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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生48巻11号

1984年11月発行

雑誌目次

特集 地域福祉

地域福祉の展開と概念

著者: 右田紀久恵

ページ範囲:P.764 - P.771

■地域福祉の展開
 わが国において地域福祉の用語が用いられ,社会福祉における一領域として登場しはじめるのは1970年前後である.しかし,それは地域福祉前史ともいうべき先駆的諸活動や,社会福祉協議会活動を前提とし,加えて,イギリスやスウェーデンにみられる理念を導入しつつ,現在もなお,地域福祉概念とその内容は構築されつつある段階にあるというべきであろう.

地域福祉計画の動向

著者: 京極高宣

ページ範囲:P.772 - P.775

■はじめに
 近年の社会経済情勢の急激な変動に伴い,国民の福祉ニーズは複雑多様化しており,各々の地域社会によってまちまちにわたっている.こうした福祉ニーズに対応し,きめ細かな福祉サービスの展開を図るためには,次のような視点から地域社会レベルでの社会福祉(いわば草の根福祉)の推進が必要であるように思われる.
 (1)福祉の対象者も地域社会の一員であり,その福祉を図るためには,その生活の場である地域において家族,近隣との良好な人間関係の中で福祉サービスを提供することが望ましいこと.

福祉事務所と地域住民—生活問題の解決をもとめて

著者: 戸田隆一

ページ範囲:P.776 - P.781

■押し寄せる生活問題
 国民の9割弱が自分の生活程度を中流とし,65%は現状に満足し,70%は生活に充実感をもっている——5月26日に総理府から発表された59年度「国民生活意識調査」からの国民の生活意識像です.ところで具体的に営まれる生活場面をみたとき,調査にあらわれるような安定し満足できるような生活内容と基盤を,本当にもち合せているのでしょうか.
 この調査内容を紹介した新聞の同じ欄で,「この中流意識は幻想ではないか」と日本長期信用銀行の調査レポートを併記して問題を投げかけています.レポートは,「幕開ける階層消費時代—中流幻想の崩壊と大量消費時代の終焉」と題したもので,「中流意識」の実態を浮き彫りにしています.

家族と福祉の未来像

著者: 黒川昭登

ページ範囲:P.782 - P.787

■はじめに
 家族と福祉についての「未来像」を論ずる場合,当然のなりゆきとして,将来はこうなるだろうという「予測」と,それを基礎としつつも,かくあらしめなければならないという「目標」のいずれに重点を置くか,という問題がある.
 だが,筆者としては,本特集の「地域福祉」という視点に立って社会福祉を見た場合,当然,「家族」が重要な役割を果さねばならないが,このまま推移すれば,家族は,必ずしもその役割を果しうる状況ではなく,いわば「家族」は一種の慢性病にかかって弱体化しつつあると考えているので,そのため本論では,単なる未来の予測ではなく,そのような傾向に歯止めをかけるべく一文を草したいという思いに駆られるのである.

ボランティアによる地域福祉活動

著者: 石黒チイ子

ページ範囲:P.788 - P.793

■社会福祉の担い手から受け手に
 バス乗車中に心臓発作を起こし,手術をして命をとりとめた友人がいる.1人暮しのためにまだ1人では生活できないので,1年余たった現在でも東京の自宅に帰れず,親類の家に世話になっている.
 自分の食べる料理と洗濯ぐらいはなんとかできるようになったが,掃除,ふとん干しのような力仕事や,買物などの外出はまだできない,この程度の仕事なら1級障害者だから,ホームヘルパーの派遣が可能であり,本人は,早く帰京したいといっているのだが,万一緊急の発作や夜間の不安を考えると,帰京することに誰も確信がもてない.

福祉施設の社会化

著者: 牧里毎治

ページ範囲:P.794 - P.800

■はじめに
 地域福祉の実践レベルで社会福祉施設の社会化が1970年代後半以降,ひとつの焦点になってきている.要援護者へのコミュニティ・ケアの関心からいえば,収容施設での処遇とホームヘルパーなどによる在宅処遇,あるいは近隣住民による援助活動が一体のものとして体系化される必要があるが,その方策についてはまだ試行錯誤の段階であって確立しているわけではない.施設の社会化は,施設処遇と在宅処遇を連続したものとして再編成する契機を含んでいる.見方をかえると,施設の社会化は,社会福祉施設が援護を要する階層に現に施設を利用している人びとのみならず,地域社会に潜在している要援護者予備軍にも生活圏と生活水準を保障するために何をなしうるのかが問われているといってもよい.しかしながら,たとえ施設の地域開放が進んでいると思われる先導的施設であっても,処遇の体系化を意識して実践している実例は多くない.
 ところで,社会福祉施設と正式に呼称されているはずの施設がなぜ社会化と銘うって,論議されなければならないのか.そもそも社会的に存在しているのが,言葉の正しい意味からいって社会福祉施設なのであって,社会的に存在しない社会福祉施設などありえないはずである.であるにもかかわらず,あたかも社会福祉を社会化するというような矛盾した問題提起がなぜなされるのか腑に落ちない面もあろう.

