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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生48巻1号

1984年01月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生の研家・教育・実践

公衆衛生の研究・教育・実践

著者: 西三郎

ページ範囲:P.4 - P.8

■はじめに
 公衆衛生を理念としてでなく実践段階を含む総論として研究・教育・実践について報告することは,この小論では不可能といえよう.このため,現代社会における公衆衛生において基本的と考えられる課題を簡単に紹介し,研究・教育・実践とその相互に関連しあうことの必要を述べて責任を果すこととする.

公衆衛生における社会学的研究と実践

著者: 園田恭一

ページ範囲:P.9 - P.13

■公衆衛生の展開と社会学的接近への期待
1.コミュニティの組織的努力を通して
 「公衆衛生における社会学的研究と実践」というテーマを取りあげる際には,そこでの公衆衛生とは,ということがまず問題となるであろうが,本稿ではとりあえず,「もっともよく知られ,また一番広く受け入れられている公衆衛生の定義」(ハンロン))1)とされているウインズローの規定を出発点として先にすすむこととしたい.
 ウインズローは,1920年に発表した論文において,「公衆衛生とは,コミュニティの組織的な努力を通して,疾病を予防し,寿命を伸ばし,身体的,精神的健康と能率の増進をはかる科学であり,技術である」という,後に長く各所で引用されるようになる定義を提唱したのである.

諸外国における公衆衛生

著者: 上村一夫

ページ範囲:P.14 - P.18

 大きなテーマについて執筆することを引受けて,まことにおこがましい至りであるが,世界保健機関(WHO)に勤務の折々に見聞き,討議している問題の一端を記すことも,読者の方々の多少の御興味を引くことになるかも知れないと思い,拙文をつづる次第である.

医学教育における現場認識

著者: 安西定

ページ範囲:P.19 - P.23

■はじめに
 医学・医療の進歩,疾病構造の変化,医の倫理性,社会性,学際性,国際性への指向,高齢化社会への移行,社会経済事情の変化と社会保障制度の見直し,大学の管理運営の困難性の増大,医師過剰問題等々,医学教育,公衆衛生,国民健康をとり巻く諸環境は激動しているといえる.
 長い医学教育の歴史的過程のなかで今日ほど大学自体がもつ諸問題と医学教育に影響を与える社会環境要因が山積したことはなかったと思われる.

公衆衛生学に期待すること—地方自治体での実践と反省から

著者: 近寅彦

ページ範囲:P.24 - P.29

■はじめに
 新潟県の北の古い城下町新発田の市民はいま,厚生省からヘルスパイオニアタウン事業の指定をうけ大きな喜びにひたっている.健康で生きがいのある生活のできる福祉社会が市民の夢であり理想であるから…….またこれからの福祉社会を支えてくれるいまの子供たちの健全育成にも情熱を傾けて取り組んでいる.このため市民は市や県に熱心な要望を重ねて,老人福祉センター(昭54),総合健康開発センター(昭57),青少年健全育成センター(昭58),老人生きがい対策のためのシルバー会館(昭58)を建設した.多くのモデル事業に参加し,業績もそれなりに重ねてきた.たとえば,厚生省からの老人の生きがいと創造事業(昭54),老人保健総合対策開発事業(昭54),老人のための明るいまち推進事業(昭55),障害者福祉都市事業(昭56),労働省からはシルバー人材センター事業(昭56),文部省から豊かな心を育てるモデル都市指定事業(昭57)など国レベルのモデル事業に参加する機会に恵まれた.
 これらのモデル事業は,総て国や県の指導によって着手したが,その実施に当っては市民が知恵を絞り,試行錯誤を重ね,医師会や大学から多くの指導,援助,協力を得た.

臨床医と公衆衛生

著者: 小宮弘毅

ページ範囲:P.30 - P.32

■はじめに
 20余年の間,小児科医として臨床に従事してきた後,最近,保健所に出たばかりの私にとって,公衆衛生を論ずることは荷の重い感はある.しかし,与えられた課題が"臨床医と公衆衛生"ということなので,私が保健所へ転出するに当って考えたこと,保健所での経験から感じていることなどを素直に記してみたい.

