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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生46巻12号

1982年12月発行

雑誌目次

特集 医療社会事業

わが国の医療社会事業への提言

著者: 須川豊

ページ範囲:P.796 - P.799

 医療社会事業の特集をしていただいて,私にとって大変有難い思いである.この仕事は,わが国では未だ定着していないし,関係者の理解も十分でないと思っている.それ故に,この特集が大方の理解をふかめることを期待して有難いのである.
 この事業は,終戦直後のアメリカ軍指導時代に,衛生教育とともに,とくに強調された保健所業務であった.

医療社会事業の歴史と現状

著者: 皆川修一

ページ範囲:P.800 - P.805

■医療社会事業の起源
 わが国の医療社会事業(メヂカル・ソーシャルワーク,以下「M.S.W.」と略す)の起源は,古く聖徳太子の時代,すなわち,同氏が施療院,施薬院を設けた時にさかのぼるといわれ,光明皇后が疾病問題に心を寄せられ,大規模な施薬事業を展開されたことは,諸々の場面によく紹介される.
 英,米両国との比較においては,1902年(明治35年)に,東京大学医学部精神科において教授夫人達(有志)による精神障害者のための救済的な「救治会」が作られるなど,部分的ではあったが,慈善病院等にM.S.W.の発芽がみられた.さらに1919年(大正8年)には泉橋病院(現在の三井記念病院)に婦人相談員が配置され,1924年(大正13年)には中野療養所,1925年(大正14年)には全生園(らい療養所),1926年(大正15年)には済生会本部病院等に各々専任職員による患者相談がはじめられるなど,近代M.S.W.の前身的形態ともみられる動きがあった.

医療福祉教育の現状と課題

著者: 斉藤安弘

ページ範囲:P.806 - P.811

■医療と社会福祉の統合を求めて
 医療を受ける人のなかに,社会福祉制度または医療費の補助制度を利用している人がいる.たとえば育成医療,更生医療,生活保護,さらに特定疾患治療研究費,小児慢性特定疾患治療研究費,重症心身障害児(者)措置費,進行性筋萎縮症児(者)措置費等々がある.
 これらの人々は,生活適応,社会生活適応などに継続的に努力を必要とし,さらに他者による援助によって生活が成り立っているのである.また医療機関との深いかかわりのなかで生活していて,病気とともに生活を設計していかねばならないのである.

保健婦と医療ソーシャルワーカーの連携

著者: 山崎京子

ページ範囲:P.812 - P.816

 近年世界的にも例をみないほどの勢いで進んでいるわが国の高齢化社会への進行により老人問題がクローズアップされてきているが,老人問題にかぎらず慢性疾患,障害児・者の問題,精神障害や思春期を中心とする児童・生徒の心身の問題等多くの問題が社会問題としてとりあげざるを得ない状況である.
 これらの問題は,従来からなかったものではなく家庭内で処理されたり,慈善活動としてあまり市民の目の届かないところで処理されていた.しかし,産業構造の変化にみられるように雇用労働者が増大し,市民の家庭経済は賃金に頼らざるを得なくなったこと,雇用の条件が健康に及ぼす影響も大きく,また,工業化・都市化に伴う,人口の都市集中化による住環境の変化,核家族の増大等により家庭内での処理や慈善活動としての処理が困難となって,社会問題化してきているものと思われる.

老人の医療福祉の現場から—MSWの視点と援助の実際,医療福祉サービスの現状と問題点

著者: 奥川幸子

ページ範囲:P.817 - P.825

■はじめに——老人の医療と福祉のはざ間で
 老人医療の現場で働く医療ソーシャルワーカー(以下MSW)は,病弱のまま,あるいは障害を抱えたまま他者に依存しながら生きてゆかねばならない老人ばかりと会っている.現代社会における「老い」と「死」へのプロセスをうまく通過できず,人生の後半生において最大の試練を迎えているこれらの老人の存在(いのち)の重さに,医療従事者も含め家族は戸惑い,怒り,悩む.
 ある老人は,周囲の当惑や不安をよそに,食事すら自分で作れないのに独り暮らしを主張して,周囲の人々の日常生活の平隠をかき乱す.一方では,自ら進んで,あるいは周囲の勧めに従ってしぶしぶ,老人ホームや老人病院を終のすみかとする老人もいる.

精神障害者を支える医療社会事業員の視点—精神障害者の地域サポートシステムを検討する前に

著者: 眞野元四郎

ページ範囲:P.826 - P.830

 病院を中心とした精神医療から地域を中心とした精神医療へと転換しなければならないという主張が呈されて久しい.わが国の精神医療にもそれなりの歴史性があり,その体系を容易に変え得ない種々の問題を抱えていることも事実である.
 しかし,今日の精神医療,特に病院における医療のあり方が内外から批判され,その改善が望まれている割には,それほど状況が変化しているようには思えない.

