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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生48巻2号

1984年02月発行

雑誌目次

特集 住宅と健康

住居と健康

著者: 小林陽太郎

ページ範囲:P.72 - P.77

 ■はじめに
 健康的住居の概念と社会的要請が公表されたものとして,第2次大戦終了直後の米国公衆衛生協会・健康的住居委員会発行の報告,健康的住居の基本原則Basic Principles of Healthful Housing,3部作を紹介し,これに続く,国連・世界保健機構の健康住居環境の宣言,わが国の公害審議会における住居衛生の基準などを紹介し,健康的住居の企画・設計から健康的住居の管理に到る生活環境基準などについて記す.

住宅政策の歴史と課題

著者: 松本恭治

ページ範囲:P.78 - P.85

■我が国の住宅政策の歴史概要
 (1)第2次大戦以前の住宅政策
 幕末の封建体制の崩壊から明治の政治変革,及び工業発展と続く大きな社会的経済的変動は,封建時代の貧民街に加え,各地に新たなスラムを発生させ,規模を拡大した.これらを社会問題として最初にとりあげたのは,主として新聞記者達である.明治32年,横山源之助(当時内務省勤務)によって,「日本の下層社会」が出版されるが,これは,既にスラムの問題が社会の問題として,公的にも何等かの対策を必要としてきたことを示す.以後,細民街の研究は公的機関の統計も加え,その実態を次第に明らかにしてきた.明治38年には「貧民,長屋建築取締規則」が施行され,明治44年には過酷な労働環境を改めるべく「工場法」が制定されている.これは"災害"衛生対策が行政の課題となってきたことを示す.このような状況を背景にして,東京市は,明治44年に浅草に細民救助を目的として,64戸の住宅を建てた.これが,我が国初めての公営住宅となる.しかしこれは極めて例外的事業であり,都市が本格的な住宅事業に乗り出すのは,一般市民の大都市における住宅難がかなり深刻になる迄,時間を要している.
 欧州大戦後(大正7年終了)に迎えた物価騰貴と住宅払底,家賃の上昇は,一般市民に深刻な住宅難を生じせしめた.戦争景気にあおられて都市に人口集中した結果であるが,同時に資本家の過酷な搾取に夢破れ,落ちこぼれた人々を受け入れたスラムはますます多発拡大した.

高齢化社会における住宅のあり方—老人の住宅の条件

著者: 林玉子

ページ範囲:P.86 - P.100

■居住環境の捉え方
 人間は加齢とともに老化して,老人と言われるようになる.その老人の意味を生理学・心理学・社会学分野では,表1に示すように規定している.いいかえれば,老年期はまさに,人生において獲得したものを失う,または衰退していく時期でもある.それ故に,失われたものを補完する種種の対応が必要である,居住環境も,老人の特性を踏まえて物的側面より整備,改善されることを求められているが,どのような視点を持って高齢化社会に適合した居住環境を考えていくべきか,以下に2,3そのポイントを述べる.
 (1)加齢による生理的機能の変化は個人差が大きいが,その特徴は,(a)防御反応の低下,(b)回復力の低下,(c)適応力の減退,に集約される.結果的には第一線活動からの引退を余儀なくされ,または日常生活も年を増すごとに徐々に不自由になり,最終的にはねたきり状態になることは,誰でも避けられないことでもある.心理的側面では,環境変化に対する適応性の減退,知的能力の低下などに伴い,最悪の場合は老人性痴呆になる.このように心身機能の低下は,その度合,訪れる時期により個人差があるが,老人を心身に何らかの障害を持つ者として理解することは基本的な視点である.

