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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生46巻2号

1982年02月発行

雑誌目次

特集 医学教育と保健所

医学教育と保健所

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.76 - P.78

 医学教育の目標は,牛場(1976)が指摘するとおり1,2),医学生が将来,社会において保健医療に貢献し医学の発展に寄与することができるようになるため,つぎのような項目を達成することであろう.
 1)将来医学関係のいずれの領域に進むうえにも必要な基礎的知識と基本的技能とを修得する.

教育の場としての保健所への期待

著者: 松野喜六

ページ範囲:P.79 - P.82

■背景
 1979年のわが国の届け出医師数は150,229人,人口10万対129.4,医師1人あたり人口は773人となったが,その業務種類別比率をみると,病院・診療所のいわゆる臨床医は95.3%,臨床以外の教育機関又は研究機関の医師2.6%,衛生行政又は保健衛生業務の医師1.4%等となっている.図に1955〜79年のそれらの推移を示したが,衛生行政又は保健衛生業務の医師は,実数,率とも非常に低く,きわだって減少している.たとえば,保健所の医師定員充足率は40%以下といわれている.いずれにしても,わが国の医師の圧倒的多数は臨床医であることになる.医学教育の目標については牛場1)の4項目,衛生・公衆衛生学については1976年の衛生学・公衆衛生学教育協議会に提案された5項目2),西川3)の4項目などが示されているが,医学教育実態としては,臨床医の養成に傾斜しがちである.中川4)が記しているように,わが国の公衆衛生の実務からいわゆる診療行為が全くといってよいほど除外(保健法第4条)されているので,公衆衛生を遠距離からとらえるむきが医学教育者の中にもある.とくに感染症の制圧に成功してきている現況において,臨床医学の診断テクノロジーの著しい発達は,細分化した専門領域の発展を促し,保健学の発展の遅れも手伝って,医師・医学生を技術・専門志向に傾斜させている.

保健所と大学の連係を求めて

著者: 吉田亮

ページ範囲:P.83 - P.86

■医学教育の目標
 「医学教育におけるカリキュラム計画および教育方法に関する総合的研究」研究班は,医学部一般教授目標として,卒業時に下記4項目を達成することを求めている1)
 1.将来医学関係のいずれの領域に進むうえにも必要な,基礎的知識と基本的技能を修得する.

保健所長のひとりごと

著者: 園田真人

ページ範囲:P.87 - P.89

■私は歴史を話す
 学生たちが衛生研究所や保健所に実習にくると,私は日本の公衆衛生の歴史をわかりやすく話すことにしている.
 明治維新より大正初期まで,日本の大きな課題は脚気をへらすことでした.これは,オリザニンの発見によって解決されました.

保健所再生のために—教育保健所

著者: 西正美

ページ範囲:P.90 - P.92

 保健所医師の不足は,眼を被いたくなるほど深刻である.この深刻な医師不足が保健所の機能低下の最大の要因であり,医学教育の一環としての保健所実習等の受け入れに支障をきたすもとでもある.さらには,関係者の努力にも拘わらず,医学教育の中に制度として保健所実習等が組み込まれていないことが,保健所の医師不足に連動する.この悪循環を断ち切ることは,単に保健所の充実だけではなく,実地臨床医あるいは地域健康管理への大きな波及効果も期待される.そこで保健所実習等に関する問題点と,これらを克服し,この悪循環を断ち切る方策を模索してみた.

Finishもなければ,拍手もない

著者: 田原直廣

ページ範囲:P.93 - P.95

 中国の古い言葉に,病を治すのは「小医」であり,人を癒すのが「中医」,そして国(社会)を直すのは「大医」であるというのがある.高血圧症を勉強するのに,病理や治療法のみにとらわれて,その人の生育歴や背景にある生活環境,さらには経済状況などを考慮しなければ,単に薬品を与える作業が医療であるという錯覚におちいってしまう.現在の医学教育の中で,そこまで考えさせる講義が行われているのであろうか.ましてや,社会・経済・歴史・習慣などを勘案し,医学教育の中で最も欠落しているといわれる栄養学をはじめ,他の学問を駆使して高血圧症を診る訓練はなされていないと思う.
 このような考え方は,単に将来公衆衛生に従事する者だけでなく,病院勤務にしろ開業医になるにしろ必要なことである.地域包括保健医療がさけばれている現在,病院などで患者の来るのを待っていればよいという医者は時代おくれかもしれない.

