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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生46巻9号

1982年09月発行

雑誌目次

特集 老人の施設ケアシステム

高齢化社会に対応する老人施設

著者: 山下章

ページ範囲:P.580 - P.585

 私は大学のほかに特別養護老人ホームで4年間働いた経験がある.わずか4年ではあるが,毎日数多くの老人に直接接触していただけに,老人問題には特別な関心を持っている.現状をふまえながら,とくに老人ホームを中心に将来の方向をさぐってみることにする.

老人の施設ケアシステムのあり方—欧米の先進諸国に学ぶ

著者: 森幹郎

ページ範囲:P.586 - P.591

 私は,本誌の1981年9月号において,経済社会の発展段階に応じて,老人の施設ケアシステムも発展していくものであり,また,発展していかなければ,社会システムとしての整合性を保ち得ないものであることを述べた.その詳細については,同誌を参照していただくこととし,あるべき姿における施設ケアシステムの特徴を要約しておこう.

養護老人ホーム・軽費老人ホーム

著者: 加藤道子

ページ範囲:P.592 - P.596

 高齢化社会の急速な展開とともに,老年問題は深刻な背景を広範囲に浮かびあがらせて来た昨今である.老人福祉の分野においても,ニーズの多様化による施設のあり方に見なおしの姿勢がせまられている.現在まで老人福祉サービスの理念達成の一翼をになって今日に及んだ老人ホームではあるが,昨今のあり方は漸次変容をせまられているといえよう.
 従来のように,福祉は無料,老人ホームは終生滞在施設という認識から脱皮して,時代の要望と,その流れにそった水準までを,考えあわせてゆかねばならなくなって来た.

特別養護老人ホーム—老年医学の視点から

著者: 田中多聞

ページ範囲:P.597 - P.602

■特別養護老人ホームとは
 1.定義
 特別養護老人ホーム(特養と略)は1963年7月11日施行された法律133号の老人福祉法(老福法と略)にもとづく老人福祉施設の一つで,老福法第11条第1項第3号の措置を受けた老人を養護することを目的とする施設である.収容対象老人は施設性格(後述)から「患者—後遺症を含む」は除外される.しかしながら現実は多くの老年病患者が収容されている.医療機関でない施設=非治療的施設に老年病患者が多数収容されている事実は,理由の如何を問わずわが国の老人の社会保障,福祉問題に大きな問題を含んでいる.

ホスピスケアの現状と将来

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.603 - P.608

 ホスピスという施設,ホスピスケアという活動や事業について各地で多くの試みがなされるようになったのはごく最近である.1970年代の後半から米国で急速に普及し,日本でも1980年代に入って,少数ではあるがホスピスケアを正面から掲げる事業が組まれるようになってきた.まず考え方が先にあって,その新しい考え方に合わせて実際事業が実施に移されてきたというよりも,先に先達による個別的な実行がとりくまれ,その事実や経験に対して種々の考え方が出され整理されてきたのがホスピスケアの特色である.
 しかし,米国でのホスピスとホスピスケアの施設と組織は200を越え,創始者の立場にある英国でもその数30を越えるようになった.米国連邦政府やブルークロス(非営利入院健康保険会社)がその実施に一部財政援助をし,英国でも国民保健事業からの費用支払いがなされるようになった今日,行政や研究者の間でも「ホスピスの在り方」「ホスピスケアの評価」が堀り下げて検討されるようになってきた.とりわけ,米国の老年学会や公衆衛生学会において大きくとりあげられるようになってきた.従来狭くホスピスという施設を中心に考えてきたのを変えて,ホスピスケアという末期患者に対する総合的な援助の考え方が共通関心となってきている.

老人福祉施設の現状と課題

著者: 田中荘司

ページ範囲:P.609 - P.619

 近代国家成立以降,老人のための施設保護が組織的に開始されたのは,昭和7年に施行された救護法(昭和4年制定)に規定された,救護施設の一種である養老院事業の運営が最初であり,本年はちょうど50年目という節目のある長い歴史を迎えている.
 そして養老院時代以降の老人に対する施設保護も,昭和21年及び昭和25年の旧・新生活保護法による保護施設(混合入所施設),養老施設と受け継がれてきたが,しかしその入所老人の範囲は,あくまでも根拠法のワク内である生活困窮老人を対象とし,居宅保護では目的が達成されない場合に,施設保護を与えるとした,限定された運営形態であった.

