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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生46巻4号

1982年04月発行

雑誌目次

特集 中高年の健康づくり

中高年の健康とは—高齢化社会を迎えて

著者: 山口正義

ページ範囲:P.220 - P.223

■高齢化社会の到来
 欧米諸国に比べて比較的高齢人口の少なかった我が国の人口構成が,近年急速に高齢化が進み,全人口に占めるいわゆる高齢人口の比率が急激に増加の傾向を辿っている.
 これはいうまでもなく戦後における医学の進歩,急性及び慢性伝染病対策を中心とする公衆衛生施策の推進,経済の発展に伴う国民生活水準の向上に因るものであって,誠に喜ぶべき現象ではあるが,同時にそれが定年制や各種年金制度,或いは老人保健や老人福祉など,数多くの社会経済問題を惹き起こしていることは否定出来ない.

体力づくりの現実的諸問題

著者: 黒田善雄

ページ範囲:P.224 - P.232

 「中高年の健康づくり」という中での"体力づくりに関する諸問題"というのが与えられたテーマである.
 健康づくりの中での"体力づくり"とした編者の意図は,十分には理解しかねるが,あえて健康づくりのための身体運動という意に了解させて頂き話をすすめたい.

欧米諸国における中高年の健康づくりの動向

著者: 池田勝

ページ範囲:P.233 - P.239

 ここ数年来,"トリム運動"あるいは"みんなのスポーツ""フィットネス運動"といったヨーロッパや北米諸国で展開されている国民健康づくり運動を視察する機会を多くもっているが,各国共,高齢化社会を迎え,さらにまた,国民医療費の高騰という大きな社会問題に対処するために,官民一体となって健康づくり運動に積極的かつ真剣に取り組んでいることが強くうかがえる.
 その背景として,機械化,自動化など生活環境,生活様式の変化による健康・体力水準の低下,それに伴う心疾患,糖尿病,腰痛などのいわゆる文明病の急激な増加に対処するためには,食生活の改善や運動の実施,禁煙など健康に対する国民の自覚を促し,健康習慣やライフスタイルに変化を求めるしかないという切実な願いが感じとれるのである.

地域における健康づくり—とくに中高年を中心として

著者: 安西定

ページ範囲:P.240 - P.246

 昭和39年に開催された東京オリンピックの成績が期待されたほどの成果があがらず,その原因はわが国民の体力,健康水準が諸外国に比べて劣っているためであるとの認識から,その年の12月に,「国民の健康・体力増強対策について」の閣議決定がなされた.この政府の方針に沿って健康の増進,体力の増強についての国民の自覚を高め,その積極的な実践を図るための行政的施策が推進されることになった.また,その頃,一方では時代の進展とともに,平均寿命の延長と中高年齢老の増加を主体とした人口構造の変化,高血圧,脳卒中,心臓病,がん等の成人病の増加,糖尿病,痛風に代表される代謝性疾患の増大,はたまた,高度経済成長の落とし子ともいえる公害問題,運動不足やオーバーカロリー等による肥満の増加等の問題が次々と惹起されてきた.このため従来の公衆衛生施策ではとても対応しきれない新しい情勢を迎え,国民健康と疾病との取り組みにおいて新たな施策が強く要請されるに至った.また,このような新しい国民健康をめぐる諸事情から国民一般に未だかつてなかったほどに,国民の健康に対する関心が大きく増大し,健康で長生きの願望,健康被害の恐怖(成人病,食品公害,環境汚染など)等国民ニーズの大きな変化が表面化したことは見逃してはならない重要なことである.

職場における健康づくり

著者: 高田勗

ページ範囲:P.247 - P.253

■労働力人口の高齢化と健康管理
 わが国における労働力人口高齢化のスピードは,国際比率からみると,欧米諸国に比べて3〜4倍の早さで進んでいる.
 労働力人口の中に占める55歳以上の割合は,1980年の16%から1990年は20%,2000年には23%と急増し,21世紀の初めには,日本の労働力のうち4分の1近くが55歳以上になることが予測されている.図1にみられるとおり北欧のピークは19%,北米は17%で近年は下降傾向が認められていることから,国際比率の上からも日本の高齢化がいかに激しいものかが理解される.