障害者の住宅

著者: 原田政美 ,   寺山久美子

ページ範囲:P.101 - P.105

■車椅子障害者のための住宅
 昭和39年の東京オリンピックに引き続いて,国際身体障害者スポーツ大会(パラリンピック)が東京で開催された.そのハイライトは車椅子障害者のチームによるバスケットボール競技であったが,欧米から参加した車椅子障害者たちはすべて地域社会で生活し,健常者とともに社会活動を行っている人たちであった.一方,わが国の車椅子選手はすべて病院や施設で生活し,競技のためだけに集められた人たちであった.
 車椅子障害者の代表的存在は脊髄損傷者である.近代リハビリテーションの発展は,終生にわたり臥床を余儀なくされていた脊髄損傷の患者を車椅子に乗せ,病院から社会へ出すことから始まった.脊髄損傷では両下肢が麻痺するので歩くことができない.その代りに健全な両上肢を用いて車椅子を操作し,車椅子障害者として就職するなど社会参加の実をあげるわけであるが,そのためには地域社会の環境が,車椅子障害者の活動に支障がないよう整備されていなければならない.欧米では早くからこの面に着目され,車椅子障害者の行動を阻害する段差などの障壁(barriers)を除去して,車椅子でも自由に活動できるバリアフリーの社会が作られてきた.かくして車椅子障害者は,地域社会に居住し,そこを拠点として社会活動を行うことが当然であるとされ,文化的生活を営む一環として,スポーツを楽しむ余裕さえ生じたのである.

退院患者への住宅改造援助—病院・地域福祉機関の連携

著者: 角谷増喜 ,   菊田知恵子

ページ範囲:P.106 - P.110

■はじめに
 退院患者への住宅改造援助は単なるリハビリテーション技術の運用であってはならない.
 さまざまな失敗例から学んだ患者・家族の住まい観を述べ,住宅改造援助の視点について考察し,さらに地域活動に依拠した住宅改造援助の今後の方向性について述べてみたい.

リウマチ患者の住宅と自助具

著者: 川本昌代

ページ範囲:P.111 - P.116

■はじめに
 慢性関節リウマチ(以下RAと略す)患者は,全国に50万以上と推定されている.RAは多発性関節炎を特徴とする進行性の疾患であるが,決め手となる治療法はなく,好悪をくり返しつつ関節の変形がすすんでいくケースが大半である.そのためにRA患者の暮しを妨げるものは,痛みと機能障害であるといえる.
 発病は全年齢層にみられるが,特に20〜30代の女性に目立つ.成人女性の発病は男性の約4倍であり,よって家事作業への配慮は欠かせない.

脳卒中の発症と住宅条件

著者: 吉野博

ページ範囲:P.117 - P.123

■はじめに
 脳卒中死亡率は地域差が極めて大きく,特に東北地方において高いことはよく知られている.脳卒中の発症原因は,塩分の過剰摂取と冬の寒さであるといわれてきた.前者に関しては,公衆衛生学の立場から栄養摂取状況との関連が詳細に調べられ,現在では食生活指導による脳卒中防止の効果の実が少しずつ挙げられてきているようである.
 一方,後者の問題に関しては,籾山等が気候条件と脳卒中死亡率との関連を調べており,特に東北地方や山形県を対象とした分析からは,冬の寒さが脳卒中死亡率に少なからぬ影響を及ぼしていることを明らかにしている1)

家庭内事故と住宅

著者: 大柿好春

ページ範囲:P.124 - P.128

■はじめに
 消費者の生命・身体および財産に対する被害の防止に資するため,各地の消費生活センターおよび病院から商品関連の事故や家庭内での事故など,危害事例を収集し,これを分析評価して情報提供する,これが国民生活センターが実施している危害情報システムである.
 商品関連事故にしても家庭内事故にしても,特定地域で集団的に発生して表面化するものは比較的少ない.全体的には大量に発生しても,散発的で表面化しにくいものが多い.散発的であっても,頻度の高い危害,深刻な危害も少なくない.事故は使用者の誤使用によるものか,商品や設備に問題があるものか,あるいは安全基準の不備によるものか等,単純にきめられない事例が少なくない.しかし,事故そのものは,使用を通じての安全性の評価であり,その貴重な経験は,今後の商品改良や消費者啓発に十分反映させることが必要で,危害の実態を把握し,事故原因を追跡調査し検討して消費者,企業,行政のそれぞれが事故防止について見直し,考え直していくようにフィードバックしていく体制が必要であり,これが危害情報システムである.

