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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生47巻7号

1983年07月発行

雑誌目次

特集 アジア地域における職業保健

労働衛生におけるアジア諸国との協力

著者: 小木和孝

ページ範囲:P.404 - P.409

■はじめに
 労働衛生分野でのアジア各国間の交流がようやく活発になりだした.会議や人の往き来だけでなく,具体的な問題解決をテーマにした協力が,すこしずつつながらはじまったのが,今までとちがう点のように思われる.労働衛生事情は,国によって大きくちがうが,こうした現場レベルでの技術協力がすすんで,問題の質はたがいにほとんど似ていて悩みは共通していることがわかってきたようだ.
 ただ,日本とこれらアジア各国との交流にかぎっていうと,まだまだの感がする.日本のがわがアジア各国の実情を知らなさすぎるし,アジア各国のがわにも日本の今の労働衛生技術の展開が知られていない.これからもっと協力の輪が広がっていってほしい.そのためには,おたがいの問題を知りあうことがまず必要だと考えられる.

アジア諸国等発展途上国に対する安全衛生に関する国際協力

著者: 冨田達夫

ページ範囲:P.410 - P.415

 アジア諸国等発展途上国における安全衛生に関する関心は,ここ数年来,各国の工業化の急速な進展にともない,非常に高まりつつあります.1982年,シンガポールにおいて開催された「第10回アジア職業保健会議」における討議にも,労働衛生の関心の高まりがあらわれていますし,また,隔年開催されています「アジア太平洋労働大臣会議」においては,1980年のマニラにおける同労働大臣会議では,1974年から日本で実施されているアジア諸国等発展途上国に対する「労働安全衛生行政セミナー」で,労働衛生についての総合的セミナーの開催の要望が強く出され,また,1983年1月,東京で開催された同労働大臣会議では,「労働災害の防止とリハビリテーション(地域内技術協力を含む)」をメインテーマとして分科会で取り上げ,活発な討議が行われました.
 このように,アジア諸国等発展途上国における安全衛生問題に対する取り組みは,目を見張るものがあります.

Occupational Health in Asian Countries—With special reference to the Asian Association of Occupational Health and 10th Asian Conference on Occupational Health

著者: 潘恵安

ページ範囲:P.416 - P.421

 The 10 th Asian Conference on Occupational Health was sponsored by the Asian Association of Occupational Health and organized by the Society of Occupational Medicine and the National Safety Council, both of Singapore.

第10回アジア労働衛生会議に参加して

著者: 渡辺孝男

ページ範囲:P.422 - P.424

 1982年9月5日から10日まで,シンガポールにおいて開催された第10回アジア労働衛生会議への参加は,私としては1976年東京での第8回,1979年韓国のソウルでの第9回に続いて,第3回目である.アジア労働衛生会議は,労働科学研究所初代所長暉峻義等博士の努力により,アジア地域の労働者の,健康と生活の向上を目的に,国際的な情報交換と学術研究の交流と協力のための場として組織され,1956年に,ビルマ・インド・インドネシア・中国・フィリピン・タイ・日本の7ヵ国が参加して第1回会議が東京で開催された.以後,3年毎にアジア各地域で開催されてきており,26年の長い歴史を持っている.会議の企画運営は,開催国の組織委員会が独自に責任を持って行うもので,会議の内容にはその時々のアジア各地域の,今日的な労働衛生活動の理念や実態,また直面する問題等が多分に反映される.
 私にとってこれが3度目のアジア労働衛生会議への参加とは言っても,その組織や運営活動状況等について断片的というよりも,ほとんど知らないに等しく,また実際にアジア地域での労働衛生活動に従事した経験もないので底の浅い,的を得ていない雑感記になるのではといささか心細い限りである.

アジア地域における産業保健の歴史的発展と将来的展望

著者: 山口誠哉

ページ範囲:P.425 - P.430

■世界経済の中のアジア
 生活,社会経済,医療,健康水準からみたアジア諸国は,すでに過去幾世紀かの歴史的回顧によってみても,世界各国のそれと比較して決して高いものではなかった.
 近くは,1966年12月3日付の朝日新聞の特集記事として「食糧不足に悩むアジア諸国」なる解説が掲載され,多くの日本人にショックを与えた.17年も前のことであるから,1983年の現状とは異なるが,この記事を再現して新たに現在の日本とアジアの現状をみるとき,再び,強烈な衝撃を受けざるを得ないであろう.

アジア地域における職業病研究の現状—音,振動,その他の物理的要因によるもの

著者: 野原聖一 ,   岡田晃

ページ範囲:P.431 - P.434

■はじめに
 物理的要因として,温熱条件,電離放射線,非電離放射線,気圧,騒音,振動などが挙げられるが,これらの諸要因は健康障害の発生要因として,他のアジア諸国においても重要な問題となってきている.しかしながら,アジア各国の工業化の程度により,それぞれが抱えている問題には大きな開きがあるはずであり,また各国研究者の発表への熱意にも差があるようで,今回の当テーマに関しては,アジア産業保健会議の発表をみるだけではとてもその全体を網羅しているとは考えられないのが実情である.
 第10回の会議での一般演題の総数は94題であり,うち当テーマに関連のあったのはセッションA「物理的要因による健康障害とそのコントロール」の13題で,これらの演題は学会第1日目の1982年9月6日14時15分から17時の間に発表された.

