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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生46巻6号

1982年06月発行

雑誌目次

特集 人口問題

保健医療需要と人口

著者: 小泉明

ページ範囲:P.364 - P.369

■出生と死亡の推移
 人類史の上で,今世紀ほど人口動態の激動が経験されたことは,かつてなかったと思われる.日本の人口動態についても,とくに第2次大戦後の30年余という短い期間に,空前絶後といってもよいほどの激しい変動がみられた.すなわち,1947(昭和22)年に人口1,000対34.3であった出生率は1980(昭和55)年には13.6に下り,1947年に人口1,000対14.6であった死亡率は1980年には6.2を示すに至った.
 死亡率の動向を反映する平均余命,とくに出生時(零歳)平均余命である平均寿命についてその推移をみれば,1947(昭和22)年に男50.06年,女53.96年であった日本人の平均寿命は1980(昭和55)年には男73.32年,女78.83年を示している.さらにさかのぼって1921〜25(大正10〜14)年には男42.06年,女43.20年であったことを考慮すれば,半世紀余の期間にいちじるしい改善のあとがみられたといえよう.

最近の人口理論—出生力の経済学を中心に

著者: 大淵寛

ページ範囲:P.370 - P.374

 わが国の出生率は,1950年代後半から一貫して低い水準を持続してきたが,第1次石油危機(1973年秋)と軌を一にして一段と低落し,1981年にはついに13.0%という統計史上最低の率を記録した.この低下が一時的なもので,近々回復に向かうのか,それともより低水準で安定してしまうのか,日本人口の将来にかかわる重大事だけに,各方面から多くの関心を集めている.また,西ヨーロッパでも現在同じ問題が起こっており,きわめて深刻に受けとめられている.
 今日,先進諸国の死亡力はほぼ下限に近づいており,戦争のような異常事が発生しないかぎり,今後も低い安定した水準で推移すると予想される.国際人口移動もそれほど大きくはないので,将来の人口動向はもっぱら出生力の水準変化にかかっている.低開発国でも,死亡力の低下はまだある程度見込めるものの,より重要な要因はやはり出生力である.

人口・経済・福祉のモデル分析—人的資源の視点より

著者: 小川直宏

ページ範囲:P.375 - P.382

 戦後の急激な出生力の低下と着実な死亡率の改善の結果,近年,日本の人口が急激に高齢化しつつあることは周知の通りである.現在あるいくつかの人口推計によると,21世紀の初頭に,わが国はいずれの西欧諸国も経験したことのない超高齢国になることが予想されている.またこの人口高齢化と共に,日本人口の高学歴化現象が出現することが確実視されている.このような高学歴化社会の出現の根底となっているのは,戦後の高等教育における進学率の急速な上昇であることはいうまでもない.さらにこれらの2つの重大な人口・社会的現象に加えて,1970年代に入り,高度成長経済から安定成長型の経済政策に重点が置かれ,その結果,公的年金・医療保険制度の度重なる改善が行われ,わが国の社会福祉レベルが大幅に上昇し,しかもこの傾向が依然現在も続いているのである.このような3つの変化が,今後の日本経済の動向に大きく影響を与えることは容易に予想されるところである.
 本稿ではこれらの人口変動及び社会的変化が,ⅰ)どのようなメカニズムにより,ⅱ)どの程度のインパクトを将来の日本経済に与えるかを,1980-2025年の期間について計量的に検討してみることにする.次節では将来人口変動を検討し,第Ⅱ節では計量モデルを簡単に解説することにし,第Ⅲ節では,シミュレーション分析の結果を,第Ⅳ節では政策的な課題を検討することにする.

疾病構造の変化と零歳平均余命

著者: 正木基文

ページ範囲:P.383 - P.388

■零歳平均余命とその延長
 ある集団について,出生時にあと何年生きることが可能であるかという平均生存年数は零歳平均余命とよばれ,これは一般に平均寿命として知られている.この零歳平均余命は,年齢階級別死亡率から導かれる年齢階級別死亡確率をもとに作成される生命表より一義的に定まる.一般に,ある年齢χ歳に達したものがこれから期待できる生存年数をχ歳の平均余命とよび,これはχ歳以降の死亡確率によってのみ決まる.したがって零歳平均余命は,全年齢階級における死亡確率を平均化したものとして得られる.
 図1は,1920年代前半から1980年までの零歳平均余命と訂正死亡率の推移を示したものである.1921-25年において,日本の零歳平均余命は男子42.06歳女子43.20歳であった.その後死亡率の低下とともに零歳平均余命もしだいに延長し,1950年には男子59.57歳,女子62.97歳に,1980年には男子72.32歳,女子78.83歳に達した.現在日本はアイスランド,スウェーデン,ノルウェーなどとともに世界でも指折りの長寿国である.日本の零歳平均余命については,世界のトップクラスにあることと同時に,その延長がきわめて短期間のうちになされたことに注目すべきである.

