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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生48巻3号

1984年03月発行

雑誌目次

特集 循環器疾患の疫学

脳卒中・高血圧の疫学と最近の動向

著者: 佐々木直亮

ページ範囲:P.152 - P.159

■はじめに
 わが国の国民病ともいうべき"脳溢血"の成因について,現在の表現でいえば疫学的研究といえる衛生学的研究が始まったのは1941年であり,アメリカで動脈硬化性高血圧性心疾患についての疫学的研究"The Framingham Study"が始まったのは1947年である.
 その後展開された疫学的研究によって,それぞれの疾病の自然史が次第に明らかになり,それらの成果の裏づけがあったと思われるが,国際疾病分類(ICD)が1968年に改訂される時,脳卒中はその発生の部位としての中枢神経系から,解剖学的系統別としての循環器系に,心臓病とならんで包含されることになった.

脳卒中の診断・治療の進歩と疫学への応用

著者: 磯村孝二

ページ範囲:P.160 - P.165

■はじめに
 脳卒中の病型分類および診断基準として,従来「脳卒中の成因,殊に日本人の特殊性」(班長沖中重雄)の作成したものが広く用いられてきたが,この診断基準は脳卒中の死因調査に関してはほぼ満足しうるものとされている,また,九大第二内科池田は計量的鑑別診断(CVD・Index)を発表,かなり信頼性が高いと報告し,その後も計量診断法として秋田脳研法,日医大法などの報告がある.
 しかし,近年CTの普及により脳卒中急性期の病型診断が著しく正確となり,従来の診断基準が必ずしも確実でないことがあきらかになってきた.とくに脳内の小出血では,しばしば脳梗塞と診断される場合が多い.

虚血性心疾患の疫学と予防

著者: 堀部博 ,   青木伸雄 ,   笠置文善

ページ範囲:P.166 - P.173

■はじめに
 「虚血性心疾患」という言葉は,第8回改正国際疾病分類に採用され,それまでの「動脈硬化性ならびに変性性心疾患」よりは,遙かに概念が明確になった.虚血性心疾患というのは,虚血という病態生理学的な考えに基づいており,その原因は多彩である,このことを常に念頭において,その疫学と予防を考慮する必要がある.
 最近では,国際保健機構においても,世界の人口動態統計以外では,専門委員会などで虚血性心疾患よりも,「冠状動脈心疾患」(CHD=Coronary Heart Disease)という言葉を多く用いている.しかしこれは解剖学的になっただけで,その意味の広さにおいては大同小異であり,非特異的である.Hurstらは,冠状動脈心疾患を一般的な用語とし,それを2つに分け「冠状動脈粥状硬化性心疾患」とそれ以外のもの,「冠状動脈非粥状硬化性心疾患」にしている6).欧米先進国に虚血性心疾患が非常に多いのは,主として前者の粥状硬化性心疾患が多いためであり,冠状動脈性心疾患と同一視して用いられていることもある.

循環器疾患の地理医学的研究

著者: 安西定

ページ範囲:P.174 - P.181

■はじめに
 循環器疾患の疫学研究は基礎医学,臨床医学および周辺科学を導入しつつ,疫学調査,予防対策の展開を主軸として戦後急速に発展しつつある.
 一方,地理医学は地域的に疾病や死亡の分布・頻度の実態などを地理学的手法を用いて地図化するなど,その地域差,地域特性を明らかにするとともに,環境要因との関連を追究し,その発生要因を解明しようとするものである.従って,地理医学は記述疫学の一手法として位置づけられる.

