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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生48巻8号

1984年08月発行

雑誌目次

特集 結核対策の動向

低蔓延下の結核対策のあり方

著者: 森亨

ページ範囲:P.532 - P.538

■はじめに
 日本では結核対策は,病気の公衆衛生的アプローチの手本のような形で言及されることが多い.多くの場合それは,結核問題が現在よりはるかに深刻だった20年以上以前の結核対策のやり方を念頭においているように思われる.しかしこの間結核問題はその様相を量的にも,質的にも一変させたといえる.本稿ではまずそのような結核問題,とくに疫学的状況の変化について確認し,それに対する方策のあるべき姿を検討することにしたいと思う.個々の具体的な問題点については他の執筆者がそれぞれ詳しく論じられているので,本稿はなるべく管理研究の立場から論じることにしたいが,多少の重複は御容赦いただきたい.

愛知県における結核対策

著者: 藤岡正信 ,   五十里明

ページ範囲:P.539 - P.546

■はじめに
 愛知県の結核対策は昭和52年度より開始された結核サーベイランス事業を軸に,種々の対策が行われている.結核サーベイランス事業は,昭和48年10月の結核予防審議会答申(委員長:岩崎龍郎)を受けて開始した事業であり,愛知県では衛生部保健予防課結核管理担当(通称:結核管理センター)が受け持っている.
 結核管理センターの業務は,登録患者の情報管理,集団検診の実施,X線フィルムの読影,結核菌検査,結核技術担当者の研修・教育の企画などで,医師,保健婦,放射線技師等がこれにあたっている.この他に,定期外検診の発動時には稼動班を編成し,保健所の応援をすることも愛知県の結核対策の特徴である.

沖縄県の結核対策

著者: 砂川恵徹

ページ範囲:P.547 - P.555

■はじめに
 沖縄県の結核事情について述べる場合,第二次大戦による県土の荒廃と,多くの人々の戦争犠牲と,戦後本土復帰する昭和47年まで,沖縄独自の琉球政府のもとに,本土とまったく異なる法律制度により,結核対策も行われたことを抜きにしては説明できない.
 戦後の結核対策は,祖国から切り離され,本土とは別の展開を余儀なくされ,死亡率,罹患率,有病率等の諸指標についての把握・分析についても,また検診,治療の推進等についても県独自で実施して来た.

国鉄における結核対策の歴史と課題

著者: 前田裕

ページ範囲:P.556 - P.561

■結核管理のあゆみ
 1.戦前および戦時中の結核管理
 国鉄における結核対策の歴史は古く,昭和初期から採用時身体検査規程に肺活量,栄養指数(カウプの指数)の合格基準を定め,既往歴その他を調査し,また職員の定期健康診断以外に体重測定,喀痰の結核菌検査を行うなど,結核有病者の不採用,結核発病者の早期発見療養などにつとめてきた.
 そのころ戦争の影響が次第に強くなっており,兵役および外地鉄道への出向,結核患者の復員などのため,正確な成績を得ることは困難であったと思われるが,当時の記録によると,結核による休業率は昭和12年(職員総数の1.82%),昭和13年(2.07%),昭和14年(2.59%),昭和15年(3.19%),昭和16年(3.69%),昭和17年(4.27%)と増加の一途をたどっていた.

保健所における結核対策—患者管理を中心として

著者: 遠藤和男

ページ範囲:P.562 - P.569

■保健所の役割の変遷
 保健所というと,かつては「犬殺しと結核」というイメージが強かったし,実際,昭和30年代における定期健康診断,BCG予防接種,患者登録制度等様々な結核対策の確立については,保健所が重要な役割を果してきた.
 昭和40年代以降,疾病構造の急激な変化と,公害等の環境問題も含めた住民ニーズの多様化とにより,保健所の業務は量的に増大したばかりでなく,質的にも変化してきた.

