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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生47巻4号

1983年04月発行

雑誌目次

特集 ウイルス感染症

感染症とその病原ウイルス

著者: 川名林治

ページ範囲:P.200 - P.206

 近年の臨床ウイルス学の進歩は,感染症とその病原ウイルスとの関連を明らかにしてきた.
 従来,ウイルス感染症については,インフルエンザ,麻疹,水痘のように比較的臨床症状が定型的なものは,一般に臨床診断が容易とされてきたが,呼吸器ウイルス感染症にせよウイルス性発疹症にせよ,その病原がきわめて多種であることから,病原診断なしでは確診は困難であることが判明してきている.

肝炎ウイルス感染症の現況

著者: 西岡久壽彌

ページ範囲:P.207 - P.212

■肝炎ウイルスの位置づけ
 肝炎ウイルスにはA型肝炎ウイルス(HAV)とB型肝炎ウイルス(HBV)があるのは周知の事実である.
 HAVは,Picorna(Pico=小さなRNA)ウイルス科でPolioなどと同じenterovirus(腸内ウイルス)群に属し,その分類名の示す通り,感染経路はヒトの腸管内容の経口感染(Faecal Transmissionによる.

A型肝炎の疫学と臨床

著者: 佐藤明 ,   市田文弘

ページ範囲:P.213 - P.218

 A型肝炎の歴史は古く,紀元前5世紀ヒポクラテスが流行性黄疸を第4の黄疸とよんで他の黄疸と区別していた頃に始まり1),今日に至るまでしばしば流行や集団発生をみているが,中でも戦争中の軍隊内におけるものは人々に「軍隊の黄疸」,「兵士の黄疸」といわれて怖れられていた2)
 今世紀に入り本疾患がウイルスによるものと考えられるようになり,ヒト血清成分接種により発病する血清肝炎とは区別され,流行性肝炎とよばれるようになった.1941年の弘,田坂ら3)をはじめとするいくつかの接種実験の後,MacCallumが流行性肝炎をA型肝炎,血清肝炎をB型肝炎と命名4)したのが今日の呼び名になっている.

B型肝炎ウイルス感染とその予防対策

著者: 大林明

ページ範囲:P.219 - P.225

■はじめに
 Blumbergのオーストラリア抗原(HBs抗原)の発見から10数年を経過したが,この間にB型肝炎ウイルス(HBV)の本態,特性は完全に解明され,これの感染疫学や,これによっておこる疾患の臨床,病理もほぼ体系づけられた.そして現在では感染予防と治療法の確立に研究の精力がそそがれている.
 わが国ではHBV感染予防対策として1972年より献血者のHBs抗原スクリーニングが施行された.引続いて東京都はB型肝炎対策委員会を結成して,医療機関内感染の予防を立案・実行した.そしてその成果をふまえて,厚生省肝炎研究推進委員会は「B型肝炎医療機関内感染対策ガイドライン」を作製して(1980),これが全国的に普及,徹底するよう努力している.

非A非B型肝炎の臨床と予防

著者: 古田精市 ,   赤羽賢浩 ,   野村元積

ページ範囲:P.226 - P.231

 A型肝炎およびB型肝炎の血清免疫学的診断法が確立されるに伴って,輸血後肝炎あるいは散発性肝炎の中には両者いずれの肝炎ウイルスにもよらないウイルス肝炎のあることがわかってきた.これらの肝炎ウイルス群に起因する肝炎を総称して非A非B型肝炎と呼んでいる.非A非B型肝炎には,経口感染で発症し一部遷延例があるものの一過性感染で終わるA型肝炎類似の流行性肝炎型と,主として非経口感染し,個体の免疫能の程度によっては持続性感染になる場合がある血清肝炎型とがある.そしてその状態の一部は慢性肝炎となる.
 前者は1955年〜1956年にインドのDelhiで大流行した肝炎1)や,Khurooより報告2)されたKashimir溪谷での肝炎等が代表的でいずれも水系感染が強く示唆されている.後者はチンパンジー接種実験でcross challenge testから少なくとも免疫学的に異なる2種類のウイルスが存在することがわかっている.