公衆衛生看護の研究と実践

著者: 三品照子

ページ範囲:P.33 - P.38

■はじめに
 公衆衛生看護を実践する保健婦の機能や役割,活動内容,方法,さらに働く姿勢などについては積年の論議があるが未だに結論が出ていない.特に老人保健法の制定,施行に至る過程のなかで保健婦の役割についての期待は多様化してきた.
 例えば,「老人とはすべて個の対応でなければならない.従来のような,マスと理論中心の指導をしていたのでは保健婦が不要となるであろう1)」という意見や「老人個人への援助だけでなく介護者や家族への援助,地域全体の問題を把握し,解決する方策を講じることが保健婦の役割である2)」といわれたり,「複雑多様化している地域住民のニードへの対応の遅れが保健所の地盤沈下に繋がったと言っても過言ではない.老人保健法は,保健婦による公衆衛生活動を再起させるチャンスである」3)とも言われている.

公衆栄養指導の理論と実践

著者: 難波三郎

ページ範囲:P.39 - P.44

■はじめに
 公衆栄養の位置づけ
 公衆栄養という言葉はかなり以前から,ある一部の栄養教育者の中で使われてはいたが,昭和48年,文部,厚生両省共管による管理栄養士養成課程のカリキュラムが交付されて,「公衆栄養」という課目が設定された.内容としては公衆衛生学,栄養指導,実践栄養学等の講義の中に含まれていたもので,ことさら新しいものではなかった.しかし,隣接分野での,医療と公衆衛生とか看護と公衆衛生看護といった対語もあるわけで,栄養活動をこれに準じて考えると臨床栄養と公衆栄養という区分もできるし,栄養指導はいずれの領域にも関わる重要な中味であると解せられる.これを図示すると図1のようになる.
 ヒトは受胎し,妊娠し,出生し,発育成長し,成熟し,衰退し,やがて終焉を迎えることになるが,その間どの時期においてもよい栄養状態のレベルを保つことによって健康,生命は保たれる.また,よい栄養状態のレベルはすべての栄養環境条件によって確保されるものである.従って,健康と栄養は同義語として用いられる場合も少なくないのである.

先達を訪ねて

曽田長宗先生

著者: 西三郎

ページ範囲:P.45 - P.52

 西 雑誌「公衆衛生」で公衆衛生学会および衛生学会の名誉会員の方方にお会いして,いろいろお話を伺うという企画をたてられまして,今日はその1回目ということです.
 曽田長宗先生は国立公衆衛生院の院長を長らく勤められた関係で,現在国立公衆衛生院におります私がお話を伺う機会に恵まれました.

講座

費用便益,費用効果分析と保健事業(その2)—特に子宮がん,胃がん検診をめぐって

著者: 大井玄 ,   武長脩行 ,   甲斐一郎

ページ範囲:P.53 - P.62

Ⅲ.子宮がん検診の費用便益分析
■はじめに
 Ⅰで費用便益分析の考え方について触れ,次にⅡでは生命の価値の経済的評価を行った.Ⅲ・Ⅳでは現在行われているがん集団検診のうち子宮がん検診と胃がん検診を例にとって具体的に費用便益分析を行ってみよう.(Ⅲでは子宮がんの集団検診,Ⅳでは胃がんの集団検診)
 わが国のがんによる死亡は全死因の23%(昭和56年)を占め,それまで1位だった脳血管疾患を抜いて昭和56年にはトップにおどり出た.このがんの死亡率を下げるためには早期発見による予防が第1に必要な対策である.その代表的な方法が集団検診である.

