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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生47巻10号

1983年10月発行

雑誌目次

特集 保健所活動に期待する—高齢化社会への挑戦

高齢化社会における公衆衛生の役割

著者: 須川豊

ページ範囲:P.616 - P.620

 高齢化社会へ挑戦するには,公衆衛生の役割を考える場合でも,高齢者に対する施策の全容を考えてみる必要がある.
 高齢者は,老化とか死とか,さけ難い究極の成り行きがあるから,単なる公衆衛生対策のみでは,効果をあげえない特質がある.

老人保健活動と保健所

著者: 古市圭治

ページ範囲:P.621 - P.626

■はじめに
 老人保健法は,昭和57年8月第96国会で成立し,本年2月から実施されたところである.法案の国会提出(56年5月)から施行までの期間が比較的短かったこと,また実施主体を全面的に市町村としたことから,老人保健事業の実施にあたる自治体では,当初は,年次計画の策定,健診方法,都道府県と市町村の役割分担等について,かなりの御苦労があった.しかし法律が全面的に施行されて半年を経過した現在,本法の成立を契機として,従来から行われていた保健施策が一段と強化され,保健水準の着実な向上を示しつつある地域の報告を聞く機会が多くなったことは,誠に心強い限りである.
 老人保健法は,我が国の人口の急速な高齢化と老人医療費の財政的圧迫という時代の情勢から,比較的短期間の国会審議で成立をみたことは事実であるが,これに至る経緯は,表にみるとおり,昭和38年の老人福祉法(老人健康診査)以来20年,老人医療費支給制度から10年を要している.

国民健康づくり計画モデル事業の現状と課題

著者: 小町喜男 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.627 - P.631

■国民健康づくり計画の誕生
 第2次大戦後の復興が始まり,疾病の予防や保健の促進への国民の大きな期待を受けて,新しい保健所法が成立したのは昭和22年である.
 厳しい食糧事情による住民の栄養低下,ベビーブーム下での母子保健,蔓延する伝染病,死因のトップを続ける結核など,各地に設立された保健所が直面する課題は,極めて重大かつひっ迫したものであった,このような事態の中で,保健所は積極的に事業を展開し,多くの輝かしい成果をあげてきたことは,周知のとおりである.かくして保健所は急速に日本の地域社会の中に根をおろし,地域の保健や環境・食品衛生の確保,改善のかけがえのない施設として成長してきた.医療サービスから独立した保健サービスの専門機関として,全国に850か所も存在する我が国の保健所は,世界にも例をみない保建サービスのシステムである.

現場からの報告

1 稚内保健所の活動

著者: 井上一男

ページ範囲:P.632 - P.636

■はじめに
 北海道ほど一般的なイメージと実態とが異なるところは全国でも他に例をみないであろう.即ち,本州に次ぐ大きな島でありながら「北」という言葉のもつイメージで一律に受け止められやすいが,実態は「北」というイメージに符合する地域もあれば,「南」に近い地域もあり,東京並みの人口過密地域もあれば,オーストラリア並みの過疎地域もあるという次第で,北海道は地域をいくつかに類型化して考える必要があり,それが根強く浮き沈みを繰り返す「北海道分県論」の背景になっている.
 従って,当所管内は「北」というイメージに符合する代表的な地域ではあるが,それはあくまでも北海道の地域の1つの類型を代表するものであることをはじめにお断りしておきたい.

2 三田保健所の活動

著者: 藤原節子

ページ範囲:P.637 - P.643

■はじめに
 4月1日,前任地の三木保健所から,三田保健所へ異動した.老人保健法施行以来5カ月経過した中で,三田市が,主体的に法に基づいた活動をはじめていることは,大変心強いものがある.しかしまた,保健所の法への取り組みの姿勢が問われていると自認しつつ,対人保健サービス面での,県立保健所と地域住民とのかかわり合いを今後どうするかという岐路にたたされている思いがする.
 世界の中での日本の今日的な課題としては,人口問題,人工長命化時代,高齢化社会,アルビントフラーの第三の波に象徴される産業形態の変化,及びそれらに伴う社会の機構,人々の価値観の変動,年少人口の減少等があげられると思うが,どの様に価値観が変動しても,社会の仕組みが変わっても,たくましく生きつづけるには,強靱な精神力と健康な身体とが,最小限要求される所であろう.膨大する市民の要求に対しての施策を行いながら,市民のニーズを満たすには,どうしたら良いか.幸い三田市においては,現三田市長が,三田市総合計画書を,昭和57年9月に出版されているので,それによって三田市と保健所とのかかわりが従来どうであったか,又,将来市当局は,当保健所をどの様に位置づけようとしているのかが,少しは伺い知られる所である.