遅発性ウイルス感染症

著者: 甲野禮作

ページ範囲:P.232 - P.235

■遅発性ウイルス感染(症)とか何か
 そもそも遅発性ウイルス感染(症)はアイスランドの獣医学者ビヨルン・サイガードソン(Bjorn Sigurdsson)が1954年に提唱したもので,彼は次の5条件を満たす感染をそのようにいったのである.
 (1)数ヵ月から数年に及ぶ長い潜伏期の後に,(2)徐々に発病し,(3)規則正しい遷延性進行性の経過をとり,(4)予後の悪い病気で,(5)その感染は単一種の宿主に限られ,しかも一種の組織または器官に限られて起こるというものであった.今日でもこの定義はおおむね妥当であるが,(5)の条件は普通除かれている.遅発性感染というとき,潜伏期の異常な長さに重点がおかれているのがユニークな点である.サイガードソンはアイスランドにあるヒツジの病気Visna-Maediの研究中,これらの病気は従来の感染症と異なり,遅発性感染という新しいカテゴリーに属するものだとした.

新しい小児ウイルス感染症の疫学と臨床

著者: 木村三生夫

ページ範囲:P.236 - P.240

 小児の重篤な伝染病の減少に伴って,これまで問題とならなかったような比較的軽症の疾患が日常の臨床に関連をもつようになってきている.そのなかには,手足口病や急性出血性結膜炎のような,全く新しく登場してきた感染症があり,伝染性紅斑のように,古くからあった疾病が,大流行を起こして大きな関心を呼んだものもあり,乳児嘔吐下痢症のように,ウイルスが発見されて,その実態が明らかになりつつあるものもある.厚生省は昭和56年7月から感染症サーベイランス事業を開始したが,それによって,これらの疾病の動向が次第に明らかになっているので,本稿では,そのうちの幾つかの疾病をとりあげて解説することとしたい.

古典的な小児ウイルス感染症の最近の動向

著者: 中尾亨

ページ範囲:P.241 - P.247

 小児における感染症の変貌は,最近とくに著しく,ウイルス感染症においてもこのことは顕著である.この背景には,社会経済上の環境の向上のほかに,ワクチンの開発・普及が大きく影響していることは明らかである.種痘の徹底的接種により,世界から痘瘡が根絶されたという今世紀最大のトピックスがあることは予防医学における輝かしい結果であろう.
 本文においては,古典的な小児ウイルス感染症についての最近の動向について紹介する.

特別寄稿

公衆衛生学習40年

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.248 - P.261

 このたび私は7月1日付で25年間お世話になった国立公衆衛生院を退職させていただいた.思えば戦後の厚生省関係の勤務は30年を数え,これに太平洋戦争を含む軍務の期間等を加えると大学卒業後42年余を公務に従事してきたこととなる.それで私個人としては,この辺で自由人となって,戦後の日本の公衆衛生の経験を活かして東南アジア諸国などのプライマリ・ヘルスケアの推進に役立ちたいと考えていたところ,人生航路は思うにまかせず,突然にも埼玉県立衛生短期大学の強い要請によって学長に迎えられ,その後,地域の保健医療の人材養成に微力を尽している.
 私は昭和15(1940)年3月大阪大学医学部を卒業し,当初外科医を志望して第1外科教室に入局した.しかし,その直後から短期現役の海軍軍医として,大戦をはさみ約6年間を従軍,幸い生き残って祖国に復員の後は考えるところあって公衆衛生に転向し,爾来今日まで40年近く,一貫して公衆衛生の実践,行政,教育,研究にとりくんできた.周知のとおりこの40年は,日本社会にとっては激動につぐ激動の時期であり,当然ながら公衆衛生にとっても浮沈の激しい時期であった.

