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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生47巻8号

1983年08月発行

雑誌目次

特集 地域社会と医師会

地域医療の歴史的変遷と医師会の成立

著者: 矢野享

ページ範囲:P.472 - P.477

■はじめに
 医療の本質は,あくまで"man to man"が原則であり,個対個,即ち,医療を与える側と,医療を受ける側との「人間関係」を基盤として成立する.
 この人間関係が損われたり,不充分であったりすると,医療行為が時にその目的に反して,お互いに対する凶器にも変貌する.

地域社会と医師会活動

著者: 右近文三

ページ範囲:P.478 - P.483

■地域社会における医師会活動
 地域社会における医師会活動としては,地域保健活動の推進と地域医療の充実があげられる.
 地域保健活動とは,健康と疾病の背後にある地域社会1)の条件(後述,地域特性)を究明し,地域住民の健康を増進し,疾病から守る地域社会活動,と解釈している.これを広義に解釈すれば,学校保健活動と産業保健活動もこの中に含まれるが,産業保健活動は,ややもすれば,地域保健活動から離れたものになりやすい.しかし,地域保健活動を推進するためには,地域社会の各種保健情報を包括的に把握しなければ,プライマリ・ヘルス・ケアは実践出来ないと思う.

母子保健と医師会

著者: 畑啓一

ページ範囲:P.484 - P.488

■はじめに
 近年核家族化が進み,少産の傾向が顕著になり,かつての母子保健健診体系は質的転換を迫られ,すべての子供が身体的にも精神的にも健やかに育つよう,強く求められるようになった.小児保健においては,乳幼児発達神経学,出生前小児科学などの発達により,単なる身体的健診のみならず,発達神経学の知識を加味した,より高度の健康診査に発展しつつある.
 伝染病対策として予防接種が必要であるが,事故発生時のトラブルの急増のため,医師は安心して予防接種に従事しうる状況ではない.いかにして早期に,しかも安全に実施するか,その方法をめぐって各地で苦心している.

学校保健と医師会

著者: 尾木文之助

ページ範囲:P.489 - P.493

■医師会は学校保健をどう捉えているか
 日本医師会編の「医師のための学校保健」の冒頭に,医師会が学校保健をどう位置づけているかが,端的に示されているので引用する.「医師の天職は,治療医学や予防医学はもとより,健康増進やリハビリテーションを包含する,いわゆる包括医療を推進することによって,人の生命と健康を生涯を通じて守るという,国民それぞれの生涯保健を担当することである.現在の医療は,医師対患者1対1の関係から,医師対患者家族の関係,医師対地域厚生行政の関係,医師対地域保健の関係等多様化されており,しかもそれらは統合化された機能としての活動が要求されている」「医師がこのような天職を遂行するのに最も好都合な場は地域社会である」とした上で,「学校時代は生涯のうちでも,健康生活に必要な知識技術を身につけるのに最も適し,一生の健康の基礎が固まる時期であって,学校保健は生涯保健の中でも最も重視しなければならない一節である.」「また一面,児童・生徒自身からみても,彼等の生活時間のうち学校で過すのは,1日24時間の約1/3にすぎず,他の時間はすべて家庭及び家庭をとりまく地域社会で過す.

産業保健と医師会

著者: 池内光治

ページ範囲:P.494 - P.502

■産業医活動の反省
1.産業保健の重要性
 第2次世界大戦により,国土は徹底的に破壊され,資源は枯渇し,日本国民は敗戦により飢餓と絶望の渕におとし入れられた.しかし,日本国民は,敗戦の虚脱より立ち上り,産業立国,輸出立国をモットーとして労働力を充実し,GNP世界第2位の今日の隆盛を見ることが出来た.これは,日本人の優秀さ,勤勉さによるのではないだろうか.資源に恵まれない日本は,産業立国,輸出立国より他に生き残る道はなかったのである.戦後は,女性の職場進出が盛んとなり,現在,労働基準法の適用労働者数は,約3,800万人で全人口の約1/3である.これらの人々が働いて,日本の今日の繁栄をもたらしたのである.又,これらの働く人々が将来の日本の発展を支えねばならない.しかし,日本国民はGNP第2位での豊かさを謳歌した代りに意外な代償を払わされた.新しい化学物質による皮膚障害,中毒症状や悪性腫瘍の発生,運搬機械や振動工具の採用のためにもたらされた障害の発生,騒音による難聴等,思わざる代償を払わされているし,作業環境の改善がのぞまれる粉じん障害等,多数の問題を惹起した.生命の危険という代償を払って手にしたものは何であったろうか.労働者の生命と健康を守る必要性が再認識され,昭和47年に新しい労働安全衛生法が施行された.常時50名以上の労働者の働く事業場に産業医をおくことが規定され,産業医の職務が規定された.