3 高崎保健所から

著者: 山口健男

ページ範囲:P.644 - P.647

■はじめに
 保健所活動に期待する—高齢化社会への挑戦—かけ声は勇ましいが,現場の意気はあまり揚らない.何しろ今までの仕事で手一杯であり,老人保健法ができたからといって,これ以上新規事業に取り組む余裕がない.予算や設備は何とかなるとしても,致命的なのは人員増加の困難さである.その解決は万人の納得する思いきった重責を,保健所に課する以外に方法はない.現状では従来の業務のうち何を削るかが問題であるが,主題から離れるので立ち入らないことにする.
 さて保健所が期待に応えて活発な保健活動を展開するには,まず保健所の役割が具体的に明確にされなければならない.昨年発足した日本公衆衛生学会地域保健医療(老人保健)委員会では,まずこの問題を取り上げ,第1報として本年の日本公衆衛生雑誌の1号に報告した.今この報告を骨子として敷衍してみたい.

4 土佐山田保健所の活動

著者: 石川善紀

ページ範囲:P.648 - P.651

■はじめに
 当保健所では,従来より脳卒中予防を中心とした地域保健活動を進めてきた.老人保健法の施行に伴い,保健所の果すべき役割に大きな変化が生じている.

5 老人保健法施行5ヶ月

著者: 渡部正

ページ範囲:P.652 - P.656

■はじめに
 老人保健法が昭和58年2月に施行されてから5ヵ月を経過した.まだ各種事業が順調に進められているとはいい難いが,県立保健所からみた老人保健事業の一端を報告する.
 まず,老人保健法は,老人の保健・医療対策のあり方について法的に体系化した点で高く評価されている.その中で,地域保健を考えていく上で最も重要と思われるものは保健事業であり,従来成人病予防対策としてバラバラに行われてきた事業を,地域住民に最も近い市町村の事業とした点が評価されている.

6 石神井保健所から

著者: 橋本智恵

ページ範囲:P.657 - P.664

■はじめに
 老人が元気で健康であるということは,本人はもとより,家族にとっても,また社会にとってもはかりしれない幸せをもたらす.
 健康は,老後の生活を支えるもっとも基本的で重要なものといえる.

7 横浜市西保健所の地域対策

著者: 大谷篤

ページ範囲:P.665 - P.670

■はじめに
 従来都市における核家族化の進行は,老齢人口の増加を進行させるものではないと考えられ,人口増の主因である社会増と自然増殊に自然増対策が主として,保健所においては進められてきた.今日においてはこれらの考え方は修正され,日本全体の高齢化対策上,現在施行されている老人保健法の設定となったものであると考えることができる.医療費を主体とする対策が,医療給付以外の保健事業としてなすべき方策がだされてきたことは喜ばしいことである.
 法が施行されると否とにかかわらず,保健所においては,予防対策と疾病対策を地域の問題として行われてきているもので,伝染病にしろ結核にしろ対策として実施されており,乳幼児にも指導や予防接種として行われている.

講座

多変量解析法(その2)—外的基準のある場合

著者: 高木廣文 ,   服部芳明 ,   柳井晴夫

ページ範囲:P.671 - P.677

■はじめに
 前回,多変量解析のうち外的基準のない場合の各手法の説明をした.ここでは外的基準のある場合について,いくつかの手法を紹介する.外的基準のある場合も,その基準変数が定量的な場合と定性的な場合に分けて考える必要がある.定量的な場合は,他の変数を用いて基準変数を予測することになる.たとえば高血圧症の患者の食塩摂取量を10g以下にすると,どのくらい血圧は低くなるのか知りたいとする.患者のデータとして,年齢,現在の血圧値,他の食物摂取量など多数の変数を利用できるだろう.このような場合,重回帰分析を用いることができる1).さらに重回帰分析を応用して因果関係の推論をする場合には,パス解析法を用いることも可能である2)
 基準変数が特定の疾患の有無のように定性的な場合,利用できる変数から各ケースが所属する群を識別することになる.そのような方法は判別分析とよばれる1,3,7).また判別分析と類似しているが,所属する群を識別するのではなく,その可能性を確率として表現する方法がある.それには多重ロジスティック・モデルを用いる力法が知られている4)