発言あり

医師国家試験制度の改革

著者: 石川到覚 ,   児島三郎 ,   菅原和夫 ,   二塚信 ,   正岡和

ページ範囲:P.1 - P.3

公衆衛生の設問は記述式で
 先日第76回医師国家試験の成績が発表された.33.5%,史上2番目の低率だそうである.それにしても,数ある国試の中で新聞各紙がこぞって大学別の成績一覧を大きくとり上げる例を他に知らない.低率大学の存在を指摘する論調は「悪徳医師」告発のトーンと響き合うかのごとくである.学士としての認定を受けた卒業後の国家試験は,ある意味ではきわめて個人的な問題ではあるが,大学サイドとしても何らかのリアクションを起さざるを得ないのが現実である.そうした訳で,国試準備のための様々なテキスト,問題集,模試,補修講義が準備され,教官の負担も仲々である.しかし,こうした国試準備のための教育の特徴は,単純化された知識の効率的な詰め込みに向かわざるを得ない.それはそれで,日頃不勉強な学生に基礎知識をつけさせる好機ではないかといわれればまさにその通りである.とはいえ,中学から高校,高校から大学と受験教育の中を多くは優等生として要領良く乗り切ってきた医学生がそうした教育の中で,学問・実践としての公衆衛生をたかをくくってしまうようなことがなければ良いがと思う.多項目選択式の出題形式は臨床,公衆衛生を問わないものではあるが,それはそれで思考の論理を筋道立てて組立て得る臨床各科に比し,公衆衛生の場合は余りにも多くの思考経路を省略させたり,出題領域を偏らせ,文字通りの知識の切り売りをしなければ現行出題方式に対応できないと思うのはひがみであろうか.

資料紹介

がん検診に関するアメリカ対がん協会の提案

著者: 星旦二 ,   徳留修身 ,   森亨

ページ範囲:P.63 - P.66

<はじめに>
 ACSは,がんの早期発見に関する提案1)を1980年1月におこなった.残念ながら,胃がん検診についての提案はなされてないが,我が国でのがん対策上参考になると考えられるので全体を要約して紹介したい.

日本列島

沖縄県総合健康増進センター利用者について

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.8 - P.8

沖縄
 沖縄内で初めての健康増進センターが設置され事業が開始されたのは昭和56年2月であるが,同センターではこの程同年12月末迄の利用状況をまとめた.総利用者数は735人(男414人56.3%,女321人43.7%)であった.その後利用者数は毎年増加してきている.56年2〜12月の利用者について問診により健康状態をきいてみると,快調・普通と答えた者が67%を占め,不調を訴えた者は33%であった.利用者の年齢は20〜65歳以上迄であるが,不調と答えた者は20〜29歳の39%が最も多く,次いで30〜34歳の37%であった.
 日頃健康維持についてどうしているかの問いに対しては,特に気にかけていないと答えた者32%,食生活に気をつけている30.9%,規則正しい生活16.1%,運動・スポーツ等体力づくりをしている21%,となっている.年齢別にみると55歳から健康に気をつけているという者の割合が男91.4%(,女78.7%と多くなっている.

集団給食施設での食中毒の大発生

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.29 - P.29

岐阜
 近年の企業の合理化の一環として,給食を外部に委託しているところが多いが,給食施設の管理不備や収益第一主義がともすると,大きな集団食中毒発生につながる実例が発生した.
 昭和58年9月8日の夜半,大垣市の一給食センターで調理した昼食用給食弁当を食べた数ヵ所の工場従業員らから,腹痛や下痢を訴える者が数百人発生した.8日夜から9日朝までに700人近い患者が市民病院等で治療を受け,病院では当直医師だけでは足りず,全医師に緊急呼び出しをかけ治療に当った.救急車も患家と病院をピストン往復の状態であった.患者は全般的に下痢,嘔吐,腹痛を訴え,38℃を越す発熱のあるもの,脱水症状強く入院を必要とするものも多数みられた.最終的には2,807人の発症者が認められており,そのうち226人が入院患者となった.

勤務医の待遇調査結果を見て

著者: 山本繁

ページ範囲:P.67 - P.67

 この度,大阪府医師会勤務医会は,昭和58年1月時点における勤務医の待遇状況の調査結果を発表している.
 調査対象は勤務医会の会員がいる138施設であったが,回答のあった74施設について集計されている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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