結核治療の問題点

著者: 上田博三

ページ範囲:P.570 - P.576

 ■はじめに
 結核治療医学は近年,RFPを含む強化治療の登場と,この強化治療による臨床研究の成果により,初回治療に関しては,ほぼ確立されたといえる.それでは現在,わが国の結核患者があまねく,今日の結核治療医学の進歩にみあう恩恵を受けているのであろうか,もし行政を含めた医療側の怠慢で,強化治療の登場による恩恵を受けない患者がいるとすれば,それは患者不在の医療といわねばなるまい.だが結核に関する統計指標を見るだけでも,いささか悲観的な傾向がうかがい知れるのである.1983年に行われた結核登録者調査1)によれば,RFPの初回治療例への使用率は,都道府県間に55.3%から97.4%の格差がある.また1983年現在で5年以上治療を受けている者の割合を都道府県別にみても,10.3%から47.0%と大きな地域差がある1)としている.公衆衛生審議会答申「今後の結核患者の在り方について」によると,1976年に登録された結核患者についての調査では,1年以上入院していたものの割合も,都道府県間で17.2%から70.8%と大きな差が報告されている2).これらの地域差は新登録患者の病状や社会的背景等に地域間での格差が存在するとは考え難く,医療側の治療に関する考え方が統一されていないことに起因すると思われる.
 本稿はこうした医療側に起因する問題点を主として取り上げ,これからの結核治療のあり方について述べることとした.

結核のリハビリテーション—臨床的推移と呼吸管理

著者: 杉田博宣

ページ範囲:P.577 - P.583

■はじめに
 結核は治る時代だが発見の遅れや,陳旧性肺結核症にもとづく呼吸不全のために心肺機能が低下し,社会生活がいちじるしく制約されている患者も少なくない.そのため病態の把握およびリハビリテーションを含む治療対策は結核診療上重要な課題の一つである.結核研究所附属病院における結核にもとづく呼吸不全患者の発病要因,病態,経過および予後について検討し,急性から慢性にいたる呼吸管理について報告する.

世界の結核・結核対策とわが国の国際協力

著者: 青木正和

ページ範囲:P.584 - P.590

■世界の結核蔓延状況
 1.結核感染危険率
 結核化学療法が普及する前までは,結核死亡率:塗抹陽性肺結核罹患率:塗抹陽性肺結核有病率の比はおよそ1:2:4という値を示していた.このため,結核死亡率がわかれば,その地域の結核蔓延状況とその推移を,ほぼ的確に把握することができた.
 化学療法の出現により,この比率は当然,大きく変り,その進歩と普及に従って今でも変りつつある.このため,結核死亡率によって結核蔓延状況の国別比較を行ったり,時代的推移をみると,時には誤った結論に導かれる可能性もでてきた.

講座 臨床から公衆衛生へ—感染症シリーズ

性行為感染症(STD)—とくに梅毒,りん病・AIDSの動向(1)

著者: 芦沢正見

ページ範囲:P.591 - P.594

性行為感染症(STD)
 性行為感染症(STD)とは,Sexually Transmitted Diseasesの略称である.戦後の性風俗の多様化・「性」の商品化・企業化がもたらす性行為の極端なまでのバリエーションは,これまで予期されなかった感染症(たとえば腸管感染症や咽頭感染症)が,口腔—性器,肛門性交等の行為を介して,パートナーからパートナーにうつし,うつされることが判明し,性病は従来の古典的な梅毒・りん病・軟性下かんといった枠では収まらず,生物分類からみても,広いスペクトルをもつ感染症の一群となり,それに対して,STDという概念が好んで用いられる.
 "Journal of American Venereal Diseases Association"は,1974年再刊の際,"Sexually Transmitted Diseases"という誌名によそおいを変えた1).また翌1975年の第28回WHO総会の技術討議は,「性病—その社会的側面—」というテーマで開かれたが2〜4),その際,VDのかわりにSTDの呼称が使われている.

発言あり

夏のレジャー

ページ範囲:P.529 - P.531

手軽に健康的に楽しみたいもの
 八月の声を聞く頃は,暑さが日一日と増し不快指数もうなぎ登りにグングンと上がってくる.またこの頃には体力は目に見えて消耗し,思考力は低下しイライラ感はつのるばかりとなる.だが最近はエアーコンディショニングの普及により,真夏でも過ごしやすくなったといわれる.しかし,そんなことが通用するのは建物のなかでのことで,まだ人間の生活空間すべてのことではない.冷房のよく効いた建物に入った時のあのホッとした感じと,その建物から出てきた時のムッとした感じはなんとも対比的である.また,我々サラリーマンにとっては朝夕の通勤ラッシュというおまけまでついてくるので,そのストレスは意識的にも無意識的にもかなり蓄積されることになる.そこで夏休みともなると,暑気払いとストレス解消に,こぞって自然を求めて海へ山へと繰り出すことになるのである.しかし,時間と経費を気にしてのレジャーは,むしろストレスを倍加させることになり,考えものである.そこで最近自然と接しながらストレスを解消しようと,アウトドアライフといわれるもののなかに,森林浴なるものが登場し,あちこちで紹介され話題となっている.