講座 公衆衛生学の最近の進歩・19

学校保健—児童生徒の健康問題をめぐって

著者: 小倉学

ページ範囲:P.620 - P.630

一般に,「児童生徒の健康を保持増進し,健康生活能力の発達を図るために,学校で行われる諸活動を総称して学校保健とよんでいる.」この「学校保健は,健康を保持増進するための世話ないしサービスとしての保健管理と,健康生活能力の発達をめざす教育活動としての保健教育とに大別される.」1)
 本稿では,前者つまり保健管理(健康管理)面に限定し,とくに当面の課題となるべき児童生徒の健康問題について検討を加えることにしたい.

発言あり

パートタイマー

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.577 - P.579

問題多い医師パート
 現在,世界的に景気の停滞と不況の波が押し寄せ,インフレの著しく進む中で,先進工業国では失業者の増加が大きな政治・社会問題となっている.このような情勢の中でも,夏休みに入った学生諸君が小遺い稼ぎをすべく,どっと労働戦線に参加するので,一時的に労働人口の増大が生じている.通勤範囲を考慮すると狭い地域範囲内で仕事を探すことは困難であり,特に就労の容易さの面からも希望条件に合致したものはなかなか得難い.いきおい学生に相応しくない職に就く者も現われる次第となる.ちゃっかり組は,堅実組といってもよいが,観光地などに職を求めてお金と遊びの両方を手に入れる者もいる.
 これら学生の休暇中の就労も一種のパートタイマーと呼んでも差し支えなかろう.

調査報告

老人病院における高年齢患者の知的能力について

著者: 黒沢和夫 ,   堀川郁英 ,   生富寛 ,   日野かをり

ページ範囲:P.631 - P.634

 わが国も老齢社会を迎えているが,老人の老化並びに老人病の防止は社会的にも重要課題となっている.老人の知的能力は加齢と共に減退するのはやむをえないが,その減退の度合いをできるだけ少なくすることが大切である.老齢でありながら旺盛な社会活動をしたり,指導的立場にある人も珍しくないが,一般に養護施設に入所している人や,他入との交流に乏しい老人の中には知能減退の著しい例をよくみかける.
 著者らは脳卒中等の老人患者の診療やリハビリテーションにあたっているが,今回脳卒中を中心とした老人患者における知的能力の実態を調査する機会をえたので,その一部を報告する.

資料

フィリピンにおける日本住血吸虫症の追跡調査のシステム化とデータ処理法

著者: 松戸修 ,   田中寛 ,   古川滿信 ,   稲葉賢二郎 ,   佐々学 ,   小野寺伸夫 ,   黒沢眞次

ページ範囲:P.636 - P.641

 住血吸虫対策の効果判定にしばしば年間罹患率が用いられ3,4,7),その変化は陽性率の変化より鋭敏であるといわれている.年間罹患率を求めるには,第1回目の検査の陰性者をほぼ1年後に再検査して陽性者を検出し,その陽転率を計算する.日本のように保健所や学校の機構が完備されたところでは陰性者を1年間管理することは容易であり,特別の配慮なしに年間罹患率が求められる.
 しかしながら開発途上国における症例管理は極めて困難な問題が多い.各人の姓名の書式の不安定さ,生年月日の不確実さ,小学校においても,長期,短期の欠席者の多いこと,家族ぐるみの移動の激しさ等が全てを困難にし,それに加えて保健所の機構がなかったり,学校における学童の掌握も十分でない.これらの問題を含んだ地域で,症例を追跡し,年間罹患率を求める試みを行った.

