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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生48巻4号

1984年04月発行

雑誌目次

特集 糖尿病—臨床から公衆衛生へ

糖尿病の発症機構と分類

著者: 金沢康徳

ページ範囲:P.228 - P.234

■はじめに
 糖尿病は一見症状に乏しく,時には合併症の出現により視力が低下してはじめて,その病気に罹っていることに気付くことすらあり,専門家以外にはきわめてとらえどころのない疾患であると思われる.ましてや患者を含む医師以外の方々にとっては,一見苦痛が少ないところから,その恐しさが充分理解されていないかと思うと,逆に糖尿病と診断されただけで死が目前に迫ったような恐怖感に取りつかれてしまう場合もあり,なかなか本疾患に対する的確な理解が得られないのが実状である.
 糖尿病はわが国では人口の2%程度,40歳代以上をとると5〜6%もの罹患率が認められ,欧米においては或る年齢帯では,罹患率が10%を越えることすらあり,最も活動的な年齢帯の人をおそう疾患である.糖尿病の合併症である網膜症は,成人の失明者のうちのかなりの症例でその原因となり,国民生活に重大な影響を与えている.一方患者自身の立場に立つと,糖尿病患者は長期間生活上の規制を強いられた上,ひとたび合併症が出現すると,その日常生活はきわめて不自由なものとなる.

糖尿病の疫学

著者: 方波見重兵衛

ページ範囲:P.235 - P.242

■はじめに
 糖尿病を集団として把握する資料としては死亡統計が重要であり,規模が最も大きいものである.
 しかし死亡統計は原死因のみによる情報であって,二次死因は考慮されない.また死亡票に糖尿病の記載洩れもあろうし,自覚症の少ない高齢者の糖尿病も多いことから,診断されず死亡することもあろう.以上,死亡統計には欠点がみられる.

糖尿病の食事・栄養療法

著者: 鈴木和枝 ,   池田義雄

ページ範囲:P.243 - P.251

■はじめに
 糖尿病の食事療法に対する考え方は,時代とともに著しく移り変って今日にいたっている.ここでは,こうした食事療法の変遷を通じて,今日の食事療法のあり方,すすめ方を糖尿病のコントロール基準ともども紹介する,そして,これの実践の場としての栄養指導について,地域医療の面から言及する.

若年性糖尿病のこれからの課題—学校における患児の実態を中心にして

著者: 北川照男

ページ範囲:P.252 - P.256

■はじめに
 わが国のインスリン依存性小児糖尿病の発生頻度は,幸いなことに米国の約10分の1,スヵンジナビア諸国の20〜30分の1といわれている1).このように,わが国において小児糖尿病の発生頻度が著しく低いのは,食生活,気候などの環境要因の差異によるよりも,遺伝的要因の差異が大きな役割を果していると考えられている.その理由は,それらの欧米諸国とわが国のインスリン依存性小児糖尿病の年齢別発生数のパターン,季節別発生数のパターン,および発症時の症状,治療に対する反応性など,いずれも極めて類似しており,単位人口当たりのインスリン依存性糖尿病にかかりやすい体質をもつ小児の数が,欧米に比較してわが国では著しく少ないのではないかと考えられているからである2).これを裏付けるように,糖尿病の発症に密接な関連をもつとされている遺伝子型,すなわちHLA型が日本人と欧米人とでは異なる上に,一般人口におけるその分布頻度が著しく異なるといわれており3),このような糖尿病の発症と関連をもつ遺伝的要因の差異が,わが国のインスリン依存性糖尿病の発症数の少ないことと関連をもつと考えられている.
 このように,こどもの糖尿病,特に難治性のインスリン依存性糖尿病の発生数が著しく少ないことは,わが国の小児にとって幸いなことである.

糖尿病妊婦の管理

著者: 大森安恵

ページ範囲:P.257 - P.261

■はじめに
 従来日本では,妊娠適齢期といえる若い糖尿病が少なかったためと,糖尿病で妊娠するととても危険だから,妊娠すべきでないと考えられていて,糖尿病臨床の中で,妊娠は常に二の次,三の次に置かれていた.
 しかし,巨大児を分娩してから幾年か経つと糖尿病になっていく率が高くなることや,家族に糖尿病のある方は,妊娠を契機に糖尿病が発症することがあるなど,とくに若い女性の糖尿病と妊娠は深いつながりがあり,糖尿病臨床の中でも最も重要な部門であるということが出来る.

