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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生46巻3号

1982年03月発行

雑誌目次

特集 思春期の性問題

思春期の性問題とは何か

著者: 松本清一

ページ範囲:P.148 - P.150

 思春期は小児期から成熟期への移行期であり,この間に急速な成長の増進と共に,性器の発育,二次性徴の発現,性機能の発達など生理的な性の発達が起こり,それに伴って性関心の高まり,性欲の発来など心理的な性の発達と性行動の発達がみられる.これらは精神発達の未熟と相まって精神の不安定性や保健的あるいは社会医学的な種々の問題を生じるが,この時期の発達課程の良否や障害の有無が成人した時の健康や性機能に重大な影響を与えるので,思春期の性問題はその後の長い生涯に尾を引くことが重要である.

わが国における10代性行動の実情

著者: 荻野博

ページ範囲:P.151 - P.155

 近年における青少年の性行動の活発化,若年化は,世界的にみられる傾向であり,わが国も例外ではない.しかし,その実情を正確に調査把握することは,なおいろいろな抵抗があり簡単なことではない.わが国の大規模な調査としては,1971(昭和46)年に総理府の行った「青少年の性意識調査」があり,現代の青少年は親の世代にくらべて,性に関して開放的であり,積極化していることが指摘された.1974(昭和46)年に,総理府の委託を受けて日本性教育協会が「青少年の性行動調査」を行い,具体的な性行動の年齢別経験率,男女差などの実態がある程度明らかにされた.本年(昭56年)再び総理府の委託を受け,日本性教育協会が前回と同様の方法で青少年の性行動調査を行い,クロス集計などなお細部の集計が進行中であるが,単純集計は終わり,大要がわかってきたので,前回と今回を比較しつつ,主として性行動に関する部分を紹介し,考察したい.

米国における10代の妊娠とその対応

著者: 林謙治

ページ範囲:P.156 - P.160

 近年マスコミなどにも報ぜられている如く,米国のティーンエージャーの性行動は大変活発であり,1978年1年間で19歳以下の女子による妊娠数は総計110万件に達し,10代人口のうち10人につき1人以上は妊娠した計算になる.これだけの妊娠数の背後にこれをずっと上まわる性行動が存在するのはいうまでもない.上の数字から,米国における10代の性問題は特に限られた少数の若者の特殊な問題ではないことがわかる.
 筆者が最近滞米の間も,マスコミのみならず行政,医学,教育界など多くの分野が連日のようにこの問題をとり上げているのを見るにつけ,将来わが国も同様な問題に腐心するであろうとの危惧を抱いたものであった.

わが国における性教育の歴史的変遷

著者: 黒川義和

ページ範囲:P.161 - P.165

 ひとくちに性教育といっても,家庭や学校における性教育のように対象と教育の場が明確なものと,公開講座や図書などを通じた不特定対象の一般的な啓蒙活動とがある.また内容的にも,未成年者に対する教育を目的とした狭義の性教育から,成人を対象にした性学(Sexology)の研究や伝達を含めた広義のものまで,いろいろの組み合わせがあるので,史的な観点からこれをどうまとめるかは大へん難しい課題である.そこで今回は紙面の関係もあるので,狭義の性教育に視点をあてながら,一部広義の内容も加えて,人間の性に対する受けとめ方が性教育の中でどのように変遷してきたかを考察することにする.
 周知のように,人間の性には肯定的側面と否定的側面の両面がある.前者には性的欲求の充足と情緒の安定,男女間の愛の深化,家庭の構築と子孫の繁栄……など,人間存在にとって不可欠の要素が含まれている.これに対して後者には性非行,近親相姦,性倒錯,失恋自殺,三角関係のトラブル,性病及び以上を含めた性への溺耽から生じる自己崩壊……などがある.

地域における少年の性問題

著者: 箕輪真一

ページ範囲:P.166 - P.172

 昨年9月,群馬県北部山村の女子10人を含む34人の中学生が不純異性交遊などで警察に補導され,また11月には県東部の田舎町の女子8人を含む20数人の中学生が同様の行為で補導されたことが明るみに出た.これらの背景として,前者では純朴な山村が急速に観光地化し,都会の若者客が押し寄せ,開放的で刺激的な男女交流の情景を出現したり,民宿に低級な週刊誌などを置いていったりする身近かな環境の変化があげられ,後者では工業都市化によるベッドタウンが農村に急造成され,人口が急増し,人口移動による空き家住宅の存在などで,生徒の生活指導が行き届かなかったことなどがあげられている.
 このような少年達の性の逸脱行為は,今日では全国的な傾向であって,少年の性非行の増加と低年齢化は社会問題となっている.ここでは,少年の性問題を一地方の群馬県という地域レベルで考えてみたいと思う.