諸外国の医療ソーシャルワーカー

著者: 児島美都子

ページ範囲:P.831 - P.835

 1969年,筆者がイギリスにおけるMSWの発祥地であるロンドンのロイヤル・フリー・ホスピタルを訪ねたとき,たった1つの病院に30人ものMSWがいるのを目のあたりにしてその数の多さに驚いた.MSW部は,3つに分散し,それぞれが,面接室と事務室をもち,院内にしっかりと根をおろして活動しているようであった.ロンドンの中心街,ベッドフォード・スクエアにあるMSW協会の緑の扉を叩いたとき,協会専任のMSW数人が協会活動に専念しているのにも接した.そのころ,アルマナーのよび名がMSWに改められて間もなかったせいか,病院によっては,消されたアルマナーの文字が,それとわかるように壁にのこっているところもあった.
 同じ年訪れたフランス・パリのボアンカレー小児病院では,8人のMSWがいるとのことだったが,チーフのMSWを除いては,きまった曜日に外から来るらしく,それぞれの部屋のドアの横に「ミセス○○は何曜日の何時から何時まで来る」と表示してあるのを見た.

発言あり

(自由課題)

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.793 - P.795

医療における法解釈について思うこと
 医療に携わる職種は20数種類にものぼる.しかも,特殊な資格や免許を必要とする専門的な技術者が全体の6割を占めている.そのことは取りもなおさず医療は専門的な知識や技術なくしては遂行できないことを示し,人の生命の尊厳を現わしているといえよう.医療従事者に関する法をみても,医師法,歯科医師法,薬剤師法,保健婦助産婦看護婦法,臨床検査技師・衛生検査技師等に関する法律,診療放射線技師及び診療エックス線技師法,栄養士法,理学療法士及び作業療法士法,歯科衛生士法,歯科技工師法,視能訓練士法,等々.医療事業面においては,医療法,薬事法をはじめとして国民健康保険法等多方面多岐にわたっている.実に170余件を数える法律,同法施行規則,規程,政省令が告知されている.
 医療の安全性を確知するために法を尊守すべきことは論をまたない.その法の精神を便宜的に違約して解釈されていることもなしとしない.

研究

15年の登録事業による地域における脳卒中の実態把握ならびに家族予防

著者: 三浦綾子 ,   安川ふず子 ,   安田淳子 ,   村本玲子 ,   前田由美子 ,   作田順子 ,   林原邦昭 ,   中川茂 ,   鏡森定信 ,   成瀬優知 ,   渡辺正男 ,   中川秀昭

ページ範囲:P.836 - P.841

 脳卒中発作を起こして入院した患者には,回復後リハビリテーションがおこなわれる.しかし,一旦退院した後,家庭でリハビリテーションを継続することはきわめて困難な状況にある.また,脳卒中に罹患しても入院せず在宅治療のみの場合には,社会復帰に必須な早期のリハビリテーションの機会を全く逸することも少なくなく,リハビリテーション・サービスの地域における拡充は,わが国の脳卒中対策の面からも重要な課題のひとつとなっている1).著者らは,在宅脳卒中患者のリハビリテーションが中断されることなく継続して実施されるように,届け出による地域の脳卒中患者の登録システムを採用し,登録者に種々の地域保健サービスをおこなってきた2)
 この登録事業も,その開始後15年が経過した.この間,地域の医師による患者届け出も定着し,また,地域婦人会などの協力を得て実施した脳卒中後遺症者の一斉調査3)などにより,脳卒中患者の地域における実態をほぼ把握出来るようになったと考えている.

柑橘栽培従事者の有機燐農薬散布後の血中農薬濃度と血液生化学的検査値の変動及び環境濃度について

著者: 平井和光 ,   塩飽邦憲 ,   鳥居本美 ,   脇本忠明 ,   河野公栄 ,   立川涼

ページ範囲:P.842 - P.848

 今日の農業経営における農薬の使用は不可欠になっている.わが国の使用農薬は,以前と比較してその急性毒性,残留性は著しく低下しているが,農薬散布作業中に発生する農薬障害は現在も多発しており,特に有機燐系農薬による健康障害の発生が最も多いことが報告されている1).有機燐系農薬の研究では,急性中毒の病態生理,農薬散布従事者の健康に対する影響などに関する多数の報告があり,毒性の動物種に対する特異性,化学構造の多様性とその毒性発現の特異性など種々の課題が提起されている2).著者らは,柑橘栽培農民に対する有機燐農薬の影響についてこれまで報告してきたが3,4),この研究は,柑橘栽培においてノズルによる有機燐農薬散布後の血中農薬濃度と作業前後の血液生化学的諸検査値の変動との関連性及び農薬散布による環境汚染について観察し,若干の考察を加え報告する.

