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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生48巻7号

1984年07月発行

雑誌目次

特集 アメニティ・保健・福祉

アメニティと健康への志向

著者: 田中恒男

ページ範囲:P.460 - P.464

■アメニティの意味とその起原
 アメニティ(Amenity)とは,もともとヨーロッパで提唱された概念であって,この言葉が日本に導入されてから,「快適性」とか「快適な環境」とかの訳が出廻っているが,こうした訳語にはとかく誤解がつきまといやすい.本来の意味は,「住み心地のよさ」といったものである.英国の都市計画行政の根底にあった思想であるだけに,その発想の根源を知らないわが国の人々は,実際に「人にとって気楽な環境」であるとか「便利な環境」である,とかのように受け取り,今日のHA(ホーム・オートメーション)ブームの中で,坐っていただけで何でも事が済むといった,イージーな環境づくりに期待を掛けているケースが多い.
 W. ホルフォード(英)は,アメニティを次のように定義している.すなわち,「アメニティとは,単に環境の一つの特性ではなくて,複合された総合的価値の目録である.その要素としては,美,心理的な落ち着きのある風景,生活上の条件の便利と快適さなどが挙げられる.このような環境整備の条件達成こそアメニティの基本概念である.」としている.

アメニティ・福祉・健康

著者: 丸尾直美

ページ範囲:P.465 - P.470

■環境アメニティとは何か
 1970年代のはじめに公害問題がわが国でも社会問題となり,公害問題としての環境問題に人々は目覚めた.政府も企業も公害対策に取り組み,公害とたたかう住民運動も発達した.1970年代はじめには社会保障を中心として福祉問題への目覚めもあり,1970年代に社会保障給付費の対国民所得比は倍増した.
 しかし,環境アメニティと生活の質に関してはこれまでまだ目覚めていなかった.

これからの老人福祉サービスのあり方—本当の快適さを求めて

著者: 日下部禧代子

ページ範囲:P.471 - P.476

■もうひとつの豊かさ
 Shall I compare thee to a summer's dey? Thou art more lovely and more temerate. Rough winds do shake the darling buds of May. And summer's lease hath all too short a date:
 君を夏の日にたとえようか 君はもっと美しくもっとおだやかだ あらしが五月のかわいい蕾を散らし 夏の季節はあまりに短いではないか

家族とアメニティ

著者: 望月嵩

ページ範囲:P.477 - P.482

■家族機能とアメニティ
 人間は,家族のなかに生まれ,家族のなかで育てられ,家族のなかで死んでいく.家族は,人間がその一生を通じてかかわりをもつ唯一の集団である.そこでは,人間が生きていくために必要な基礎的欲求のほとんどが充足される.すなわち,家族は多面的包括的な機能をもった集団である.
 家族が果す機能は,性,生殖,保護,教育,経済,保健,愛情などさまざまなものを列挙することができる.しかし,家族機能の特色は,このような個別機能を数えあげることによって示されるのではない.それは,これら個別機能が,家族成員のよりよい生活の実現に向けて収斂しているところにある.すなわち,家族成員の福祉追求こそが家族の機能であるということができる.

労働とアメニティ

著者: 武澤信一

ページ範囲:P.483 - P.490

■はじめに
 "労働とアメニティ"とは,つまるところわれわれが労働生活に何を求めるかの問題である.もし金銭だけを求めるなら,札びらの勘定がアメニティの源泉であり,フラストレーションのもとともなる.
 本稿ではまず第一に,人間が労働生活に何を求め,何を問題視してきたか,その歴史的推移を簡単なモデルで通観する.次にはここ十数年,世界の先進国で何が新しい"労働問題"となってきたかを顧みる.つまりアメニティをめぐる近年の国際的動向を,日本を含めて検討する.その上で日本の現在に焦点をしぼる.

看護におけるアメニティ

著者: 野口美和子

ページ範囲:P.491 - P.497

■はじめに
 看護ケアの目標は,患者の「安全」「安楽」「自立」である.しかし,近代以後,医療の場では予防・治療技術やリハビリテーション技術が発達し,目ざましい成果を上げるなかで,患者の安楽のための看護活動(患者にアメニティを与える)はどちらかというと,"心もとないもの""余分のもの""個人的なもの""感傷的なもの""非専門的なもの"とされ,研究の対象とされず,また仕事の順序としては後廻しにされた観があった.にもかかわらず,"優しさ""思いやり",は看護婦の人格的資質として大切であることだけは主張されて来たのである.
 たしかにアメニティは,安全や自立とは少し異なった面を持っている.安全は生命にとって絶対的なものであり,自立は人生の目標である.したがって安全と自立は,医療者を含む全ての人の共通の目標となる.その両者の間にあってアメニティは主観的であり,したがって個人的である.また相対的であり,したがってうつろぐものである.このような性質のものは近代科学の対象となりにくかったし,公的制度にも馴染まなかった.しかし現実の患者の日常生活の世話をする看護では,アメニティはないがしろに出来ない要素である.

