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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生47巻11号

1983年11月発行

雑誌目次

特集 住民参加と市町村保健

住民参加と市町村保健

著者: 宮坂忠夫

ページ範囲:P.692 - P.697

 ■はじめに
 市町村の保健サービス(あるいは公衆衛生事業)は住民のニードに合致したものをということは,かれこれ30年も前から,繰り返しいわれて来た,諸外国でも,同じような状況ではないかと思う.そして,ヘルス・ニードとは何かというニード論が何回となく行われて来た.
 市町村保健への住民参加とは,端的にいうと,これを一歩進めて,住民のヘルス・ニードを住民自身に声を出して言ってもらい,勉強し考えてもらい,いわゆる行政側や保健の専門家側といっしょに対策を立て,実行することであると思う.それなら昔からやっていることではないかという,町や村の保健婦さんがいるかもしれない.それはその通りである.ただ,以前に比べると,住民参加が,日本でも,諸外国でも,前面に出て来つつあるということである.

地方自治体における住民参加

著者: 大森彌

ページ範囲:P.698 - P.703

 ■はじめに
 今日では,大半の自治体で,「住民参加」を,県政なり市町村政の基本に位置づけている.
 「住民参加」は,それ自体はプラス・シンボルとして受容され,少なくとも言葉としては定着したといってよい.しかし,住民参加の必要が提唱され,実際に,その工夫が試みられるようになってまだ20年足らずである.「住民参加」がこれほど短期日の間にこれほどまでに普及したことは,自治体の運営のあり方が大きく変化し,また変化せざるをえなかったことを意味している.さらに最近では,「まちづくり」とか「情報公開」といった新しいテーマとの関連で,住民参加の充実が論議されるようになっている.以下,住民参加をめぐる理論上の問題を検討した上で,最近の動向を視野に入れて住民参加の意義を概括的に述べることにしたい.

町立病院の役割・実践

著者: 権平達二郎

ページ範囲:P.704 - P.709

 ■はじめに
 地域医療には3つの型がある,と言われる.行政主導型,医療主導型,住民主導型がそれである.住民主導型が望ましいとか,3者のバランスのとれた形が好ましいのだとか,言われてもいる.時には○○始動型というのもあるという.上記の分類に従えば,私達の町は住民主導型に憧れながら医療=行政主導型で歩んで来ていると言えよう.
 最近私達は,医療=行政が企画する保健計画への住民参加ではなく,住民の企画する保健計画への医療=行政の参加の道を模索しようと考えているが,未だ全く具体化はしていない.ここでは,まず私達の活動の拠点となる施設を紹介し,次いで私達が取り組んで来た「町の保健に対する町立病院の役割,実践」を振り返り,最後に住民主導への憧れがやや現実味を帯びて来た姿に触れてみたい.

公民館と地域保健活動

著者: 松下拡

ページ範囲:P.710 - P.716

 ■はじめに
 地域保健活動は,その地域に住む住民が主人公となって展開されるものである.しかしそのことが実現されていない状況の中では,行政や医療関係者は,地域の住民とともに活動を展開する姿勢をもち,それぞれの立場での連携をとりながら,真の地域保健活動の実現を可能にするような,地域住民の力量形成に対して援助するような活動が,重視されなければならない.
 公民館のかかわりは,住民主体の地域保健活動を可能にするような,住民の力量形成を期待するところにある.

