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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生46巻7号

1982年07月発行

雑誌目次

特集 騒音

騒音の生体に与える影響

著者: 吉田敬一

ページ範囲:P.436 - P.441

 騒音の生体に与える影響については多くの研究が発表されており,その主なものは要約されて文献抄録集1)として出版され,また学会誌や関連専門雑誌に総説2)として発表されている.
 これら数多くの発表は研究として秀れたものであり,貴重なものであるが,公衆衛生の現場で騒音問題に直面したとき,その問題の生理学的な理論づけや解決には直接に役立つものが極めて少ないのに気付くのである.これが騒音の生体に与える影響の研究の難しさを示す点であり,騒音問題がなかなか解決しない理由でもある.

労働環境における騒音と健康影響

著者: 坂本弘

ページ範囲:P.442 - P.445

 往時の産業現場では製缶などでの金属打撃くらいが騒音源であった.その後,生産や輸送の手段に動力が用いられるようになり,音源が多様化した.そのため,暴露レベルの上昇,定常的暴露,暴露時間の延長などをきたした.
 労働衛生の第一義的目標を職業病の防圧におくとすれば,職場騒音による健康障害としては第1に職業性難聴であり,第2に作用態様にもとづく職業病発症に対する騒音影響であり,第3に産業疲労との関連である.それらについて以下概説する.

低周波騒音の現状と健康被害

著者: 武田真太郎

ページ範囲:P.446 - P.451

■低周波騒音について
 一般に,ヒトが音として感じる空気分子の疎密状態(圧力変動)の周波数はおよそ20Hzから20kHzの範囲で,この可聴音audiosoundより高い周波数の圧力変動を超音波ultrasonicsと呼び,20Hz以下の周波数の場合を超低周波音infrasonicsと呼んでいる.なお,超低周波音の同義語として低周波空気振動1,2)が環境庁などで用いられているが,物理的には可聴音と同じ現象であるから空気振動というのは適切でない.
 1973年にパリで開かれたColloque International sur les Infra-Sons3)での概念規定では,超低周波音の周波数範囲を0.1〜20Hzとすることで合意に達していたが,1980年アールボルグで開かれたConference on Low Frequency Noise and Hearing4)では,主勢力が超低周波音域にある騒音の比較的小さい音圧レベルでも,わが国をはじめイギリス,デンマークなどで苦情が出ており,そのスペクトルからみて,取り扱う周波数の上限を100Hz程度まで広げる方が,現実問題に対処するのに適するという意見が強く出されている.そこで,ここでは,周波数を20Hz以下に限定した場合には超低周波音と呼ぶが,50〜100Hzの音まで含めて検討しようとする場合には低周波騒音と呼ぶことにする.

騒音問題の現状と対策

著者: 土屋昇

ページ範囲:P.452 - P.456

 12年ほど前公害問題が爆発的に大きく取り上げられ,公害対策本部の設置,公害臨時国会における関係諸法令の制定,環境庁の発足等を経て,諸般の公害対策が飛躍的に進展し,騒音対策も着実な進展をみせてきた.ただ騒音問題は,直接有害物質に係わるものでないこともあって,大気汚染や水質汚濁問題と比べると,若干地味というか,それらの陰に隠れてきた感がなくもない.しかし,大気汚染や水質汚濁が一応安定的状況(異論があるかもしれないが)にある現在,今後の公害対策の中における騒音対策の比重は大いに重くなったといえる.1980年代における公害対策の最大の課題は,国民大多数に深刻な影響を与えている騒音問題にあるといっても過言でないであろう.騒音公害を感覚公害と称して,大気汚染や水質汚濁より軽くみる時代は終わった.ある程度以上の騒音に長期間さらされることは,心理的にも生理的にも重大な影響を及ぼすという意識が必要である.以下,苦情の状況等を基礎に,騒音問題の現状と今後の対策のいくつかについて述べてみる.
 なお,解説ないし意見にわたるところは,筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく.