アメニティと精神衛生

著者: 吉松和哉

ページ範囲:P.498 - P.503

■はじめに
 「アメニティ・保健・福祉」の特集の中で,「アメニティと精神衛生」の関係がとりあげられるのは大変意味が深い.それはアメニティと精神衛生の関係が非常に密接であると共に,その内容が一寸考える程には単純ではなく,一見矛盾するような面を含むように思われるからである.そこで以下いくつかの具体的現象を例にひきながら,この主題が抱える問題点を少しでも広い視野から論じられたらと願っている.

アメニティと子どもの発育

著者: 小林登

ページ範囲:P.504 - P.510

■はじめに
 「アメニティ」(amenity・amenite)と発育について論ぜよという編集子の求めであるが,筆者にとってアメニティという理念は初めてである,しかしながら,編集子の説明をきいて,考える点あって,本論文の執筆を引きうける事にした.すなわち,アメニティとは生態システムの質を評価するパラメーターであり,しかも評価する立場が,単なる分析論ではなく,むしろ包括的あるいは統合的な全体論であると考えられたからである.すなわち,文化とか心とか,人間関係という,従来の理念では評価しにくいもの全てを統合したパラメーターと思うのである.
 人間に関係する諸現象はヤヌス的(両面神的)であって,要素還元論的な面と全体統合論的な面とが共存する.要素還元論を否定することなく,それをのり越える全体統合論が,21世紀の医学・医療に求められていると思われるのである.

地域福祉とアメニティ—難病患者の地域ケアを中心に

著者: 阪上裕子

ページ範囲:P.511 - P.515

 ■はじめに
 この特集テーマと趣旨を知ったとき,いままで漠然と考えていたことが明確な形で問題提起されており,非常にうれしかった.「このようなことばや考え方が,公衆衛生や医療の関係者に受け入れられるようになれば,保健・医療と福祉の統合が強力に推進され,難病患者や精神障害者が安心して生きられる条件が整えられるだろう」と感じたからである.
 「アメニティ」という概念には,自然的・物的環境の快適性というハードな面と,社会的・人間的・精神的環境の快適性というソフトな面との二つの面が含まれているが,ここでは,地域社会でノーマルな生活を続けたいと望んでいる難治性疾患患者・障害者にとって快適な,社会的・人間的・精神的環境の条件はなにかというソフトな面を中心に,ソーシャルワーカーとしての最近の体験のなかで考えたことをいくつか述べてみよう.

講座 社会福祉協議会と地域保健・5

小地域におけるコミュニティ・ケア

著者: 徳久和彦

ページ範囲:P.516 - P.522

■はじめに
 「地域で暮したい」,「在宅のまま処遇できたら」という声があちこちで聞かれるようになった.
 しかし,その願いや努力を実らせるにはいくつものカベを越えなくてはならない.その一つに本人の生活のありようを決定づけている"地域社会"がある.

発言あり

医療費の自己負担

著者: 浅野正嗣 ,   木島博保 ,   木村慶 ,   小平良貞 ,   古川綾子

ページ範囲:P.457 - P.459

誰もが安心して受療できる体制を
 私達は健康な時,医療について余り考えることがない.しかし,いざ病気になるといろいろなことが心配になり,考えなければならないことが山積する.病気のこと,家族のこと,生活のことなどである.これらの中でも,取り分け医療費の問題は病人に直接的な負担としてふりかかり,病人の苦悩を増加させる.福祉社会の確立といわれて久しいが,その基本理念は「すべての国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(憲法第25条)ことである.言いふるされた言葉ではあるが,「安心して毎日の生活を送ることができる」ということである.しかし,とくに難病とか難治性疾患といわれるような病気になった人には,この言葉は重い.こういった人人にとって医療を受けることは,急性疾患でいう治療(CURE)としてよりも,慢性疾患での管理(CARE)として捉え,生活の一部として溶け込んでいる.いうならば,その人が生きていくためになくてはならないものなのである.しかも,難病といわれるような病気になった責任は本人には無いにも関わらず,そのハンディは一生本人自身が背負っていかなければならない.国はこうした人人の救済措置として,様々な制度・政策を施行しているが決して充分ではない.安易な医療のかかり方が問題にされる一方で,こうした目にふれることの少ない人々が置き去りにされていい道理はない.また難病といわれる人たちは少数のようにいわれたりするが,その数は200万人とも300万人ともいわれている.

調査報告

低体重児出生における母体因子の影響

著者: 長田亮 ,   宮下和久 ,   笠松隆洋 ,   岩田弘敏

ページ範囲:P.523 - P.526

はじめに
 出生時体重が2,500g以下の低体重児出生割合は,厚生省の人口動態統計1)によると,昭和50年以降横ばいの状態で,昭和55年には,男5.1%,女6.1%を占めている.低体重児の出生には,母体側因子も少なからず影響しているといわれ2,3),以前より多くの報告があるが,未だ解明されていない部分も多く残されている.したがって,今後さらに,母体側の要因を検討し,低体重児出生の危険因子を持つ妊婦に対して,妊娠中の管理,とくに保健指導に十分な配慮が必要と思われる.
 そこで,今回我々は,従来よりいわれている,児の出生順位,母親の年齢,児の性別,住居環境,人工妊娠中絶の影響,多胎出産,妊娠・分娩時の異常などの,母体側の要因を中心に検討を行ない若干の知見を得たので報告する.

