーカーに望まれる資質には,図1に示すようなものがあるが,これは,ここに挙げたすべての資質が備わっていなけれ,グループワーカーになれないということではなく,自分の持っている資質を点検して,自己啓発をはかって頂きたいという意味である.

グループワーク・サービスにおけるスーパービジョン

著者: 前田ケイ

ページ範囲:P.607 - P.611

■はじめに
 ソーシャル・グループワーク方法を用いて,対象者に必要な援助を与えていく事業をグループワーク・サービスと呼ぶ.保健所におけるグループワーク・サービスには精神病の回復期にある人びとに対するデイ・ケア,精神薄弱児・者の家族に対するグループ活動,障害者のリハビリ教室や老人のグループ活動等があるが,ここではそのようなグループワーク・サービスを効果的に行っていくためのスーパービジョンについて考えてみたい.
 スーパービジョンとは英語のsupervisionをそのまま日本語にしたものであるが,これはラテン語のSuper「上から」videre「見る,観察する」という言葉に由来している.ある仕事に関して,経験や知識においてすぐれている人——上司や先輩や専門家など——がワーカーや実習生やボランティアなどに対して,仕事上必要な指示を与え,指導や助言を行っていく営みをスーパービジョンという.スーパービジョンを与えていく人をスーパーバイザーと呼ぶ.スーパービジョンを受ける立場にある人のことをスーパーバイザーと対比させて,スーパーバイジーと呼ぶこともある.

保健所における精神障害者のグループワーク—ワーカーのかかわりを考える

著者: 岩田泰夫 ,   山中豊子 ,   影山テル ,   蒲生達三 ,   岡田清 ,   岩井完治 ,   堀都 ,   西田佐智子

ページ範囲:P.612 - P.618

■はじめに
 私達は既に保健所精神衛生業務の現状を分析・検討し,その特質と課題を明確にしてきた1).またその業務における精神分裂病圏者へのグループワークの位置づけをも検討してきた2)
 さて,在宅精神障害者は,現在の匿名社会にあって,とりわけ地域社会から孤立し,「人間からはずれた」人間になってしまったという疎外感を持ち,見通しのない生活を余儀なくされている.そうした状況にある在宅精神障害者が,集団活動に主体的に参加することによりさまざまな体験を積み,一人前の人間として認められる仲間集団に帰属し,帰属感と仲間意識を持ち,友人を持つことは,精神障害を克服し,より豊かな深みのある生活を営んでいくひとつの糧である.

グループワークからみた保健所と断酒会—津山断酒新生会の事例

著者: 高木寛治 ,   八木文代 ,   尾高富士江 ,   影山晴勇

ページ範囲:P.619 - P.623

■はじめに
 地域保健活動の中に,今「国民健康づくり対策」を契機として活性化を計ろうとする気運がみられる.「健康づくり対策」とは,従来の公衆衛生や総合保健対策とほぼ同義語であり,より大衆化をねらった用語であるが,これが必要となってきた背景は高齢化社会と高度機械化文明社会および管理化社会の急速な進行である.このような中で,保健の中心課題は広い意味の成人病(老人病)であり,生涯にわたるその総合対策が最優先とされねばならなくなった.これには,長期的展望にたてば環境保健と精神保健の観点から推進されることが極めて重要である.しかし,この両者は,目標設定が難しく,地域保健活動の中でもとり残されやすい分野である.
 従来,健康生活の3つの基本として食事,運動,休養がとりあげられるが,環境保健と精神保健がなかなか入りにくかったのも,その抽象性にあると思われる.

地域ぐるみの在宅障害児のケアを目指して—神奈川県ボランティア・センター

著者: 梅田和彦

ページ範囲:P.624 - P.629

■はじめに
 編集室から「グループワークによるボランティア活動」という課題が与えられた,そこで,グループワークを広義に解釈することによって編者の意に則したい.
 神奈川県ボランティア・センターでは,ボランティアの需給調整を含めての相談機能を有している.その相談には,昭和53年度より,ボランティア相談員として現在6名を委嘱し,毎日2名が交替で,この相談活動にあたっている.昭和55年度においての相談状況は下記のとおりである.

「上手にやせる会」の活動

著者: 平野真澄

ページ範囲:P.630 - P.634

■はじめに
 財団法人ライフ・プランニング・センターの「上手にやせる会」では,1967年よりグループ単位の食事療法によって,多くの肥満者に減量の指導をおこなってきた.さらに,1977年よりシステム化した3カ月のコースで,①グループ指導,②減量成功者のプログラムへの参加,そして,③減量の自主管理を特色とした指導を行なってきた.そこで今回はその運営・目的・指導方法,そして減量成績などを中心に減量におけるグループ療法のあり方について考えてみたい.

「セルフ・ヘルプ・グループ」について

著者: 川田誉音

ページ範囲:P.635 - P.639

 患者団体や障害者の団体・家族会など,セルフ・ヘルプ・グループ(自助団体)への関心は,わが国でも次第に高まりつつある,本稿では,アメリカにおける「セルフ・ヘルプ・グループ」の意味,種類,専門的援助との関わりについて,若干の紹介をしたいと思う.