在宅老人福祉サービスの現状と課題

著者: 松原康雄

ページ範囲:P.801 - P.807

■はじめに
 老人福祉施策は,施設福祉施策と在宅福祉施策とに大きくわけることができるだろう1).前者は,各種の入所,通所,利用施設を含んでいる.後者は,「生きがい対策」,現物給付,家事援助を中心としたサービスの提供(在宅老人福祉サービス)を含んでいる.本稿では,現在日本における在宅老人福祉サービスの中核となっている「家庭奉仕員事業」をとりあげ検討し,最近の動向についても触れたいと思う.

諸外国における地域福祉の動向

著者: 高瀬智津子

ページ範囲:P.822 - P.827

■はじめに
 各国の社会福祉は,その国の政治,経済,社会,文化的諸条件を反映し,それぞれ独自の発展の途をたどっている.しかし世界的動向から福祉政策(対人サービス)をみると,地域社会を拠点とし,児童や高齢者,心身障害者などの福祉充足の上で地域や家族が,大きな役割を果すべき方向で見直されている.また,福祉対象者も貧困者や特別なニードをもつ者だけを,社会的責任において保護する政策から,個人の自立・自助努力を基本的目標とし,公私が共に協働しあう中で対象者が,地域社会の中で人間らしい生活を営むことができるよう,国民一般に拡大されてきている.
 ここでは紙面の都合上,高度工業先進国であり,福祉国家であるイギリスと,特に最新の資料が入手できたアメリカとりわけ,福祉が最も進んでいるカリフォルニア州を中心にとりあげる.発展途上国については,筆者が昨年参加したアジア,西太平洋地域社会福祉会議(バンコックで開催)から得た資料に基づいている.

地域福祉の現場から

青少年福祉センター—要養護高齢児童の処遇実践をとおして

著者: 大嶋恭二

ページ範囲:P.808 - P.813

 与えられたテーマにそうものかどうか心もとないのですが,地域社会の中で一つの福祉的資源として存在している実態を述べることでこれにかえさせて頂きたいと思います.

足立区心身障害福祉センター

著者: 小谷節子

ページ範囲:P.814 - P.817

■はじめに
 在宅障害者を援助する地域福祉機関は近年,量,質共に充実の方向にあるといえる.相談,措置機関としての福祉事務所,保健所,心身障害福祉センター,通所訓練所,作業所等と施設配置について,地域差はあるにしても,身近かな地域内で相談や訓練,指導が受けられたり,気が向けば出かけられる場,昼間,家庭から離れて過せる場が出来て来たことは過去の在宅か,収容かの時代に比べると格段の広がりを持って来たと思える.
 ここに紹介する足立区は,東京23区の北東に位置し,人口62万人,23区中,3番目に人口規模の大きい地域であり,生活保護世帯数及び,障害児・者数の多い,いわゆる福祉ニーズの多い地域である.

親子心中防止について

著者: 品川博

ページ範囲:P.818 - P.821

 地域福祉という言葉は,普通,地元の市町村,広くいっても県単位である.しかし私は型破りの人間で,昭和21年5月より,戦災孤児救済運動を始めて38年間,市町村とか県単位に物を考えずに,日本中の方々を対象にして参りましたので,この一文も日本中の方々を対象にして書かせていただきます.
 私は昭和21年3月末に南の島ラボールより,敗戦の祖国に復員致しました.私は何故戦災孤児救済運動に入ったか,その動機をよく人に聞かれます.その第一は命ある喜びを感じたからです.その第二はそこに誰も救いの手を差しのべない戦災孤児がいたからです.戦災孤児は全国で13万人いたのです.その中5万人は乞食になったのです.それが浮浪児です.彼等は人間の子供でなくけだものになっていたのです.彼等を保護する事を浮浪狩りと申しました.狩り込みといったのです.汗とほこりにまみれ,頭の毛はぼうぼう,冬でも裸足で体中に何百何千のしらみがはい廻り,汽車はただ乗りで全国を放浪したのです.当時日本国民は,自分だけが生きる事がやっとでした.マッカーサー元師はNHKに命じて,菊田一夫氏を通して鐘の鳴る丘のドラマを放送させ,戦災孤児救済運動を日本人に呼びかけたのです.私はこの放送開始1年前からこの仕事をしておりました.私がモデルに会うために菊田先生を訪ねたところ,これはフィクションで,菊田先生から「あなたがモデルですよ」と言われて,鐘の鳴る丘の現在が出来上ったのです.

