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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生49巻10号

1985年10月発行

雑誌目次

特集 職場における健康・体力づくり

中央労働災害防止協会におけるシルバー・ヘルス・プランの展開

著者: 鈴木実

ページ範囲:P.644 - P.650

■はじめに
 人口構成の急速な高齢化に伴う労働人口の中高年齢労働者の比率の増大は,企業において重要な経営課題の一つとしてクローズアップされてきた.特に中高年齢労働者の健康管理対策は,労働衛生の新しいテーマとして,「職域における業務に起因する有害因子から労働者の健康を守る」という,ネガティブ・ヘルスの概念から「健康な労働者を対象として,彼らが自主的に健康を維持し,さらに増進していくようにしよう」という,いわゆるポジティブ・ヘルスへと転換志向されてきている.
 昭和54年以来,労働省は労働人口の高齢化対策の一環として,「中高年齢労働者の健康づくり運動」(いわゆるシルバー・ヘルス・プラン,以下SHPと記す)を提唱し,その推進を図ってきた.

健康・体力づくり各論の時代

著者: 入谷辰男

ページ範囲:P.651 - P.654

■体力づくり,健康づくりの歴史
 私が初めて体力づくりという言葉を耳にしたのは,昭和40年の初めであった.日本体力づくり指導協会の倉本事務局長と福田富昭氏(現在,レスリング全日本監督)の来訪を受けた時である.
 彼らが東京オリンピックの惨敗後,日本人の体力づくりの基盤を作るべく,各企業へ啓蒙運動を展開し始めた時であった.

日本鋼管における「すこやか運動」

著者: 佐藤欣一

ページ範囲:P.655 - P.660

 ■はじめに
 当社における健康体力づくり運動(すこやか運動)は,会社創立70周年にあたる,昭和57年6月,記念事業の一環として全社規模でスタートしたものである.
 技術革新に伴う労働態様の変革,高齢化社会への対応などの社会情勢の中で,従業員の健康管理,福利厚生施策も時代の変化に対応して,質的転換を図らなければならない時期にあった.当社では新たな視点から取り組むため,昭和54年7月に厚生部を新設,福利厚生施策を総合的に推進する組織体制を整えた.

大阪ガスにおける健康づくりについて

著者: 脇田正道

ページ範囲:P.661 - P.666

 ■はじめに
 大阪ガスは,近畿2府4県の約465万戸のお客様に家庭用,業務用のエネルギーをお届けしている企業です.
 当社では,従来から社員の「健康づくり」には特に力を注いできましたが,昭和50年の創業70周年を機に,長期2大方針のひとつとして「社員の建康づくりの推進」を打ち出してから更に充実しました.

東芝における健康・体力づくり

著者: 橋本哲明 ,   中川祐子 ,   植屋悦男

ページ範囲:P.667 - P.671

■はじめに
 最近,数多くの企業で従業員の健康問題に関する取り組みが活発に行われてきているが,これは労働省が昭和54年に打ち出したシルバー・ヘルス・プラン(中高年齢労働者の健康づくり運動)の推進による影響が最も大きい.
 東芝では,昭和40年から社内での定年延長問題をきっかけとして,本社勤労部が中心となり,これに伴う中高年齢対策の一環としてシルバー・ヘルス・プランが取り上げられてきた.

中高年者ヘルスチェックと運動区分の判定

著者: 袴田章二

ページ範囲:P.672 - P.676

■はじめに
 従業員の高齢化が確実に進む80年代において,活力ある発展のため,「新たな健康開発システムの確立と,健康づくり運動の展開」を発足し,全社的に体力づくり,正しい栄養と健康,休養と健康,心の健康づくりを目的とし,現在推進中である.そこで健康管理室の業務として,従来行っていた検診を基礎として,新たに"運動のためのヘルスチェック"の必要性が発生した,私は昭和56年以降,中高年者を対象としたヘルスチェックを,2年に1回の頻度で行っているが,今回は昭和59年,60年度のヘルスチェック実施状況を述べる.

企業におけるジョギング健康法の進め方

著者: 生山匡

ページ範囲:P.677 - P.680

■はじめに
 ブームとはいえ,ジョギングを心底好きな人は僅少でしかない.健康のために努力しているジョガーを含めても,人口比でいえば,実践率が低いといわざるをえないジョギングの現在である.しかし,次の如きケースもある.
 某企業が,ある土曜日の午後,勤務時間外に,自由参加のもと,全国各地で一斉に5kmのスロー・マイペースランニング大会を開催したところ,全職員の6割弱の参加をみた.この事実は,その企業ではジョギングに対する理解が深く,広く実践されていることの証左の一つである.無論そこには,その企業の健康づくりの長い歴史と,歴代担当者の地道な努力の集積がある.