道路騒音の現状と対策の1事例

著者: 坪田賢治

ページ範囲:P.457 - P.461

■川崎市の概要
 川崎市は,神奈川県の東北端に位置しており,市の北側は多摩川を境にして東京都と横浜市に隣接している.また,南側は川崎港を擁して東京湾に臨み,市域の形状は,ほぼ東南から西北に帯状に伸びている.
 市の地形は,全般的にほぼ平坦だが,西南部の一部は起状に富む丘陵地と盆地とで構成されている.

近隣騒音の現状と対策

著者: 荒木豊夫

ページ範囲:P.462 - P.466

 最近の社会経済情勢や住民の生活様式の変化などに伴い,本県においても近年,航空機による商業宣伝放送に係わる拡声機騒音,飲食店営業等に係わる深夜営業騒音や家庭用ボイラー等の生活騒音などの近隣騒音が問題となってくるようになった.
 県内の市町村や県の公害担当部局に寄せられた騒音苦情件数は表のとおりで,昭和52年度には170件あったものが,年々減少し,昭和55年度は126件で,この内訳を昭和52年度と比較すると,工業・事業場騒音は半減しているのに対し,深夜営業騒音は逆に約3倍に増加している.

いわゆるカラオケ騒音防止へ向けて—石川県公害防止条例の改正

著者: 隅谷護

ページ範囲:P.467 - P.469

■条例改正の背景
 近隣騒音問題の根源は,都市部への人口集中と,土地利用計画の未成熟,住宅構造の脆弱,物的な利便性のあくなき追求,音による情報や趣味の増大など,社会的あるいは社会経済的情勢の大きな変化であり,また古くから受け継がれたコミュニティの連帯感や共同体意識の崩壊あるいは稀薄化も,これに拍車をかけるものであろう.
 これら近隣騒音の解決は,当事者間の良識にまつものであり,法や条例による介入はかえって隣人の相互信頼を損なう危険性もある.したがって,法や条例による規制は最小限にとどめるようにすべきであろう.

近隣騒音の心理社会的構造

著者: 山本和郎

ページ範囲:P.470 - P.474

■近隣騒音の特徴
 まずここで考える近隣騒音は,市民として地域生活をしている中で,生活音として発している音が,それを聞く人にとって騒音となる場合である.それ故,道路,鉄道,航空機,工場等の発生する無機的な巨大音はこの中に入れていない.
 生活音は上記の巨大音にくらべ,音の大きさは小さく,物理量で測定される騒音規準以下の音である.したがって騒音計をもとに騒音かどうかを論じようとする研究者にとっては対象外の音になってしまう.

騒音訴訟の問題点と環境権

著者: 牛山積

ページ範囲:P.475 - P.478

■騒音問題と法律
 騒音問題に対する法律的対応を,対応の視点と技術を考慮して区分すると次のとおりである.第1は,騒音に起因する被害の救済制度である.この中には,発生した被害に対する損害賠償請求と将来にわたる騒音発生行為の停止を求める差止請求に関する法制度が含まれる.第2は,騒音発生行為の規制である.騒音規制法,公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律(以下,航空騒音防止法とよぶ)による航行の方法の指定(2条),地方自治体の条例による規制等がこれに当たる.第3は,騒音に起因する障害を防止,軽減するための事業法である.航空騒音防止法による学校等の騒音防止工事の助成(5条),共同利用施設の助成(6条),住宅の騒音防止工事の助成(8条の2),移転補償(9条),緑地帯等の整備(9条の2),その他特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法,防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律による措置がこれに含まれる.
 将来,騒音問題にかかわる訴訟として,行政訴訟が利用される可能性があるが1),現在重要なものは,前記第1で述べた損害賠償請求訴訟と差止請求訴訟である.したがって,本稿では,この2つの種類の訴訟を念頭において考察することにする.