随想

健康展を終って

著者: 岩永俊博

ページ範囲:P.503 - P.503

 最近というより,しばらく以前から,いくつかの市町村,あるいは県等によって,健康フェア,健康祭等の名前のついた催しが行なわれるようになりました.内容も,講演会が中心のものや,検診コーナー,相談コーナー,体力測定等,住民参加を目的として,地元の開業医等と協力しながら行なうものなど,それぞれが,健康の大切さをいかに住民にアピールしようかと,いろいろな工夫がこらされているようです.
 私が人吉保健所に赴任して約2カ月たったころ,県主催の健康展を,人吉地域で開こうという話がもちあがりました.

日本列島

温泉地市町村に低率な脳卒中死亡

著者: 土屋真

ページ範囲:P.470 - P.470

宮城
 脳卒中の高率な東北地方にも地域差があって,一般に内陸部は海岸部より高い.このことは粗死亡率・訂正死亡率・標準化死亡比(SMR)からも明白である.「成人病の疫学分布研究協議会」が算出した6年間平均の脳卒中のSMRでみると,全国平均100に対し,宮城県内陸部農村S町の男女が158.1,N町129.6に対し,漁村K町66.9,O町81.8だ.
 ここで御紹介する「鳴子町」は,県北内陸部の山形県境にあって,人口12,066,面積325.29km2の山が多い広大な温泉郷である.冬は積雪地帯でスキー場もあり,また5ヵ所の温泉の多数の源泉から豊富な湯が湧出している.

歯科医療施設の急増と偏在

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.497 - P.497

沖縄
 沖縄県内の歯科医師数は,県医務課の資料によると,昭和57年12月末現在268人で,人口10万人当たり23.7人,全国平均49.2人の48.2%となっている.これからみると,歯科医師の絶対数は不足している状況にあるといえる.
 歯科診療所数の推移をみると,昭和42年には110,53年には169で,その間の年平均増加数は5であったが,54年には16,55年15,56年14,57年には20,58年には40と急増している.59年でも1月から4月21日迄に14の新設届があった.昭和57年末現在の歯科診療所数は234で,人口10万対20.7,全国平均35.1の59%となっているが,これを保健所管轄地域別にみると,人口約30万人の那覇市(中央保健所管轄)には99(人口10万対33)となり,ほぼ全国水準に近い。新規の歯科診療所は,人口の集中している沖縄本島の中南部に多く,特に那覇市内かその周辺に設置されているようである.このように診療所の急増してきたことによるかどうかは断定できないが,従来の診療時間が,祝祭日,休日休診,診療時間9-18時となっていたのが,年中無休や,夜9時迄開院する診療所も出てきており,利用者にとっては便利になっている.また医務課に今年に入って廃業届をした歯科診療所が9あったが,一部は移転もあるということである.都市地区に新規開業が集中する傾向はこれまでにもあり,昭和57年末現在で歯科診療所の無い町村が53市町村のうち19もある.

昭和58年度健康増進事業研究発表会

著者: 藤島弘道

ページ範囲:P.510 - P.510

 長野県では,昭和51年度に,へき地健康増進事業をはじめて以来,毎年健康増進事業研究発表会を行ない,今年度も59年2月21日県庁講堂で開催された.58年度は,さわやか体験クリニックを新規事業としてとり入れたので,今年度の発表会は特に注目された.
 健康教室等各健康増進事業に関する演題が12発表されたが,そのうち3題がさわやか体験クリニックに関するものであった.

産業廃棄物最終処分場の建設・操業をめぐって和解成立

著者: 山本繁

ページ範囲:P.522 - P.522

京都
 京都では,近年増大している産業廃棄物に対処するために,京都府・京都市及び地元企業40社の共同出資による,株式会社京都環境保全公社(以下公社という)が設立されているが,肝心の最終処分場(以下処分場という)の建設・操業については地元関係住民の反対運動が起こり,京都地裁に対して,昭和57年3月には処分場建設中止を,昭和58年11月にはその操業中止を求める仮処分申請がなされていた.
 しかし,地裁のすすめによって,昭和58年末頃から和解の話し合いが進められ,この度,双方が合意に達したので一件落着になり,処分場の埋め立てが開始されたところである.

サルモネラ菌による乳幼児下痢症の流行

著者: 土屋真

ページ範囲:P.527 - P.527

宮城
 さる昭和58年の10月から11月にかけて,仙台圏の市町村(仙台市と隣接市町村)に粘血便を伴う「乳幼児下痢症」が多数発生した.各病院から送られた糞便を検査した,仙台市衛生試験所(角田所長)の成績から,サルモネラ菌C2群(Salmonella newport)の流行であることが判明したのである.C2群は12年程前に,仙台の食中毒の原因菌になったことがあると言う.C2群の証明は稀である.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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