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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生47巻1号

1983年01月発行

雑誌目次

特集 健康教育時代

健康教育の経緯と今日的課題

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.4 - P.7

 戦後新しい時代の幕あけとともに,公衆衛生における教育至上主義が唱導されてから,早くも30余年の歳月が過ぎた.この間,日本社会の変化は激しいものであったが,その直接,間接の影響を受けて,日本人の健康問題の変貌もかつて世界に類のないものであった.
 近年日本は,感染症の克服によって,世界屈指の長寿国となったことは,周知のとおりである.このため疾病,死亡の主体は慢性退行性疾患となったが,これらは個々人の乳幼児期,青壮年期の日常生活の習慣の集積の結果として習慣病的な性質がきわめて強い.健康教育の至上の意義が今日ほど問われている時代は,ないというべきであろう.

健康管理と健康教育—セルフ・ヘルス・チェックのすすめ

著者: 青山英康

ページ範囲:P.8 - P.14

 古くから健康管理活動の目的は,第1に健康教育,第2に健康教育と言われ続けられて来た,しかし,今日に至っても健康管理活動の中での健康教育の位置づけは,決して高いものとは言えない.
 しかも,今日我々の健康を取り巻く背景は大きく変化しており,健康教育の重要性は,より一層増大している.とくに,成人病の多くは,発病に至るまでのすべての生活パターンに由来する諸々の条件や要因がその発病や進行に大きく関与している以上,成人病対策の基本は,生活指導にこそ健康管理の重点を置くべきであろう.

地域保健と健康教育

著者: 山本幹夫

ページ範囲:P.15 - P.19

 地域保健とは地域社会に居住する人々の生命をまもり,健康で幸福な生活を確保するための活動1)で,そのためには身体的,精神的のみならず人々をとりまく生活する諸環境をも整えてゆく活動がふくまれる.地域社会は産業現場や学校などと異なり,元来人々の幸福を目的として形成されており,人々の健康を第一義として考えうる場である.地域医療はその中の医療活動と解することが無理のない考え方といえるが,日本医師会などでは保健活動をふくめて考えようとしている.
 1978年にソ連アルマ・アタでWHOとUNICEFとの共催で実施されたプライマリー・ヘルス・ケア(以後PHCと書く)の国際会議で採択されたPHC宣言は,今後の世界の地域保健の方向を定めるものとしてそれぞれの国においてすでに実施に移されつつあり,わが国においても「国民健康づくり」や市町村の保健婦活動など将来の地域保健の方向について大きな影響を与えることは間違いないことである.すでに述べた1)ように,この宣言の主旨をいかにわが国の実情に即して展開していくかについて充分な検討が必要である.また後述のようにこの宣言には健康教育に関するきわめて重要な諸事項も含まれている.

保健婦による健康教育のあり方

著者: 平山朝子 ,   北山三津子

ページ範囲:P.20 - P.24

 衛生教育,健康教育,保健教育という言葉は,時には同義語のように用いられている.公衆衛生活動における衛生教育は,「個人および社会の公衆衛生に関する意欲を旺盛にし,その協力によって住みよい環境と,社会的にも個人的にも合理的な日常生活を実現するための組織的な社会教育であり,文化運動である.」(栗原,他:衛生学・公衆衛生学,金原出版,昭和30年)とされている.一方,健康教育という言葉では近年健康な人あるいは半健康な人や慢性疾患をもつ人に対する食事や運動の処方を諸検査にもとづき示して健康増進のプログラムを指導するなど個別の健康教育面が強調されている。これらを同義語としてまとめてしまうと,公衆衛生活動としての組織的な問題解決と個人的解決とが混同されてしまう.
 また,広くヘルスケアの諸活動を考える場合には,病人など健康障害を有する人を対象とした教育的アプローチ,すなわち,Patient Health Educationをも含めなくてはならない.看護の領域では,患者教育,Patient Education,Nursing Instruction,保健婦の実際活動としては個別保健指導,集団指導(糖尿病や高血圧の教室,精神障害者のデイケアなど)がこれにあたる.

保健所と健康教育

著者: 久我正

ページ範囲:P.25 - P.30

 保健所と健康教育を論ずるに当たって,まず「健康教育とは」を明確にする必要があると思うが,私は,それ以上に地域保健活動あるいは地域社会の人々が健康な生活を送る上での保健所の役割が明確にされなければならないと考える.
 この保健所のあり方論については,昭和47年の保健所問題懇談会の答申以来,保健所長会を始めとして,いくつかの検討が行われ提言がなされてきた.そして昭和53年以来国民健康づくり施策の一環として,新設された市町村保健センターの導入により,新たな問題として提起されている.これはなにも国の施策が講じられたからの問題ばかりでなく,公衆衛生的な課題あるいは住民のニーズの変化が大きな要因となっていることは否めないと思う.