講座 公衆衛生学の最近の進歩・8

環境保健(Ⅰ)—空気,気候,上下水,廃棄物処理

著者: 釘本完

ページ範囲:P.640 - P.647

■はじめに
 生物と環境との関係は生物学においてもはなはだ重要な問題として,これまでにもそれについて多くの研究成果が見られるが,同時にこれは常に新しい問題を提起するものとして,今日でもなおきわめて重要な課題である.
 環境衛生学は,環境と個体との干渉作用を人間を中心として研究し,それを記載し,またそのうちから法則を見出す学問であり,とくに理化学的環境の人間への作用を研究するのが,この学問の任務である.この場合,衛生学と生理学とを区別するのは,生理学が自然の観照に尽きるのに対して,衛生学ではさらに健康の維持・増進のための方策を見つけ出す点にある.したがって,そこには価値の比較があり,選択も出てくるとされている(環境衛生学・原島進).

臨床から公衆衛生へ

プールと学童の心臓病

著者: 大国真彦

ページ範囲:P.658 - P.660

心臓病に対する無理解■
 毎年夏になると心臓病の子どもを持つ親が病院を訪れてくる.その最大の悩みは,「学校でプールに入れてくれない」ということである.
 専門医が「心臓病は軽症だから,運動制限は不用で,何をやってもよい」という診断書を出していても,学校側では「事故が恐ろしいから」ということでプールに入れない,ということが少なくない.極端な例では,14歳の女子で軽症の心室中隔欠損がある例は,身長も高く発育良好であるので,後述する管理区分は「3-E-可」ということで何をしてもよい,となっていた.この中学生はバレーボール部に入りエースアタッカーとしてチームを優勝までさせており,激しいトレーニングにも耐えているのに,水泳だけはさせてもらえない.このようなことは学校関係者のプール恐怖症によるものであろうし,ある意味では心臓病に対する無理解のためかとも考えられる.

調査報告

アデノウイルス4型による咽頭結膜熱の集団発生

著者: 上羽修 ,   平松宗成 ,   井上正直 ,   石田立夫 ,   二宗壮夫 ,   宇野直道 ,   実成文彦

ページ範囲:P.665 - P.668

はじめに
 咽頭結膜熱は別名プール熱とも呼ばれ,遊泳用プールを媒体として爆発的に発生することが多い1).本症の流行は主にアデノウイルス3・7・14型の感染によるが,1・2・4・5・6型による散発例も明らかにされている2,3).殊に4型については,1979年D'Angelo4)がプールを介した咽頭結膜熱の大規膜な集団発生を報告しており,本症の新たな流行型とみなされた.わが国でも本型による急性熱性疾患などの感染症が近年急増しているが,咽頭結膜熱の報告は少ない.
 1980年夏,われわれは岡山県倉敷市の一小学校で,プール媒介性と考えられるアデノウイルス4型感染による咽頭結膜熱の集団発生に遭遇した.そこで,その疫学調査と一般住民の抗体保有状況を調査したところ,今後も本型による咽頭結膜熱発生の可能性の強いことが示唆された.

発言あり

ホスピス

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.591 - P.593

建物にこだわるな
 ホスピア・ケアは,なにも施設がなければできないものではない.昨年,来日したセント・クリストファーホスピスのグリフィス博士も「ホスピスとは,中で行われるケアそのもののこと」といっておられる.私はこのあたりが重要なのではないかと思う.
 老いて病んだ人たちの身になって,その心に添い,その生活に参加して,少しでもよりよく,人間らしく生きていく条件づくりをすることでは,私達ホームヘルパーの仕事と変わりはない.ある新聞のレポートに,「ホスピスは在宅ケアの延長であり,一環である」と書かれてあったが,私もホスピスの意味をそこに求めたい.「ケアするこころ」が本来であって,その場は,建物であろうが家であろうがどちらでもよいことだろう.

人と業績・14

ベルナルディノ・ラマッツィーニ(Ramazzini, Bernardino;1633-1714)

著者: 小栗史朗

ページ範囲:P.648 - P.649

その偉業■
 労働衛生学,職業病学の祖といわれるラマッツィーニは,解剖学におけるヴェサリウス(Vesalius, A.;1514-64年),生理学におけるハーヴエィ(Harvey, W.;1578-1657年),病理学におけるモルガニ(Morgani,G. B.;1682-1771年)と同じ意義を,医学史の中に占めている.
 卓越した技術と学術,そして人間的魅力に富むこの医師は,『働く人人の健康』("De Morbis artificum diatriba",1700年)を著わして,古代から18世紀までの職業病の知識を集大成し,以後の産業革命による新しい労働衛生,職業病の局面に対応する研究と施策の発展の基盤を,人類に遺した.