保健所の住民参加推進への方策

著者: 大月邦夫

ページ範囲:P.717 - P.723

■はじめに
 本年2月施行された老人保健法は,「国民は自助と連帯の精神に基づき,自ら加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して健康の保持・増進に努めるとともに,老人の医療に要する費用を公平に負担するものとする.」(法第2条)とその基本的理念を明示している.つまり本格的な高齢化社会に対応すべく,成人病予防をはじめ積極的な健康づくりを推進していくためには,地域社会と個人の可能なかぎりの自助努力が必要不可欠であり,地域保健活動のあらゆる段階における「住民参加」の重要性をあらためて強調しているものといえよう.
 地域における保健問題の解決と保健水準の向上を志向する地域保健活動を推進していくための重要な要素は,①住民の主体的参加,②専門家のプロフェッショナル・リーダーシップ,③公の責任による条件整備,の3者であるとされている1).当地域(県西南部の農山村,1市4町2村,人口10.7万人)の保健活動は,なお行政主導型の域を脱しておらず,本企画の期待を裏切ることを懸念しつつ,健康づくりを中心とした保健活動例を紹介するなかで「住民参加」の方策(可能性)を模索してみることとする.

脳卒中予防と住民参加

著者: 福沢昭吾

ページ範囲:P.724 - P.729

 ■はじめに
 南箕輪村は長野県の南部伊那谷にあり,総面積40km2余,うち山林23km2であとは平坦な田畑1,200ha,住宅地130ha等で,災害もなく清水が湧き緑の多い適住地である.人口は,9,500人余で年々2〜3%の人口増を来たしている.産業は米作中心の農村であったが,現在では2次3次産業への就業人口移動がなされ,専業農家は数%に過ぎない.
 従来長野県は内陸的な気候で,冬は寒さも厳しく零下15度位に下がる事から,冬はコタツに入り,信州の特産物である野沢菜漬をたくさん食べてお茶を飲み,食事時にはおいしい信州味噌の味噌汁をおかわりして飲み,住宅構造も悪い上,部屋を暖めるストーブ等はなく,信州的な生活の中で,必然的に脳卒中での死亡率も高くなり,東北各県と同じような傾向を生んでいたのであろうか.

住民参加の社会的基盤—欧米と日本の比較

著者: 牧野暢男

ページ範囲:P.730 - P.734

■住民参加が必要とされる社会状況
 今日,住民参加が社会的論議の対象とされている社会には,共通の特徴があると考えてよいであろう.
 第1に,そのような社会は,産業が高度化し,組織が巨大化した社会である.そこでは官僚制化がすすんでおり,個人は巨大な組織の中にくみ込まれ,自らを無力な存在として自覚するようになっている.また,官僚制は合理性を追求するところから,社会機構の専門化がすすみ,人間の情緒的・非合理的な面に対する配慮が欠けることにもなる.フランスの社会学者トレーヌが言うように,<官僚制的疎外>の進展にどう対処するかという課題にわれわれは直面しているのである.

講座

費用便益,費用効果分析と保健事業(その1)—生命の経済的価値の計算

著者: 大井玄 ,   甲斐一郎 ,   武長脩行

ページ範囲:P.735 - P.743

■はじめに
 医療費は,現在,日本ではGNPの5%,アメリカでは10%を越えている.当然,保健事業のための費用を,如何に有効に使うかは大きな問題となりつつある.さて近年,費用便益分析(cost-benefit analysis),費用効果分析(cost-effectiveness analysis)と呼ばれる手法が,保健事業の評価に用いられるようになった.これらは,単位費用につき,保健事業の成果の大きさや,事業により見込まれる経済的利益がいくらかを計算するものである.したがって,同じ疾病のコントロールを目標とする複数の保健事業のうち,経済的に最善のものの選択に際して用いられ,限られた医療資源の有効利用をはかるものである.
 歴史的な例をあげよう.

多変量解析法(その3)—公衆衛生学,疫学への適用例をめぐって

著者: 柳井晴夫 ,   松村康弘 ,   木村信子 ,   高木廣文

ページ範囲:P.744 - P.751

■はじめに
 これまでの2回,多変量解析の手法を外的基準のない場合とある場合にわけて,それぞれの場合に含まれる手法の概要を数値例とともに説明してきたが,今回は,公衆衛生学・疫学分野における多変量解析の適用の現状と,その問題点について考察する.

