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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生45巻9号

1981年09月発行

雑誌目次

特集 老人保健と老人福祉

老人と社会適応

著者: 大和田國夫

ページ範囲:P.674 - P.676

■老人の適応性
 高齢化社会は文化国家にみられる最近の現象であるが,その与える社会的経済的影響は極めて大きい.
 人口の高齢化は生産年齢人口の相対的あるいは絶対的減少をきたし,他方,老人人口の相対的増加をもたらすものであるから,経済的観点から社会全体をみると,これまでの経済水準を維持するためには,労働人口の増加や労働時間の延長,あるいは技術革新による生産技術の発達等が必要になってくる.かかる情況下での労働の補充には,老人は好適なはずであるから,老人の再就職に一応は有利であろうが,老人特有の老化と疾病,さらに家族制度の近代化による老人の孤独などが老人を不利な立場におき,問題を複雑にしている.

老人の保健・福祉行政

著者: 山下章

ページ範囲:P.677 - P.682

 わが国の救済制度は,遠く古代にその源を発し,その殆んどの対象に老人が含まれているが,現行の老人福祉事業のように老人だけを対象とした単独の事業なり制度でなく,一般救済制度の一環として行われてきた.
 千数百年前推古天皇の時代に,聖徳太子が四天王寺を建立し,敬田院,悲田院,施薬院,療病院の4院を設け,孤老,貧者,病者を収容したのが発端であるといわれている.それから百年余り後の大宝律令には,60歳以上で妻のない者(鰥),50歳以上で夫のない者(寡),60歳以上で子の無い者(独),65歳以上の者(老)等で自存することのできない者については,近親がこれを扶養すべく,近親がない場合は,村里でこれを保護すべきことが定められている.

老人の社会参加

著者: 岡村重夫

ページ範囲:P.683 - P.687

■社会参加の2つの意味
 1.老人福祉法は,老人福祉の基本的理念として,老人の生活の安定,心身の健康,そして社会的活動への参与の3点をあげている.そして老人の社会的活動としてその知識と経験を社会に役だつようにすること,また希望と能力とに応じて適当な仕事に従事したり,その他の社会的活動に参加する機会を与えられるべきであるという.そして昭和51年5月の社会局通知『在宅老人福祉対策事業の実施及び推進について』において,後述するような各種の社会的活動の機会を提供するいわゆる『生きがい対策事業』を定めている.この生きがい対策の内容は,老人の就労,老人クラブ活動,老人の知識や経験を生かした生産的または創造的活動に大別できるが,それが老人の社会的活動であり,老人の生きがい対策であるというわけである.
 つまりここでは老人が一般社会から孤立しないように生産的労働に参加したり,教養を身につけて時代遅れにならないようにしたり,老人の経験や能力を地域社会に役だてることが「社会参加」とされている,そしてこの社会参加によって老人に生きがいをもたせるのが目的である.つまり,今日の産業社会は,生産能力の高い若い労働者本位の社会であり,老人はそこから引退させられたものである.

老人患者の医療と福祉

著者: 川合一良 ,   堀川幹夫

ページ範囲:P.688 - P.694

 わが国の人口構造は年々,高齢化し,1979年の老齢人口(65歳以上)は全人口の8.9%となった.1970年初頭,国連は高齢化した社会の指標を,老齢人口比率7%をこえるものと規定したが,わが国の現状はこのレベルをはるかにしのぐものとなった.人口問題研究所の予測によれば,20年後の老齢人口は西欧高福祉国なみの14.3%に達するとされている.しかも,フランスなどの諸国では,100年以上かかってゆっくりと人口の高齢化が進んだのに反し,わが国はわずか40年ほどの短期間に同じ階段をかけ上ろうとしており,高齢化社会は,わが国では既に現実のものとなっている.
 このような急速な人口高齢化に対する行政の対応は,きわめて鈍い.故大平首相は日本型福祉社会論を提唱したが,これはわが国の美しき伝統とされて来た「家族の相互扶助機能」と「企業内福祉」に国の負担を肩がわりさせようとしたものであった.鈴木内閣はこの提唱を受けついで福祉の後退を策しているが,今回発表された第二次臨調にいたっては,高齢化社会についての将来ビジョンは全く提示されることなく,ひたすらゼロペース予算を貫こうとするものである.そして,老人医療無料制度をはじめとするこれまでの福祉のつみ重ねは,今やことごとく崩壊させられようとしている.