企業における健康づくり

著者: 川上吉昭

ページ範囲:P.681 - P.689

■はじめに
 わが国の50歳以上の人口割合が増加しつつあることは,国民衛生の動向によっても明らかなことである.その結果,企業や自治団体の停年制も延長するよう,行政的な指導が行われている.
 しかし一方では,50歳以上の,いわゆる中高年齢者の健康状態をみると,半数に近い者が成人病を含む疾患,障害を持ち,必ずしも健康的な状態であるとはいえない.政府では,さらに高齢化の進む現状を憂慮して,中高年齢者の健康づくりの推進に取り組んでいる.

随想

運動するという生活習慣—人間ドックの生活指導

著者: 後藤重弥

ページ範囲:P.660 - P.660

 この4月から,研究所で週2回,半日ドックと2日通院ドックを受け持っている.それぞれ3万2千円,3万7千円をいただくので,受ける方もまた診る方も熱心にならざるを得ない.
 あらかじめ質問表を整理するわけであるが,①記入の仕方・訴え方で,かなりその人の性格や生活習慣が推測できる,②またドック受診の態度や心構えもそれなりに伝わってきて,判定に伴う指導の仕方も変わってくるものである,③質問表の答えの中で,運動なりスポーツなりを日常行っている人の数は割合多く,過半数以上である.これは健康ブームの最近の特徴ともいえる.

講座 臨床から公衆衛生へ—感染症シリーズ・11

細菌性赤痢

著者: 斎藤誠

ページ範囲:P.690 - P.692

 ■はじめに
 赤痢は人口10万に対し1.0をわずかに上回る発生までに減少し,質的には軽症化し,下痢症に遭遇しても,赤痢を疑う識者は稀となった.しかし,赤痢は最近10年問に,菌型の多型化,ABPC,KM耐性の著実な増加,海外旅行に由来する発生も極めて多くなった.加えて赤痢情報の欠如,診断の遅れは,無視できぬ集団発生の件数,患者数となって表現されている.
 このような現況に照らし,臨床疫学的な視点から,今日の赤痢の現状を紹介してみたい.

精神障害者福祉へのアプローチ・8

地域共同作業所

著者: 西澤利朗

ページ範囲:P.693 - P.699

■はじめに
 本稿では,昨今,地域精神医療の分野で,全国に燎原の火のごとく広がりつつある在宅精神障害者を対象にした「地域共同作業所」(小規模作業所・共同作業所ともいわれる)について述べる.その場合,「地域共同作業所」が,地域精神医療活動の中で確固たる地位を獲得するにはいましばらくの時間を要すこともあり,また作業所づくりをめぐっての試みの多くが,慢性分裂病者の在宅ケアーの一環として,社会復帰活動をめざして設立されておりながら,作業訓練・日常生活訓練・就労前訓練と,訓練に主眼をおき,あくまで通過施設と位置づけるもの,あるいはまた,地域の「たまり場」ないしグループ・ホーム的な位置や役割をもたせているものというように幅広く,それぞれの地域特性,とりわけ既存の社会資源の影響や関連が深いという実情から,ここではとりあえず在宅精神障害者のおかれている現状と「地域共同作業所」の概要について述べ,加えて作業所づくりの実際として,一つの試みを提起したいと思う.

発言あり

医薬品と食品

ページ範囲:P.641 - P.643

飽食の国の健康食品
 正常な発育をし,健康を維持するために栄養のバランスがとれた適量の食品の摂取が必要であり,この食品が急性,慢性の健康の破綻を来すものであってはならないということは食品衛生学の教えるところである.
 しかし近頃,市民の健康さらに女性の痩身に対する希求に乗じて,所謂「健康食品」,「自然食品」と称するものが数多く市販され,薬効をうたっている.新聞報道によると,最近厚生省と公正取引委員会は,薬事法違反や景品表示法で禁じられた不当表示の観点から,指導に乗り出した由である.同報道によると,厚生省と都道府県が発見した薬事法違反の無許可医薬品のうち,健康食品といわれるものも57年128件,58年256件,59年471件と激増し,その誇大広告は女性週刊誌,子供向けマンガ誌に及んでいるという.