複数菌種による旅行者下痢症集団発生事例

著者: 村上信子 ,   大内山高幸 ,   河合輝雄 ,   坂本陽一 ,   寺田平一 ,   塚原洋子 ,   山口剛

ページ範囲:P.642 - P.647

 近年,わが国では海外諸国との国際的交流の頻繁化により海外旅行者が急増し,開発途上国から種々の感染症,特に腸管感染症が持ち込まれる危険性が増大しており,公衆衛生上問題となってきている.
 このような輸入腸管感染症としてはコレラ,赤痢,腸チフスなどの検疫・法定伝染病はもちろん重要であるが,病原性大腸菌(特に毒素原性大腸菌),サルモネラ,腸炎ビブリオ,いわゆるNAGビブリオ,カンピロバクターなどによる下痢症も,頻度の上からも前者との鑑別の上からも,ゆるがせにできないことが指摘されている1)

日本列島

昭和57年度道政重点施策,保健医療と福祉の充実について(1)—北海道/昭和57年度道政重点施策,保健医療と福祉の充実について(2)—北海道

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.585 - P.585

1.保健医療について
 これはS.55.3に発表された「北海道保健医療基本計画」に沿いながら
 1)札幌医科大学附属病院の改築
 2)衛生大学及び難病センターの建設
 3)地域センター病院及び保健所の整備促進
 4)医師の充足対策
 5)道立旭川高等看護学院に助産科の新設
 などが挙げられる.

学校における突然死による死亡事故—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.602 - P.602

 岐阜市では58年1月29日に第15回若年者心疾患対策協議会を開催するべく準備が進められているが,その際の資料の一部として岐阜県学校健康会で東海北陸ブロック合同調査による突然死による死亡事故をまとめた.集計データは49年4月から57年3月までの8年間における富山,石川,福井,三重,愛知,岐阜の6県の小,中,高校(高専を含む)生の突然死の実態をまとめたものである.突然死の総計は74件,愛知の30をトップに岐阜,石川の12,三重の11,富山5,福井4となっており,小,中,高校別では小学生18,中学生26,高校生30と高学年ほど多く,また,性別では男55,女19である.発生時の行動別では歩行,足速等18,走行等17,バスケット9,水泳8,その他の運動16,その他6となっており,歩行ないし走行時の例が多く,スポーツではバスケットと水泳が顕著である.突然死のうち23名に既住歴がみられ,突発性心筋炎5,ファロー4徴症3,心房中隔欠損2,その他心臓障害11で,循環器系の既住のあるものが多く,健康管理の上で心疾患管理の重要性を示すものといえる.
 全国統計として,学校管理下の死亡についての死亡見舞金支給件数を昭和53年分でみると,小学校86件,中学校67件,高校98件であり,これらの年齢層の第1位死因である不慮の事故死の3〜4割に相当し,全死亡の5%前後を占めている.

第28回東海公衆衛生学会—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.619 - P.619

 昭和57年度の東海公衆衛生学会(会長岐大公衆衛生吉川教授)が6月岐阜市で開催された.文字通り日本公衆衛生学会の東海版であり,愛知,静岡,三重,岐阜4県下の大学関係者,保健所等行政関係者が参加しているが,全国学会とは一応独立した形で運営されている.今回は約400名近い参加者があり,一般演題も65題と例年より相当多く分科会も4会場とし,ようやく消化する状況であった.
 一般演題の口演者を所属別にみると,大学24,衛生研究所・公害研究所等19,保健所および市町村14,その他8で,大学および衛生研究所が中心とはなっているが,今学会では保健所等行政関係者の演題も多く活気のあるものとなった.所属別の演題をみると,保健所等行政関係者には現場での具体的活動を通じての内容が中心となり,衛生研究所等では疫学調査や検査に関するものが,また,大学関係者に健康障害やその対策についての基本的な検討等がそれぞれ中心となっており,公衆衛生活動に従事している参加者にとり有意義な演題であった.

動的な健康づくり活動について

著者: 堤隆信

ページ範囲:P.647 - P.647

 近年,健康づくり意識について人々の関心が高まっているが,56年11月27日経済企画庁が発表した「国民生活白書」の中でも,このことに触れている.
 すなわち,多岐にわたる我々の生活領域を①医療と保健,②教育と文化,③勤労と生活,④休暇と余暇活動,⑤収入と消費生活,⑥生活環境,⑦安全と個人の保護,⑧家族,⑨地域生活,⑩公正と生活保護に10区分し,生活する上で重視すべき項目を1番から5番まで選択した調査結果を載せている(国民生活選考度調査,56年).これによっても,①医療と保健が35.3%と最も多く,次いで⑤収入と消費生活24.8%,⑧家族12.9%の順となっている.さらに,5番目までに①医療と保健を挙げた人は,全体の85%であった.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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