英仏の住居監視制度

著者: 早川和男

ページ範囲:P.129 - P.134

■住宅政策と住居監視制度
 住宅政策の目的は,人びとの生命の安全と健康を守り,人間としての尊厳を確保するにふさわしい住居を終局的に国家の責任で実現していくことにある.そのために,既存の不良住宅を修繕したり建てかえる,再び不良住宅が生まれないように厳しい住宅基準をつくり,これを守らない住宅は建てさせない,自治体や政府が自ら大量に住宅を供給する,上下水道・公園・緑地など住環境を整備する,土地の利用規制を厳重に行なって生活環境を保全するなどの諸政策として,住宅政策・都市計画がヨーロッパ諸国では発達してきたのである.そこにある認識は,健康な住居は基本的人権であり,また住居が貧しければ医療費・社会保障費などの需要がふえて福祉が成立しなくなる,さらに社会を構成する健康な市民が育たない,住宅を劣悪な状態にしておいたのでは文化が形成されず美しい都市はできない,よい住宅と都市をつくるのでなければ生活は豊かにならない,といった考えである.だからヨーロッパの都市計画は公衆衛生と住宅政策が車の両輪となった1)
 ところで住宅政策が最初に登場した英国では,当初から「住居監視制度」が住宅政策の中の重要な要素として位置づけられていた.それは1872年の公衆衛生法(Public Health act)の中にうたわれ,その後の政策展開の中でよりいっそう大きな位置を占めるに至っている.

講座 社会福祉協議会と地域保健・1

社協・病院・保健所・福祉施設のネットワークづくり

著者: 桜井猛

ページ範囲:P.135 - P.141

 ■はじめに
 地域の社会福祉協議会に籍を置き,日々住民と応対する中で,最近とくに具体的ニーズの問いかけが多くなってきたことに気づく.老人の介護や身障者の送迎など,行政や保健所や住民から寄せられるボランティアのニード等,具体的で緊急性のある要望に答えきれないもどかしさと共に,地域の社会福祉協議会が果しきれない役割の微妙さと,ネットワークづくりの難しさを感じる.
 社会福祉協議会は,その基本要綱の中に住民主体の原則と地域住民の協働,関係機関との連絡調整,地域福祉計画の実施をうたっているが,未だこのネットワークづくりの活動は端緒についたばかりの段階と言える.例えば,保健と福祉に関する地域機関としては,福祉事務所,保健所があり,病院,施設がある.これらの機関は,それぞれ関わっているケースについての連絡調整は必要に応じて日常的に行われているのであり,これらの日常的に関わるネットワークにおいて,全て問題解決や地域づくりがなされるのであれば,特に今改めて,ネットワークづくりを論ずる必要はないと思う.

発言あり

ヘルスとアメニティ

ページ範囲:P.69 - P.71

望まれるきめ細かい健康教育の推進
 私達が健康であるときは,日常の生活は至って快適であり,充実した日日を過すことができる.また健康であるときは,体のどこに,どんな器官があって,どんな働きをしているのだろうなどということは,全く気にしないで過してしまう.
 体のどこかに不快や苦痛を感じて,はじめて,どこが悪いのだろうか,どんな病気なのだろうか,うまく治るだろうかと苦悩する.

論考

プライマリ・ヘルス・ケア(PHC)とヨーロッパ

著者: 武内俊郎

ページ範囲:P.142 - P.146

■はじめに
 1983年6月12日東京で開催された日本プライマリ・ケア学会の中で,WHOヨーロッパ支局のPHC担当官Hannu Vuori博士の「ヨーロッパにおけるPHC—その問題点と解決について」と題した特別講演があった.
 1978年アルマ・アタの国際会議でPHC推進に関する宣言が伝えられてから,わが国でもこのPHCの意味についていろいろ述べられてきているが,解釈する人々の立場によって必ずしも見方が一致していないためか,多くの関係者はかえってある種の混乱をさえ感じている状況にあるとも言えよう.その際に日本PC学会でタイミングよくこの有意義な企画をされたことにまず心から敬意を捧げたい.

日本列島

政令市における老人保健法に伴う一般健康診査の実施状況について

著者: 山本繁

ページ範囲:P.147 - P.147

 老人保健法が施行されて,8ヵ月が経過しているが,市町村レベルでは,その保健事業の取り組みに四苦八苦している状況がある.
 とくに,一般健康診査の推進については,医師会等の動向に加えて,財政事情の悪化があるので,軌道にのせることに苦慮している市町村が多いようである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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