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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生47巻3号

1983年03月発行

雑誌目次

特集 肺がん

病理面からみた日本の肺がん—その集検の指標

著者: 高橋正宜 ,   武内康雄 ,   石川裕 ,   早川欽哉

ページ範囲:P.132 - P.138

■本邦肺癌の概況
 今や老人保健法の実施が始まり胃癌および子宮頸癌集検の対応策が自治体において検討のさなかにあるが,内外において部位別癌死亡率の急上昇を示しているのは肺癌である.
 厚生省人口動態統計によれば1),肺癌死亡の占める割合は1965年に男子9.2%,女子4.9%であったものが,1976年には男子14,3%,女子7.3%,さらに1980年には男子16.5%,女子8.6%と明らかな上昇を示している.しかし欧米白人と比べて未だその比率は低い.すなわち1975年米国白人男子36.7%,女子13.1%,1976年イングランドウェールズ男子39.5%,女子12.0%,1977年ニュージーランド男子42.3%,女子15,1%と極めて高い比率がみられる2)

肺がんの早期発見の現状と集検への応用

著者: 成毛韶夫

ページ範囲:P.139 - P.146

■肺がん対策上の課題
 最近わが国の死亡順位の第1位にがんがなったが,その中でも特に肺がんが注目されている.その理由は肺がん疑診者に対する確定診断技術は著しい進歩を遂げ,ほぼ完成に近づいているにも拘わらず肺がんによる死亡数が急増しているからである.胃がんや子宮がんが検診などの成果もあって減少する一方肺がんは10年前に比べて2倍の22,799人の死亡数を昨年出した.男性に多く,40歳以降加齢と共に急増し,60歳台と70歳台が最も多くなっている(表1).
 肺がん患者の予後は治療開始時の病期と組織型で決まる.この病期はがんの拡がりを表わすものであり
 潜伏期―胸部X線上所見がなく,細胞診のみ陽性を認めるもの.
 Ⅰ期―腫瘍の大きさが3cm以下であり,リンパ節転移がないか,あっても肺門リンパ節までにとどまるもの.または,腫瘍の大きさが3cm以上のものでも,肺門リンパ節に転移の及んでいないもの.
 Ⅱ期―腫瘍の大きさが3cm以上で,リンパ節転移が肺門リンパ節にまで及んでいるもの.
 Ⅲ期―腫瘍が広範な進展を示すか,または胸水,または全葉無気肺の認められる状態か,または,原発腫瘍に関係なく縦隔リンパ節転移のあるもの.
 Ⅳ期―原発腫瘍または,リンパ節転移に関係なく遠隔転移のあるもの.と分類される.

疫学からみた肺がんの現状と動向

著者: 富永祐民 ,   黒石哲生

ページ範囲:P.148 - P.155

■日本における肺がんの現状と動向
 日本における肺がん死亡の推移をみると,第二次世界大戦直後の1947年には全国で僅か768名であったが,その後現在に至るまで急激に増加し,1981年には全国の肺がん死亡は22,790名に達した.粗死亡率からみると,1947年には人口10万人当たり男1.4,女0.6であったが,1981年には男28.9,女10.3とそれぞれ男で20.6倍,女で17.2倍に上昇した.年齢訂正死亡率(1935年の日本人口を標準人口として計算)からみても,肺がん死亡率は1947年に人口10万人当たり男1.3,女0.6であったものが1981年には男15.9,女5.7とそれぞれ男で12.2倍,女で9.5倍に上昇している1〜3)(表1).
 肺結核は過去においては主要死因であったが,抗結核剤の出現,栄養改善,結核検診の普及により死亡率,有病率ともに1950年頃から急激に低下し,1973年には肺がん死亡(全国で12,856名)が結核死亡(全国で11,965名)を上廻るに至った.1981年現在,肺がん死亡は全国で22,790名であるに対して結核死亡は全国で5,693名(肺がん死亡の25.0%)となっている.ただし,これは主として結核の致命率の低下によるもので肺結核の新規登録率は1981年現在なお6万名を越えている2,3)

肺がん対策への課題と提言

著者: 三宅浩次

ページ範囲:P.156 - P.160

 20世紀後半に世界的大流行を示した疾患として歴史にその名をとどめるものの第1に,私は肺がんを挙げたい.インフルエンザも確かに世界的流行病ではあるが,その波は急に高まり,急に消える.それに比べ肺がんは大きなうねりであって,死亡総数はイソフルエンザを上回る(日本では1963年以来大差).そして,この流行病が喫煙という人類の嗜癖によって大部分説明できるという点でも奇異な疾患である.まさに今やその撲滅を急がなければならない疾患である1,2).しかしこの大きなうねりは一朝一夕では潰れない.その対策は科学的次元から社会・文化的さらには政治・行政的次元にまで広げなければ果たしえない種類のものである.