海外事情

中米ホンデュラス国の媒介動物病対策

著者: 池田光穂

ページ範囲:P.701 - P.704

●はじめに
 本稿で紹介するのは,筆者が1984年5月より青年海外協力隊員として配属されている,中米ホンデュラス国の厚生省媒介動物コントロール局(División de Control de Vectores,以下DCVと略す)の業務内容についてである.ここには現在筆者を含めて3名の協力隊員が活動しており,それとは別に1983年より国際協力事業団(JICA)が,媒介動物病対策に対して援助協力に乗りだしている.
 一般的に「開発途上国」のマラリアを中心とする媒介動物病対策の現状については,国際協力の問題と関連して論じられる機会が多いが,その現場の組織のことについては意外に知られていない,またアジア,アフリカ地域に比べて中南米地域は我々の眼にとまりにくい死角にもなっている.今回紹介する組織が,中米ないしはラテンアメリカのそれを代表するか否かについては今後の調査や報告に待つほかはないが,これを機会に読者の関心がわずかながらでも換起されれば幸いである.

自動車燃料のアルコール化がもたらす大気および健康に与える影響

著者: 津金昌一郎

ページ範囲:P.705 - P.707

 ●はじめに
 1980年に筆者が初めてサンパウロを訪れた際,鼻をつく刺激臭を感じ,それがアルコール自動車の排気ガスによるものであることを知らされ感心した覚えがあるが,当時はさして気になるものではなかった.しかし,1983年に再びサンパウロに降り立った時は,アルコール臭はかなり目立つものとなっており,その大気汚染としての意義に強い関心を抱いた.幸いにして,昨年,サンパウロ州環境公社(CETESB)とサンパウロ州立大学(USP)を訪れる機会があり,アルコール自動車がもたらす公衆衛生学的側面についての知見を得たのでここに紹介する.石油産出国でないわが国も,現在メタノール自動車等,他の燃料の導入が真剣に検討されており,この分野では世界に先駆けているブラジルの現状は大いに参考になると思われる.

地域実践レポート

老衰を対象とした在宅における末期医療—一離島における試み

著者: 長嶺敬彦 ,   長嶺京子

ページ範囲:P.708 - P.710

●はじめに
医学がいくら進歩しても,個体の死は避けられない厳然たる事実として存在する.治癒cureを目的とした従来の医学だけでは,末期患者およびその家族のかかえる苦悩に十分対応することが出来ない.死に焦点を当てた臨床医学の研究は,始まったばかりである.癌の末期の患者に対する全人的ケアの試み1)など,従来の治癒のみを目的とした医学とは,一味異なった学問分野が展開されようとしている.これらを総称して,末期医療terminal care という
 当診療所では老衰を対象とし,在宅における末期医療を実践している.老衰における末期医療はその経過が最も自然で,医療による修飾が少ないため,あらゆる末期医療を考える上で基本になると思われる.当診療所における実践を通して,在宅における末期医療を考えてみたい.

日本列島

第9回健康増進事業研究発表会

著者: 藤島弘道

ページ範囲:P.676 - P.676

長野
 長野県の健康増進事業研究発表会は,昭和51年度に,へき地健康増進対策事業の研究会を開催して以来,9回を迎える.当初から,健康づくりを地域にどう定着させるかが主要テーマであったが,最初の頃はどうしても受診率や検診結果の医学的検討が中心であった.
 59年度は,2月20日長野市で開催されたが,シンポジウムのテーマを,「健康増進事業のあり方〜実践の中から今後の方向づけ〜」とするなど,やっと公衆衛生的検討が,具体的に前面におしだされてきた.

保健所の活性化方策

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.692 - P.692

岐阜
 保健所業務の中でも対人保健事業は,結核対策の相対的縮小化,老人保健事業や母子保健事業の市町村への傾斜化などに伴い衰退傾向にあり,各県においても対人保健事業を中心とした保健所の活性化方策に苦慮しているようである.岐阜県においても,対人保健の下降現象はゆがめず,その対応の一つとして,保健所等医師の研修会が5月行われた.
 研修会の講師として,当初厚生省課長が予定されていたが,日程がとれず静岡県松田衛生部長が代打講師となり,静岡県での対応の現状や保健所活性化についての講演と20名近い参加者による論議が交された.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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