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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生48巻9号

1984年09月発行

雑誌目次

特集 老人保健法—2年が経過して

老人保健制度の現況と今後の課題

著者: 谷修一

ページ範囲:P.604 - P.610

■はじめに
 老人保健法が昭和58年2月に施行されてから1年半余りが経過した.この間,事業の実施主体である市町村当局をはじめ,各都道府県,各保険者,各関係団体等の努力と協力によって,老人保健制度は全体としてはほぼ順調に運営されてきたと考えている.制度そのものはまだ動き出したばかりであって,全体の評価をするには時期尚早であるが,ここでは現在までの状況をふりかえりつつ,今後の展望にもふれてみたい.
 まずはじめに,老人保健法が57年8月10日国会で成立後,施行までの準備等についてその主なものを日を追って列挙してみる.

老人保健法施行2年を論じる

著者: 青山英康 ,   上野満雄

ページ範囲:P.611 - P.615

■はじめに
 老人保健法が昭和57年8月10日の第95回臨時国会において成立し,すでに2ヶ年を経過した今日,法案の提出及び審議の過程で各方面から提起されていた「期待」や「不安」が,どの程度現実化したのかを論じて置くことは極めて重要な保健・医療上の課題である.
 なぜならば,今後の保健・医療の動向を考える場合,急速に進展する人口の老齢化に対応する保健・医療のあり方が,いまだ決して明らかにされ得ているとはいえない中で,すでに,退職者医療の問題が討議されつつある現実を直視せざるを得ないからである.

老人保健法と市町村—市長の立場から

著者: 山田三郎

ページ範囲:P.616 - P.622

■はじめに
 私は,「老い」についてプラスのイメージをもつとき,可能な限り病気の束縛から逃れて,幾歳になっても創造的で行動的でありたいと願う.一方,マイナスのイメージをもつとき,貧困と病気と孤独という生からくる不条理に直面する.
 人間にとり,「老い」は避けて通れず否定もできない.しかし,自身も含め多くの人間は,自分はまぎれもなく自分であるという存在感を持ちつつ生活しているうちに,いつの間にか「老人」になってしまった.また周囲が「老人」として扱い始めた.「病い」や「行動力」,「記憶力」,「視力」等の低下で意識せざるをえなくなってきた.というのが「老い」の現実ではなかろうか.

老人保健法と市村町—町長の立場から

著者: 鬼嶋正之

ページ範囲:P.623 - P.626

■はじめに
 わが町は,新潟市の北方およそ30km日本海に臨んで位し,水稲を中心とする農業と沿岸漁業を基幹産業とする人口8千,面積25.44km2の小規模町である.財政的にはお世辞にも豊かであるとは言いがたく,自慢できるものといったら住民の温かい人柄と,ほぼ平坦な地形でありながら近傍でも稀な豊かな緑に恵まれた自然環境ぐらいのものであろうか.
 昨年3月,「市町村間の死亡差要因調査」のためにこの田舎町を訪問された安西先生にお会いし,地域保健行政について親しく意見交換をさせていただいたことがきっかけでこの度の原稿執筆をお引き受けすることとなった次第であるが,これが先生方の研究の一助ともなれば幸いである.

老人保健法と医師会活動

著者: 国見辰雄

ページ範囲:P.627 - P.631

 昭和58年2月から施行された老人保健法について,医療以外の保健事業については一部分を除いては,58年4月の新年度からはじまったところが多い.
 都道府県医師会のレベルでこの保健事業について,さし当ってどのように取り組むべきか,その地域の実態に応じて多様ではあると思うが,少なくとも昭和57年から愛知県医師会ではつぎの三つについてその重点をしぼって考えて来た.すなわち,
 (1)実施主体が市町村である以上,現実に県下88市町村長と対応するのは地区医師会長ではあるが,国がこの保健事業のために市町村に交付する補助金の交付単価がきわめて低いので,そのまま放置するといままでの実態を無視した低い報酬で地区医師会へ押しつけて来ることになる.そうなれば,保健事業の今後の円滑な推進も望めない.そのため,一定の単価を愛知県と愛知県医師会とが協定して,国の基準を上回る金額を県費をもって補わせることが必要である.
 しかし,それでもその単価はあくまでも愛知県下における最低単価を保障するものであって,市町村と地区医師会との交渉によって更にその上乗せを図ることも大切である.

老人保健法と病院医療

著者: 桑名忠夫

ページ範囲:P.632 - P.636

■はじめに
 老人保健法が施行されて1年数ヶ月を経過したが,この法が,医療サイドは申すに及ばず,社会的にも大きな波紋を投げかけていることは,大方の認むるところである.16年間老人医療と取り組んで来た病院にとって,老人保健法の制定は,地域老人に対して,全人的医療ケアサービスの提供を可能ならしめてくれるものと信じて疑わなかったのであるが,現実は誠に厳しく,国の医療財政の建て直しのみが優先しており,未だに医療現場は,とまどいの最中にあり,入院治療から在宅医療への転換は,老人が老人を見るというギリギリの状態の中で,各地での悲劇も報道されているのが実態であるといえよう.申すまでもなく,老人医療においては,単に治療だけではなく,福祉・保健をも包含した体制が要望されるところであるが,地域医療を志す1病院が,老人保健法施行に至るまでの期間,如何なる歩みを続けてきているか,そしてまた,この法の施行から1年余,キュアをベースとしたケアを,そしてケアをベースとしたキュアを,如何なる形で実施しているかについて述べ,併せて,老人医療の将来像への模索にも触れてみたいと思うのである.

