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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生48巻10号

1984年10月発行

雑誌目次

特集 産業医活動

わが国の産業医と衛生管理者の制度と現状

著者: 福渡靖

ページ範囲:P.680 - P.688

■はじめに
 労働基準法が昭和22年に制定され,衛生管理者が制度化されて37年を,労働安全衛生法が昭和47年に制定され,産業医が制度化されて12年を経過した.それぞれの制度は,関係者の間では定着してきたが,労働衛生関係者以外の人々には周知されていないきらいがある.国民の生涯にわたる健康を確保するためには,地域保健,学校保健とならんで,労働衛生(産業保健)にも,充分な理解をしていただきたい.労働衛生をすすめる大きな柱が産業医であり,衛生管理者等と労働衛生管理体制を組み立てるものである.
 ここではまず,産業医と衛生管理者について法制度を述べ,ついで現状を紹介したい.

産業医の養成

著者: 土屋健三郎

ページ範囲:P.689 - P.693

■はじめに
 わが国においては,医師の養成制度はあるが,一口に言って公的な産業医の養成制度は存在していない.つまり,それは資格の問題に由来している.医師は大学医学部を卒業後,医師国家試験に合格することによって医師免許証が与えられ,医師としての資格を獲得する.つまり,大学医学部は医師養成のための施設(Institution)であり,国家試験を受けるためには大学医学部を卒業しておかなければならない.
 わが国では,安全衛生法の中で産業医の選任に関する規定はあるが,産業医がどのような資質を有しなければならないかも述べられておらず,産業医になるための国家試験が存在する訳でもない.一方,産業医は現実に存在し,また日本医師会は3日間の産業医学講習会に出席することによって産業医(嘱託産業医)として認定している.従って,少なくとも嘱託産業医養成のためのInstitutionが全くないというのは誤りであるとしても,後述するように,先進諸外国におけるような産業医養成の社会的仕組みは存在しないといっても過言ではない.

産業医の研修

著者: 高田勗

ページ範囲:P.694 - P.698

■産業医の研修に関する歴史的推移と現状
 わが国における「産業医」が制度として確立したのは,昭和47年「労働安全衛生法」制定に伴って,同法,第13条の規定により,常時50人以上の労働者を使用する事業場は,産業医の選任が義務づけられたことによる.しかしながら,今日でいう事業場における安全衛生管理体制のなかの,特に労働者の健康管理については,古くは明治44年の「工場法」以来,「工場医」という名称によって行われていた.昭和4年には「工場危険予防および衛生規則施行標準」により,工場医の月1回の巡回,年1回の健診が義務づけられていた.その後昭和22年に,「労働基準法」が制定され同法労働安全衛生規則により「衛生管理者」制度が施行され,医師衛生管理者となって,昭和46年まで労働者の衛生管理が行われてきたという歴史がある.
 医師が事業場の労働衛生管理活動にかかわるためには,活動の基盤となる産業医学の学術について,絶えず研修しなければならない.医師に対する産業医学の研修を本格的に行ったのは,昭和40年7月の日本医師会による「産業医学講習会」ということができる.勿論産業医学に関する学術研究の集団として,現在の「日本産業衛生学会」がある.本学会の歴史は,昭和4年の産業衛生協議会から始まって,昭和7年に日本産業衛生協会と改称し,昭和26年には,日本医学会の分科会として承認され現在に至っていて,50余年の歴史を有している.

産業医活動における経済システムのあり方—産業保険拠出機構の提唱

著者: 田村貞雄

ページ範囲:P.699 - P.704

■はじめに
 産業医活動のニーズは時代とともに変化してゆく.ここでは高齢化社会,高度情報化社会における職場の健康の維持増進を目標とする産業医活動の視点から,その経済的側面についての私見を述べることにする.まず,この小論での基本的視点を説明する.
 (1)職場の健康問題は,家庭の健康問題と密接に関連しているから,産業医活動は地域包括医療活動の一環としてとらえなければならないと考える.地域包括医療活動は家庭医としての開業医主導の医師会活動によって展開されているので,職場の健康維持・増進を目標とする産業医活動も,医師会活動の有機的連関のもとで行われなければならないと考える.このことにより産業医活動の経済的有効性が高められるのである.