講座 臨床から公衆衛生へ—感染症シリーズ・2

横川吸虫症

著者: 横川宗雄

ページ範囲:P.828 - P.831

■はじめに
 横川吸虫(Metagonimus yokogawai)は現在わが国で知られている人体寄生虫では,もっとも普通のもので,広く全国的に分布し,その感染はむしろ増加の傾向さえある.
 これは,その感染源となる第2中間宿主が,主としてアユとかシラウオなど我々がもっとも嗜好する淡水魚で,しかもこれらの魚は生食される機会が多いためである.

発言あり

ドリンク剤

ページ範囲:P.761 - P.763

なにを期待する!ドリンク剤
 疲れは持ち越さないで,その日のうちに解消するのが元気でくらす処世術.横になって休養をとる人,気分転換に軽い運動をする人,そして,元気回復をドリンク剤に求める人,さまざまである.
 地方テレビ局の市場調査(昭和58年,対象736人)に健康飲料(主としてドリンク剤)についての調査がある.

新刊書紹介

—佐々木 直亮 著—人々と生活と—衛生学教室のアルバム

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.817 - P.817

 本年7月に第49回日本民族衛生学会が,弘前市において開催されました.この機会に会長をつとめられた弘前大学医学部衛生学教室の主任教授である佐々木直亮博士は,標記の題をつけた写真集を自費出版されて,関係者に配布されました.
 衛生学教室のアルバムという副題がついているとおり,佐々木教授が30年前に,東京から弘前大学に赴任されてから撮り続けた,貴重な写真集です.写真の題は,リンゴ,米,たばこ,漁,むしろおり,衣,食,住,水,子供,祭など(お山参詣,久渡寺,手踊,川倉地蔵,神様,恐山,観桜会)および疫学の原点です.

日本列島

MEDISの研修会

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.781 - P.781

岐阜
 (財)医療情報システム開発センター(MEDIS)は発足以来10数年となり,救急医療情報や病院診療情報を始めとする,各種保健医療情報のシステム開発に成果をあげている.開発成果の全国普及の一環として,毎年MEDISにおいて研修会が催されているが,58年度は初めての地域研修会として,岐阜県可茂保健所において59年2月,2日間にわたって催された.
 例年,東京での研修会には全国から30〜40人の参加がみられたが,今回の参加者は県外の北海道から沖縄までの60数名の他,岐阜県内の保健所や市町村から70数名と,150名近い数となった.メインテーマが成人の健康管理情報システムであったためか,参加者の多くは,保健所の医師,保健婦,市町村の事務担当者や保健婦であった.会場は可茂地域の県の総合庁舎であるが,普段は県外から多数参加する行事はほとんどなく,会場の設営,宿泊,弁当など主催者側の準備も大変だったようである.

がん検診事業

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.821 - P.821

岐阜
 がん対策の各県の情報交換の1つとして各県の対がん協会の交流があるが,東海北陸地方では7県の関係者が毎年会議をもっており,59年は7月岐阜市において催された.
 老人保健法が58年2月施行され,初年度ともいうべき58年度の老人保健事業の成果がまとまりつつある時期であり,がん検診事業を中心とした課題について協議が行われた.各県とも老人保健事業の中で,機能訓練やがん検診(胃がん検診と子宮がん検診)の事業の進捗が進まず,厚生省の目標水準に達しているところは少ない.とりわけ胃がん検診の事業停滞が目立つようであり,その理由がいくつかあげられている.①受診者が固定化の傾向にあること,②従来の検診機関への補助制度に代り受診者への補助制度となったことから,検診機関は検診料による独立採算制を採用することになり,見かけ上の検診料が上ったこと,③X線の撮影手技が変ったこと(粘膜前壁レリーフ像の採用や6枚撮影法などにより,1日の処理人員が従来より減少している)④スクリーニング精度が不効率であること(受診者の10%以上が要精検となるが,精検の結果は1,000人に1例前後のがん発見率である)⑤検診車等設備費が高額であること,⑥がんが多様化してきたこと(他部位のがんの相対的増加)などである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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