糖尿病の地域保健活動 1

著者: 陣内冨男

ページ範囲:P.262 - P.267

■はじめに
 糖尿病の患者は,日本に200万人程存在するといわれている.
 その糖尿病の成因には,遺伝を背景に肥満,ストレス,感染症や妊娠などがあげられているので,まずはこれらに注意して発症を予防することが大切である.次に糖尿病を発生したら,早期に十分な治療を行い,病気の性質上,生涯にわたって十分管理してゆくことが必要である.

糖尿病の地域保健活動 2

著者: 平井二郎

ページ範囲:P.268 - P.275

■はじめに
 疾病構造の変化と人口の老齢化に伴い,慢性退行性疾患の予防と治療がこれからの保健と医療の大きな課題になってきている.
 いうまでもなく,慢性退行性疾患の予防と治療は,特別なことがない限り生活の場で行われるのであるが,その中でも糖尿病においては,食事と運動といった患者自身の日常行動が即ち治療ということになるのである.

糖尿病の国際比較

著者: 三木英司

ページ範囲:P.276 - P.283

■はじめに
 糖尿病はローマ時代のAretaeusの他,インド,中国等いくつかの国で古典的な記載があり,人類に普遍的な疾病であったと考えることが出来る.近代的な調査が行われるようになると,糖尿病の普遍性はますます高いことが知られて来た.世界保健機構の推定に従えば,現在地球上には三千万人の患者がいるといわれている.
 比較的近年までは糖尿病が殆んどないと言われている民族があったが,調査が充分行われるようになって来ると,有病率は低くても糖尿病はどの民族にも存在することが知られるようになり,エスキモーに代表されるような低いものから,アリゾナ,オクラホマのインディアンや,南太平洋のナウル島の如く糖尿病者の異常に多い集団まであることが知られるようになった.これらの集団における詳細な調査成績も次第に集積されつつある.また従来からいわれて来たことであるが,小児ないし若年発症糖尿病がわが国において,欧米に比較して少ないことは近年多くの成績から確実なものとなりつつある.

発言あり

病院給食

ページ範囲:P.225 - P.227

病態栄養学の進歩を取り入れて
 私は幸いにも入院したことは一度もない.従って病院給食をうけた経験がない.入院経験者の話では,入院患者にとって,大きな楽しみは食事であるという.食生活の多様化や,病態栄養学の進んだ今日,病院給食には,いっそう高度な技術が要求されることと思う.
 病院における給食業務は,入院患者に嗜好を満足させる食事を提供するとともに,食事そのものが治療行為となっている.さらに入院患者が給食をとおして退院後も食事療法が継続できるよう,十分教育しなければならない.また,外来の慢性疾患患者にたいする栄養指導も欠かせない.このように,広範囲の業務をこなさなければならない現状にある.

調査報告

耐糖能異常者175名の7年間追跡調査—耐糖能および関連検査項目の推移の検討

著者: 成瀬優知 ,   鏡森定信 ,   渡辺正男 ,   鈴木祐恵 ,   藤岡忠治 ,   莇正三

ページ範囲:P.284 - P.292

■はじめに
 糖尿病患者の病態判断には,糖代謝,脂質代謝,インスリン分泌能,合併症等の各面からの検索をもとに総合的になされている,特にその中でも糖負荷試験(以下GTTと略)は,現在において最も重要な位置を占めており,その分類法である糖尿病の診断に関する委員会報告1)に従って実際の指導も行われている.
 一方,近年糖尿病患者の死亡構造は,心血管病変等の慢性合併症が大勢を占めており2,3),このことからも,糖尿病は高血圧とともに心疾患の危険因子の1つにあげられている.しかし,GTTによる糖尿病型,境界域型への分類,そしてそれを基にしての心疾患の予後の判断には,今なお不明な部分が少なくない.確かにGTTは生体の糖代謝を総合的に知るうえですぐれた検査法である.しかしGTTの成績は検査時点での多くの因子の影響を受ける4),さらにGTTで初めて異常を指摘された人では,その後数年間GTT成績の結果は大きな変動をとりやすいといわれている5,6).特に境界域型は様々なタイプの耐糖能異常が混在して一層複雑である.