人口問題と食料の安全保障

著者: 斉藤得七

ページ範囲:P.389 - P.394

 昭和50年5月,食料の安定供給の方途を討議するため,三木首相の諮問機関「国民食料会議」が設けられたが,筆者は,食料の「安全保障」は軍事的安全保障と同様,または,それ以上に重要である.食料安保のためには自給率引き上げが必要で,そのためには,わが国人口の減少が必要であると説き,これを文書にもして提出した.
 近年,「食料安保」が一般にいわれるようになったが,本論においても,食料の安全保障の立場から,わが国の人口問題を政策的に考えて見たいと思う.

人口高齢化と住宅問題

著者: 三宅醇

ページ範囲:P.395 - P.401

■急増する高齢人口(表1)
 高齢人口は一般に65歳以上とされるが,この層は1920年の国勢調査では294万人(5.26%)の存在であった.その後の40年間はほぼ同率のまま推移し人数を増加させ,1960年には2倍増の540万人となった.次の20年間で倍増し,1980年には1,057万人(9.04%)に上昇した.今後の20年間で937万人の増(現在の2倍)が見込まれ,次の20年間でも801万人の増が見込まれる.21世紀は高齢層3,000万人(現在の3倍)で推移すると予測される.約1世紀の間に10倍増であり,当面も過去60年間の増分以上を次の20年で受けとめ,さらにその次の20年へも継続するのであって,これらの受け皿としての住宅問題は,極めて大きな社会的課題と思われる.
 しかも1920年から1960年までの40年間の高齢層の増加は農村の「家族制度」が受けとめ,問題を顕在化させなかったが,1960年以降の変化は脱農業社会・都市化・核家族化などの社会構造の大変革を伴いつつ生じてきており,従来の未経験の事態に対する解決を迫られているということであり,量の巨大さは,極めて深刻な課題として受けとめる必要がある.

人口再生産の生理学

著者: 我妻堯

ページ範囲:P.402 - P.410

 ヒトの生殖生理学(産婦人科学)の立場から人口問題を論ずるとすれば,人口増加の原因は,出生率が死亡率に比して著しく増大したためであり,それに対する人口抑制策の手段としての出生抑制法(Fertility Regulation)即ち,避妊,不妊手術,人工妊娠中絶が問題となる.
 そのほかに,人口の質の問題,遺伝,陶汰,羊水分析による先天異常の診断,治療なども,人口問題にはいるがここでは省略する.

講座 公衆衛生学の最近の進歩・18

国民栄養

著者: 豊川裕之

ページ範囲:P.412 - P.419

 本講座(7):45巻7号において食品衛生・国民栄養に関するレビュウが藤原喜久夫教授により,食品衛生を中心にまとめられているので,本号では国民栄養を中心に纒めることにする.

発言あり

(自由課題)

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.361 - P.363

尻切れトンボ・尻上り
 テレビで古い雄弁家の録音を聴いた.永井柳太郎・中野正剛両氏の演説である.解説によると当時の聴衆は熱狂的な拍手をおくったという.
 聴いて,僕はあまり感心しなかった.明治大正時代の演説は七五調の美文と朗読調でやったようだ.聴衆は演説の内容にも共鳴したろうけれど,その朗々たる語りの調子に酔ったのだと,僕は憶測するのである.いってみれば浪曲をきくときと似たような陶酔感だったのではないか.

資料

フィンランドのプライマリー・ヘルス・ケア(上)—フィンランド社会保健省国家保健委員会

著者: 山根洋右 ,   吉田暢夫 ,   中川昭生 ,   牧野由美子

ページ範囲:P.420 - P.426

翻訳にあたって
 フィンランドは,スウェーデンとならんで社会福祉国として先進的とり組みを展開しており,社会保障・社会福祉はもちろん,医療・保健活動にも多くの示唆をうることができる.
 フィンランドの社会福祉は,すべての国民に適度の生活水準,社会保障,充足感を与え,生活水準の引きあげと均等化,さまざまな危険が惹き起こす不安から人々を守ることに力がそそがれている.このような真に国民の要求に応じた手厚い社会福祉を土台としたフィンランドの保健医療は,着実に社会的進歩に貢献している.他方,日本では,「福祉みなおし」「日本型福祉」など社会福祉の後退,形骸化がおしすすめられ,深刻な医療荒廃の現状が露呈し社会的問題とさえなっている.このような現状を放置したまま,最近とくにプライマリー・ヘルス・ケアがいろいろ論議されている.憲法に定められた国家の国民に対する「基本的人権としての健康」を守り増進する責務がないがしろにされている現在,世界一流の社会福祉国家におけるプライマリー・ヘルス・ケアを検討し,多くの問題をかかえつつも,総合保健活動の理念を追求している国々の努力を知ることは,日本の公衆衛生における混迷の根本的原因の所在を明らかにするうえでも意味あることと思われる.