老人保健法と保健所の役割

著者: 堂本一郎

ページ範囲:P.637 - P.643

 ■はじめに
 昭和58年2月,老人保健法が施行されて既に1年を経過した.老人保健法では実施主体が市町村であり,都道府県は保健所を通じて市町村に対し,必要な協力援助を行うよう規定され,保健所も各市町村の実態に応じ協働してきたところである.
 従来より保建所の機能,役割については,"たそがれ論","ありかた論"等いろいろ論議されてきたが,老人保健法を契機として,将来にわたる保健所の果すべき機能を明確にし,地域住民より期待される保健所を目指して,その役割を果していかなければならないと考えている.

老人保健法と保健婦活動

著者: 湯沢布矢子

ページ範囲:P.644 - P.649

■老人保健事業へのとりくみ——全国保健婦長会の調査から——
 老人保健法は,昭和57年2月から施行され,59年度に入って3年目を迎えたことになる.しかし実質的には1年数ヶ月しか過ぎていないし,関連のデータもまだ集計されていないので,全国の実施状況は明らかでない.また保健婦活動の実績からも,老人保健へのとりくみを見たいところであるが,これも目下58年分を集計中なので不明である.
 そこで58年8月の時点で,全国保健婦長会が,保健所と市町村保健婦の業務連携等の実態を把握し,効率的な保健婦活動の展開に資することを目的に実施した調査(保健婦の業務連携等に関する調査)があるが,その中から老人保健事業に関するいくつかの問題を拾ってみた.

「保健と福祉の町づくり」の課題—老健法との関連から

著者: 石黒チイ子

ページ範囲:P.650 - P.654

■はじめに
 「脳摘出で石川追起訴—宇都宮病院事件—」という見出しの朝日新聞某日の小さな記事は大きなショックであった.記事の内容は,昭和58年2月25日から今年1月30日までの間に,看護長ら4人に命じて,同病院本館1階解剖室で,6遺体を解剖,脳を摘出していたというものである.
 医学の発達を目的とする可能性の追求と,人間の尊厳との関係とは,どういう思想で結びついているのか,密閉された医学分野における超専門性の実態に恐怖を感じたものである.

イギリスの地域老人保健

著者: 日野秀逸

ページ範囲:P.655 - P.660

■はじめに
 1983年2月より老人保健法がわが国において施行された.これは,臨時行政改革調査会(臨調)の答申を受けた形で進められた1).その目的の主なものは,医療費抑制とヘルス事業の実施であるが,入院から在宅あるいは地域ケアへという患者の流れをつくりだすことも含めてよかろう.
 本稿のテーマであるイギリスの老人保健医療をみても,医療費抑制が行政の基調になっている.本稿では,イギリスにおける老人保健医療の最近の主な特徴である,入院から地域へという流れの強まりを,サッチャー行革の一環として位置づけつつ,紹介する.

講座 臨床から公衆衛生へ—感染症シリーズ・1

性行為感染症(STD)—とくに梅毒・りん病・AIDSの動向(2)

著者: 芦沢正見

ページ範囲:P.661 - P.665

りん病
 1.届出統計
 りん菌感染症は発生件数年200万という合衆国を筆頭に,まさにパンデミー(世界的流行)の様相を呈している.わが国でも1978年以降,年々1,000件以上ずつ増加し,1982年には,ついに1万をこえ,1966〜67年の流行のレベルに到達した(前号図1).なお男女比は7〜10倍と男が大であり,かくれた多数の女子患者ないし保菌者の存在が予想される.
 またりん病患者は圧倒的に若年者によって占められることには相違ないが,表3にみるように次第に40〜50歳台のシェアが増していることも注目されよう.

発言あり

救急の日

ページ範囲:P.601 - P.603

認識を深め適切な利用を
 9月9日は「救急の日」です.これは昭和57年に定められたもので,救急医療及び救急業務に対する国民の正しい理解と認識を深め救急医療関係者の意識の高揚を図ることが目的で,同時に救急医療知識の普及,啓蒙を計るために救急医療週間を設けることにしています.救急医療の基本的な考え方について利用者をも含めてこの機会に問い直すことも意義があるかもしれません.
 救急医療には1)平常時,2)災害時,3)その他と分けられますが,3)その他の救急医療はその地域の特有な救急医療体制で,例えば離島等を持つ地域では特別な体制を持つ必要がありましょう.ここでは主に1)平常時の救急医療について述べてみますと,三ツの大きな柱があります.それは突発不測の患者が①どこでも,②いつでも,③症状に応じて必要かつ適切な医療が受けられることが理想です.歴史的にみても,①,②,③の順に発展,拡大してきていますが,そのスピード,内容等には格差があるようです.東京都を例にとってみますと,①のどこでも受診できるよう他の道府県と同様に救急告示医療機関制度を設け現在約502ヵ所の医療機関で実施され,救急車による輸送体制と共にほぼ満足できる体制ができ,それぞれ都民の身近かな医療施設で一次的な対応ができるようになっています.

研究

わが国における循環器病に関する研究費の実態と課題

著者: 加藤信世

ページ範囲:P.666 - P.675

1.はじめに
 脳卒中,心臓病等のいわゆる「循環器病」による死亡者数は,わが国における成人病による死亡者の半数以上を占め,その患者数も今後,増加することが予想される.
 循環器病制圧のために,わが国では研究の開発,適正な医療の実施,予防対策の推進,保健医療関係者の研修・教育や医療機関の整備等が推進されているが,未だ十分とはいえない.そこで,これらのうち研究の開発,特に厚生省所轄の循環器病関係研究費に焦点をあて,その実態と課題を明確にする目的で調査したので報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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