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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生49巻3号

1985年03月発行

雑誌目次

特集 東洋医学と公衆衛生

東洋医学の現況と展望

著者: 安非広迪

ページ範囲:P.152 - P.156

■はじめに
 東洋医学という用語は比較的近年のもので,日本では主として明治以前まで長く行われてきた中国系伝統医学を,この名称で呼ぶことが多い.もちろん,西洋医学の対立概念として使用されるようになった言葉で,その意味でこれも「蘭方」に対立する用語として用いられてきた「漢方」と似た経緯をとっている.
 現在のところ,世界にはなおその体系を保ちながら存続している伝統医学の系譜が3種存在している.アラビア文化圏におけるユナニ,インド文化圏におけるアユルヴェーダ,そして中国文化圏における漢方(中国系伝統医学)である.このうち,中国系伝統医学は中国文化圏に広く普及しており,中国では中医学,韓国では漢医学,日本では漢方医学と呼ばれ,いずれも一般大衆のレベルにまで深く浸透している.

小児保健と漢方

著者: 大国真彦

ページ範囲:P.157 - P.159

■はじめに
 最近は小児科領域においても,かなりよく漢方製剤が用いられるようになったきた.これは一つは,西洋医学が疾病の原因を追究してそれを治療しようとするゆき方をとるのに対し,東洋医学は体内のバランスの乱れから症状が出るので,その乱れを矯正することにより症状がとれるとする考え方がかなり広く理解されるようになってきたためであろう.またわが国では,漢方薬のエキス顆粒あるいは錠剤が市販されるようになり,湯剤よりも簡単で小児にも服用しやすくなったこともその理由の一つであろう.
 一方小児においても最近は,急性伝染病がかなり減少してきているが,他方,不定愁訴といわれる症状が多くみられるようになってきており(図),いわゆる西洋薬では十分に対応しきれない場面もふえてきている.このような場合に漢方薬が用いられるようになってきている.

母性保健と漢方

著者: 松田邦夫

ページ範囲:P.160 - P.163

■はじめに
 女性に漢方は適する.
 日常,漢方専門診療医を訪れる患者の7割ぐらいが女性である.女性の病気で漢方治療の対象となるのは,思春期に達する頃から以降終生にわたるといえよう.本稿では特に冷え症,月経異常,妊娠と漢方,不妊症,流産癖,更年期障害と血の道症について述べ,母性保健に漢方は有用であることを明らかにしたい.

高血圧症と脳卒中の漢方

著者: 寺師睦宗

ページ範囲:P.164 - P.167

■成人病のナンバーワン——高血圧症
 成人病といえば,まず第一に高血圧症があげられている.現在わが国では800万人の患者が存在していると推定されている.それで40歳以上の人は,大なり小なりに高血圧恐怖症にかかっている状態である.

地域医療と漢方

著者: 菊谷豊彦

ページ範囲:P.168 - P.172

■はじめに——実例から
 ある患者を例にして,まず現代医学の問題点を述べてみよう.
 患者は54歳の女性である.主訴は盗汗である.患者の述べるところによると,数年前に口腔腫瘍のため,某医大にて放射線治療を受けたという.当時,たまたま糖尿病の存在が発見されて,インシュリン療法も受けたという.

健康づくりと鍼灸

著者: 芹澤勝助 ,   西條一止

ページ範囲:P.173 - P.179

■日本人の健康状態とその問題点
 1.自覚症状調査による健康状態
 厚生省が行った保健衛生調査1)によると「あなたはご自分で健康だと思っていますか」という問いに対して,およそ3人に1人は健康であると答え,12〜13%の人が健康でないと,50数%のおよそ2人に1人がふつうであると答えている.健康でないと答えている12〜13%の数字は国民健康調査2)による有病率とほぼ一致している.
 これらの人達に,表1に示す12の自覚症状について過去1ヵ月間における有無を質問すると,平均2.8個の自覚症状があり,女子は3.1個,男子は2.6個であった.図1,2は,12の自覚症状のうち出現頻度の高い上位6個について示した.最も出現頻度の高いのが「疲れたと感ずることが多い」であり,平均45.2%である.労働省が行った同様の調査でも「ふだんの仕事で体が疲れる」と答えた人が64.6%,「神経が疲れている」と答えた人は70.7%であった.日本人の現在の生活は,精神的,身体的慢性疲労状態にあることがわかる.しかも疲労は,図2の年齢階層別の出現率を見ると25歳以降はほとんど年齢にかかわらないことがわかる.2位が「こまかいことが気になる」,3位が「からだの中で痛むところがある」,4位が「階段や坂を登るとどうきや息切れすることがよくある」である.これらの症状はいずれも女性に多く出現するが,6位の「たん,せき」だけが男性に多く,しかも45歳以降に急増してくる.

