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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生46巻8号

1982年08月発行

雑誌目次

特集 肥満

肥満研究の最近の動向

著者: 井上修二

ページ範囲:P.508 - P.512

 先進工業国においては,肥満の激増とともに肥満の研究も盛んになってきた.そして,その研究成果発表の国際的交流の場としての国際肥満会議も第1回はロンドンで1974年に開催され,1977年,ワシントンで第2回が,1980年にはローマで第3回,来年にはニューヨークで第4回の会議が開かれるに至った.第3回のローマでは約1,600人の研究者の参加をみた.このような肥満研究の隆盛と共に,最も肥満患者も研究者も多い米国においては北米肥満学会が設立され,今秋その第1回総会が開かれることになっている.肥満の関係する論文の発表の場も,生理学,内分泌学,代謝学,栄養学,生化学雑誌等,多岐にわたっているが,1977年には,国際的肥満研究専門季刊誌International Journal of Obesity(英国John Libbey社)が発刊され,昨年からは隔月刊になり,質的にも量的にも内容の向上が認められてきた.本邦においても,1976年より愛媛県に地方的な肥満症研究会が設立されていたが,1979年,文部省総合研究班会議「わが国における肥満の成因解明,予防及び治療方策の確立」(班長:慈恵大,阿部正和教授)が13人の班員(現在16人)を構成員として結成された.

肥満の成因論

著者: 下村洋之助 ,   小林功

ページ範囲:P.513 - P.519

 食糧事情の改善とともに,最近肥満人口が増加し,欧米各地を中心に,肥満は深刻な社会問題となっている.しかしながらヒト肥満の成因に関し,症候性肥満は,かなり詳細な研究がなされているが,肥満の95%以上を占めるといわれている単純性肥満の成因は,現在暗中模索の状態である.一方種々の実験モデルを用いた肥満の成因学は,最近著しい進歩をみせ,かなり解明されてきている.
 実験肥満のモデルは,大きく3つに分けられる.第1は,メンデルの劣性遺伝にもとづくob/obマウスおよびZuckerラット,第2は,電気凝固法,ナイフ切断法,Gold thioglucose投与等により作成されている視床下部性肥満,第3に,高カロリー食事摂取による食事性肥満である.最近ヒト肥満においても,赤血球〔Na+K〕ATP-ase活性値等の変化等が注目されている1,2)ことより,以下私達が研究している遺伝性肥満を中心に,最初ob/obマウスの肝〔Na+K〕ATP-aseに焦点をあて,順次実験肥満およびヒト肥満の成因について,述べてみたいと思う.

肥満の判定

著者: 箕輪真一

ページ範囲:P.520 - P.527

 最近の成人ならびに児童・生徒に肥満者が増加し,その対策が叫ぼれていることは周知のことである.これは肥満が各種の成人病と深く関係しており,また児童・生徒においては運動や心理的な面にも悪影響を及ぼしているという事実に起因している.
 ところで肥満ということは,誰にでも理解され易い一般的な概念ではあるが,それは極端に肥満な状態の場合のことである.肥満予防や健康評価の観点に立てば,正常から極端な肥満にいたる中間域の状態の程度分けが必要となってくる.しかしこの点は主観的なもので誠に抽象的なものとなってしまう.ここに当然のこと,多くの方法論的な議論が出てくるわけである1)

脂質代謝異常

著者: 中村治雄

ページ範囲:P.528 - P.532

 肥満には数多くの脂質代謝異常が合併している.しかもこれらは,糖,内分泌代謝異常との関連の上に発生しているものであり,脂質のみの異常で説明し得るものではない.しかし,血清脂質の上では,トリグリセライド(TG)の増加,VLDL(超低比重リポ蛋白)の増加がみられると共に,HDL(高比重リポ蛋白)の低下が認められている1).また脂肪組織の上では細胞容積の増大2),脂肪組織中のTGヘブドー糖の転換促進3)などが認められている.
 今回,比較的新しい研究成績を中心に,肥満における脂質代謝異常を整理してみたい.

肥満者の内分泌と糖代謝の異常

著者: 片岡邦三

ページ範囲:P.533 - P.542

 単純肥満にみられる内分泌代謝系の異常は,高脂質血症,高アミノ酸血症,糖処理能の遅延,高インスリン血症,インスリン抵抗性,コルチゾール産生率の増加,尿中17-OHCSの増量,アルギニンやインスリン負荷時の成長ホルモン反応低下などであり(表1),これらの異常のすべては強制大食による実験的肥満でも出現するので1),いずれも肥満の原因ではなく,肥満による二次的な所産である.なかでも高インスリン血症とインスリン抵抗性はホルモン異常の主軸と考えられ,成人に発症する肥満型糖尿病の原因解明にも関連し,最も注目されている.
 本項では単純肥満に起こる主な内分泌と糖代謝の異常につき,概説しようと思う.

