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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生47巻9号

1983年09月発行

雑誌目次

特集 思春期保健

思春期における心身の発達

著者: 林謙治

ページ範囲:P.544 - P.550

■はじめに
 最近のマスコミ報道をみると,1日とて思春期の逸脱行動に関する記事が紙面を賑わさない日はない.これらの事件が近年急増しているか否かの議論は別として,事件の内容はきわめてショッキングであり,大人の目にはあまりにも異様に映り理解し難いことばかりである.例えば中学生の浮浪者に対する集団暴行事件,あるいは生徒の暴力に怯えた「教師の登校拒否」など,以前ではおおよそ想像のつかないでき事がよく話題になる.
 従来,思春期の問題は学校保健の領域で取り扱われてきたが,最近の様々な問題の内容を検討すると,家庭のなかにすでに大きな欠陥を持っていることが背景となっている場合が少なくなく,したがって問題の責任をすべて学校に押しつけるのはいささか酷であろう.そういう意味で思春期保健へのアプローチは,学校をはじめ家庭,地域を含めた包括的なものでなければならないと考えられる.

地区の思春期保健講座

著者: 森満洲雄

ページ範囲:P.551 - P.555

 ■はじめに
 我が国においてはすでに各地区医師会活動として,性教育に関する研究や啓蒙活動が熱心になされておりますが,地域における活動状況には色々あります.今回は昭和56年度より実施された町田市主催,思春期保健講座について,その開催当初より推進に協力をしてきた町田市医師会の立場から,地域の関係諸機関協力による,地域思春期保健講座の一端を御報告いたします.
 町田市は首都圏のベッドタウンとして,近年急速に宅地開発や街づくりが進み,昭和33年当時は人口約6万の町村でしたが,現在はすでに人口30万を越す都市型となってきた所です.

10代の分娩—事例と統計的考察

著者: 玉田太朗 ,   佐藤泰一 ,   伊野田法子

ページ範囲:P.556 - P.563

 ■はじめに
 最近,性行動の若年化に伴って,若年妊娠・中絶・分娩がふえてきている.日本産婦人科学会思春期問題委員会では,昭和55年に10代妊娠850例を集計し,その社会心理的背景の分析結果を報告した.それによると70%が中絶に終っている.これについては避妊法を含めた性教育の必要性・具体化が痛感されたし,このような若い女性の中絶は,精神的ならびにその後の社会生活,母性の発達に悪影響を及ぼす可能性が強く示唆された.
 本稿では,16歳の妊娠中毒症の事例を最近経験したので,その症例報告を行うと共に,若年妊娠の残りの30%に相当する,分娩に伴う危険性についての最近の私どもの調査結果を加えて述べたい.

思春期の精神衛生

著者: 大原健士郎

ページ範囲:P.564 - P.568

 ■はじめに
 思春期は,各種精神病の初発時期であり,また神経症もこの時期に多く発現することが知られている.これは,著しい身体の発育とともに体液の不均衡から精神疾患の発病を促すこともあろうし,複雑な対人関係を中心として,成人社会からのストレスを直接うける機会が多くなったためでもあろう.それとともに,思春期の精神疾患では,教科書風な典型例に遭遇しない場合も多く,したがって治療面でも定石をふみ難いことも指摘されている.
 思春期の精神障害は,さまざまな社会病理現象の形をとって出現してくる.自殺,家庭内暴力,校内暴力,非行,登校拒否……などがそれである.また,心身症や思春期やせ症などの形で,精神科以外の診療科を受診する者も少なくない.もちろん,これらのすべてが精神障害の結果であると断言するつもりはない.しかも,これらの状態像に精神障害が多かれ少なかれ関与していることは想像に難くない.しかも,ここで注意しておかねばならないことは,登校拒否を例にとってみても,その背景はさまざまであり,精神医学的には,うつ病や精神分裂病がかくされていたり,神経症の結果であったり,あるいは精神医学的な問題よりも,家庭や学校の問題がより大きく関与していたりして,同質のものとばかりはいえず,そのため,対策もケース・バイ・ケースにたてられねばならないということである.

各国の思春期—見たまま感じたまま

著者: 佐藤ち江

ページ範囲:P.569 - P.574

 ■はじめに
 ヨーロッパの2〜3の国及びアメリカ,オーストラリヤ等で思春期の子ども達と触れ合う機会に恵まれたが,いずれも駈け足の旅行で,ほんの一部分を表面的に見たに過ぎない.その上,性教育にかかわるものとしてより,むしろ母親としての目で見て来た部分の方が多いようなので,この特集の意に沿うかどうか,不安を持ちながら筆を執ったものである.いずれにせよ私なりに,特に印象に残ったことを2〜3,見たまま感じたままに書き綴ったものであることを御了承の上,ご一読頂ければ幸いである.

思春期保健に関する基本統計資料

著者: 林謙治

ページ範囲:P.575 - P.581

座談会 思春期の性の実態と対策を考える

著者: 日向野美和子 ,   設楽英一 ,   中島貴美子 ,   沼賀まさ子 ,   江原香代子 ,   小平良貞 ,   箕輪真一

ページ範囲:P.582 - P.595

 箕輪(司会) 本日のテーマは,「思春期の性の実態と対策を考える」ということですが,全国的な話ではなく,高崎市という1つの地域性を踏まえて話し合いたいと思います.本日お集まりの皆さん方は,この地域の現場で,それぞれの立場で活躍されておられる方々ばかりです.まずはじめに現場の実態を披露してもらい,次に今後の対策などについて考えてみたいと思います.そこで,思春期を便宜的に小学校の高学年,5,6年生を思春期の前期,中学生を思春期の中期,高校生を思春期の後期と3つに分けて話を進めていきたいと思います.
 ご承知のとおり,性情報の氾濫とか,発育の早期化,それに伴う性成熟の若年化などが現場では問題になっております.また,社会的には性的な非行,ティーンエイジャーの妊娠や人工妊娠中絶なども問題になっております.これらは必ずしも現在の子供たちに要因があるのではなく,周りの環境が子供たちをそうさせたという面もあるわけで,子供たちは,ある意味においては,被害者であるという考え方もできます.