職域における健康教育

著者: 岡惺治

ページ範囲:P.31 - P.35

 職域において展開される保健活動は,一般に「産業保健」,「職域保健」,「労働保健」,「産業健康管理」,「職場の健康管理」等と呼称されている.ただしそれぞれの呼称について,明確な語義があるわけではない.
 それと同様,職域においても従来から用いられている衛生教育と,標題の健康教育の間に,あえて語義を区別する必要はない.要は保健活動のもっとも重要な基礎であり,私たちの活動の姿勢として考えるべきことであると思う.

健康教育の国際的動向—社会的側面

著者: 金永安弘

ページ範囲:P.36 - P.40

 1983年5月にジュネーブで開催される第36回WHOの総会における主題が"プライマリー・ヘルスケアに関する健康教育のための新しい方策"と確定した.このことからしてもWHOが健康教育にかける期待の如何に大きなものであるかを知ることができる.
 WHOは「西歴2000年迄にすべての人々が健康に浴せることを願って」Health for all by the year 2000 ADという「もうひとつの発展戦略」alternative strategy for developmentを構想して,全世界に向けてアピールをしてきた.そしてこの健康戦略を達成するための方法として,プライマリー・ヘルスケアと健康教育をその重要な柱としていることにも注目をしたい.

講座 公衆衛生学の最近の進歩・21

衛生行政・法規

著者: 安西定

ページ範囲:P.41 - P.46

 わが国の衛生行政の出発点とみなされている医制76条の公布(明治7年,1874年)から100有余年が経過した.
 この100年余の衛生行政の歩みをふり返って痛感されることは,国の近代化への発展過程のなかでその時代の社会,経済,政治の諸条件に規定されながら,多くの困難を越えて今日までに近代的衛生行政を確立したことである.わが国の公衆衛生はもっぱら衛生行政として受けとめられ発足したところにその特質があるともいわれ,いつの時代においても法治国家のもと衛生行政が公衆衛生の中核をなしてきたことは否めない.そして,急性伝染病の制圧,国民病といわれた結核の制圧,乳児死亡の激減に示される母子保健の確立,生活環境の改善,ヘルスマンパワーの養成確保,科学技術の開発,国際協力等々に輝かしい成果を収めてきたところである.

発言あり

健康教育至上主義

著者: 京極高宣 ,   鈴木庄亮 ,   西田一彦 ,   前田ケイ ,   溝越將城

ページ範囲:P.1 - P.3

一工夫がほしい健康教室
 健康に関する情報は,いまや地に満ち天を覆うばかりで,新聞紙上はもとより,週刊誌,婦人雑誌,ヤング向け雑誌から総合雑誌に至るまで,その誌面を賑わしている.最近は中高年向き健康雑誌もでているし,テレビ・ラジオも負けじと電波を通してお茶の間へ健康情報を送りこんでヘルス,ヘルスの大合唱である.うっかりしているとなんでもない者までが,病人らしくさせられてしまう心配もある.
 一方,健康教育の催しも花ざかりで,行政,医師会,マスコミ関係主催のものから,只今ブーム中のカルチャー教室まで,健康教育の目白押しである.神奈川県で行政が行っている健康教育がどのくらいあるか調べてみた.母親教室から,主婦の健康教室,育児教室に体力づくり教室,更には老人健康教室に家庭看護教育と,ざっと数え上げて30いくつかある.各々県内各地でそれぞれに数回から10数回のコースで教育を展開しているわけである.そのこと自体は決して悪いことではない.問題は,それぞれの主管が,衛生部,民生部,教育委員会等と異なり,縦割りで相互の連携のないままに,類似したことを行っていることである.いずれもそれなりの主管としての目的を持ってカリキュラムが組まれているはずであるが,何か無駄を感じる.

研究

ラテックス凝集反応(トキソテスト-MT)によるヒト血清中のトキソプラズマ抗体の検査成績

著者: 近藤力王至 ,   大西義博 ,   吉村裕之 ,   赤尾信明 ,   坪田宣之 ,   室井早苗

ページ範囲:P.47 - P.50

 著者らはラテックス凝集反応によるトキソプラズマ抗体保有状況について,1976年4月から1981年3月までの5年間に,当教室に検査依頼された血清1,184件のうち初回分932名のものについて検査し,次に示す結果を得,若干の考察を行った.
1)検査依頼血清932名中236名(25.3%)に1:25≦の陽性抗体価を示し,対照群とした20歳代の健康女性398名中36名(9.0%)の陽性者率との間に明らかな差を認めた.これら血清の計1,330名について各抗体価別の該当者数の分布をみると,1:25を谷とする2峰性のパターンを示した.
2)本学附属病院内各科,関連病院および関係機関別に抗体保有状況をみると,屠場関係者に最も高く,陽性者率は39.1%,ついで内科38.2%,外科37.5%,関連病院36.0%,眼科27.5%,農協共済連20.0%,産婦人科16.1%,小児科15.2%の順であった.
3)妊婦170名の抗体保有状況は29名(17.1%)であった.一方,妊娠月齢ごとの抗体価保有状況ならびに平均抗体価をみると,対照群とほとんど差はみられなかったが,陽性者率では3または4ヵ月(25.0,26.1%),平均抗体価では3ヵ月(1:22.9±2.8)のものにやや差がみられた.しかし妊娠月齢が終齢に近づくに従って,ほぼ対照群との間に差はみられなかった.