研究

東北住民の循環器検診後の管理成績における統計学的研究—(第2報)血圧・眼底直像鏡所見・右脚ブロック・尿糖成績の分析

著者: 土屋真

ページ範囲:P.427 - P.431

 地域における循環器検診は量質ともに充実してきたが,管理面ではいまだ不十分な市町村が多い.筆者は長年従事した農漁村住民の検診成績から,経年的変化を把握し,地域差と脳卒中・高血圧・心電図・他との関係を追求してきた.とくに宮城県北の3モデル町では,40歳以上対象者の管理カードに記載された毎年の成績から,標本の情報誤差を小さく出来たと考えている.
 かつて散瞳剤を点眼し直像鏡で両眼底をみた所見も,「無散瞳カメラ使用の一眼底時代」になってみると得難いものになった.このように両眼底直像鏡法を行っていること,全住民の検診成績のカード管理を行っていること,対象数が多いこと,などから比較的良い成績を得られたと思う.前回すでに報告1)したように,Hamiltonらの性年齢補正scoreからみても,脳死の低い漁村の血圧水準が農村より低くないことを確かめえた.今回はさらに原点に返って検討し循環器成績の分析を行いたい.

日本列島

県立精神病院の改築落成—宮城

著者: 土屋真

ページ範囲:P.410 - P.410

 名取市の郊外に,昭和32年4月に設置された「宮城県立名取病院」が,このたび全面改築され落成式をむかえた.一見,病院らしからぬモダンな作りで,各建て物の白壁に同色のグリーンの屋根が見事であり,かつての老朽化した病棟をしのぶよすがもない.約30億円をかけたと聞くこの建て物は,2階建て3棟の病棟と,地下1階地上3階の本館,体育館,附属准看学校関係の施設を結ぶように,病院の中央に新設されたソーシャルセンターがある.
 このセンターの1階は作業室,陶芸室,レクリエーション室,料理実習室,売店,喫茶店,理髪室,大浴場などである.またこのソーシャルセンターの2階部分にはデイケアセンターがあって,入院治療は必要ないがリハビリテーション活動の必要な通院患者のために,診察室,スタッフ室,ミーティング室,種々の作業室,休養室などがおかれた.

健康に関する県政世論調査結果について—岡山

著者: 堤隆信

ページ範囲:P.411 - P.411

 近年,健康に対する人々の関心が高まっているが,その関心,意向を今後県政に反映させるため,岡山県では56年8月,県内在住の20歳以上の男993人,女1,007人を対象として「健康と献血に関する世論調査」を行った.このうち,健康についての概要を報告する.
 標本抽出方法は,層化(地方ブロック・年齢・性)単純無作為抽出法で行われ,結果は,地方ブロック,年齢,性等により分析されている.

人工増雨(?)作戦終わる—沖縄

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.426 - P.426

 沖縄地方は歴史上最長とならんばかりの長期渇水が続き,既に制限給水が300日近くに及んでいる.水道普及率は97パーセントをこえているものの,現在は48時間のうち20時間しか給水されておらず,新聞では毎日,重要な水道水源であるダムの貯水率が報道されている状況である.このような状況を打開するため,県では副知事を本部長とする沖縄県人工降雨実施本部を設置し,気象台,航空及び大学など関係機関から専門家の参加協力を得て人工降雨を計画し,内外の文献を集め,56年10月から57年3月までに11回の人工降雨を試みたが,このほどその結果をまとめて発表した.
 人工降雨は航空機により行われ,雲の状況,気温,風向,湿度など気象条件が降雨に有利な日と時刻を見はからい,雲に対し水を撒く方式10回,ドライアイスをまく方式1回を実施した.その結果,はっきり降雨あるいは増雨効果があったのはドライアイス方式1回と撒水方式1回の合計2回であったとしている.これは,降雨に適する気象条件の把握方法が充分確立されていないため実施時間のタイミングがうまく行かなかったことや,過去の人工降雨の行われた世界及び国内の各地方と沖縄地方とのミクロクライメート条件の相異などがあるため,実施例のデータがあまり参考にならなかったためである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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