資料

行政からのプライマリ・ヘルスケアへのアプローチ(3)—成人病対策,食事指導の面から.松戸市の例

著者: 太田重二郎 ,   津田真 ,   椎名香取 ,   浅野恵子 ,   早坂志津子 ,   田口明子 ,   吉岡静枝

ページ範囲:P.850 - P.855

 成人病予防対策の根幹は,病気になる可能性をもっている人の生活指導にある.住民の病気になり易い習慣を住民自ら改めるという意識をもたせることが必要である.成人病予防はあくまで住民自身が責任をもち,医師・保健婦・栄養士が行動するのではなく,行動は住民自らが行うべきもので,医師・保健婦・栄養士はその動機づけをさせ,その行動を援助するだけである.
 日野原1)は,成人病を治すのは医学の知識ではなくて,患者に自分の習慣を直させる以外によい方法はないといい,このためには患者やその周辺の人々に健康教育をして,新しい実践活動を広げなければならないといっている.福井2)は,プライマリ・ヘルスケア(PHC)における栄養について,成人病患者のプライマリ・ケアの中で栄養は重要な役割りを占めており,その中で次の問題点をあげている.中高年者の男性が体を動かす仕事をあまり行わなくなってきたときの栄養確保の問題,定年退職後の年金生活期間が平均5年といわれる中には,食生活にその謎があるのではないか,食事時間の間隔が5時間より短かくなると,蛋白質とエネルギーをはじめ栄養のバランスがとりにくい.特に朝食を欠くと夕食の負担量が多くなる.

日本列島

第30回精神衛生全国大会に出席して—北海道

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.805 - P.805

 北海道も10月中旬になると,朝夕めっきり涼冷になり,樹木も黄紅に染まり始める.
 厚生省・日本精神衛生連盟・健康体力づくり事業財団が主催し,北海道庁・北海道精神衛生協会・北海道精神病院協会等が共催した第30回精神衛生全国大会が,10月15日札幌市民会館大ホールで開催された.

障害者歯科診療室の活動—仙台市

著者: 土屋真

ページ範囲:P.811 - P.811

 心身障害者の歯科事業は,「治療椅子に坐って,口が開けられるようになるまでが大変」といわれ,今まで手がつけ難かった.幸い,さる昭和57年1月,仙台駅に近い石名坂保健センター内に「障害者歯科診療室」が開設され,週4日間の指導と治療が始められたが,障害者に対する情熱と工夫で住民の期待に答え,優れた業績を残しつつある.
 対象は,仙台市に住所を有する心身障害児(者)で,通常の診療体制での対応が困難である者とされ,歯科保健指導・検診および予防処置・歯科診療が行われている.実施主体は仙台市で,実施要網に基づき,歯科医師会および東北大学歯学部付属病院との連携により,事業がすすめられてきた.治療費は,健康保険が適用になる.

「地域医療のあり方」の研究開発研修と岐阜県郡上郡の状況—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.848 - P.848

 国のシンクタンクである総合研究開発機構(NIRA=National Institute for Research Advancement)では昭和57年事業として,「地域医療のあり方」の研究開発研修を行っており,東京での第1回ワークショップ「地域医療の概念」および秋田県象潟町での第2回「初期医療ないし住民参加の医療」に引きつづいて,5月下旬岐阜県郡上郡において2次保健医療体系のあり方として「保健所のあり方と地域中核病院の活動」に関する第3回ワークショップが行われた.指導助言者として国立長崎中央病院副院長の岩崎 栄氏をはじめ,倉橋理事ほかNIRA関係者,青森県から広島県にいたる9県の行政関係者が参加し,地元から地域医師会長,保健所長,へき地中核病院長等が特別参加した.
 岐阜県郡上郡は人口約5万で7ヵ町村よりなり,地域医師会も保健所も管轄区域が一致しており,行政活動もまとまり易いためか,し尿処理事業,消防業務,医療業務等に一部事務組合による広域行政活動が行われている.特に,医療の面では医療需要の増大,医学の高度専門分化,高額医療機器の出現,医師の漸減と高齢化の中で,住民はじめ医師会や行政関係者に危機感が生まれ,10数年前に設立運営されていた医師会立病院の公立整備構想が関係者により立案された.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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