肥満と成人病

著者: 南部征喜 ,   山本章

ページ範囲:P.543 - P.548

 最近の日本人の生活環境の変化は疾病構造を著しく変え,しかも,その裏には体重の増加という極めて特徴的な現象が存在する.世界7カ国共同疫学研究の一環として20数年来行われている農村(福岡県田主丸町)の調査結果(1958年と'77年との比較調査)をみると,国民栄養調査の結果と同様に「体格の向上」が確認されているが,身長別にみた場合にみられる体重の増加は,ΣSF(皮厚)あるいはbody-mass indexを示標に検討された結果,肥満度の増加であることが明確に示されている1).このことは,「体格の向上」が実は皮下脂肪の増加を伴っていたことを示すもので,動脈硬化性疾患を考える場合に極めて憂慮すべき問題なのである.

小児肥満

著者: 村田光範

ページ範囲:P.549 - P.558

 成人の死因として重要な位置を占める虚血性心疾患が,年々増加していることはよく知られた事実である1).虚血性心疾患の原因になるアテローム性動脈硬化症(以下単に動脈硬化症)の発生は,小児期にまで遡り,したがって動脈硬化症を予防するには,小児期からの予防(一次予防)が大切だと認識されるようになってきた.肥満は動脈硬化症の進行にとって一義的な危険因子とはされていないが,一義的な危険因子である高脂血症,高血圧,糖尿病などを誘発することから,肥満に対処することが重要になってくる.さらに文部省の学校保健統計調査報告書2)によると,図1に示したように,この10年間に肥満傾向児(傾向という言葉を入れたのは,標準体重より以上体重が増加していても肥満とは限らない場合があることを考慮したと思われる)は約2倍に増加し,その頻度が最大になる年齢が年々若年化していることがわかる.いいかえると,小児肥満の頻度が増加すると同時に発症年齢が小さくなってきているのである.
 また,小児肥満は成人病発症の危険因子としてばかりでなく,小児期すでに,高脂血症,高血圧,脂肪肝,糖尿病の誘発などの直接的な障害をもたらしており,小児期肥満を現在の小児の健康の問題としてもとらえておかねばならない.

女性の肥満

著者: 森憲正

ページ範囲:P.559 - P.564

 女性にとって容姿は最大関心事の1つであり,容姿に影響する1因子としての肥満に対する関心は,男性より高いようである.しかし容姿だけの問題ではなく,医学的にも肥満は種々の問題を提起する.
 女性の肥満には生活や内分泌的環境などから,発生,病態等に,男性とは異なった特徴がみられる.これらの特徴をとりあげてみることにした.

肥満対策の現況

著者: 石川勝憲

ページ範囲:P.565 - P.571

 肥満は多くの原因をもった1つの症侯群である.したがって原因疾患の検索が必要であり,甲状腺機能低下症,クッシング症候群,インスリノームなどの内分泌疾患等による症候性肥満は原病に対する治療が優先する.しかし,現在の社会において,肥満の原因として大きなウエイトを占めるものは過食と運動量の減少にもとづく単純性肥満であり,従って,肥満の治療は運動を加味しての減食による減量が主体を占めている.
 減量に関する今迄の成績は必ずしも芳しくなく1,2),一方,肥満の初期とか,減量の目的・動機をもった人では減量に成功しやすいことを考えると,肥満症治療にとり,最も大切なことは肥満にならない努力にあるといえる.

発言あり

心身症

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.505 - P.507

管理社会,競争社会の中で
 「春眠不覚暁」の候も5月病の時節も過ぎ,鬱陶しい梅雨期になった.こんな時期に心身症が多発するのではないかと密かに思う.
 常日頃,身も心もさっぱりとした気分で仕事をしたいものだと願っているが現実はまるで違っている.心持ちがしっかりしていないから身体の方にも悪影響が出てくるようだ.