老人保健法の保健事業と医師会

著者: 国見辰雄

ページ範囲:P.503 - P.508

 成人病を対象とする保健事業が,昭和58年2月から施行された老人保健法の保健事業によって体系化されたので,愛知県医師会の現況を中心として,これに取り組む考え方と現状について述べてみたい.

救急医療と医師会

著者: 布谷猛

ページ範囲:P.509 - P.517

■はじめに
 昭和57年11月1日,第35回日本医師会設立記念医学大会において,富山市医師会は,「救急医療体制の整備推進に著しい成果を挙げている医師会」として日医最高優功賞を受賞した.ここにあらためて,本誌上をお借りして関係各位の御協力に感謝を申し上げたい.
 富山市医師会の諸活動については,すでに昭和54年本誌第43巻12号に「全会員の参加による独特な活動を展開」という標題で発表したが,今回の受賞を機に,救急医療体制の現在に至るまでの経過を振り返ってみると共に,現在の体制の問題点を探り,将来への発展の手がかりとしたい.

長崎県救急医療財団と医師会活動

著者: 福井順

ページ範囲:P.518 - P.522

 地域需要に完全に対応する救急医療体制を整備することは,一つの理想である.
 長崎県救急医療財団は,昭和54年10月,その理想に一歩でも前進しようとする努力の積み重ねにより,全国で最初に県単位で設立された財団組織である.

発言あり

夏やせ

ページ範囲:P.469 - P.471

"夏やせ"今昔
 暑くなってくると,普通の健康体なら多少はやせるものだ,皮下脂肪の厚みを調節して,自然の気候に適応していくのは,生理機能の正常な働きである.夏と冬で2〜3kgの差があっても一向に差し支えない.問題はその程度で,限界をこえてやせると,夏マケ,夏バテということになる.成書によるとその防止策は①暑さに順応すること②適当な水分,塩分の補給③タンパク質,脂肪に富む食品,ビタミン類の補給④十分な休養,睡眠,特に昼寝の奨励などが挙げられている.
 ところで,手元の歳時記から"夏痩せ"を季語とする句を拾ってみると,"夏痩せて腕は金棒より重し","夏痩せの大き目の似て兄おとと","おもかげやその夏痩せの髪ゆたか"などというのがみえる.その昔,日本人の食生活が一汁一菜,質素をもって旨とした頃の夏やせのイメージには,これらの句からうかがわれる"げっそり"という感じがあった.もともと栄養状態のよくない体に,わが国特有の高温・多湿はひどくこたえたものである.

研究

最近の蟯虫感染の疫学的解析—石川県における調査成績をもとに

著者: 近藤力王至 ,   吉村裕之 ,   大西義博 ,   赤尾信明 ,   岡本敬 ,   高倉吉正

ページ範囲:P.523 - P.526

 ■はじめに
 近年,蛔虫,鞭虫,鉤虫などの一般寄生虫卵陽性者は減少の一途をたどり,現在全国的にみてその虫卵検出率は0.1%以下になった.これにくらべ現在でもなお5%台(日本寄生虫予防会:1982)の蟯虫卵検出率がみられ,ここ数年,増加しつつある傾向が指摘されている(藤井:1978,大西ら:1978,吉村ら:1980,1981,1982,神奈川県予防医学協会:1981).しかし,その実態ならびに疫学的背景については必ずしも充分には明らかにされていない.
 そこで著者らはここ数年来,石川県内各地の幼児,小学校児童を中心に,全県的な蟯虫感染状況の調査と検討を行なってきた.今回はこれらの成績をもとに蟯虫感染の疫学的解析および考察を行なったので,その概要を報告する.