老人保健活動の新しい展開—武蔵野方式をめぐって

著者: 山本茂夫

ページ範囲:P.695 - P.699

 6月13日,厚生省が発表した昭和54年度の国民医療費推計によれば,国民1人当たりの平均医療費は94,300円であるのに対し,65歳以上の老人の一般診療費は299,900円に達したと報道されている.この老人医療費は国民の一般診療費の3.3倍に達し,その処理は政治課題のひとつになっているところであるが,老人医療費の内容をみるときに,入院費の比重が年々増加していることがうかがえる.昭和55年版厚生白書注1)により昭和50年と54年の老人医療費の伸びをみるならば,外来が1.79倍であるのに対し,入院は2.07倍であり,入院医療費の構成比も50年の32.5%から54年には35.3%と,その比率を高めていることがうかがえる.
 老人医療費のこのような動向について,国民生活審議会の長期展望小委員会のメンバーである丸尾直美氏は,「悪しき見えざる手が浪費をもたらす1つの例は,無料の老人医療と貧困な社会福祉サービスのもとでもたらされる病院の過剰利用である.たとえば一方で入院が無料であり,他方老人ホームやデイ・ホスピタルや巡回ホームヘルパー等が不備な場合には,患者やその家族が合理的に行動すると,治療上必要とされる以上に入院日数を長くすることを選ぶ可能性がある.

老人の施設ケアシステムにおける発展段階—国際比較の視点から

著者: 森幹郎

ページ範囲:P.700 - P.705

■施設ケアシステム発展の4段階
 昔,老人の扶養は子供(夫婦)の責任であり,一般的には社会のかかわることではなかった.また,子供がいなかったり,子供(夫婦)が貧しかったりして,老人の扶養が行われないと,親族や近隣の人が互いに助け合って,その老人を扶養したものである.そして,極めて例外的に,極貧の老人たちだけが施設に収容された.救貧施設といわれるものがこれである.救貧施設はその後,発展を遂げ,今日の福祉施設となったのであるが,その発展の跡を顧みると,およそ4つの段階に分けられる.

今後の中高年及び老年者の健康と保健福祉

著者: 磯典理

ページ範囲:P.706 - P.710

■中高年者問題
 人口の高齢化が進むということは,社会構造が変わることである.この変化は先進国が経験したよりはるかに激しい速度で量的および質的に社会が変動していくところに問題がある.さらに特徴的なことは,老年人口が急激にふえることは当然,老年の前段階の生産年齢人口である中高年人口の増加がなければならないことである(中年:45歳〜54歳,高年:55歳〜64歳,老年:65歳〜)(表1).
 高齢化社会が国民の前に大きくクローズアップしてきた昭和38年頃,わが国の老人対策は西欧諸国に比し非常に立ち遅れていたこともあって,65歳以上の要保護老人に対し西欧なみの老人像を理想として集中的に種々の施策が立てられた.したがって結果的には中高年層に対しての対策や研究はおろそかにされてきた.

