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特集 住宅と健康
住宅政策の歴史と課題
著者: 松本恭治1
所属機関: 1国立公衆衛生院建築衛生学部住宅衛生室
ページ範囲:P.78 - P.85
文献購入ページに移動(1)第2次大戦以前の住宅政策
幕末の封建体制の崩壊から明治の政治変革,及び工業発展と続く大きな社会的経済的変動は,封建時代の貧民街に加え,各地に新たなスラムを発生させ,規模を拡大した.これらを社会問題として最初にとりあげたのは,主として新聞記者達である.明治32年,横山源之助(当時内務省勤務)によって,「日本の下層社会」が出版されるが,これは,既にスラムの問題が社会の問題として,公的にも何等かの対策を必要としてきたことを示す.以後,細民街の研究は公的機関の統計も加え,その実態を次第に明らかにしてきた.明治38年には「貧民,長屋建築取締規則」が施行され,明治44年には過酷な労働環境を改めるべく「工場法」が制定されている.これは"災害"衛生対策が行政の課題となってきたことを示す.このような状況を背景にして,東京市は,明治44年に浅草に細民救助を目的として,64戸の住宅を建てた.これが,我が国初めての公営住宅となる.しかしこれは極めて例外的事業であり,都市が本格的な住宅事業に乗り出すのは,一般市民の大都市における住宅難がかなり深刻になる迄,時間を要している.
欧州大戦後(大正7年終了)に迎えた物価騰貴と住宅払底,家賃の上昇は,一般市民に深刻な住宅難を生じせしめた.戦争景気にあおられて都市に人口集中した結果であるが,同時に資本家の過酷な搾取に夢破れ,落ちこぼれた人々を受け入れたスラムはますます多発拡大した.
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