講座 公衆衛生学の最近の進歩・19

母子保健

著者: 平山宗宏

ページ範囲:P.479 - P.484

 母子保健分野での最近の進歩は,乳児死亡率の低下に代表されるようにその実績は多くの場面で著しい.それらのうちから,筆者にとって比較的身近な2,3のテーマをえらんで最近の情勢を述べてみたい.なお学問分野としては当然母子保健学であるが,保健学の常として机上や実験室での学問では意味をなさず,実践を通して意義をもつものであるので,ここでは母子保健として"学"をはずして表現することを御了承いただきたい.また,以下に述べるテーマに偏りがあるとしても,例示であるということでお許しいただく.

発言あり

ロボット"人口"世界一

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.433 - P.435

医師ロボット,看護婦ロボットが,もしできたら
 ロボットは子供から大のおとなまで,多くの人々のロマンをかり立てるものらしい.そのせいか虚構の世界では,昔からスター的存在で,小生も昔日,鉄腕アトムなどに夢中になったものである.フィクション中に登場するロボットは字義通り,姿形はたいてい人間に擬せられ,人間的な心をもち,そのくせ滅法強く,縦横無尽の活躍をする.
 さて現実のロボットは,といえばほんの15年くらい前にやっと実用化されたばかりで,しかもその主流は産業用ロボットである.それは人造人間というには程遠く,せいぜい人間の手足の役割を担っているにすぎない.お世辞にも「ロボット」とは言い難い.それでも最近では知能ロボットと呼ばれる高度の認識・判断能力をもち,形もより人間的なものが登場するようになった.しかし機能性が最重要視され,また感情や自由意志を持たないことから,何か無機的で冷たい感じが依然として残り,親しみが湧きそうにもない.

人と業績・24

石黒忠悳—1845-1941年

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.502 - P.503

 西洋医学のわが国への輸入に当たって,空気・日光・気温・住居など環境衛生の重要性を紹介した辻恕介の長生法や,杉田玄端の健全学6巻などは,有名ではあるが個人衛生に関する書であった.これに対して西欧の公衆衛生学の概念や原理を紹介したのは久我克明の訳書である三兵養生論であった.これには標準体格とか,集団生活に適した宿舎,調理所,便所,浴室などのほか衛生工学関係のことも書かれており,まさに集団を対象とした保健衛生の書物であった.集団を対象とした健康管理や衛生管理は軍隊のそれが最も進歩していたことは明らかである.
 明治4年(1871)に兵部大輔山県狂介(有朋)に出馬を要請された松本良順は,軍医寮の幹部に第一級の洋方医を抜擢しただけで,軍隊医学の運営についての立案実施は石黒忠悳(1845〜1941)が殆んど独力で行ったといわれている1).事実わが国の公衆衛生発展に尽力した逸材の中には,陸軍では森林太郎がおり,海軍では高木兼寛がいることに読者諸賢も気付かれていることであろう.

調査報告

施設職員の風疹予防接種の経験—免疫保有率と予防接種副反応について

著者: 夏目和子 ,   堀月江 ,   岡田喜篤

ページ範囲:P.485 - P.489

 おが国では風疹は従来軽症感染症として扱われてきた.風疹による先天異常児の発生に関しても,昭和40年前半の流行までは日本本土では,このような症例がほとんど見られなかったこともあって,その予防にはまだ積極的ではなかった.一方,世界的には,1960年代アメリカを中心とする風疹大流行により,多数の先天性風疹症候群が発生し,その予防対策が急がれることとなった.
 昭和49年以後,わが国では新たな流行が始まり,その後の流行では,風疹が従来考えられていたより症状の重いものが多いこと,合併症の発生率も高いこと1,2,3,4),先天性風疹症候群も発見されたこと1,4,5),風疹流行が周期型より常在型に変化しつつあること6)などより,わが国でも風疹ワクチンが次々と開発され,昭和52年には風疹が予防接種法に組み入れられ,中学生女子を対象に予防接種が行われることになった.

