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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生49巻4号

1985年04月発行

雑誌目次

特集 スポーツ医学

スポーツと健康

著者: 黒田善雄

ページ範囲:P.216 - P.219

■はじめに
 スポーツと健康についてスポーツ医学の立場から論ずるには,まずスポーツ活動の生物学的意味と,健康というものの医学的意味を明らかにし,その上で両者の関係を功罪両面から考え,さらには功をよりたかめ,罪をより少なくするにはどうすべきかを検討する必要があろう.
 以上のような論点に立って本テーマについて私見を述べ,スポーツ医学の目指すものについて考えてみたい.

社会体育—主としてスポーツ医学とのかかわり合いから

著者: 松井秀治

ページ範囲:P.220 - P.227

■はじめに
 本誌読者の大部分を占める,医療の第一線活動者である地域の医師,学校医,産業医の多くは,何らかの形で社会体育とのかかわりをお持ちになっているのではないかと思う.しかし,筆者の知るかぎりではそのかかわり合いは,ほとんどが医療面の関係者としての表面的かかわり合い方で,積極的社会体育推進者としてのかかわり合いはまだまだ少ないといえる.
 その要因は種々あるであろうが,本誌がかかる特集を組まれた主旨のように,最大の要因は社会体育への,医療関係者が積極的にかかわり合う基盤である,スポーツ医学の体系化されていないことにあるといってよい.しかし,体系化をまって事が運ぶということは科学の場でも教育の場でも,極めて例の少ないことである.研究機関や臨床の場の完備している近代医学においても,新しい分野の体系化はほとんどの場合,常に現場の直接的経験やそれに基づく情報の交流から生まれている.

ジョギングと生活

著者: 山西哲郎

ページ範囲:P.228 - P.232

■ジョギングとは
 近 年,走る人たちは急激に増加している.同時に,ジョギング,ランニング,健康ランニング,健康マラソン,市民マラソン…といろいろな言葉が使われている.しかし,「走る」ことが,科学的に究明され,指導されるようになってから,これらの意味は明確に区別されている.つまり,ただ「走る」といっても,目的が異なれば,スピードも,時間も,スタイルもかなり違ってくるからである.
 ところで「走る」ことは,「ジョギング」と「ランニング」に大別されよう.「ジョギング」とは健康を意識して走ることであり,「ランニング」は趣味的世界となり,走ること自体を楽しむことである.しかし,この二つは図1のように,オーバー・ラップすることが多い.いくら健康を求めて走るジョガーでも,楽しく風景をながめつつ走ったり,大会に出場することもあろう.また,ランナーとて,健康を十分に留意して,その原則を守り,走っているはずである.本題は,ジョギングの領域から話を進めてみたいと思う.

運動と飲料

著者: 小林修平

ページ範囲:P.233 - P.238

■はじめに
 わが国において,最近急成長をとげた食品にいわゆるスポーツ飲料がある.テレビCMなどの影響もあって,これらの飲料はいまや一種のファッションになった感すらある.いうまでもなく,運動による体温上昇,それに続く発汗と口渇,水分摂取の欲求といった一連の現象は,人間本来の生理的なものであるが,このような人工飲料は,単に水分の補給のみでなく,飲料の成分組成を調整することにより飲みやすく,かつ生理学的,栄養学的に合理的なものを求めようとしているのが現在の一般的傾向といえる.
 一方,運動とひと口にいっても,競技成績の向上を指向するものから一般の人が健康増進の一環として行うものまであり,それぞれ補給すべき水分なり栄養素なりに,考え方の上で大きな差異がある.また,単に水分を補給するのみで十分なのか,栄養素その他の成分を添加することにより果たして何らかの効果が期待できるのか,今回はこのような諸点について述べてみたい.

発育期におけるスポーツ障害とその予後

著者: 高沢晴夫

ページ範囲:P.239 - P.243

■はじめに
 発育期の人達が,スポーツを行う際に一番注意しなければならないことは,スポーツ障害の発生であろう.
 発育期のスポーツ障害は成人のそれと異なって,その後の発育,発達に悪影響を及ぼすものがあり,後遺症をもたらす可能性がある.