産業医と労働衛生機関

著者: 田中茂

ページ範囲:P.705 - P.715

■はじめに
 従業員1,000人以上の事業所には専任の産業医を選任することになっているが,事業所内に健康管理センターや病院などの産業保健活動を専門に担当する組織を持ち,産業保健活動のすべてを自社内で処理できるところは,極く僅かな巨大企業のみであって,専任の産業医が所属する大企業といえどもその大部分は,産業保健活動のうち労働衛生の専門技術の一部については企業外の労働衛生機関に委託せざるを得ない部分が少なくない.
 従業員50人以上,1,000人未満の事業所では,嘱託の産業医が1ヵ月に1回程度しか事業所に出向しない.しかもその嘱託産業医の大部分は地域医療を担当する臨床医家であるので,労働衛生の専門技術の大部分は地域に所在する企業外の労働衛生機関に委託せざるを得ないのが現状である.

専属産業医と衛生管理者の活動

著者: 橋田学

ページ範囲:P.716 - P.721

 専属産業医と衛生管理者の活動にふれる前に,まず産業医と衛生管理者がどんなものであるか,知る必要がある.詳細は,「産業医の職務Q&A」1)を参考にされたい.

嘱託産業医と中小零細企業の労働衛生管理

著者: 岡惺治

ページ範囲:P.722 - P.728

■はじめに
 一般に中小零細企業においては,衛生管理以前の経営体質に関することがらが,大企業と対比的に問題視されている.とくに経済基盤の弱いことからくる労働条件,生活条件のレベルの低さは,企業規模別に集団として比較した場合,常に中小零細企業の問題点として指摘されるところである.
 したがって,労働衛生や産業保健活動上の問題も多いことは,すでに論をまたない.しかしそれは,大企業と中小企業という形での比較よりは,むしろ中企業と小規模企業間の格差の方が,大きいのではないかと思われる.

医師会と産業保健活動

著者: 太田武史 ,   原富夫 ,   梶田一之

ページ範囲:P.729 - P.735

■はじめに
 第2次大戦後,飛躍的に発展したわが国の産業は各分野にわたり,輸出の振興で,国民,国家の経済力は著しく上昇した.しかし,その後にやって来た世界的不況の波は堅固な基盤を持たない,資源に乏しいわが国経済に対して多大な影響を与えた.そしていわゆる減速時代に入りわが国産業界は生産第1主義から生命尊重・自然保護・環境保全に目を向けた安定期もしくは反省期に入った.新しい技術の開発による作業内容,作業環境の変化も急激に進み,職業性疾患もその形態が変って来た.また平均余命の驚異的な伸びなどによる高齢化社会への移行が急速に起りつつあり,これに対応して定年の延長問題が検討されすでに60歳定年制の実現をみた企業もある.
 このような産業界の変化に応じて,日本医師会,都道府県医師会,地区医師会においては会員に産業医活動の重要性を認識させ,その活動がより効果的に行われるよう指導し,行政側,企業側と産業医との円滑な連繋を保ち近い将来において学校保健活動と同列に,一般社会において認められるよう努力すべきである.しかし学校保健は永年にわたる関係者の努力により堅実に発展し,その基盤と方向性が確立しているが,産業保健は前述の如く戦後の急速な経済成長の下に生産性重視で労働者の環境整備,健康の維持増進がとかくなおざりにされ,企業側・産業医ともにもう一歩踏み込んだ対策が足りないようである.