発言あり

医薬品の製造承認制度

ページ範囲:P.197 - P.199

製薬会社の国営化が解決の糸口に?
 医薬品の製造承認制度とはどういったものかは,法律的にも,その実情もよく分らないけれど,わが国のいわゆる制度というもののすべてがそうであるように,その制度の運営はいいかげんなものであって,制度は,あくまでも建て前で必ず裏があるということを改めて立証してくれたのが,今度の"日本ケミファ事件"であろう.
 昨今の新薬合戦はすさまじい夜が明けると新薬が一つ誕生するというほどで,特に抗生剤,降圧剤,そして問題になった,鎮痛抗炎症剤が際立って多い.社会の高齢化に比例して増加している腰痛,関節痛等を伴った疾患群に敏感に対応した製薬メーカーの動きそのものである.資本主義社会である以上競争して売り上げを伸ばし,もうけなければならないわけで,くすりとて例外ではない.もうけのために手段を選ばないのが,資本主義の本質であり常套である.今度のことが内部告発によったかどうかは審らかではないが,たまたま,ケミファが槍玉に上がったということである.厚生省と製薬メーカーとの癒着,製薬メーカーと研究者間の癒着が,当然のように罷り通っていたことに対する警鐘として,これらの癒着が根絶されれば甚だ結構なことだが,製薬メーカーが乱立し,新薬の開発に血道を上げ,販売合戦に鎬を削っている現状では,まず期待することは無理であろう.

本の紹介

—福井作蔵ほか編—『生活微生物学』

著者: 豊川裕之

ページ範囲:P.247 - P.247

 本書は,これまでとかく基礎医学の堅苦しい領域の学問として印象づけられて来た微生物学を,日常生活の場まで近づけて解説した,意欲的で分かり易い微生物学入門書である.文章も平易にする工夫の跡が見られるが,何よりも興味を惹くのは編集上の配慮であろう.そのことは端的には章の建て方に見出される.
 第一章の「生活微生物学とは」は扉として微生物の重要性を気付かせる内容であり,第2章以下は「天然食品の保存・流通と微生物」,「加工食品と微生物」,「食生活と微生物I(家庭発酵食品)」,「食生活と微生物II(調理環境と微生物)」,そして「社会生活と微生物」,「生活プロセスに由来する環境の異常とその正常化」の各章で食品衛生,微生物の活用等を生活の実際面に即して述べており,次いで「健康の維持と微生物」では微生物による疾病や医療品としての抗生物質などに触れ臨床医学的な領域についても説明している.さらに,この本の特色を形成することであるが,「文化と徴生物」の章の内容はおもしろい.酒や末来食の展望,エアコンと微生物,藍染め,文化財の保存,プラスチックと微生物,そして分子生物学と微生物など医学者にとっても教えられることが盛りだくさんである.このような内容の後に,本書としては最終コースに,初めて「微生物学の概要」(第10章)が登場する.

日本列島

若年者心疾患対策協議会

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.212 - P.212

岐阜
 58年1月岐阜市において,第15回若年者心疾患対策協議会総会が開催された.本協議会は,西日本を中心として毎年総会と研究会が行われており,学校保健分野の専門家を中心とした会となっている.
 本総会では,地元の河合県医師会長が総会長となり,総会長講演「岐阜県における児童・生徒の心臓検診について」,地元関係者からなるパネルディスカッション「岐阜県の若年者心疾患管理の問題点」,渡辺岐阜歯大助教授の特別発言「スポーツと心臓」,森島根医大教授の講演「心疾患と運動負荷」,大阪府立成人病センターその他の専門医からなるシンポジウム「若年者の突然死をおこしやすい心疾患について」等が催された.400席余の会場は地元の学校関係者や全国の学校医等で満席となり盛況をきわめた.

地域医療確保プロジェクトチームの発足

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.218 - P.218

北海道
 北海道としては,医師が辺地に勤務しやすい条件整備を具体化して,本道における医療過疎問題を解決したいと念願していたが,この程堂垣内知事が,市町村,道内の3医科大学及び学識経験者に呼びかけて,表記のプロジェクトチームを設置し,昭和58年2月2日に第1回会議が開催された.
 そのチームのメンバーは,北大医学部,旭川医大,札幌医大,道医師会,道市長会,道町村会,道商工会議所連合会,道拓殖銀行となっているが,チームリーダーは北大病院長松野誠夫氏が選ばれた.