講座 公衆衛生学の最近の進歩・9

環境保健(2)—環境汚染および環境衛生制度

著者: 和田攻

ページ範囲:P.711 - P.719

■はじめに
 最初に戦後の環境保全問題をふりかえってみると,第二次大戦の荒廃から復興を目指した1950年代と,経済成長を目指し開発が中心となり,反面,公害を含め,環境と健康にかかわる問題が一斉に顕在化した1960年代,それをひきついで環境の受容力が無限でなく,放置すれば人類の生存の基礎となる自然がとりかえしのつかないまでに破壊され,人類の運命を危険におとしいれるという反省,すなわち経済成長の歪みに目覚めた1970年代とつづき,新たな1980年代を迎えようとしている.
 このような環境汚染の進行に対し,1967年には公害対策基本法が制定され,1970年には同法をはじめとする公害関係諸法令の改正・整備が行われ,さらに1972年には自然環境保全法が制定され,近い将来,環境影響評価法も制定されようとしている.このように1980年代は,単に個別発生源のみならず,総量規制をもって環境を保全し,さらに将来環境汚染の可能性ある開発行為などをあらかじめ予測し保全に万全を期すという総合かつ予防的な対策が進められる年代といえよう.さらには,単なる公害の防止や自然環境の保全だけでなく,人びとの心にうるおいとやすらぎをもたらす真に豊かな環境をつくるべく長期的かつ総合的な環境対策が望まれる時代でもある.

臨床から公衆衛生へ

自己免疫疾患

著者: 稲葉午朗

ページ範囲:P.720 - P.722

自己免疫と自己抗体■
 1.免疫寛容と自己抗体
 生体中の非自己を識別する機構が免疫系の基本的な仕組みである.そこで,免疫機能を担当する細胞が胎生期にいったん接触した生体内の物質は,生後の再接触によって免疫反応が起こらないようにコントロールされている.これを免疫寛容(immunological tolerance)という.しかし,何らかの原因でこの免疫寛容が失われると,そこに免疫反応が起こって自己抗体が産生される.その機序としていくつかの場合が考えられる.

連載 戦後の公衆衛生

【Ⅶ】保健指標(中)

著者: 麦谷眞里 ,   北井暁子

ページ範囲:P.726 - P.731

 前回は,「Ⅰ.保健政策指標」について述べた.リストの順序から行けば今回は「Ⅱ.保健水準指標」ということになるのだが,ここに掲げられている項目は,どれもこれまでさまざまな形で扱われてきているものばかりである.したがって,改めてわが国の戦後の推移を語るまでもない,と思われるので,このさい思い切って省略し,今回は「Ⅲ.社会・経済指標」から入ることにしたい(Ⅰ〜Ⅲは,本誌Vol. 44 No. 11 791頁の表1に一括して示してある).

発言あり

老人医療制度

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.671 - P.673

 寝たきり老人には医療がない!! 老人医療,無料から有料へ,そして診察代月500円.正直いって無料であろうと,500円支払うことになろうと,関係のない老人がいる.つまりどんなに医学が進歩しようと医療費が無料になろうと,寝たきりで邪魔者扱いされながら放置されている老人にとっては,医療を受ける機会すらないということである.
 4年も5年も寝たきりで,家族も看護に疲れ果て,病人を投げ出したくなったという家庭がいかに多いことだろうか.

人と業績・15

エドワード・ジェンナー(Edward Jenner 1749-1823)

著者: 小栗史朗

ページ範囲:P.744 - P.745

 WHOは,1980年,痘瘡が地球上から絶滅されたと宜言をした.約2世紀前,米国独立宣言を起草したジェファソン(Jefferson)が,「いつの日か,人類は,忌むべき痘瘡がかつて猖けつしたこと,そしてあなたによって絶滅されたことを,歴史としてのみ知ることになるでしょう」と,ジェンナーに賛辞を送った事態,人類の歴史的偉業がなしとげられたのである.
 1798年,彼は,「天然痘ワクチン,すなわちイングランド西部諸州とくにグラウセスタシャイヤで見出され牛痘の名で知られている病気の因果に関する調査」(An Inquiry into the Causes and Effects of the Valiolae Vaccinae, a disease discovered in……)という75頁の冊子を自費出版した.