肺がん集検の現況と課題—地域・職域・特定集団集検

著者: 沢村献児

ページ範囲:P.161 - P.167

 日本人の死因は,昭和56年に悪性新生物が脳血管疾患を追い抜いて第1位となった.この悪性新生物死亡の中でも,従来第1位であった胃がん死亡の減少傾向が認められる中で,肺がんの棒上りの急増は,世界に類をみない勢いで進んでいる人口の高齢化とも相まって,早晩,胃がん死亡を上廻ることは確実視されており,必然的に肺がんに対する何らかの対策が取られることが要請されると考えられる.
 肺がんに対する第1次予防策としては,禁煙対策が徐々に取られつつあるが,その効果を期待するには程遠く,第2次予防策,即ち肺がんの早期発見,早期治療の有力な手段としての集団検診に期待がかけられている.

現状における肺がん臨床の基礎的問題点

著者: 山口豊 ,   木村秀樹 ,   岩井直路 ,   斉藤幸雄 ,   下山真彦 ,   田宮敬久

ページ範囲:P.168 - P.175

 昨年の厚生省の人口動態統計分析によれば,長らく死亡の主位の座を占めていた脳卒中を抜いて,がんによる死亡が死亡順位1位におどり出たという.がんによる死亡の中で肺がんの死亡は男性は胃がんに次いで2位,女性では胃がん,子宮がんに次いで3位を占めている.しかし肺がんによる死亡数は年々確実に増加しており,推計学的には近い将来に胃がんのそれを凌駕するといわれている.
 肺がんの研究や診療が本格的に行われるようになったのはこの20年間位のことであるが,その進歩にはめざましいものがある.しかしその反面,その治療成績は必ずしも満足すべき向上がみられているとはいえない.胃がんや子宮がんが罹患例数が多いのにその治療成績が向上してきているのは,胃がん・子宮がんに対する集団検診を中心とした診断体系が国の行政の中である程度確立されてきていることにほかならない.肺がんではその罹患数も確実に増加しているが,死亡数もそれに比例して増加してきている.胃がんや子宮がんがその診断体系の中で早期例を数多く発見することができ,かつ治すことができるようになってきているのに,肺がんの死亡数が多いということは,それだけ治るがんが少ないことを示している.われわれは近年集学的治療による治療成績向上のための対策の開発,考案の努力を懸命に重ねてきているが,これらの治療は延命効果を僅かではあるが期待し得るようになってきている.

産業保健領域における肺がん対策について

著者: 島正吾

ページ範囲:P.176 - P.183

■産業保健領域における肺がん対策の必要性とその背景要因について
 近時,わが国の産業保健領域における肺がん対策は,従来から労働者の日常診療の場や,或るいは一般的な健康診断,健康管理の中での1コマとして,それなりの対応や努力がみられている.しかしこれらの肺がん対策の多くは,これまでの結核対策や職業病対策のあり方とは異なって,どちらかといえば個々の対策や方法論について,目的・意識が明確にされないままに,健診や管理的実務だけが先行しているのが実情といえよう.
 今日,産業保健の問題として肺がん対策を考えるとき,そこにはいくつかの背景要因と実践上の問題点が存在する.

生活環境,特に環境空気中の発がん関連物質について

著者: 松下秀鶴

ページ範囲:P.184 - P.191

 今日ほどがんに対する社会的関心が高まり,がん撲滅への要望が高まっている時代はないと思われる.諸種のがんのうち,われわれ日本人にとって重要なものは胃がんと肺がんである.特に後者は年々死亡率が急増しつつあり,それほど遠くない時期に胃がんを追い抜き,死亡率第1位となるものと推定されている.肺がん死亡率の増大は日本だけでなく世界主要国において広く認められている.この死亡率増大の原因には診断技術の向上や老齢人口の増大などの見掛けの増大も一部関与するが,その主因は環境発がん関連物質であると考えられている.
 発がん関連物質は,食物や水の摂取や空気の吸入により体内に侵入するほか,喫煙によっても侵入する.これらはすべて肺がんと関係があるが,特に強い関係があるのは空気の吸入および喫煙に伴う発がん関連物質であろう.そこでここでは,まず空気,特に環境大気中の発がん関連物質についてのべ,紙数の許すかぎり喫煙に伴う発がん関連物質についてのべることにする.