新しい地域ケアへの保健所の対応

著者: 北川定謙

ページ範囲:P.96 - P.101

 保健所は国民の健康を確保するという重要な社会的機能の一つとして,特に疾病予防について全国を網羅したネットワークを持っているということで,自他ともにその機能は高く評価されている.しかし,現実には,その主役である医師の確保がむずかしい.あるいは医学が専門分化していく中で,多様な保健需要にどう対応するかで多くの困難をかかえているというのが実情である.
 医師は国民の生命を守るという特別の役割りをもつところから社会的にも高い信頼をよせられている職種であるが,これについても現実には,医療技術の進歩の中で医学は細分化,専門分化の一途をたどる一方,第三者支払いという医療保障制度の中で,とかく医の原点を見失う事例が続発しているところから,社会の医師に対する批判の目が厳しくなっていることは見逃がすことのできない事実である.多くの議論がある中で,ともあれ我が国の国民保健の水準は諸外国とくらべても遜色のないものになっているところから,医学教育の面で,技術中心主義がなかなか反省されない面があるのではないかと思われる.

「地域保健」実習14年

著者: 諸岡妙子

ページ範囲:P.102 - P.105

■インターン制度廃止により卒前の「地域保 健」実習へ
 さきのインターン制度下では,臨床各科の実地修練が指定病院において行われるのと並行して,公衆衛生の臨地訓練が保健所において課せられていた.実地医家として地域保健を担当する医師の教育に,この「保健所実習の義務」は,臨床各科の実習と全く同等に,必要欠くべからざるものであり,臨床実習と公衆衛生実習,この両実習を終了してはじめて医学の基本的学習を終えたものとみなされ,医師国家試験を受ける資格が与えられたわけであった.
 1968年,インターン制度が廃止され,卒後2年の臨床研修制度が導入されたが,関係者の努力にも拘わらず,保健所実習は組み入れられずに,卒後研修は発足した.当時,もし吾々が手を拱いておれば,卒後直ちに国家試験を受けて,医師として社会に送り出される医科学生の,医師として最も基本的な素養が欠如されることになる.翌年は医師として社会に迎えられる医学生のpublic health mindを養うのに,臨床訓練の場となる付属病院に当たる実習場所を,大学は持たない.そこで,東京女子医科大学では,東京都衛生局の諒解のもとに,最高学年の医学生を,これまで私自身が様々の機会にお世話になったり,御指導を受けたりした公衆衛生の先輩に当たる都保健所の所長方のおられる,地もとの牛込保健所をはじめとする都内若干の保健所に送り,公衆衛生——地域保健--の実習をお願いすることにした1)

地域保健実習を実践して

著者: 菊地浩

ページ範囲:P.106 - P.109

 自治医科大学では,第一期生が5年生になった昭和51年から,地域保健実習を公衆衛生学のカリキュラムにとり入れ実施している.これは本学の建学の精神から,次の教育理念に基づいている.1.人間性豊かな人格の形成に力を注ぎ,真に医の倫理を会得し,ヒューマニズムに徹した医師を育成する.2.ますます複雑化する疾病構造に常に対応しうる高度な医学知識と臨床的実力とを涵養し,併せて社会医学の学習を重視する.3.医療に恵まれない過疎地域の医療に進んで挺身する気概を養成する.すなわち,社会医学の学習を重視し,臨床教育の中において,常に地域保健・医療との関連性を重視するという立場から,地域保健実習(保健所実習)が当初からカリキュラムに組み入れられたのである.
 しかしながら1学年100名をこえる学生の実習を,地元栃木県はじめ近県の保健所で受け入れていただくというのは並み大抵ではない苦労をおかけすることになる.幸い自治医科大学は全国の都道府県が共同して設立した大学であるので,関係県の衛生主管部,課と各保健所の特別な御配慮を得てこの実習のスタートを切ることができた.