循環器疾患の管理方式と将来の方向

著者: 小澤秀樹 ,   矢野敦雄 ,   萬代隆 ,   馬場俊六 ,   池田正男

ページ範囲:P.182 - P.189

■はじめに
 循環器疾患の中で,わが国では脳卒中が多発し,虚血性心疾患の3倍を越える死亡率を示す.脳卒中の予防をはかるため,疫学的研究をはじめとして,脳卒中の成因について研究が進められてきた結果,脳卒中の最大の要因が高血圧であることが明らかにされてきた.この成績にもとついて地域集団を対象とした脳卒中予防の介入研究が行われ,脳卒中の予防の成果が実証されている.
 すなわち,脳卒中は予防できる疾病であることの実証がある.他の成人病,胃がん,肺がん,糖尿病などでは,予防できることについて必ずしもはっきりしていない.脳卒中の予防は,その最大の原因である高血圧の早期発見と,発見後の高血圧管理が基本である.高血圧の発見は,自覚症状によって受診することを待つのでなく,異常を訴えてない人に対する検診が主要である.現在では血圧を測ったことのない人は少ないと思われるが,10年前には血圧検診は普遍的でなく,地域の血圧検診が昭和48年にようやく予算補助事業になったところであった.

循環器疾患の国際比較

著者: 籏野脩一

ページ範囲:P.190 - P.201

■はじめに
 世界の大勢を知って,我が国の位置づけを知ることは,我が国の循環器疾患の今後の向かう方向を確認すること,我が国の特殊性を認識し,循環器疾患対策の重点を定め,的確な予防対策を企画する上でも必要である.また開発途上国や他の先進諸国との交流や情報提供等の国際協力も,我が国の医学関係者の任務の一つと考えるべきである.国際比較が,種々の疾病の未知の原因を明らかにする上で役立った経験は少なくないし,アジアの諸国から研修生や学者を迎えている研究所,病院,大学も多くなった.
 医学技術の進歩は,微生物を介して起こる感染症の多くを経済発展の進んだ国々からほぼ追放したけれども,加齢に伴って起こる組織の変性や傷害,機能低下を防止するに至っていない.

講座

公衆衛生における細胞遺伝学研究(その1)—健康状態と染色体の異常

著者: 森本兼曩 ,   小泉明

ページ範囲:P.202 - P.209

■はじめに
 公衆衛生に関する活動が人間の健康を対象としながら,極めて広範な分野にまたがっている事は言うまでもない.この公衆衛生諸分野の活動には,大学・研究所における基礎的なbiomedicalな研究から始まり,経済・政治或いは教育分野をも広く含めたいわゆる健康政策に関する活動も,近年特にその重要性を増してきた.しかし,それに従事する専門家のactivityという観点からすると,今もって公衆衛生学の対象は疾病像とその分布の把握であり,それをいかにコントロールするかという点に主力が注がれていたように思われる,しかし,近年様々な社会的要因の変化と医学生物学分野における研究,特にDNA染色体研究と疾病像の関連の研究が進展したことにより,公衆衛生活動の対象を疾病状況の現状把握という静的な場面から,より積極的に健康状況の保持,増進或いは疾病の予防という点に具体的な活動の主力が移りつつあるといえる,勿論,特に近年死因の第1位となった発がんの機構,或いはその要因の解明と制御という課題は,公衆衛生活動の重要な目的としてむしろ社会の側から要求されているかのように思われる.又,最近の医学生物学の基礎研究と臨床研究の総合化の中から,多くの疾病の要因として遺伝的な素因が,環境要因のそれと複雑にからまりあいながら作用している事実が,具体的に明らかにされてきた.

社会福祉協議会と地域保健

精神衛生ボランティア活動の組織化

著者: 森法房

ページ範囲:P.210 - P.216

■はじめに
 昭和58年4月の調査によると,山口県内に,32万人のボランティアが登録されている.県人口が160万人なので,山口県では,約5人に1人はボランティアということになる.
 32万人の活動の内容は,空きカン拾いから毎月の施設訪問まで多種多様であるが,精神衛生活動に関するものは稀少である.