東洋医学技術者(鍼灸師)教育の問題点

著者: 後藤修司

ページ範囲:P.180 - P.184

■はじめに
 東洋医学のうち,物理療法として知られるものには鍼灸治療,古くは導引按矯とよばれた手技治療の類(あんま指圧など)がある.ここでは特に,最近話題になっている鍼灸治療に焦点をあて,その専門家としての鍼灸師の教育養成上の問題点を中心に論を進めることにする.なお,正しくは「はり師」「きゅう師」という別々の免許制度であるが,法律が一緒であり教育機関も一緒であるので,一般には「鍼灸師」と呼んでいるのでここでも以下そのように言う.

公衆衛生の現場からみた東洋医学

著者: 園田真人

ページ範囲:P.185 - P.189

■はじめに
 筆者は1926年生まれであり,第二次大戦後にインターン,国家試験をへて医師になり,公衆衛生の現場で仕事をしてきたものである.したがって,大部分の日本の医師たちと同じように,東洋医学についての知識は十分なものでなく,東洋医学の原典といわれる『医心房』や『傷寒論』を系統的に研究したわけではない.
 漢方を実践した経験がないものには,漢方を批判する資格はないという意見もあるが,本稿をまとめるにあたって,かなり東洋医学についての著書や文献に目をとおすことができた.

講座 臨床から公衆衛生へ—感染症シリーズ・6

蟯虫症

著者: 小島莊明

ページ範囲:P.190 - P.192

■はじめに
 回虫や鉤虫など,いわゆる土壌媒介寄生虫症の全国的蔓延状況がみられなくなってすでに久しいが,人畜共通症や輸入寄生虫病,あるいは免疫抑制剤・抗癌剤投与により誘発される日和見感染としての寄生虫病など,新しいタイプの寄生虫疾患が最近とくに問題となっている.しかし,考えてみるとそのなかで蟯虫症だけは,医学界のはやりすたりに関係なく存在し続けていることに改めて気づかされる.これは,主として蟯虫の感染様式や生態によるところが大きいと思われるけれども,医師や教師,そして親たちの無関心こそが問題であるようにも思われる.
 そこで本稿では,蟯虫症の疫学的現状について述べるとともに,蟯虫の生態,感染様式,病害などにも触れて予防対策の参考に供したい.

精神障害者福祉へのアプローチ・4

保健所精神衛生活動におけるボランティアの活用

著者: 坂庭章二

ページ範囲:P.193 - P.198

■はじめに
 毎月1回開催される,ある日の脳卒中リハビリ教室でのことである.午前11時30分頃になると,予接ホール(講堂)では,その準備が始まる.保健予防課の手の空いた職員が出そろって,3メートルものカーペットを運び,イスを並べて,その日のプログラムに合わせた会場づくりをすすめている.続いて,昼休み12時30分頃になると,庶務課と保健予防課の運転手が,各々保健婦同伴で出発する.教室に参加する人達の迎えである.
 午後1時頃になると,杖を支えに黙々と歩いてくる人,家族が寄り添って肩を支えに歩いてくる人,やがて迎えの車も到着して,次第ににぎやかになってくる.会場の入口では,担当事務職と保健婦,そして福祉事務所の職員が一緒になってにこやかに迎えている.ゼッケンをつけて会場に入ると,1ヵ月ぶりの再会を喜び合い,近況を語り合うなごやかな雰囲気につつみこまれる.このような光景に混じって4名のボランティアは,事前に指示をうけた参加者にそっと寄り添い,語りかけ,トイレ等に手を差しのべている.

研究

医療従事者におけるB型肝炎ウイルス感染の経年的観察—HBc抗体によるfollow-up study

著者: 田辺利男 ,   安井重裕 ,   伊藤志保子 ,   川上清泰 ,   水尾仁志 ,   羽二生輝樹 ,   美馬聰昭

ページ範囲:P.199 - P.202

 HBV院内感染の実態を正確に把握するために院内職員347名(医師39名,看護婦118名,検査技師50名,事務系140名)に2年7ヵ月の間隔をおいて血清学的調査を行った.方法はpair血清を用い,同時的にHBs抗原(RPHA法),HBs抗体(PHA法),HBc抗体(IAHA法一部RIA法)を測定した.該当職員の各HBV marker陽性率はHBs抗原5.5%,HBs抗体31.1%,HBc抗体44.1%,HBc抗体は各職種間,医療職群(医師,看護婦,検査技師)と非医療職群(事務系職員)との間でも差異を認めず,抗体陽性率上昇の主な原因は加齢によると推測された.この間のHBV感染状況としてHBc抗体の陽転,すなわちHBVの初感染が2名,HBs抗体だけの陽転,すなわちHBVの再感染が1名,計3名に不顕性感染が認められた.初回HBc抗体陰性者196名の年間換算HBV感染率は0.41%と低値であり,B型肝炎ワクチンを接種する場合には対象を限定する事が重要と思われる.
(索引用語:医療従事者,HBV院内感染,B型肝炎ワクチン,high risk group,HBc抗体)

発言あり

東洋医学と医療制度

ページ範囲:P.149 - P.151

 人間には天寿があるという.天寿を全うできる世界が近づいているのだろうか.高齢化社会とは,出生率の低下と,生を受けた大多数のもので天寿を全うできる世の中なのかもしれない.
 考えてみれば与えられた命を大切に守っていけるとは大変な事だ.ひとつは医療を中心とした科学技術の水準が上がるということ.次にその水準があまねく国民一人ひとりのものとなる社会の制度,そしてそれを支える経済の力だと思う.