中高年に対する運動処方

著者: 石河利寛

ページ範囲:P.244 - P.250

■はじめに
 多くの中高年者は,運動を規則的に実施することによって健康を増進したいというニードを持っている.それに対して適当な運動の内容を指示し,その運動が規則的に実施されるように助言を与えることを運動処方と呼んでいる.アメリカスポーツ医学会(American College of Sports Medicine)では"Guidelines for Graded Exercise Testing and Exercise Prescription"という本1)を出版しているので,運動処方という言葉はアメリカでも使われていて,国際的な用語になっている.
 若年者ではどの運動をどのように実施しても実際上あまり問題はないが,中高年者では運動処方を行うに当って図に示すような順序を踏むことが,運動によって健康を増進するための必要な手続きである.以下この手順にしたがって述べよう.

スポーツ外傷と治療

著者: 中嶋寛之

ページ範囲:P.251 - P.256

■はじめに
 近年のスポーツブームとともにスポーツによる事故もあとを断たない.
 この項ではこのようなスポーツによる外傷について,まずアウトラインを述べるとともに個々の比較的頻度の高い外傷について症状,応急処置,治療法などにふれてみたい.

スポーツによる循環系の事故とその予防

著者: 村山正博

ページ範囲:P.257 - P.262

■スポーツによる事故予防に関するスポーツ医学の関与
 スポーツはいうまでもなく身体運動であり,身体トレーニングにより諸臓器の機能が向上または修復され,また精神的にも積極的になるというメリットをもっている.諸臓器の機能向上は健康増進や競技者における記録向上に連なり,また機能修復は疾病治療やリハビリテーションの目的に連なることになる.従ってスポーツを行い,また指導する場合,その目的がどこにあるかを十分に認識する必要がある,この二つの目的は運動という共通の手段を用いながら,その考え方に質的に異なった面があることを忘れてはならない.スポーツ中の事故が本来,機能修復の目的にスポーツを行いながら機能向上を指向するために生じていることが少なくない.
 学問としての体系は運動生理学,体育科学といった分野は従来,競技力向上のための研究が主流であり,いかにして体力をつけるかという目的のために生理学,生化学などの身体機能に関する学問を利用する分野といっても良かろう.一方,医学の基本的立場は疾病の原因や機序を知り,治療することであろうが,従来の治療法が安静を主体としたものであり,運動を医学の体系の中で考えることは少なかったが,近年,運動が治療の上で欠くべからざるものであることが判ってから,医学の場においても運動が大きな分野を占めるようになってきた.ここに体育科学と医学の接点ができたといって良い.

身体障害者スポーツの現状

著者: 初山泰弘

ページ範囲:P.263 - P.269

■はじめに
 昭和55年に厚生省が行ったわが国の身体障害者の実態調査によると,成人(18歳以上)在宅障害者数は,197万7千人,入院または施設入所者を含めると200万を超える(図1,表1).しかも人口に対する障害者の比率は年年増加し,昭和55年度は人口1,000名に対し23.8名の割合である5)
 身体障害別にみると図2のように肢体不自由は6割近くを占め,視覚・聴覚言語障害群がそれにつづく.心臓,腎疾患など内部障害群は10年前に比べ,障害群の中で占める割合が増加して来ている5)

講座 臨床から公衆衛生へ—感染症シリーズ・7

回虫と鉤虫

著者: 鈴木黎児

ページ範囲:P.270 - P.274

 本誌編集部より原稿の依頼があった時,テーマとして「回虫・十二指腸虫・こう虫症」が与えられた.そのテーマを筆者は上記のように書き変えた.その理由は本文の中で述べる.

発言あり

家庭医制度

ページ範囲:P.213 - P.215

家庭医制度は急がずに
 「家庭医」が「制度」としてクローズアップされてきたのは,厚生省が60年度予算要求の中へ「家庭医制度」の検討費用を盛り込んだためであろう.「家庭医」が従来存在しなかったわけではない.それどころか開業医のほとんどが優れた家庭医として,地域の厚い信頼を得ながら日夜医業にいそしんでおられる.ただそれが専門診療科として認められた「制度」とはなっていなかったわけで,いわば日陰の存在であった「家庭医」に光を当てようということであれば,これは誰しもが大賛成のことであろうと思われる.ところが,当の優秀な家庭医として活躍する開業医を最大の組織基盤とする日本医師会が,厚生省の方針に強い警戒を表明して,これにブレーキをかけることで意見の一致をみたという(目本医事新報No. 3150).
 日医が「家庭医の検討そのものの必要性は認め」「家庭医の概念についても基本的には異論はないが,その運用・制度化にあたっての"危険性"にあらかじめ懸念を示した」としても不思議はなく,むしろ当然のことのようにも思える.予防活動を医療保険のなかで認めた点において画期的と評価される老人保健法においても,医療費抑制の視点から出発しているがための様々な制約があり,不十分なものといえる.今の時期に突然に「家庭医制度」創設を唱える裏に医療費削減の意図を読み取るとしても理不尽とは言えないであろう.そうであれば日医が慎重な検討を要求するのも理解できるのである.