心理・精神面の健康づくり

著者: 安井義之

ページ範囲:P.254 - P.262

■高齢化社会のなかの中高年齢者——問題の所在
 21世紀を迎えるにあたって,わが国はエネルギー資源をはじめ幾つかの重大な問題に直面している.その中で確実に遭遇し,どうしても乗りこえねばならない問題は高齢化社会にどう対処するかである.
 世界に類をみない高速度で,一躍トップクラスの長寿国になったことは,本特集諸先生方の論文にみられる通りである.およそ20年後の2000年頃には,65歳以上の人が,日本の全人口の14%から15%を占めるという推定もある.これは生産年齢人口5人について,65歳以上の人が1人という計算になる.長寿国化の原因の1つにわが国医療の,特に公衆衛生面での長足の進歩が挙げられる.この点についてはまことに同慶に耐えないところであるが,その反面多くの社会・生物学的困難に当面することになった.昭和30年来,日本医師会長をはじめ多くの識者はこの点についての警告をし続けていたが,その対策は必ずしも思うように進展することなく今日の状態をみるに至ったのである.

講座 公衆衛生学の最近の進歩・16

産業保健

著者: 原一郎

ページ範囲:P.264 - P.272

 「公衆衛生学の最近の進歩」のうち,産業保健については,昨年の本誌(45巻4号)に野村茂教授が,主として戦後より近年にいたるまでを概説しておられる1).そこで本稿においては,これらの問題のうち,特にこの1年間に大きな変化のあったことと,私自身が関係することのあった問題について記すことにした.

発言あり

add life to years—いきいき長生き

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.217 - P.219

それは生涯の総仕上げ
 諸方で行われる老人生活の意識調査によると,「生きがい」は "仕事" という答えが最多であるときく.この仕事とは勤労と同意味のものもあるが,反面では主体的に生きるという意味で答えている人もいる.どっちにしても,この回答は健全で結構である.しかし,だとすると体力が弱って勤労が不可能になったときにはどうしたらいいのだろう.
 一般的にいって,目下のところ,健康というのはもっぱら肉体の健康のことをいっている.だが身体ばかり丈夫でも脳が機能しなかったら人間としての意味がないではないか.特に神様が人間だけに与え給うたという前頭葉を鍛えねばならない.なれども,当今はマラソンの薦めのみがさかんで脳みその方のことはうとんぜられている.

人と業績・22

後藤新平—1857-1929年

著者: 小野寺伸夫

ページ範囲:P.284 - P.286

 私の机の上にある後藤新平研究カードは岩手県に勤務していたときに,いまある何型というものではなく近所の文房具屋さんに裁断させて作ったものである.表紙に引き続き1857年安政4年0歳に始まり,1929年昭和4年72歳まで年1枚ごとにできている.その後は約10枚ほど参考事項を書き込んでいる.この研究カードを基本に後藤新平の人と業績を考えることは本当に興味深いものがある.
 後藤新平の人間像について大まかな類型であるが次のような特色が考えられる.

研究

保健学教育の改善方策に関する研究

著者: 赤松隆 ,   崎原盛造 ,   宮城研 ,   伊藤悦男 ,   辰沼利彦 ,   米沢照夫 ,   外間政哲 ,   外間邦江

ページ範囲:P.273 - P.278

 本学部の第1期生(昭和48年卒)から第4期生(昭和51年卒)までの卒業生176名を対象に,今後の保健学教育のあり方を検討することを目的として,郵送法で現在の職種,所属機関,勤務地,取得した免許,資格,職業の適性,卒後教育等について調査した結果,次のような知見が得られた.
 1)職種で最も多いのは看護関係職,ついで臨床検査技師,衛生行政職,教育研究職等であり,所属機関は地方自治体が最も多く,国家機関,民間企業と続いている.
 2)勤務施設の種類は病院・診療所が最も多く,教育機関,保健所,行政機関,研究検査機関と続き,勤務地は沖縄県内が65.2%で最も多く,本土では東京,神奈川を中心とした関東地域に多い.しかし,本土就職老も沖縄県へ戻りたいという意志を表明した者が多く,県内就職志向が強い.
 3)現在従事している職業の適性については65.5%が適していると判断しているが,不適あるいはどちらとも判断しかねている者も比較的多く,現在の職業に対して少なからぬ不満を持っていることが示唆される.
 4)現在よりもっと教育内容の充実を希望している領域は医療ソーシャルワーク(MSW,PSW)とリハピリテーション(OT,PT,ST)である.
 5)卒後教育としては大学院教育(修士および博士課程)を最も強く要望しているが,研修,講習会のような実践的教育訓練に対する要望も強い.