調査報告

調理師学校ならびに食物学科における食品寄生虫学の履修状況について

著者: 佐野基人

ページ範囲:P.51 - P.54

 人類の食品は宇宙時代に入ってから,宇宙旅行の必要からも,食べ物自体に大きな変革をもたらすことになった.それと同時に生産の分野においても,採る食品から造る食品へとその形を著しく変えつつある.しかし,このように,従来のあるがままの自然食にも,たとえ造られた食品でもそれなりに一長一短がそれぞれあって,捨てがたい一面を持っている.
 ところで,人間の最後の我ままは食事にかかわる嗜好といわれているので,これまでが,衣住のように人工的に画一化されたのでは何とも味気ないものになってしまうであろう.人工食品は,例えば宇宙食ではないが,消費者にとってみればこの上もなく安全で栄養価も高く,しかも,人の嗜好にせまる理想的な食品といえようが,所詮人工食にほかならない.

資料

行政からのプライマリ・ヘルスケアへのアプローチ(4)—予防接種(特に百日咳ワクチン接種)について.松戸市の例

著者: 太田重二郎 ,   中山章 ,   恩田一夫 ,   武田ます ,   稲積英明 ,   唐木田淑子

ページ範囲:P.55 - P.59

 日本の予防接種が法律的に確立されて実施されるようになったのは第二次大戦の終戦直後からであり,それまでも予防接種は行われていたが,法律で義務づけられていた予防接種は種痘だけであった.したがって,予防接種に用いられたワクチンの品質管理も十分なものとはいえなかった.従来任意に行われていた種痘を除く予防接種が法律上の義務として実施されるようになったのは終戦直後のことである1)
 予防接種は1948年6月30日公布,7月1日施行され,その後何回か改正されているが大きな改正はなく,対象疾患の1つ2つの追加または削除であった.1970年には伝染病予防調査会の中間答申が提出されており,内容は,1)予防接種の義務づけ,2)予防接種の対象疾患,3)費用負担,4)予防接種の副反応についてであった.4)は予防接種による無過失事故は国が補償または救済すべきである,との趣旨であり,答申提出後に種痘による死亡事故が起き,1970年8月1日から予防接種事故の国による臨時救済制度が発足した.

日本列島

健康づくり施策と関連部局施策について(1)/健康づくり施策と関連部局施策について(2)

著者: 堤隆信

ページ範囲:P.7 - P.7

岡山
 近年,健康づくりの輪が大きなうねりとなって各階層へ波及しているのは,好ましいことである.このことは,昭和53年厚生省主唱の「健康づくり施策」を行政として採り上げたことや,個人が高齢化社会への自衛として,日頃から自らの健康づくりを行おうとすることの表われであろう.そこで,健康づくりと行政施策について,私見を述べてみたい.
 健康に関する行政施策の多くは,主として保健衛生主管部局が行うという認識があり,現在も変わりがないところであるが,近年,他の関係部局においても,健康づくりに対する施策を積極的にとり入れる傾向にある,これは,保健衛生主管部局以外の部局が,当該部局の機能に基づく健康づくり対策がこれからの行政として最も重要な施策であるという必然性があるためである.このことの背景には,つぎの2つの考えが秘められている.

第13回精神衛生週間始まる

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.30 - P.30

沖縄
 昭和57年10月3日から第13回精神衛生週間が始まった.今年のメインテーマは「青少年非行と精神健康」で,①青少年健全育成は心の健康から,②精神障害者に対する社会の理解を促進しよう,③精神障害老の社会復帰に温かい手をさしのべよう,の3項目をスローガンに,期間中,講演会,ビラ配布,公開座談会などが県下各地で催された.
 初日の10月3日は浦添市民会館で県精神障害者家族会の設立総会が開かれ,精神障害者回復者,その家族などが約250人参加し,社会復帰施設の早期建設や地域の精神障害者やその家族に温かい目を……と訴えた.6日には那覇市民会館で病院や福祉関係者等600人余が参加して講演と公開座談会が開かれ,また精神衛生の向上に貢献した10人に対し沖縄県精神衛生協会長から表彰状が贈られた.講演は吉川武彦琉大教授により行われ,公開座談会は同教授を座長に,県警,高校,マスコミ,主婦等がそれぞれの立場からパネラーとして発言した.

つつが虫病の発生

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.50 - P.50

岐阜
 つつが虫病は古典的な疾患であり,重要性の低いものと思われていたが,57年5月本病による死亡例が発生し,岐阜県下においてはマスコミにもとり上げられクローズアップされてきた.
 死亡例は開業医師の娘(22歳)であり,死後の血清反応や剖検所見により確定診断されたものである.野外にてリケッチャーに汚染されたダニから感染されたとみられており,収容された病院での種々の検査でも判明せず,死後診断が確認されたもののようである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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