調査報告

一総合大学における学生の喫煙行動に関する調査研究

著者: 渡辺毅 ,   山添悦子 ,   加納克己 ,   浅井克晏

ページ範囲:P.572 - P.575

 健康に関する喫煙の害が明らかにされて久しいが1,2),我が国では依然として高率の喫煙率を保っている,専売公社の調査によると,我が国成人男子の喫煙率は漸減傾向にあるという3).世代別では喫煙率の最も高い20代に減少傾向が著しく,長期喫煙と慢性疾患との密接な関係1,4,5,6)を考えると,若年者の"タバコ離れ"は保健衛生上注目される出来事である.
 今回,我々は喫煙予防の一助とすべく,一総合大学の全学生を対象として,喫煙行動の実態把握を目的とした調査を実施し,若干の知見を得たので,ここに報告する.

日本列島

高校生の献血をめぐって—宮城

著者: 土屋真

ページ範囲:P.519 - P.519

 近年,血液需要の増大とともに,献血者の善意に支えられた献血制度の果たす役割の大きさは,今更言うまでもない.しかし,成分・分画製剤時代であるが,年々増加する市町村割当に対する素朴な疑問,日赤が献血時の各種血液成績を無料サービス中の問題なども,当県関係者間の話題になっている.
 ことに某受験校の養護教諭の考え方が動機となって,地元公衆衛生誌上で活発な意見交換が行われているが,献血対策の見なおしの時期に来たのは否定出来ない.

北海道と北方圏構想(1)—北海道/北海道と北方圏構想(2)—北海道

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.527 - P.527

 南北に連なる日本列島という枠内でみる限り,北海道は最北端にあり,歴史的にもつねに後進地であった.
 本州を中心にものを考えると,北海道は積雪寒冷の地であり,気候風土の厳しい分だけ生活しにくい土地であることは間違いない.事実,北海道に住んでいる人達は,自然条件のハンディキャップを宿命とあきらめ,いつも温暖な本州にあこがれの気持ちをいだいてきたといっていい.そして,それが結果的に中央に対する依頼心を助長し,自立の精神を生み出し得ない結果を招いてきた.

ハンセン病について—沖縄

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.542 - P.542

 沖縄県は第2次大戦で米国に占領された直後の昭和20年から25年まで医療公営制度が続いた.この5年間は自由開業が全く認められず,医療は米軍政府によって計画的に配置された(あるいは指定された)多くの一般診療所と宮古群島,八重山群島及び沖縄本島の各地区に設置された地区病院等において行われた.その頃は赤痢などの消化器伝染病,結核,マラリア,フィラリア,目本脳炎,鉤虫等の寄生虫疾患及びらい等が多発していた.マラリアは一時期3,000人余の発生をみたこともあるが,WHOなどの指導援助により撲滅作戦が実施されゼロ発生(輸入例を除き)となっている.
 フィラリアは日本復帰前後から防あつ対策が実施された結果,患者の新発生は殆んどなく乳び尿患者などが残っている状況にある.

炭疽病の発生について—沖縄

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.564 - P.564

 沖縄県食肉衛生検査所は昭和57年2月25日,那覇市内の或ると畜場に持ち込まれた豚をと殺解体し検査したところ,その回腸部に病変を認めたのでサンプリングし,精密検査を行った.病変は1頭のみに認められ,サンプルの細菌検索の結果,連鎖大桿菌が多数検出され,豚の腸炎型炭疽に類似しているということで,県家畜衛生試験場に病性検査を依頼した.同試験場によりマウス接種テストなども含めた詳細な検査を実施した結果,3月28日には家畜の法定伝染病である炭疽病と決定され,直ちに関係機関に連絡された.家畜伝染病予防法に基づく告示がなされ,①当該養豚場からの家畜の移動禁止,消毒,②畜舎から2km以内の立入り検査,③当該と畜場に搬入された(病豚とともに)家畜の隔離,などの防圧措置が講ぜられた.当該養豚場には豚約460頭,と畜場には約360頭が隔離されたが,幸いその中からの炭疽病発生は全くなかった.なお約10日間の後には2次発生もなく厳重な消毒も行われたことから,隔離などの防疫体制は解除され,と畜場も業務を再開した.炭疽は牛,馬,羊,豚などの草食獣に発生する急性伝染病で,炭疽菌は土壌菌であり,病獣の排出物,屍体,毛皮,骨粉などから感染する.時には人間にも感染し,皮膚に潰瘍を生じたり,敗血症を起こしたりする人畜共通伝染病であるが,幸い今回は優秀なと畜検査員により発見され,事態の拡大を防止できたことは賞賛に値するものである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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