調査報告

成人病の遺伝的要因力と環境的要因力—中高年齢双生児研究の概観

著者: 早川和生 ,   清水忠彦

ページ範囲:P.527 - P.534

Ⅰ.緒言
 人間の老化現象や中高年者の健康に関しては,一般に素因と環境要因の両面が問題になることが多い.老化や疾病に及ぼす環境面の影響を研究する場合遺伝要因が等しい一卵性双生児を利用する研究法は有力な方法と思われる.
 本報では,現在までに実施された諸家の中高年双生児の研究成果,特に悪性新生物,本態性高血圧,虚血性心疾患,老化現象,寿命などに関する過去の報告を総括検討してみたい.

某農村地区婦人の健康・労働に関する調査研究

著者: 岩田弘敏 ,   笠松隆洋 ,   宮下和久 ,   加藤道子

ページ範囲:P.535 - P.539

Ⅰ.はじめに
 全国的にみても農業従事者の過半数は婦人で占められている.その婦人たちは農業生産に従事するばかりでなく,家庭生活の中で家事などの大きな役割を担っている.近年,農業生産方法や家庭生活は機械化,電化などが進み,部分的改善がみとめられているが,一方,兼業化も進んで,それにともない婦人への農業労働負担が増し,婦人の健康上の問題も生じつつある現状にある1)
 和歌山県下のK町は昭和57年度に農村婦人等健康推進特別事業の1環としての1モデル地区に指定され,そこで健康調査が実施された.たまたま,その対象モデル地区が2つの小地区からなっていたため,その2つの小地区の特性を比較していたところ,健康状態に若干の差異がみられた.この健康状態の差異を導いた農作業生活,家庭生活の問題点はないものかと検討した結果,2,3の知見をえたので報告したい.

日本列島

日本人口学会開催される

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.477 - P.477

沖縄
 昭和58年4月21日から2日間の日程で,沖縄県浦添市内の沖縄県立医療福祉センターを会場にして,日本人口学会第35回大会が開かれた.
 初日は一般研究に続いて午後からは「高齢化社会における家族」をテーマにシンポジウムが行われ,小林和正氏(日本大学)を座長として,報告は,社会学の立場からは清水浩昭氏(厚生省人口問題研究所),栄養学の立場から尚弘子氏(琉球大学),経済学の面からは兼清弘之氏(亜細亜大学)の3氏が行い,その後活発な討論があった.

北海道地方精神衛生審議会答申について

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.483 - P.483

北海道
 北海道地方精神衛生審議会(会長・諏訪望)は,昭和42年,知事から,「北海道における精神衛生対策の推進方策」について4項目の諮問を受け,これまで,「精神衛生センターの設置」,「精神病院における医療従事者の充足対策」,「精神障害者の社会復帰を促進する方策」の3項目を答申しており,今回(58.2.16)が最終答申である.

家出少年発見保護強化月間終る

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.502 - P.502

沖縄
 沖縄県警察本部は昭和58年3月15日から4月14日までの1ヵ月間を,家出少年発見保護強化月間にして,少年保護に力を入れてきたが,この程,同本部は月間中のまとめを発表した.それによると月間中に発見保護された少年は96人で(57年同期は92人),その内訳をみると,中学生59人(男29人.女30人),高校生13人(男2人,女11人),小学生5人(全員女子),その他(各種学校)1人(男).一般少年18人(男7人,女11人)となっており,女子が57人で全体の59.4%を占めている.また発見された96人のうち,およそ3人に1人相当の31人は,保護者からの届け出もなかった.
 58年1月から4月14日までに警察に発見保護された家出少年は311人(57年同期は296人)で,保護されない少年を含めると,家出の件数はさらに多いであろうと推定される.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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