資料

フィンランドの社会福祉

著者: 牧野由美子 ,   福沢陽一郎 ,   清水智子 ,   山根洋右

ページ範囲:P.678 - P.686

■翻訳にあたって
 私達は全国で最も老年人口比率の高い島根県において,コミュニティ・モデルを中心に老人の医療,保健,福祉,労働,文化など総合保健活動の立場から調査・研究を行っている.日本の農村の老人問題の実証的.総合的調査と併行して,諸外国における福祉の現状を国際的に比較検討することは,最近とみに強調されている"日木型福祉社会"の実像を分析するうえで極めて有意義と考える.
 今回,日本にはあまり紹介されていない,北欧社会福祉国家のひとつであるフィンランドの社会福祉「SOCIAL WELFARE IN FINLAND」の翻訳を行った.

発言あり

在宅ケア

ページ範囲:P.613 - P.615

医療・保健従事者との密接なチームプレーを
 老人保健法の施行とともに脚光をあびてきたものの1つに在宅ケアがある.もちろん,在宅ケアは患者家族にとって大きな負担がかかることから,新聞,雑誌,テレビや小説などで以前から何回となくとりあげられてきたテーマでもあった.しかし,この法律によって訪問指導が保健事業の1つとして正式に位置づけられたことから,指導の対象となる在宅の寝たきり老人をはじめとする患者のケアに,漸く光が当ってきたといってよいだろう.現場ではこの指導にあたるマンパワーの中心となるべき保健婦の数が足らず,全国どこの養成施設でも定員数を増やして人材の確保からはじめているのが実情である.
 一方,この問題を患者家族の側からみると,在宅ケアの中心となるべき家族の方はいまやほとんどが核家族化し,親が老齢化する時点ではもはや子供は独立し,老人夫婦または単独老人世帯となっているのが実情である.実際上在宅ケアを行いうる家族の揃っている三世代世帯は,昭和56年の厚生行政基礎調査では16%にすぎず,60歳以上の老人のいる世帯だけについてみても30%は単独,または老夫婦だけの世帯になっている.したがって在宅ケアがどの程度まで成り立つかを考えるとき,老人保健法が目指すような家族の下での医療は必ずしも実現可能とはいえないであろう.このような傾向は益々強まりこそすれ緩和されることがないであろうと考えれば,老人養護のための各種中間施設の整備は何よりも急がれるのである.

日本列島

市立札幌病院新第1病棟の完成による第2次救急医療体制のスタート

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.636 - P.636

北海道
 昭和56年から改築工事が進められていた,市立札幌病院新第1病棟がこの程完成し,6月1日にオープンとなったが,これによって札幌の第2次救急医療体制がスタートしたことになる.
 札幌市の救急医療体制は,36年に日曜,祭日の当番病院制度が始まり,モータリゼーションの進展と共に,39年に災害救急告示病院制度が発足し,47年に夜間急病センターがスタートして,第1次救急医療体制については,"札幌方式"として全国に知られた.

第29回東海公衆衛生学会開催さる

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.670 - P.670

岐阜
 日本公衆衛生学会からは一応は独立した形となっているが,全国学会の地方会ともいうべき,第29回東海公衆衛生学会が,6月24日名古屋市北区役所講堂および市総合社会福祉会館において,青木国雄学会長の主宰で開催された.午前中は4会場に分かれ,一般口演66題が発表され,午後は総会のあと特別講演2題とシンポジウムが催された.
 一般口演では,老人保健あるいは成人保健に関するもの,がんの疫学,がん検診に関するもの,スモン病等特定疾患に関するもの,学校保健,精神衛生,歯科衛生その他対人保健活動,さらに,食品衛生,水質保全,騒音その他環境保健など,バラエティに富んだものであったが,全国的な課題である老人保健やがん対策,あるいは地域的特色のある新幹線騒音,湖水海水等の水質保全等興味深いものが数多くみられた.一般口演の66題の口演者の所属別内訳をみると,大学関係者28題,研究所(衛研,公害研,がん研)16題,保健所その他行政機関16題,検疫所他6題であり,東海地方4県の公衆衛生関係者が一堂に会しての学会であることがわかる.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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