喫煙と健康—学校教育者の意識

著者: 皆川興栄 ,   滝沢行雄

ページ範囲:P.293 - P.297

 現代社会において人間の生命と健康を脅かしている様々な要因のうち,喫煙,飲酒,薬物乱用は計り知れないほど大きく,かつ根深い問題である.その中でも「喫煙と健康」の問題ば,公衆衛生上きわめて重要であるといえる.国民総死亡の65%を占める悪性新生物,脳血管疾患,心疾患は,喫煙が直接的にも間接的にも一役かっており,それは,大部分が若い年齢からの喫煙習慣に起因しているからである.
 すでに喫煙の影響については数多くの諸家の報告1〜3)があり,がん,心臓病のほか,喘息,慢性気管支炎,胃・十二指腸潰瘍,胎児の発育阻害に至る広範多岐な健康障害を引き起こすことは,疫学的研究や動物実験の結果から明らかにされている.

綜説

健康・体力づくりの目標設定と実践方式の特性に関する考察

著者: 柴田一男

ページ範囲:P.298 - P.304

■まえがき
 健康・体力づくりのための活動は,明治から大正,昭和を通じて,主として学校教育,社会体育および一般公衆衛生施策のなかで進められてきた.
 とくに,昭和12年の保健所法の制定によって,母子保健,栄養改善,伝染病予防を目的とした全国保健所網の完成と,昭和15年の国民体力法の制定による,富国強兵を目的とした国民体力の増強対策は特筆される.

日本列島

大崎地方の救急医療体制の整備

著者: 土屋真

ページ範囲:P.234 - P.234

宮城
 新聞を見ると,休日当番医の医療機関名が乗り,大崎1市13町全地域の休日診療体制が一応整って1年半が過ぎたことに安心する.宮域県大崎保健所管内である古川市・志田郡・遠田郡・加美郡・玉造郡は人口が21万3千,面積が仙台市の6.5倍に当る1522.53km2の広大な県北の米どころである.
 管内はかつて3つの保健所があった.このため旧保健所の地区単位に,「地区地域医療対策委員会」(医師会・市町・保健所・他で構成)が設置されているが,この委員会が救急医療体制の整備に果した指導的役割は非常に大きい.むしろこの委員会の場での頻回な協議と意見調整があったからこそと言えよう.

成人病検診管理指導協議会

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.251 - P.251

岐阜
 58年2月老人保健法が施行され,58年度事業がいわば初年度事業といえる.6つのヘルス事業の中で,健康診査は予算の面からも(全体予算の8割),その体制や事務量の面からも,比重の高い事業である.
 健康診査のうち,胃がん検診や子宮がん検診は消化器集検学会,母性保護医協会などの学術団体が指導指針を出したり,研究検討を行っている.また,循環器系の健康診査については,厚生省は日本循環器疾患管理協議会の基準を一応の指導指針として採用しているが,検査機器,検査方法などの細部になると各地域でまちまちであり,判定基準や指導基準もまちまちなところが多い.特に,循環器系の健康診査では医療機関委託による市町村も多く,診査に当る医師により判定基準なども個々に異なる恐れも多い.

救急医療の基盤整備

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.292 - P.292

岐阜
 10年近く前,新聞紙上を賑わせていた『患者のたらい廻し』が発端の一つとなり,全国的に救急医療体制の整備充実が叫ばれ,52年度には厚生省も救急医療対策の諸制度を創設強化した.岐阜県では救急医療やへき地医療など地域医療対策を強化すべく,衛生部に地域保健課を設置しその対策に取り組んできた.
 救急医療体制は国の補助制度を基本として整備が進められているのは,各県とも同じようである.初期医療体制としては休日夜間急患センター,在宅当番医制,外科救急医療機関などが市郡ないし広域地域に整備され,また,入院患者の収容治療など初期医療機関をバックアップする2次医療体制については,病院群輪番制病院や共同利用型病院の制度が広域地域に整備されつつある.2次医療体制について,岐阜県ではベッド確保に必要な経費についても県単独事業を実施している.

肢体不自由児協会の事業概要

著者: 土屋真

ページ範囲:P.297 - P.297

宮城
 宮城県保健所長会では,「コミュニケーションを考える」と題し,毎月の定例会で各検診団体等の現状説明を受けてきた.今回は(財)宮城県肢体不自由児協会の高橋孝文医師(県整肢拓桃園長)ほかから,協会の事業概要を伺ったので,この機会に紹介したい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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