資料

行政からのプライマリ・ヘルスケアへのアプローチ(2)—松戸市における在宅ケア(老人対策を含む)

著者: 太田重二郎 ,   飯島静枝 ,   石井敏 ,   中山章 ,   伊藤みよ

ページ範囲:P.490 - P.495

 現在の医学が,病院の医学から地域社会の中で生活しながらの治療,看護,リハビリテーションを受けるように変わってきた疾病構造を考えると(昭和20年代における結核や伝染病を主としたものから成人病,老人,精神障害,心身障害児等を主としたものに変わってきた),在宅ケア,訪問看護,リハビリテーション,デイケアを考える必要がある.在宅ケアの体系的計画の樹立とその推進が必要であるが,保健,医療,福祉などのタテ割り行政の中でそれをどのように生かすかが問題である.第2次大戦後世界人口は激増を示し,1960年前半には年増加率2%に達した.このため有限の地球資源における人類生存の危機が予想され,国連を中心として出来るだけ早期に人口増加ゼロ到達を目標に努力し,その成果は予想外に早くあらわれ,1960年以降における出生率低下は加速的傾向を示した.人口増加率の低下はもっぱら出生率の低下によって行われ,死亡率の引き上げによるものではない.
 ここで重要なことは,出生率の低下が人口老年化の基本的要因であるということである.

フィンランドのプライマリー・ヘルス・ケア(下)—フィンランド社会保健省国家保健委員会

著者: 山根洋右 ,   吉田暢夫 ,   中川昭生 ,   牧野由美子

ページ範囲:P.496 - P.501

 フィンランドでは,1970年代に保健政策の大規模な方向転換があり,プライマリー・ケアが優先されるようになった.保健制度のかなめとしての総合的第1次保健という考え方は,いまでは広く受け入れられるようになり,国の計画・出資システムによって,プライマリー・ヘルス・ケアに対してすばやく資金が配分されるようになった.フィンランドのプライマリー・ヘルス・ケアは,住民の代表による行政体であるコミューン(地方自治体)によって運営される.それへの融資は,一部は地方税によって,他は国家資金によってなされる.フィンランドの経験は,国際第1次保健会議(1978年)の基本文書に盛られた考え方の正しさをよく証明するものである。すなわちプライマリー・ケアを発達させるための決定的な要素は,新しい制度をうちたてるために必要な土台としての国の政治的意志であり,また人びとの要求に応える際の地方のイニシアティブを確立するための地域社会の参加である.これらのことは,発達途上諸国に当てはまるばかりでなく,先進諸国に対しても重要な示唆をあたえるものである.

日本列島

宮城県肺がん対策協議会の発足—宮城

著者: 土屋真

ページ範囲:P.484 - P.484

 このたび肺がんの集団検診方式を強化するため,さる昭和57年2月26日,(財)結核予防会宮城県支部と(財)宮城県対がん協会が協同主体となり,東北大学胸部外科仲田教授を会長に,「宮城県肺がん対策協議会」が設置された.すでに山形,愛知など各県で同協議会が発足していると聞くが,検診団体の多い当県では,かえって別々に活動を開始し,協議会の設置が遅れていたのである.
 今までも結核予防会では,結核の住民検診時に,胸部レントゲン写真だけで多数の肺がん患者を発見してきたが,写真にうつらない早期の肺門部がんの見落しが否定出来ないし,喀痰細胞診が未実施であった.一方,胃がん・子宮がん・乳がんの集団検診に大きな実績を残している対がん協会は,昭和52年頃に,肺がん対策委員会および診断委員会を発足させている.また独自に「肺がん検診」を行っていて,重複した活動と,希望者程度しか行えない人数が問題になっていた.

停滞する交通事故—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.501 - P.501

 岐阜県では県交通安全対策協議会の昭和56年度総会を開き,最近の交通事故の特徴やその対策が協議された.
 道路の状態が年々整備されるなかで,交通事故は全国と同様の傾向であるが,昭和40年代の所得倍増時代をピークに昭和47年以降漸減の傾向となり,52,3年より横ばいの状況にある.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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