発言あり

老人保健法

ページ範囲:P.129 - P.131

高齢者への尊敬をもって遂行したい
 官僚が国の弱体な層を救済するための法律を起案する.国会は法に依る財政上のメリットを認めて成立させる.法律は国民の一部に福祉を保証するが,他の一部には犠性を負荷する.誰が本当にしあわせになり得て,その負担を別の誰がになうのか? 行財政改革の時代に厚生省ではこの法律担当の部局が増えて,従来までは福祉だ,医療だ,公衆衛生だとわかれていた行政を整理統合して1本となし,市町村自治体に対しては中央集権体制を確立させ,医療に関しては財政支出を節約し,更に医政についてのイニシアチーブをとるというのが真相ではなかろうか? さらに将来は,この法を突破口として健康保険そのものを強く統制する狙いがあるように考えられる.問題は,そういうことで,果たして老人の,そして国民のヘルスについてのしあわせが期待出来るか,ということである.
 たとえば,保健所運営協議会のように民主的運営を審議推進するための制度も,自助や自治の心の根づかぬ地域ではセレモニーとしての存在でしかない.老人保健法による事業を何気なく受けとり,何気なく実施していると,自治体の財政がおびやかされるか,さもなくばベルトコンベア・システムのお粗末集団検診が実施されて,しかも地域医師会は必要のないエネルギー消費を強制される,ということになりかねない.

調査報告

山菜と誤ってトリカブトを食べた急性中毒の2症例

著者: 彦坂直道

ページ範囲:P.192 - P.195

 トリカブトは,アコニチン等の猛毒のアルカロイドを含む毒草として知られているが,筆者は最近,これを山菜の「モミジガサ」(山菜名は,シドキ,シドケ,キノシタ,トウキチ,などとなっている)と間違って食べて急性中毒をおこした2症例を経験した.「最近の山菜ブームの中で,あまり経験のない人が,不確かな知識で山菜とりをして,あぶなく生命を落とすところであった事件」として,新聞,テレビ等で報道され,かなりの反響のあった事件であるが,筆者の知る限りでは,こういう誤食例は伝聞としてあるだけで,記載された症例がないため,貴重な資料になると考え報告する.

日本列島

麻薬,覚せい剤禍撲滅沖縄大会開かる

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.138 - P.138

沖縄
 「麻薬,覚せい剤の乱用や,売春,性病は個人の心身をむしばむばかりか,各種犯罪を増加させているが,その恐ろしさを1人ひとりが認識して,みんなでこれに立ち向かう態勢をつくろう」という狙いをもって,10月23日沖縄市で「麻薬,覚せい剤禍撲滅,三悪追放国民運動沖縄大会」(主催・厚生省,沖縄県,協賛・沖縄市,県医師会,県歯科医師会,県薬剤師会,県婦連,琉球新報社など)が開催された.
 大会では森下元厚生大臣(代理持永和見厚生省薬務局長)が「麻薬,覚せい剤事犯が増加しつつあり,サラリーマン,主婦層,学生にまで覚せい剤がはびこり,憂慮すべき事態である.撲滅するには関係機関は勿論,国民の協力を得なければ実現できない」と呼びかけた.

県民の受療状況について

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.183 - P.183

沖縄
 沖縄で国民健康保険制度などの各種社会保険制度が全面的に施行されたのは,昭和47年5月15日に沖縄が日本復帰してからであった.
 日本復帰前,沖縄の医療保険は事業の種類を問わず5人以上の従業員を有する全事業所を適用対象とし,医療給付も現金給付であった.またこの制度では当時の人口の約1/2程度がカバーされていたにすぎず,残りの1/2は何等の医療保険制度もなく,生活保護患者,結核,性病,精神病または法定伝染病の患者であって公立病院または保健所で受療する場合を除き,すべて医療費は自己負担であった.したがって軽い病気の場合は売薬に頼る者も多く,受療率は低かった.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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