健康づくりと健康機器および健康食について

著者: 堤隆信

ページ範囲:P.225 - P.225

兵庫
 健康づくり運動が,年毎に盛況になっていることは,成人病が積年の,非健康的なくらし方によって起因するものであることを思う時,きわめて好ましいことである.そして,健康づくり運動に呼応するように,健康問題を中心とした,雑誌が数多く発行され,多くの読者をかかえる現状にあること,また新聞の家庭欄,日曜版には,多くのスペースを健康教育にあてている現況にあることは,それだけ,健康・治療需要が高まっていることにほかならないと思う.
 そして,これらの記事のとらえ方に共通していることは,「年齢とくらし」を基盤としたとらえ方を行っていることである.

岡山県母子衛生学会の設立とその背景について

著者: 堤隆信

ページ範囲:P.261 - P.261

岡山
 保健衛生水準を測る値のひとつとして,乳児死亡率・新生児死亡率・周産期死亡率が用いられることは,周知のとおりである.
 厚生省統計情報部は,毎年人口動態統計結果を発表するが,この中に各都道府県・政令市・特別区の人口動態数とそれぞれに対応する率を発表する.この数値と率は,当該自治体関係者にとっては,当該年の保健医療活動の評価にもつながることなどから,興味を寄せる指標のひとつである.

痴呆性老人の実態調査公表さる

著者: 堤隆信

ページ範囲:P.264 - P.265

埼玉
 高齢化社会の到来をひかえて,国及び地方公共団体では,その対応施策について種々検討が行われていることは時の要請であるが,これまで,高齢者全体に対する健康・福祉の現状についての調査は,多くの事例があった.
 しかし,痴呆性老人という,これまで問題になっていながらその概念規定のむずかしさと実態把握のむずかしさから,高齢者対策における緊急性をもつ痴呆性老人の実態については,これまで小地域での調査が試みられているものの,全県的に調査が実施された例は稀である.私が知る限りでは55年度に東京都が,56年度に山梨県が在宅60歳以上133千人を,また57年度に群馬県が在宅65歳以上193千人を,長野県が65歳以上260千人を対象に実施している.

北海道難病センター開館

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.265 - P.265

北海道
 北海道に住み,難病に脳む人々が久しく待望していた難病センターがこの程完成し,昭和58年1月11日に落成記念式典が行われた.
 場所は札幌市中央区南4条西10丁目(電話011-512-3233)の道有地で,1,214.74m2,建物は鉄筋コンクリート3階建,延床面積954.94m2,総工費約3億9千万円という建物である.

小さな村への大きな賞—西粟倉村からの報告

著者: 堤隆信

ページ範囲:P.266 - P.267

岡山
 保健文化賞は,敗戦後やっとわが国民が立ちなおろうとした昭和24年に創設され,今年で34回目を迎えたが,この賞の創設当時のことを書いた書物をみると「我が国の復興には,まず国民の保健衛生の向上を図ることが重要である.特に,農村における保健衛生の向上を図ることが,緊急の課題である.保健衛生上輝かしい業績を残した自治体・団体等を顕彰することによって,受賞団体等から,他の団体等へ,この活動が波及し,やがて,その圏域全体の保健衛生の向上が図られ,地域社会の文化の復興,隆盛につながるのである」との思いが込められていたようである.
 このような創設当時の書物を知っていた私にとって,去る10月16日に開催された"第34回保健文化賞受賞記念・第4回西粟倉村健康づくり推進大会"に出席した時,「西粟倉村民にとって健康の価値が,村民の無形の文化的財産であるのだ」.という思いにかられた.

へき地中核病院と地域との連携

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.267 - P.267

岐阜
 昭和50年度にへき地中核病院制度が創設されて以来,全国で百数十の病院が指定を受け活動しているが,岐阜県では7病院が活動している.7病院のうち,へき地診療所の多くを抱えている高山日赤病院では,毎年関係者と定期会議をもち,へき地医療活動の推進をはかっている.昭和57年度の会議は1月に実施され,飛騨南部の大野郡8町村の町村長や診療所医師をはじめ高山保健所,県衛生部等の関係者を招いて催された.
 岐阜府下では無医地区やへき地診療所の最も多い地域であるが,中でも大野郡下の町村は全般的に山間部に位置し,財政基盤も脆弱である.医療機関もほとんどが公立診療所であり,医師確保にいつも悩みをもっている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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