地域活動レポート

赤羽保健所の保健婦活動—成人病予防活動(その2)

著者: 安田美弥子

ページ範囲:P.723 - P.725

●より積極的に衛生教育を,の始動
 地域の住民のすべてを成人病予防活動のターゲットとした私たちは,"出合いを大切に"ということをモットーに,保健所に来る人全員に対して成人病予防のための衛生教育を昭和52年から行ってきた(表1).
 しかし,保健所を利用する住民は年間7,000〜8,000人と限られているし,衛生教育の内容も1回10〜15分くらいの短時間で実施できる範囲のものである.そこで昭和54年頃から,より積極的に地域の中に入りこんで,もっと多くの住民に衛生教育を行う必要を感じ,その活動を始めた.

大学とフィールド

疫学的研究を中心に—〈九州大学医学部公衆衛生学講座〉

著者: 倉恒匡徳

ページ範囲:P.746 - P.747

 私は過去10数年間講座の研究として疫学的研究を最も重要視してきた.疫学以外の研究も行ってきたが,それらは疫学的研究によって明らかにされたことをより深く理解したり,より確実に立証するために行ったものであり,疫学と密接に関連している.このように疫学を重要視したのは,社会の中で起こっているもろもろの健康問題に聴心器をあてて診断し公衆衛生学的対策を講ずるためには,疫学の論理・方法に基礎をおくことが不可欠であると考えたからである.もちろんそのようにしたからといって常に成功するとは限らないが,疫学の方法論が理解されていなければ成功は覚付かないと思う.以下,最近10年くらいの間にわれわれがどのように地域の健康問題にとり組んできたか,その概要を述べてみよう.単に研究のための研究でなく,またデータのためのデータでなく,実際の人間の健康に役立った,あるいは役立つと確信される研究について述べることにする.

海外事情

アフリカの僻村における衛生教育−2——衛生教材の内容(1)—マラリアと下痢

著者:

ページ範囲:P.739 - P.743

 ここに紹介する教材はほんの一部にすぎない.各村の教材の内容は,その村で衛生を教える先生によって決められる.

資料

長崎県対馬における救急車利用の実態

著者: 永田寿礼 ,   石橋俊秀 ,   坂田秀雄 ,   加藤智一 ,   柳川洋

ページ範囲:P.732 - P.738

Ⅰ.研究の目的
 道路の未整備,医療機関および医療従事者の不足,集落の分散などの諸条件により,離島の医療の確保には多く問題点がある.本研究は対馬における救急医療を例にとり,①救急車利用の実態を明らかにすること,②離島における救急活動の特殊性(所要時間,救急車利用の難易,予後など特に不利な点)を理解することを目的として実施された.調査の対象は後述するように救急車による患者に限られているので,救急医療の全貌を知ることはできないが,離島における救急医療活動の問題点を考えていく上での重要な基礎資料になり得ると考える.

日本列島

松山町の保健衛生活動—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.748 - P.748

 県北1市13町を管轄する大崎保健所管内には,保健衛生活動が活発な町として,松山町,三本木町などがあり,県内外からの視察をいただいている.志田郡内の両町は良きライバルの感があるが,今回は松山町の活動の一端を,私なりに紹介したい.
 ここは人口7,177人の農村である.

随想

不老長寿の食物

著者: 園田真人

ページ範囲:P.749 - P.749

 ある日突然に死はやってくる.長いあいだ病気に苦しむのではないか,急に体が動かなくなるのではないか,心もなえてしまうのではないか,愛する人と別れてしまうのではないか,破産して路頭に迷うのではないか,人間関係に失望するのではないか,など,多くの恐れをもっている.
 こういった現実から逃避するためと,ストレスからのがれるために,少しでもやわらげてくれる不老長寿の食品や薬をもとめてやまない.
 ある食物を食べると,健康のためにプラスになることはヒポクラテスの時代からいわれており,長生きと若がえりは,人間の見果てぬ夢である.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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