国際比較にみる産業保健活動のこれから

著者: 小木和孝

ページ範囲:P.736 - P.741

■はじめに
 産業保健活動の見直しは,今国際的な機運にあるといってよい.それも,これまでの延長上で保健活動の内容を考えるというにとどまらない.職業保健活動の責任分担や位置づけを含めて見直す機運にある.
 この背景として,産業における保健サービスが,期待に充分応えられないでいることがあげられよう.労働災害・職業病はどこの国でも依然として大きな社会問題だし,国や職場によるサービスの格差解消も未だしの感が深い,1970年代から産業安全・保健立法が各国であい次いだのも,こうした事情がどの国にも共通していることを示している.それを受けたかたちで,occupational safety and healthの包括的なILO条約155号と勧告164号が採択されたのが1981年である.産業保健の国際的なよりどころとされてきたILOの112号勧告(1959年)は,今年と来年のILO総会での討議を経て新しい条約・勧告に衣がえしつつある.

先達をたずねて

日本の産業衛生学界のパイオニア 赤塚京治先生

著者: 赤塚京治 ,   宮沢壽一郎

ページ範囲:P.742 - P.750

 宮沢 戦前,戦中を通して先生は航空機燃料の性能向上に使われ,猛毒だった4エチル鉛の防毒とその毒性の研究に尽力されておられましたが,国家のためと思って全力を傾注しておられたところ敗戦になって,先生は正直なところ,ガックリなさったわけですが,4エチル鉛に携わられるようになった,そもそもの発端はいつごろからですか.
 赤塚 昭和5年に日本にいわゆる公衆衛生に通じた医師の養成が必要だという話が再燃してきました.その数年前,その基金はロックフェラー財団が寄付するという話があったのですが,こちら側の受入れ体制が一本にしぼれなかったため流れてしまい,その話は一応途絶えていた間にロックフェラー財団から,とってあった予算の一部で,慶応に予防医学教室が寄付されたという裏話もでました.

発言あり

待合室禁煙

ページ範囲:P.677 - P.679

知恵と工夫で健康を守りたい
 「たばこは生活の句読点」—紫煙をくゆらせながら静かにソファーに横たわる.これはまさしく何年か前までのくつろぎの象徴的ポーズであった.しかし,その一服のたばこも今や嫌煙権という言葉が日常化する世の中になり,次第に肩身の狭いものとなってきた.さて,"嫌煙権"問題が叫ばれてからすでに久しい.がん,呼吸器疾患,心疾患をはじめとして胎児にまでも影響するほか,たばこを吸わない人たちへの"間接喫煙"も問題になり,国会でも取り上げられた.厚生省は昭和59年3月5日付で都道府県知事に対し,指導を求める医務局長通知を出した.同省がたばこに関する通知を出したのは6年ぶりである.今回は国立病院だけでなく,開業医をはじめすべての医療機関を対象とした点に特色がある,同省は53年4月,国立病院長らに対し,外来待合室などの喫煙コーナー以外では,たばこを禁止させるよう通知で指示した.その結果厚生省直属の国立病院,療養所計286施設では喫煙場所が制限されている.しかし公立や民間の機関ではほとんど対策が立てられていない.今回の局長通知は「呼吸器系の病気を持つ患者や乳幼児が多く集まる内科,小児科を中心にたばこの煙を十分防止しなければならない」ということで,全医療施設が外来待合室の喫煙場所の制限,換気への配慮などを行うよう知事に指示してほしいということである.

論壇

疾病の原因を探る手順,疫学における最近の考え方—Henle-Kochの原則からEvansの原則へ

著者: 前田和甫 ,   横山泰彦 ,   縣俊彦

ページ範囲:P.751 - P.755

1.国際疫学協会のシソーラスの発行
 1983年10月に国際疫学協会(International Epidemiological Association:IEA*1)から,John M. Last(カナダ,オタワ大学医学部教授)編集で疫学のシソーラスが,疫学の辞典(Dictionary)の名称で発行されている.全文114頁,2頁の文献を含み集録してある用語はおよそ1,000で,理論や概念に関連した用語には半頁以上も割いて詳しく説明してある所もいくつか見受けられる.
 国内でも以前に衛生学会会員を中心に,同様なシソーラスが編集されたが,外来語の翻訳が難点であまり普及せずに終ったことがある.今回のシソーラスは外国語(英語)なので,用語の日本語訳を如何にするかについて以前と同じ問題が残ろうが,理論と採録されている概念については,このシソーラスが国内にも普及するにつれて,わが国の関係学会の中にも一様に理解されていくことが期待される.