学校保健の立場から見た思春期の性問題

著者: 今村要道

ページ範囲:P.173 - P.177

 いまの子どもの多くは心の病にかかっている.毎日の言動からそのように感じることがしばしばある.性二形の哺乳類動物の一種であるヒトとして人間社会に誕生した子どもは,人間の先輩によって人間になるための教育を施され,人間に育っていく.カントは「ヒトは教育されなければならない唯一の動物である」と言っているが,見事に真理を示していて妙である.教育は子どもが生活しているすべての場——家庭,学校,地域社会——で行われなければならないものであって,この3つの場の軽重を問うことは妥当でなく,そのいずれかの教育が不十分であったり偏重したりすると,人間形成に歪を生じることになる.心の病は人間形成の歪の一端であると考えられるので,いまの子どもに適切な教育が施されているということはできない.
 わが国の教育は教育基本法第1条の「教育は人格の完成をめざし,平和的な国家及び社会の形成者として,真理と正義を愛し,個人の価値をたっとび,勤労と責任を重んじ,自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならない.」を目的としてすすめられてはいるが,現実には衆知の如く学校教育においても多くの問題が続発している.

性教育指導者の養成の課題

著者: 武田敏 ,   横山宏

ページ範囲:P.178 - P.182

 性教育が「寝ている子を起こすな」との理由で反対された時代はすでに過去のものとなり,その必要性が社会的に容認されてから既に20余年の歳月を経ている.にもかかわらず学校の現場では性教育が定着せず,家庭でも殆ど性教育らしいものは行われていない.その原因が何処にあるかとするならば,性教育指導者の養成に最大の問題があるといえるであろう.教育学部において,また卒後研修において教師を対象とした教育システムが確立していないことが最大のネックとなっている.現場の教師を対象とした2,3の調査に基づき著者の愚見を記述し,併せて著者の大学における性教育内容を紹介したい.

講座 公衆衛生学の最近の進歩・15

成人保健—健康づくりのための運動の処方を中心に

著者: 渡辺孟

ページ範囲:P.183 - P.192

 急激な高齢化社会の到来に直面するわが国においては,成・老人の保健・医療・福祉にかかわる対策の根本的な見直しと確立が叫ばれている.老人を中心とする医療費の膨張や寝たきり老人の急増などがわが国今後の社会・経済に与えるであろうインパクトを考え,一方めまぐるしく進むエレクトロニクス・C.C(コンピュータ&コミュニケーション)が産業や生活に及ぼす変革を予測するとき,わが国成・老人の健康・労働・生活の将来には錯綜した要因によるきびしい変革と重圧が予感される.
 かかるとき,上記諸問題への対策の根源的な方向として,成・老人における精神的・身体的あるいは社会的な力―それは適応能ともいえようが―,また行動的・防衛的な体力の保持・増進こそが,いかなる事態をも乗り越えて行く道標1)といえるのではないだろうか.

発言あり

空きカン公害

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.145 - P.147

 躍進する中小企業第2回開発型企業を探る
 ある経済誌にこんな記事が…….皆さんお読みになりましたか.
 カンビールなら冷蔵庫にたくさん入り早く冷えるという男性の声,カンジュースなら子供に与えても落として割る心配がないという主婦の声など,罐飲料への消費者ニーズは,あいかわらず高い.

人と業績・21

三島通良—1865-1925年

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.213 - P.215

 わが国の学校衛生の歴史は1884〜5年(明治17〜8年)の頃が夜明けであるが,具体的に西欧の学校衛生がヨハン・ピーター・フランクの「完全なる医事警察法」にのべられたのが1776年であり,バビンスキーなる人が「学校衛生学」を著わしたのが1880年頃であることを紹介したのは三島通良であって,明治24年頃のことであった1).明治5年に施かれた学制が定着したのは明治24年頃であって,教育事業がみるべき効果を現わしてきたとはいえ,学校衛生についての施策はほとんど行われなかった.わずかに欧米諸国の学校衛生に関する調査などが紹介されていたが,わが国独自の学校衛生の確立については未だ程遠い状況であった.その頃から学校衛生に携わってきて,わが国の学校衛生制度の基礎を築いたのは三島通良である.

海外事情

ニューヘブン市(米国コネチカット州)におけるYoung Mothers Program 15年間の軌跡

著者: 林謙治

ページ範囲:P.193 - P.198

 すでに20年以上も前から米国では10代妊娠が大きな社会問題となっており,何らかの対策が模索されてきた.対策の行き方に2通り考えられた.まず若年妊娠自体をなくそうとする第一次予防,次にすでに妊娠中あるいは出産後の母子に向けた救済プログラムとしての第二次対策である.第一次予防は本来の意味でより重要なはずだが,学校関係者・両親の性に対する考え方の違いをはじめ社会のさまざまな因子と複雑に絡みあうので,コンセンサスを得た性教育を発足させることができないでいる.救済としてのプログラムは1975年時点で全米約350を数え,その後さらに普及している.一次予防の基本理念ができあがらないまゝ二次策を発足させることの是非は長い間議論されてきた.
 米国では10代妊娠の約半数が出産にいたっており,わが国にくらべ問題は一層深刻である.社会は是非の論なく対応を迫られてきたといえよう.医師が病人を目の前にした時,予防論を説くより治療に専念せざるを得ないと同様な立場である.