海外事情

イギリスの老人福祉の歴史と現状

著者: 作田勉

ページ範囲:P.275 - P.278

■はじめに
 現在,わが国における高齢者は増加の一途をたどり,また全人口における高齢者の比率が急増しているので,高齢者の福祉を中心とする諸問題は焦眉の急となっている.このことは,イギリスにおいても程度の差こそあれ同じ傾向が見られるのであり,むしろ先進国に共通する問題であるといえよう.筆者は,1982年に半年間ロンドンに滞在し,イギリスの現状を視察する機会に恵まれたので,イギリスの高齢者の現状,特に,福祉政策を中心に報告したい.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

2.リービヒの肉エキス

著者: 北博正

ページ範囲:P.250 - P.250

 戦前・戦中に細菌いじりをやった人なら,人工培地を作る際,リービヒ(Justus von Liebig 1803〜1873)の肉エキスを主材料として使われたことと思う.直径約4cm,高さ約5cmほどの白磁製の円筒形の壷の大きなコルク栓をあけると,黒褐色のやや固めの粘土様の物質が入っている.これを目方をかけて溶かして使うのである.本来なら,上等の牛肉を挽いて,トロ火でゆっくり浸出して肉エキスを作るのであるが,手間と価格,均一性といった点では,リービヒの肉エキスが勝っている.わが国では馬肉,鯨肉,魚肉,さらに鰹節なども代用品として登場したが,成績は思わしくなかった.
 さて,当時,ギーセン(Giessen)大学の化学の教授として令名高かったリービヒの許で,別天師は化学の研究に没頭していたのであるが,あるとき,師リービヒの許にブラジル(伝記によってはパラグァイかウルグァイ)の人がやって来て,あり余る牛肉の利用法を研究するよう依頼して来た.けだし,現在でもそうであるが,これらの国は牧畜が非常に盛んで,主として皮革を輸出していたのであるが,肉の方はとても食べきれず,冷蔵・冷凍の技術もまだ開発されておらず,肥料にでもする以外は捨てるだけであった.

3.名画の復原

著者: 北博正

ページ範囲:P.269 - P.269

 欧米の美術館に行くと,何百年も前に描かれた油絵が,いま描きあがったばかりで,油が乾いてないと思われるほど,いきいきとしているのに驚かれた向きも多いことと思うが,これが別天師が開発した方法によるものであることを知れば,驚きはますます増すばかりである.
 油絵が古くなると,白っぽくボケて来て,精彩を欠く現象は美術館や個人の収蔵家の悩みのたねで,ウルトラマリン病などと呼ばれ,おそれられていた.

日本列島

長野県医師紹介センター1年間の実績

著者: 藤島弘道

ページ範囲:P.227 - P.227

長野
 長野県では,従来から僻地医療対策に力を入れてきたが,医師確保が非常に難しく,悩みの種であった.昭和58年10月1日,長野県地域医療推進協議会が運営する医師紹介センターが,労働省の無料職業紹介所として認可されて1年が経過し,予期以上の効果を挙げているので紹介する.
 結論から先に述べると,59年9月末日までの1年間に,求職94件,求人74件であり,21件の就職が決定した(その後1件増).

大阪府保健所の将来像,整備計画についての議論

著者: 笹井康典

ページ範囲:P.278 - P.278

大阪
 大阪府では,昨年から府保健所の将来のあり方,整備計画についての議論が活発に行われはじめている.
 大阪府の保健所は現在22保健所6支所あり,政令市である大阪市,堺市,東大阪市を除く府下市町村を管轄している.一保健所あたりの管内人口は79,000〜425,000人であり,著しい差があるが,いずれも都市化された地域を受け持つ都市型保健所である.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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