アジア地域における職業病研究の現状—有機溶剤によるもの

著者: 竹内康浩

ページ範囲:P.435 - P.440

■はじめに
 日本以外のアジア諸国からの,有機溶剤による健康障害に関する研究報告は,きわめて少ない.いずれの国でも工業化の努力が続けられており,工業的に有機溶剤の使用も増加し,暴露される労働者も増えつつあることが推測される.従って,数少ない発表資料や個人的な経験から現状を管見し,今後の一層の現状把握や,研究交流のための参考に供したい.
 資料としては,論文として発表されたもの,アジア労働衛生会議で発表されたもの,および個人的な見聞をもとに概観する.

アジア地域における職業病研究の現状—金属中毒について

著者: 鈴木継美

ページ範囲:P.441 - P.444

■はじめに
 アジアの各国における金属中毒研究の現況を完全に紹介することは,不可能に近い.私の手に集められる情報は,最近の国際会議(特にアジアでの)に発表されたもの,雑誌に掲載されたもの,あるいは個人的な情報交換によってえられたものなどに限定される.その為に本稿はごく狭い窓を通して外を覗いてみた結果を紹介するに止まる.初めに読者の皆様の御寛容をお願いしたい.

アジアにおける人間工学の動向と職業保健

著者: 青山英康

ページ範囲:P.445 - P.449

■はじめに
 職業保健の分野に限らず,今日学問のみならず技術や情報の国際交流が,極めて盛んになった.しかし,明治維新,そして第二次世界大戦以後においても,一貫した我が国の交流の態様は,先進欧米諸国の成果を一方的に導入する「追いつけ,追い越せ」であり,「交流」とは言え難い内容であった.その裏返しが「頭脳流出」であり,今日の国際化した情況での新しい「交流」のあり方が問われていると考えられる.
 その意味で,最近の労働衛生,とくにHuman ergonomicsの分野での東南アジアにおける地域的な学術交流の振興には,新しい方向性が認められる.

特別企画 座談会

世界の医療と日本の今後の役割—先進国および開発途上国では今なにが進行しているか

著者: 杉村隆 ,   中嶋宏 ,   桜井靖久 ,   大谷藤郎

ページ範囲:P.450 - P.462

 大谷(司会) 前にぼくが「医療の未来像」という本を翻訳して出したとき,杉村先生と桜井先生にお願いして座談会やりましたが,なかなか印象的でした.今日はWHOの中嶋さんもおられますので.これからの健康,疾病問題がどのように推移するのか,また,どのように対処したらいいものかといったことについて,お話をうかがいたいと思います.
 初めにわが国あるいは世界の健康とか疾病の現状と将来像について,うかがいたいわけです.高齢化社会の到来で,21世紀には2千万人もの老人を抱えたわが国は,世界一の長寿国となるわけで,これがいちばんわれわれにとっては大きい課題ですが,こういったことに関連して現在の病気の対応から将来へ向けて,桜井先生からいかがでしょうか.

発言あり

校内暴力

著者: 井上一男 ,   加美山茂利 ,   川田素子 ,   寺田一郎 ,   務中昌己

ページ範囲:P.401 - P.403

優しさと思いやり,言葉は同じでも
 最近の社会現象,意見調査,若者の考え方等をみていると,現代の人間関係において最も大切なことは"優しさ""思いやり"のようである.それは過去においても同じであったろうが,その内容が異なるようである.
 われわれの職場でも,子供の頃から両親や学校の先生に叱られたことがなく,恐いものを知らずに育った職員がふえ,仕事上のミスで上司に注意されたり,叱られたりすると無気力になったり,逆に上司が親切に教えてくれなかったから悪い,と強く抵抗したりすることが多くなったので,部下を叱る上司が少なくなったし,部下が困っていると直ちに手伝ってやる上司が多くなってきた.職場の上司は大変優しい存在になってきたのである.

研究

循環器健診における血清脂質—スクリーニングレベルと食事の影響

著者: 岡本祥成

ページ範囲:P.463 - P.465

 岐阜県の中央部に位置するM町は,27.36 km2,人口6,604人(昭和55年)で,零細農業地域であると同時に,縫製・刃物・鋳物・木工等の零細企業・家内労働の多い地域である1)
 かかる地域で毎年夏に,S保健所の協力を得て,住民の循環器健診(以下住健と略す)を実施している.そして,昭和54年から試行的に,第1次住健に血清脂質—総コレステロール(以下T. Cと略す),中性脂肪(以下T. Gと略す),HDL-コレステロール—の測定を導入した.住健の受診者のうち,採血対象者を中高年齢者に限定して行なわれたわけだが,採血予定者は千名を越える数となった.従って,採血予定者全員が完全空腹で採血に応じることはきわめて困難であり,摂食による測定値への影響が,スクリーニングレベルの変動をもたらせたり,集団の評価を困難にすることは容易に考えられる.そこで,血清脂質の測定値の評価に関する基礎的考察を加えるべく調査を行なった.そのうち今回は,T. CとT. Gについて報告する.

日本列島

校内暴力による死亡事故

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.467 - P.467

岐阜
 昭和58年度各学校が新学期に入って間もなくの4月中旬,岐阜県内の1私立高校でショッキングな事故が発生した.入学したばかりの新入生の1人が寮内において上級生のしごきを受け,十二指腸の破裂を来たし腹膜炎で急死したものである.新聞紙上では,寮内の暴力に無関心であったことと,しごきのあと24時間近くの後まで放置されていたことで学校側の管理責任が問題とされていた.
 この私立高校は野球部が甲子園に何回か出場しており,駅伝や他の各種スポーツにおいても東海地方大会,あるいは全国大会等でよく知られた学校である.各種の運動部毎に寮が設置されてもいるが,今回の事故は一般寮で起った.入学生は岐阜県だけでなく近県から多数来ており,スポーツに堪能なものが多い.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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