公衆衛生修学生の保健所実習

著者: 石館敬三

ページ範囲:P.110 - P.115

 東京都の公衆衛生修学生が,夏季休暇のうち数日間を利用して,都の保健所における実習を行っているのでその概要を報告したい.
 この公衆衛生修学生の保健所実習とは,将来,都内の保健所に勤務する医師を求める手段の1つとして,東京都が公衆衛生修学生に対し企画した実習である.医学部の学生時代に都の保健所の現状を自らの眼で見てもらい,学生が保健所勤務への動機づけを得ることを期待している.(同時に,現実にはマイナス動機づけとなるおそれもあると思われる.)

講座

絨毛がんChoriocarcinomaの疫学的傾向

著者: 湯浅秀 ,   関根しづ子

ページ範囲:P.122 - P.125

■目的および方法
 胎盤の絨毛細胞から発生する絨毛がん(国際死因分類181,旧名は絨毛上皮腫)は致命率が高いことと原因が不明なために多数の国で関心を寄せられているが,現在なお病因agentも危険要因risk factorも不明である.わが国では欧米諸国に比較して死亡率も罹患率も極めて高率なので産婦人科方面では特に深い関心がもたれ,既に多数の業績が発表されているが,原因に関する限り諸外国と同様に未解決である1〜6)
 著者は疫学的方法でまず危険要因を見つけ出し,その後の病因の追求と予防の進歩に役立たせる目的で,次の3つに大別される研究を行った.

公衆衛生学の最近の進歩・14

疫学研究の動向

著者: 青木国雄

ページ範囲:P.116 - P.121

 医学研究の動向は同じ領域の研究者が一堂に会する学術集会の内容を展望できれば比較的容易に総括ができる.しかしわが国には疫学専門の全国的な学会はなく,専門誌も発刊されてはいないので可及的多くの関係学会誌や臨床医学誌に時折掲載される疫学的研究を収集し展望する必要がある.
 欧州や米国には疫学の学会,世界的な学会組織もあり,専門誌は数種発刊されている.

発言あり

家庭内暴力

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.73 - P.75

暴力―インスタント文化の産物
 動物園のライオンは野性のに比べて,母性愛が浅いという.そのわけは,子のために餌をあさる努力をしなくてすむからだそうである.なるほどとうなずける.
 そうだとすると,ライオンのことばかり笑っているわけにいかない.人間の母だって,子どもにインスタント食品や缶詰めばかし食べさせていると家庭愛がうすれる.

人と業績・20

坪井次郎—1862-1903年

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.142 - P.143

 わが国の近代的医学教育は制度的には明治10年の東京大学開設に始まったといえよう.そして溌刺とした学風,清新な学問の発展のためには新しい大学を設置することが必要であるとされ,時の政治,時の権力の影響を受けやすい東京帝国大学のあり方に対して,新しい自由な大学を創設するには西の文化圏の中心地,京都か大阪でなければならないとされていた.明治28年日清戦争が講和となるや,関西に大学を新設することが具体化し,時の文部大臣西園寺公望は委員会に審議させて京都に設けることとなった.この京都帝国大学医科大学における初代の衛生学教授で学長になったのが坪井次郎である1)

研究

隆起する死亡率青年の山

著者: 大久保正一 ,   久保喜子 ,   米谷祐子

ページ範囲:P.126 - P.136

 最近の年齢別死亡率曲線を半対数紙上に描くと乳児と老人に高く少年期に低いV字型を示している.さらにこの間青少年期に小さい山がみえ,なお壮年期にも,それより低いなだらかな山が築かれていることに気付く.
 この青少年期の小さい山(以下青年の山と略称)は,昔ははなはだ高く,結核によるものであった.したがって結核がなくなれば,この山は消減するもの,しかもこれは日本に特有であって結核の少ないアメリカには存在しないと思われていた.

調査報告

島根県八束町における不明肝疾患の実態について(第4報)—肝炎登録による検討

著者: 関龍太郎 ,   小谷勉 ,   新田則之 ,   矢崎誠一

ページ範囲:P.137 - P.141

 肝炎に関する研究は多くの研究者によってしだいに明らかになりつつある.とくにウイルス性肝炎に関する研究は著しい1〜5).1965年にBlumbergらによりHBs抗原が発見されて以来,15年のうちに数多くの実態が明らかになった.B型肝炎ウイルス,ついでA型肝炎ウイルスも発見されている.
 一方,肝炎ウイルスのなかにA型でもB型でもない,いわゆる非A・非B型の存在がいわれ,少なくとも2種類以上のウィルスが存在しているといわれている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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