発言あり

年金

ページ範囲:P.149 - P.151

格差,負担の軋轢どう克服するか
 厚生,国民,船員3年金の改正案が,厚相から社会保険,国民年金両審議会に諮問された.21世紀に向けて,欧米先進国を上回る高齢化社会が予測されるなかで,長期にわたって安定した年金制度を,と厚生省が準備を進めてきたものである.今回の改正の背景として①現行制度の"肥満体質"と制度間格差の是正②年金世代と現役世代のバランスの見直し③年金制度における男女格差の是正,婦人の年金権確立④障害福祉年金の差別廃止など公的年金の公平化を図り,長期的な制度運営の安定強化を確保するために,緊急に解決すべき時代の要請があった.それでは,これらの課題は「21世紀の年金の確立」をはかるための"大改革"にふさわしい前進がみられたであろうか.
 公的年金制度は,国民の老後所得を相互扶助によって保障する仕組みである.これが国民の信頼を受けて正常に機能するためには,社会的公正,制度間格差の是正はとりわけ重要である.

資料

岐阜県における医師の充足

著者: 井口恒男 ,   加藤道子 ,   長尾長男

ページ範囲:P.217 - P.220

■はじめに
 医師は保健医療活動に不可欠な要員であり,その充足如何は地域の医療計画策定に大きく影響するものである.
 著者らは,岐阜県での地域医療計画策定の基礎資料とするため,本県での医師充足の現状と今後の動向について検討したので報告する.

海外事情

ロンドンの老人施設事情

著者: 作田勉

ページ範囲:P.221 - P.223

■はじめに
 わが国の高齢者人口は年々増加し,高齢者対策をどうするかがわが国の福祉行政の重要ポイントになっている.そのため,常時介護を要する高齢者を収容する特別養護老人ホームの設置に厚生省は力を注いでいる,そして全国各地に次々と立派なビルディングが建ち,手厚い取り扱いがされている.これは日本が老人福祉の分野では後進国であり,かつ経済大国として資金は余裕があるからであるといえる.しかしこのまま金をふんだんに使っていった場合,やがてその額は巨大なものとなり,行き詰まりを来たす可能性は大であるといえよう.
 現にイギリスでは,福祉予算が削減され,老人ホームへの資金流入は緊縮化されつつある.第二次世界大戦後,労働党内閣によって次々と打ち出された福祉政策が,低成長時代での今日では重荷となっているわけだ.

日本列島

保健衛生指導員研修会から

著者: 土屋真

ページ範囲:P.189 - P.189

仙台市
 (社)仙台市衛生団体連合会(市衛連と略称)には3支部があり,東支部(錦戸支部長)においても色々な地区組織活動の一つとして,研修会を行ってきた.各支部とも市衛連会長が委嘱した「保健衛生指導員」が住民100世帯につき1名,「保健衛生普及員」が20〜30世帯に1名設置されている.
 これら指導員の任務は,普及員の指導と活用,地域の健康状態や地域環境衛生等の要望および要求を関係組織に反映させる役割,地域に対しての橋渡し役などである.政令市保健所では,文書配布等の協力もいただいている.管内人口は約15万人.

長野県がん検診・救急センター発足

著者: 藤島弘道

ページ範囲:P.201 - P.201

長野
 長野県では,がんの早期発見と早期治療を促進し,がんの高度な精密検査と医療技術者の教育・研修等を行うため,がん検診センターを,松本市の信州大学医学部附属病院に隣接して設置した.また,中信地域の救命救急医療の需要に対応するため,救急センターが併設された.建物延面積4,766.97 m2.職員50名(検査部門医師4名,救命救急部門医師4名を含む)で,昭和58年10月1日業務を開始した.
 設置者は長野県であるが,運営は財団法人長野県成人病予防協会に委託されている.

身障者リハビリ・センターの開設

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.220 - P.220

北海道
 北海道立身障者リハビリセンターが58年11月1日,美唄市美唄1451にオープンした.
 この施設は,肢体に障害のある人を収容して,更生に必要な治療と訓練を行う,道立身障者更生指導所(美唄市茶志内),道立重度身障者更生指導所(同)及び心臓・腎臓・呼吸器に障害のある人を収容し,治療・訓練を行う道立内部障害者更生指導所(札幌市中央区円山西町2の1)を統合したものである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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