特別寄稿

有病老人の中間施設—施設ケアと在宅ケアの結節点として

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.596 - P.602

■はじめに—思い思いに描く中間施設論—
 昭和58年度から新たに設けられた「老人病院」を契機にして,病院からの老人退院勧奨と,退院できない患者の問題がクローズアップされてきた.東京都信愛病院には9年も病院に入院していて,社会的理由から退院できない老人のいることが,NHKテレビで放映された(昭和58年7月4日).精神病院ならいざ知らず,病院において9年の入院ということは,よその国では考えられないし,今までの日本の一般病院では極めて稀な長期入院の例である.それが昨今ふえ続けている.
 同時に,自宅で寝たきり老人や痴呆老人はとても見きれないの声も,家族の側からあがることが多くなってきた.病院からは早く退院せよ,在宅では不安で看護できない.といっても,近くにも遠くにも特別養護老人ホームはない.となれば,一体このふえ続ける老人の慢性患者や後遺症患者はどこへ行けばよいのであろうか.寝たきり老人あるいは寝たきりに近い病気で自立できない老人患者は,どこに救いの手を求めていけばよいであろうか.

講座

多変量解析法(その1)—外的基準のない場合

著者: 市川雅教 ,   柳井晴夫

ページ範囲:P.603 - P.610

■はじめに
 医学の進歩とともに感染症は激減し,それにかわってガンや心疾患などの,いわゆる成人病が死因の上位を占めるようになり,公衆衛生活動の重点も,こうした疾患に対応したものへと移ってきている.それらの疾患の発症の要因は単一なものではなく,気候・地域・食習慣・環境中汚染物質への暴露など,多くの要因が複雑に関与している.
 多変量解析法は,このような複雑な事象を解明するための一連の統計的手法の総称で,事象の多元的測定の結果得られるデータを分析して,(1)事象の構造の単純化(2)測定対象の分類(3)複数の項目の相互従属関係(4)ある事象に対する他の要因の影響の強さ等を分析する手法である.

発言あり

地震

ページ範囲:P.541 - P.543

予測の価値
 地震・雷・火事・親父(いまは子供?)とは恐いものの譬えであるが,親父の方はとっくの昔にランク落ちしてちっとも恐くない.いや,その分だけ子供たちの方が恐くなったという珍現象に悩まされている.
 さてそのトップに位する地震であるが,先般の「日本海中部地震」には改めて地震のもつ恐ろしさを知らされた.まさに虚をつかれた感がある.マグニチュード7.7という数字からだけでは,どんな激しい揺れ方をするのか経験のない私には想像もつかない.新聞に青森の十三湖河口を急襲した大津波の写真が載っていた.なまなましく息を飲む思いであった.果して翌日の新聞はこぞって「地震行政の見直しを」「地震への備えを忘れるな」と社説を掲げた.

日本列島

海洋汚染と沖縄

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.563 - P.563

沖縄
 この程,第11管区海上保安本部は,海洋汚染の状況についてまとめ発表した。それによると,海洋汚染件数は昭和54年91件,55年105件,56年97件,昭和57年1月から10月には59件で,56年同期の86件より減少している.この59件のうち油による汚染は48件で,その大半が外国船によるものであるが,違反として旗国に通報したのは19件(56年は34件)で,国別にはパナマ6件,リベリア5件,次いでノルウェー,韓国の順となっている.また送致は16件となっている.
 沖縄県は東西1,000キロメートル南北400キロメートルに及ぶ広大な海域に,160余の島々が散在している島群県である.有人島は41で,島々を囲む海は,その清らかな水質とサンゴ礁,そしてそこに棲む色とりどりの美しい熱帯魚等の生物を以て貴重な自然の宝とされ,また近年は重要な観光資源となり,毎年180万人余の観光客が,沖縄の青い海と空にひかれて沖縄を訪れている.

行政の立場からみたA型肝炎の流行

著者: 土屋真

ページ範囲:P.574 - P.574

仙台市
 このたび仙台市を中心に県内に流行したA型肝炎が,ようやく一段落し,間もなく終息宣言が出される,近年,「血清肝炎(B型肝炎)や非A非B型肝炎」と慢性肝炎・肝硬変・肝細胞癌との関係が明らかになるにつれ,流行性肝炎(A型肝炎)への行政の関心も薄れていたように思う.
 散発性急性肝炎の20%はA型と言われるが,集団発生例は少ないし,法的届出義務もないので情報把握が難しい.しかし東北でも,昭和54年から55年にかけて山形市に流行した詳細な調査報告,昭和58年2月頃に青森県内で600名が発病し,2名が死亡した事例がある.

札幌がんセミナーの発足

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.595 - P.595

北海道
 我が国の死因のトップとなっているガン制圧を目指す財団法人「札幌ガンセミナー」の設立総会が,この6月13日北海道医師会館で開かれ,民間レベルで初の国際的な研究交流組織が誕生した.
 設立総会には理事15人が出席,道医師会から「国内外の一流学者が数日間寝食を共にし,討論を重ね,ガン解決の糸口を見いだしたい.財団法人化により,セミナーは札幌を舞台に末長く継続されることになる」など,趣旨説明が行われた.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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