調査報告

市町村における早期発見対策の実施状況

著者: 後藤敦 ,   橋本勉 ,   横山英明 ,   柳川洋 ,   菊地浩

ページ範囲:P.279 - P.283

 結核,急性伝染病など感染性疾患の後退に伴って,脳卒中,がん,心臓病などいわゆる成人病が国民健康上,特に重視すべき問題となり,それに対する保健予防活動も複雑になってきた.
 成人病はいずれも長期にわたる慢性疾患で,有効な予防活動を行うには関係諸機関の横の連絡が必要であり,医療関係各職種のチームアプローチ,さらに保健,医療と社会福祉諸施策との密接な連携が,不可欠の条件である.

日本列島

伝統的食生活を残そうと郷土食集刊行(1)—岡山/伝統的食生活を残そうと郷土食集刊行(2)—岡山

著者: 堤隆信

ページ範囲:P.223 - P.223

 岡山県では,昭和65年を目標とした新総合福祉計画を昨年策定したが,その基本的柱の1つに省エネルギー社会の構築を提言している.
 これを受けて,同年8月「省エネルギーアセスメント」をまとめたが,その中に,今後県民生活は,省エネルギー定住圏—自然と人間とモノとが新たな対応関係で結ばれた地域社会の形成—を理念とした県政を推進することを記述している.たとえば,自然を生かした食事,旬の物の尊重,郷土でつちかわれた食べ物を食べて,健康的なくらしを送ろうと述べている.近年の食生活がインスタント化やレトルト食品の隆盛にみられるように多様化の傾向にあるし,金を出せば欲しいものが欲しいだけ手に入る現況を考え,この辺りで私共のくらしの本質を見直す時に直面している時期でもあろう.

岐阜県の老人保健活動—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.232 - P.232

 岐阜県では老人保健法の制定の動きに並行し,今後の老人保健対策の上での保健婦活動の展開の手がかりとするため,昭和56年8月県内100ヵ市町村全体を対象に老人に関する保健活動の実態調査を行った.調査内容は老人健康診査の状況,健康相談や家庭訪問の実施状況,独居老人や40歳以上のねたきり者に関する調査などで,保健所と市町村の協力を得て行われた.
 100ヵ市町村全てから調査票が回収されたが,主要な結果は次のようである.

特別養護老人ホームと医療—宮城

著者: 土屋真

ページ範囲:P.239 - P.239

 高齢化社会における老人保健・福祉に対し,住民や行政の関心が高まっている昨今である.しかし厚い壁の中に一歩足を踏み入れると,法律的問題のみならず人道的立場からも見ぬふりの出来ない現実が横たわっているのに驚かされる.全国的問題であろう.

周産期の保健医療—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.283 - P.283

 地域の健康水準の評価に乳児死亡率が大きな意義を持つものと指摘されているが,この乳児死亡の主要なものは新生児死亡であり,その意味で周産期の保健医療体制は重視すべきであることは論をまたない.さらに,周産期対策は死亡のみならず,放置すれば難治となり易い各種疾患を早期に発見対処する上でも重要である.すでに全国各県の乳児死亡率等にも明らかとなっているように,岡山県の高水準をはじめ,大きなバラツキがみられる.岐阜県においても,乳児死亡率や周産期死亡率の低減化をはかるべく,周産期の保健医療体制の整備について検討をすすめている.県内にはNICU(新生児集中治療設備)を備えた新生児センターは数施設しかなく,NICUも数的にも地域的にも十分なものでなく,また搬送体制も十分ではない.
 周産期の対策は産科分野と小児科分野が一体となってなされるべきものであるが,現状ではチームワークの面においても一体となった活動はあまりみられないようである.56年10月オープンした大阪府立母子保健総合医療センターは理想的な形態と思われる.まだ開院間もないため,諸スタッフの不足から,一部の稼動ではあるが,産科医と小児科医の一体となったチームワークは他の周産期医療施設の模範となるものである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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