調査報告

北九州市における肝硬変死亡の疫学的考察

著者: 園田真人 ,   長岡利方 ,   諸富昌輝 ,   甲斐敏弘 ,   松浦公一 ,   原口直 ,   岩隈喜代子

ページ範囲:P.199 - P.204

 わが国の主要死亡の推移をみると1),第二次大戦以前は結核,肺炎および気管枝炎,胃腸炎,脳血管疾患,老衰の順位であるが,昭和26年は脳血管疾患,全結核,肺炎および気管枝炎,悪性新生物の順位を示し,昭和53年は脳血管疾患,悪性新生物,心疾患,肺炎および気管支炎と変化している.
 45〜64歳の年齢層の死因別順位は2),昭和37年では脳血管疾患,悪性新生物,心疾患,結核の順位であるが,昭和54年では悪性新生物,脳血管疾患,心疾患,肝硬変という順位であり,肝硬変の増加が注目される.

資料

本邦で初めての集団発生をみた偽結核菌(yersinia pseudotuberculosis)感染症

著者: 大森文太郎 ,   高木寛治 ,   石田立夫 ,   井上正直 ,   中島洋 ,   伊達寛子 ,   小橋千鶴子

ページ範囲:P.205 - P.212

 偽結核菌感染症の散発例については多数の報告があるが1,2,3,4,5,6),集団発生報告は少ない7).今回本邦で初めての集団発生を経験したので,その全容について述べる.
 昭和56年2月,岡山県倉敷市児島の南西部に位置し,小企業の点在と競艇場が学区内に存在するが大部分は静かな住宅地にあるA小学校(在籍児童数883名,23学級)で188名の偽結核菌感染症患者の集団発生をみた.

日本列島

東海北陸胃集検の会—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.150 - P.150

 第11回東海北陸胃集検の会が56年11月20日津市において催された.7県の胃集検に従事する者が一堂に会し,研究討論する場として毎年1回催されており,今回は三重県の関係者多数をはじめ約100名ほどの会であった.
 本会が丁度10年を経過したことから,「胃集検10年間をかえりみて」をテーマとし,各県からの演者9名によるシンポジウムが行われた.今回の大会長である田口光雄三重大学教授のユニークな挨拶にあるように,シンポジウム(「進歩」「自由」「夢」)を,進歩を目指し,自由に語り合い,未来への夢へとつながるものとして,各演者の発表内容も実のあるものであった.例年のことではあるが,大会長や大会事務局の努力により,本会開催を一つの節として各県のデータが集録され,抄録集に東海北陸7県の集検数,精検数,発見胃がん数等が一覧表に示されたことは,関係者の参考に資する点大きいものと思われる.

接骨院の現状をめぐる問題—宮城

著者: 土屋真

ページ範囲:P.192 - P.192

 最近の衛生行政は壁にぶつかり,現状との板挾みになることが多い.医業類似行為である「柔道整復師等に関する法律」に基づく「接骨院」もその1つであり,全国的な問題であろう.過日も管内の接骨院を視察指導しながら考えさせられたので,現状を紹介し問題を提起したい.今では保険も適用され,生活水準も向上し大きな施設を持つ施術所が増加した.整形外科医の看板より「ほねつぎ」の方が住民には分り易いし医師への不満もあるのかもしれない.

沖繩県公衆衛生大会開かる—沖縄

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.204 - P.204

 「地域保健活動を強化し,80年代の健康づくりを推進しよう」をシンボルテーマに,第13回沖縄県公衆衛生大会——保健所創立30周年記念大会——が昭和56年12月4日那覇市で,約350人の関係者が参加して開かれた.
 大会は前日の公衆衛生学会に引き続いて開かれたが,沖縄県では毎年盛大に開催され,地域の公衆衛生の向上に大きく寄与している.特に今年は沖縄県において戦後の昭和26年に初めて保健所が創設されてから30年目にあたると同時に,昭和47年5月に沖縄が日本復帰し,10カ年計画で策定された「沖縄振興開発計画」の最終年にもなっている.

救急医療情報システムと救急医療—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.212 - P.212

 昭和52年来重点事業として進められた救急医療施策は全国的に着実に進められており,岐阜県においても諸種施策が進められている.
 救急医療のシステムは本来は救急患者の診療システムであるはずであるが,夜間無医都市とか医療砂漠といわれてもいたように,一般医療機関の通常診療時間外の患者対応が大きな意味をもっている.したがって,施策の上では,一次医療体制としては,休日や夜間の専用診断所,または休日や夜間の在宅当番医による制度が計画実施されており,二次体制としては,一次医療機関で対応困難な入院を必要とするような重症患者について病院群輪番制や,岐阜県ではベッド確保策も採られている.時間外の一次医療体制の整備のさい,担当医師側の強い要望はバックアップ体制であり,重症患者の収容先の確保が切実なものとなっている.同様に二次医療機関にとっても対応困難な重症者の受け入れ機関(救命救急センターなど)の要望が強い.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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