日本列島

百歳長寿者

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.688 - P.688

沖縄
 毎年9月15日の敬老の日を迎えるに先立って,県生活福祉部は県内の百歳以上の高齢者調査を実施しているが,59年度についても調査がなされ,8月20日にその結果がまとまった.それによると,59年度内に百歳以上になるものは90人になるとのことである.沖縄県内の百歳以上のものは,日本復帰をした昭和47年度には僅か13人であったが,その後は毎年増加し続け,人口比の数では毎年日本一多い県となっている.今回の調査結果90人は前年度同期より19人も多くなっており,年間では最も多い増加である.また,このままで推移すれば来年度は更にふえ,おそらく100人の大台に達することは確実であろうとされている.現在の最高齢者は,沖縄本島北部の名護市に住む女性で105歳となっているが,咋年の106歳よりは1歳若い.90人のうち,来年3月31日迄に百歳になるお年寄りは20人含まれている.男女別にみると,男16人,女74人で,圧倒的に女性が多い.昨年は女55人,男16人だったのに比べ,女性が19人ふえているにもかかわらず男性は横ばいで,女性長寿者の増が際立っている.なお昭和55年の国勢調査の結果をみると,沖縄県の女性については0歳の平均余命が81.72で全国平均79.00を上廻り,2位の岡山県の79.78より2年近く長くなっている.さらに過去の百歳長寿者数をみると,昭和47年13人,48年28人,49年29人,50年35人,51年34人,52年40人,53年28人,(はじめて前年度より減少した年度である).

環境週間記念講演会

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.704 - P.704

岐阜
 6月5日は世界環境デーであるが,8日環境庁と岐阜県共催による記念講演会が岐阜市で行われた.
 講演の1つは,「快適環境の創造をめざして」と題して木原啓吉氏(千葉大教授)によるものであった.木原氏はOECD(経済協力開発機構)の行った日本の環境調査について,調査実施へのいきさつや調査結果を紹介された.日本の場合公害対策としては立派に成功しているが,総合的な環境対策ともいうべきAmenityとしては十分ではないと判定されたとのことである.氏はAmenityの定義について,イギリスでは定義以前のもので,身近にいつも感じているもののようであるとし,真意をつくしていないかも知れないが,「快適環境」と訳されている.「住み心地良さ」ともいえるのかも知れない.

愛知のゴミ騒動

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.728 - P.728

 名古屋空港のおひざ元である小牧市と岩倉市では.従来より一部事務組合によるゴミ処理を行って来たが,新焼却場建設に伴い一時期ゴミ収集不能となる事態が発生した.
 従来,両市では岩倉市内の旧焼却場でゴミ処理を行ってきたが,施設の老朽や人口増に伴うゴミ量増大から.小牧市に82億円をかけ新焼却場を建設した.ところが新焼却場が使用に入った矢先,地元の清掃工場建設を考える会の提訴に基づき,名古屋地裁は4月6日,「環境アセスメントが不十分」であるとして操業禁止の判決を下し,当分の問使用不能となった.組合側は,旧焼却場周辺住民に対し,今回の裁判で勝訴を確信しており,判決次第旧焼却場の操業を打ち切る旨約束していたため,新旧ともに焼却場の使用不能となった.

宮城方式の肺がん集団検診による早期発見

著者: 土屋真

ページ範囲:P.741 - P.741

宮城
 男女とも悪性新生物死亡の第2位になった肺がんへの対策は,各国の手術後5年生存率に対する成績の悪さから,行政としての取り組みが一般に消極的にならざるをえない.しかし昭和53年以来実施されている宮城方式の肺がん集団検診方式では,早期発見率が極めて高いので,術後5年生存率の希望が持て,県内の実施市町村が毎年,増加している.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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