調査報告

健康教育に対する医師の意識調査

著者: 西住昌裕 ,   熊谷秋三

ページ範囲:P.203 - P.207

■はじめに
 地域における包括的保健活動を進めるためには,あらゆる機会を利用して住民への健康教育を行う必要があり,これは健康増進,疾病予防の基礎としても重要である.このためには多くの保健関係者の関与が必要であるが,その中でも医師は健康時のみならず疾病時の治療,療養の指導にも当っており,その機会が最も多いと考えられる.本調査は,患者に接して日常の生活習慣と健康についても指導する立場にある臨床医の保健指導,健康教育に対する意識と実情を知るために行ったもので,以下にその結果を報告する.

資料紹介

がんの原因(The Causes of Cancer)—アメリカにおける避けることができる人がんリスクの今日的定量算出

著者: 星旦二 ,   徳留修身 ,   森亨

ページ範囲:P.208 - P.210

■はじめに
 英国の癌疫学者ドールとペットは,米国議会の要請を受けて "The Causes of Cancer"(がんの原因)をタイトルに,副題として "Quantitative Estimates of Avoidable Risks of Cancer in the United States Today"(米国における避けることができる人がんリスクの今日的定量)という論文を1981年に発表している.この報告書は "Journal of the National Cancer Institute(Vol. 66, June, 1981.)"に掲載されているが,Oxford出版からも別冊本として出版されている.
 この報告書は,人がんの避けられる定量的算出という点では,最も厳密でかつ詳細なものの一つと考えられる.報告の結論では,「人がんは主として,たばこや食生活などの生活習慣及び他の環境要因と密接に関係する疾患で,多くのがんは(一次)予防が可能である」と述べている.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

1.別天幸兵衛と別天師

著者: 北博正

ページ範囲:P.211 - P.211

 このたび私は本誌に標題のような穴埋め記事を書くことになった,本誌も段々と充実し,立派な論文が続続と掲載されるようになったのは,御同慶の至りであるが,あまり堅いものが連続すると頭が痛くなる.そこで息ぬきに,衛生公衆衛生学の歴史の中から,こぼれ話を選んで読んでいただこうというわけである.
 穴埋め記事であるからには,長短いろいろあり,前後のつながりもうまく行かないと思われるが,その都度,読みきりとするつもりである.大学を出て衛生学を学び,いつの間にか50年を経過した.われわれの大先輩,戸田正三博士(京大衛生学教室主任)は「衛生学習五十年」なる立派な回顧録を残しておられるが,私にはそんなものを書く資格もないが,「生き永らえて恥多し」とまでは行かないまでも,いろいろな経験をしており,その中で面白そうなものを選んで,穴埋め記事を書くことにした.

日本列島

老人保健研修会

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.198 - P.198

岐阜
 老人保健法が58年2月施行されて2年近くとなっているが,58年度の全国のヘルス事業はいくつかの先進県を除き,事業の進渉状況は十分なものでない.厚生省は5カ年目標をかかげ事業の推進を強化しつつあり,59年度は特別対策事業(ヘルス臨調)の新設や調査事業の拡大により,地域ごとのユニーク事業を推進するなど,面の補助事業に加え拠点強化策も進めている.
 さらに,11月には全国を8ブロックに分け県,保健所,各市町村の担当者を集め研修会を実施しているが,東海北陸地域は岐阜市において500名近い参加者のもとで実施された.研修会においてはヘルス事業の目的や目標,さらには推進のための具体的な強化策などについて,本省側から説明会がもたれた他,各県のユニーク事業について市町村担当者から事例発表が行われるなど,みのり多い研修会であった.

老人保健法施行をふりかえって

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.210 - P.210

沖縄
 昭和58年2月に老人保健法が施行されて1年半余が経過した.その間,県及び市町村は法に基づき健康教育,健康相談,健康診査,機能訓練及び訪問指導の六つの保健事業に取り組んできたが,その状況をみると市町村間に大きな格差が生じるなど,いくつかの間題がでている.まず健康手帳の交付状況をみると,疾病などで医療を受けた老人医療対象者は98.3%の交付率であるが,その他の対象者は(一般診査対象人口289,641人の)10.8%相当の29,480人しかいない.また交付された健康手帳の活用についても今一歩というケースが多いといわれる.健康教育については基準回数620に対して実施回数893と上回っているが,基準に達してないのが16/53市町村であった.
 健康診査は対象(一般診査)289,641人の31.3%,90,801人となっている.胃がん検診は281,688人の対象者のうち19,985人で僅か7.1%,子宮がん検診は対象258,648人のうち37,007人で14.3%の受診率であった.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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