資料

国際保健資料文献ガイド

著者: 豊川裕之 ,   今井留香

ページ範囲:P.594 - P.599

〔紹介文〕
 このたび,National Center for Health Statistics(略:NCHS),U. S. Department of Health and Human Servicesから,"International Health Data Reference Guide" が初めて刊行された.かねてから,この種の世界的なガイドがあればどんなに便利なことだろうと熱望していたので,早速,NCHSの方に本誌掲載の許可を申請したところ快諾を得ましたので,ここに紹介する次第である.
 なお,本文にも述べられているが,収録されている国のデータの出所と同時に問合わせ先も原文のまま紹介するので,詳しい内容について知りたいときは,そのオリジナルにまで遡及できることは好都合である.

日本列島

水痘・風疹大流行か?

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.546 - P.546

沖縄
 沖縄県内では,昭和40〜41年にかけて風疹が流行し,妊娠初期の婦人が罹患した結果,出生した赤ちゃんのうち384人に障害が発生した.これらのいわゆる風疹障害児は,その後義務教育を終え,さらに特別に設置された高校を今春卒業したばかりであるが,今年はまた風疹が流行しそうな気配である.
 県予防課の感染症サーベイランスの結果によると,今年の風疹発生は1月37,2月239,3月739,4月の第1週282となっており,昨年1〜3月の患者数合計549に対し,今年は既に1,015人と約2倍になっている.

へき地勤務医師の現況

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.555 - P.555

岐阜
 岐阜大学医学部では公衆衛生学教科の一環として,専門3年生の学生実習を10グループ程に分け実施している.このうち1グループが県内のへき地に勤務している医師に対し,58年11月アンケート調査を実施しており,その概要を紹介したい.
 対象は一般のへき地診療所と,へき地第一種および第二種の国保診療所に勤務する30名であり,24名の回答を得ている.24名中16名は1人で診療に従事している.人口2,000人以下の診療圏域に15名が従事しており,また,1日の外来患者数も50人以下のところが18名であることなど,へき地性の高いことがうかがえる.医師の半数は60歳以上で高齢者が多く,また5年以上にわたって勤務している医師は,3分の2を占めている.診療所の看護婦数(准看護婦を含む)は2〜3人のところが多く,3分の1の医師は増員を希望している.患者数はやや増加傾向のところが3割,不変5割,減少傾向2割と,全体としては横ばいのようである.標榜している診療科はほとんどの診療所で内科,小児科であり,6割が外科も標榜しているが,医師の専門科は内科18,外科4,精神科2等であり,へき地に高齢者の多いことも影響し,内科系の需要が高いものと思われる.診療所内で実施している検査をみると,尿検査,血液一般検査,心電図,X線撮影はほとんどのところで実施されており,X線透視は6割程度,生化学検査はほとんど検査センターへの委託のようである.その他の生理検査の実施されているところはごく少数のようである.

痴呆老人の調査

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.583 - P.583

岐阜
 岐阜県では老人保健事業の一環として,昭和57年度から,3カ年にわたって痴呆老人等の調査を行っているが,59年3月,調査の中間発表を行った.
 この調査は老人の心身の健康と生活に関する実態を把握し,それにより保健・福祉行政へのニーズを反映した,効率的保健・福祉施策の推進を図るための基礎資料を得ることを目的としており,県下の3カ市町村に居住する,65歳以上の老人を対象とした調査である.予備調査は58年7〜8月に,65歳以上の老人のいる世帯へ調査員があらかじめ予備調査票を配布し,本人および家族が回答を記入した後回収する方法で実施し,その結果痴呆の疑いありとされた老人について,精神科医と保健婦により,本調査を11〜12月に実施した.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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