研究

老人の健康と生活構造と意識—老人保健事業への指針として

著者: 東田敏夫 ,   橋本美知子 ,   川端フミヨ

ページ範囲:P.752 - P.765

 はじめに
 老化にともない身体の機能低下と異常は避けがたい.老年期に必然である機能低下と疾病・異常をいささかでも軽くし,病苦から解放され,老後の暮しに生きがいを保つこと,これが老年期の「健康」の要件である.
 老年期の健康については,身体的状況physical beingと精神的状況mental beingのみならず,老後の暮しと社会的状況social beingの特殊性について配慮する必要があろう.

発言あり

情報公開制度

ページ範囲:P.689 - P.691

地域住民の福祉や保健に役立てたい
 我が国における情報公開が,制度としてはじめて山形県金山町でとり入れられたのが昭和57年4月であり,以来1年半をすぎた.中央・地方を問わずその準備態勢に入ってはいるものの,実行にはまだ間がありそうだというのがこの制度の現状であろう.
 このような状況をつくり出している大きな原因の1つに,個人のプライバシーとの関連があげられよう.とくに,同和問題などをかかえている地方の市町村当局にとって,この問題は気の重いことは想像に難くない.しかし,個人の情報を本人の承諾をえない他人に自由に縦覧させるという,現在のいくつかの規定がそもそも問題なのであって,この点については厳重な管理を望みたい.情報公開制度の発足がこのような基本的原則の混乱によって遅延しているとすれば,それは行政に従事する者の初歩的無理解に基づくというほかはないであろう.

日本列島

体力診断・運動能力について

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.709 - P.709

沖縄
 沖縄県民の健康度については,例えば昭和55年の国勢調査の結果をみると,平均余命が男74.52,女81.72で全国都道府県のトップにあること,訂正死亡率でも人口10万対で352.9(全国平均413.9)と最も低いこと,百歳以上の生存者数が人口比で過去数年以上の間,最も多いことなど良好の状態にある.
 また受診状況をみても国保の被保険者100人当りの年間受療件数は入院で全国平均の71%,入院外で60%程度しかないことなどからみても一般的に健康県であるといえよう.しかし体力や運動能力などの,いわゆるポジティヴな意味での健康度はどうなっているかは興味のあるところである.日本のトップレベルにあるスポーツマンとしては,プロボクシングや体操の両具志堅選手などの例もあるが,その他には少ないように思われる.

赤痢の集団発生について

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.716 - P.716

岐阜
 近年,伝染病の集団発生は少なくなっているが,昭和58年5月岐阜県下に赤痢の集団発生をみたのでその詳細を紹介したい.
 温泉地で有名な下呂町内の県立病院において,町内の小学校教諭が真性赤痢と診断されたことから,小学校児童,教職員等の検便が実施された.その結果,初発患者と同型のSonnei 1相菌が検出され,集団発生の様相が明らかとなった.

公衆衛生学教室開講30周年記念講演

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.723 - P.723

岐阜
 岐阜大学医学部公衆衛生学教室が,県立医大時代の昭和28年に開講して以来30年を経過し,これを記念して記念講演会が催された.この記念講演は,教室開講以来20数年主任教授を勤められ,その後岐阜大学長を2期勤められた館正和氏の退官記念講演と,聖路加看護大学長日野原重明氏の特別講演であった.定員300名の医学部講堂で6月25日(土)催されたが,早野岐阜大学長はじめ大学関係者,医療機関,衛生行政関係者,市内各養成機関の看護学生,医学部学生等が参加し,ほぼ満席の状況であった.
 館氏は「岐阜県における公衆衛生の現状と将来」と題して講演され,30年に渡る県下の公衆衛生の歴史を,労働衛生,環境保健,地域保健等幅広い分野にわたって,具体的な実例をあげられ,今後に留意すべきこととして①総合的な健康対策,②心の健康,③日本だけのことにとらわれず世界に目を向けるべきであること,を強調された.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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