大学とフィールド

夏休みを利用しての地域保健教育—〈自治医科大学〉

著者: 柳川洋 ,   菊地浩

ページ範囲:P.650 - P.651

●はじめに
 自治医科大学が設立された昭和47年度から昭和55年度までに既に9回にわたり,夏休みを利用してフィールドにおける地域保健実習が実施されてきた.
 自治医科大学は地域社会の医療の確保と向上および地域の住民福祉の増進を図るために,高度な医療能力を有する臨床医を養成することを目的として,全国の都道府県が共同して設立した医科大学である.したがって,本学の学生は卒業後,地域の医療の向上をめざした保健医療活動に従事することになるので,在学中からそのような役割を果たす医師としての基本的な態度を養うと同時に僻地における保健医療の実際と問題点に関心を持たせる必要がある.

海外事情 〈事例〉

"ヤブ医者"の見たタイ人の暮らしぶり

著者: 前川秀幸

ページ範囲:P.652 - P.657

まえがき
 1979年9月5日から1980年9月4日までの1年間,タイ国チャンタブリ県での,国際協力事業団とタイ公衆衛生省医科学局とによる地域保健向上計画プロジェクト・チームに公衆衛生専門家として参加したので,見聞したことをもとに,タイ人の暮らしぶりについて紹介しよう.
 チャンタブリ県は,バンコクから330km東南(バス便だけ)の,カンボジアとの国境にあり,国境では,ポル・ポト軍とヘン・サムリン,ベトナム両軍との戦闘の砲声が聞こえる(カンボジア,ベトナム両難民キャンプあり),シャム湾に臨み,山を背後に抱き,果物,魚介類,宝石を産する,豊かな県である.面積はほぼ神奈川県くらい,人口は約31万人.

フィリッピンにおける公衆衛生の現状(1)—人口問題を中心として

著者: 高橋修和 ,   薩田清明

ページ範囲:P.661 - P.664

はじめに
 筆者らは,1979年8月,フィリッピン共和国における公衆衛生に関する現状を視察する機会に接したので,その概要について,今回は,人口問題を中心に日本の現状と対比しながら報告する.

日本列島

環境管理計画に基づく公害行政の推進—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.606 - P.606

当県ではさる昭和51年に,開発行為の実施に先だち環境への影響を予測評定し,公害及び自然破壊のない地域開発をめざす「環境影響評価指導要綱(環境assessment要綱)」が施行されている
 このたび宮城県の環境行政を総合的計画的に推進し,快適でうるおいのある環境確保をはかる基本指針として,「宮城県環境管理計画(ABC計画ともいう)」が策定,施行された.AはAmenity(快適さ),BはBlue(青い空や海・緑の山),CはClean(清らかな水の流れ・さわやかな大気・静穏なたたずまい)を意味する.関係者の苦労がにじみ出ている次元の高い計画であり,技術的にも,環境影響評価に際し1つの指針となるものである.また環境との調和を見出し,望ましい環境を創造するための先導的役割を果たそうとする計画とのことである.

栄養士設置市町村が87%—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.647 - P.647

 かつて栄養学的考え方を主とした食生活指導に対し,近年,とくに食生活と健康の関係が新しい角度から重視されつつあり,行政栄養士への期待が大きい.

「医療相談コーナー」設置—岐阜県

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.660 - P.660

 昨年の富士見病院事件を契機に厚生省は全国に指示し,昨年11月より都道府県において「医療相談コーナー」が設置された.相談者は同省の調査資料によれば,昨年11月20日から30日までの11日間に45道府県において3,776人をかぞえ,うちわけは男43%,女56%,年齢では男は高齢者ほど多く,女では30〜40代が多い.相談手段は電話76%,訪問20%,文書4%であり,相談内容は診療内容に関するものが一番多く30%,ついで医療費に関するもの,医療機関の紹介に関するもの,医療機関のサービスに関するもの,投薬や検査に関するもの等の順となっている.東海地方では三重県が関係団体等との調整が遅れ12月から実施されているようであるが,11月11日間において愛知県で265人,静岡県で180人,岐阜県で68人に利用されている.
 岐阜県では,その後もひきつづぎ医療相談が実施されているが,56年5月末までの約6か月間で367人の利用者がみられる.性別,年齢階層別の利用者の分布はほぼ全国の傾向と似ており,男44%で高齢者に多く,女は30代20代,40代に多い.全国にくらべ,20代の女性利用がやや目立っている.相談手段も全国の傾向と同様であり,電話によるものが圧倒的に多く80%近い.相談内容の傾向も同様であるが,診療内容に関するものは25%である.

手作り童話集「おっぱいの味」の発行—京都

著者: 山本繁

ページ範囲:P.668 - P.668

 京都府下の周山保健所及び福知山保健所はこのたび,共同で「おっぱいの味」——母からの贈りもの——という手作り童話集(A5判414ページ非売品)を編集,発刊して,地域の大まな話題になっている.
 もともと国際児童年の記念事業として昭和54年において地域の母親たちと一緒に童話集を作ろうと企画したのが始まりで,母子保健活動の変法として,また保健所の広報広聴活動の一環として,母親からの自主的な応募を求めたことが出発点になっている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら