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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生49巻7号

1985年07月発行

雑誌目次

特集 肥満/標準体重

標準体重と肥満

著者: 箕輪真一 ,   小川正行

ページ範囲:P.428 - P.434

■はじめに
 近年,ウォーキング,ジョギング,エアロビクス,サイクリングなど健康・体力づくりの志向は一躍国民的ブームになってきた,これらは老人保健法が施行されて以来,市町村の健康づくり推進事業と相まって一層活発になってきた.これと同時に運動不足,栄養過剰に起因する成人肥満の対策や予防もクローズアップし,再び肥満の判定や標準体重というものが学問的に問われるようになってきた.
 筆者(箕輪)はすでに本誌46巻8号(1982)1)に「肥満の判定」と題して標準体重の意味,肥満判定の一般的な方法論について述べ,さらに筆者が考案した日本人成人の体重増減率算出図2,3)を紹介した.今回はこの算出図に対して,近代社会に対応できるより高い身長領域と,より肥満度の高い領域を修正追加した新しい体重増減率算出図を作製したのでこれを紹介し,あわせて標準体重や体型分類についての知見を述べる.

肥満の成因

著者: 大村裕

ページ範囲:P.435 - P.439

■はじめに
 肥満とは,体内の脂肪組織に脂肪の量が異常に多く増えて蓄積することである.このような状態は,多くの症候性肥満でも認められるが,ここでは肥満のうちで最も多い単純性肥満(simple obesity)の成因について考えてみたい.
 単純性肥満の成因としては遺伝的成因,精神的成因等も考えられるが,体内に貯蔵される脂肪量を最終的に決定するのは,エネルギーの摂取(摂食)とエネルギーの消費の相対的なバランスであり,摂取が消費より過大になると肥満が生じることになる.ここではエネルギーの摂取と消費の調節の側面から,肥満の成因について考えてみる.

成長にともなう形態の変化—新肥満判定法の提案

著者: 保志宏

ページ範囲:P.440 - P.446

■はじめに
 昭和59年2月,日本規格協会から「日本人の体格調査報告書」が刊行された(非売品).これは通産省工業技術院が既製衣料品のJIS規格を改訂するために行った生体計測調査の結果を集約したもので,被検者46,000人は北は旭川,南は鹿児島に至る全国15ヵ所の都市部から得られた.計測項目数は,生後4ヵ月から4歳まで19項目,学齢期26項目,成人(60歳まで)33〜35項目に上り,各年齢群の被検者数は,4〜19歳は1年ごとに600人以上1,000人未満,20歳以上は5年ごとに600人以上1,000人以下となっている.
 この調査は上記のごとく,衣料品の規格改訂のために行われたものであるので,被服学独特の計測を多く含んでいるが,一般的な意味での体格・体型をも把握できるように配慮されている.これだけ多項目で多人数のデータは,他に全く類を見ないものであって,医学的な立場で日本人の体格の現状を知るのにも有用である注1)

臨床からみた発育期の肥満

著者: 山崎公恵 ,   村田光範

ページ範囲:P.447 - P.453

■はじめに
 いわゆる「飽食の時代」に伴って,小児の肥満が医学的関心を呼んでいるが,肥満児への対応は,小児が身体的・精神的に発育期にあることを考慮しなくてはならないので,成人肥満への対応とは異なる.以下小児肥満の診断,管理,予防について述べる.

半飢餓療法と生体への影響

著者: 塚原暁 ,   大野誠 ,   池田義雄

ページ範囲:P.454 - P.460

■はじめに
 近年,社会の近代化に伴い肥満が急速に増加してきており,わが国も先進諸国の例にもれず,肥満の増加をみていることは周知の事実である.幸いわが国の肥満は欧米のそれと比較して,頻度,程度ともに軽いといわれる.しかしながら,肥満には糖尿病,動脈硬化症,高血圧ほか多彩な成人病を合併することが多く,それゆえに"肥満は長寿の敵"とみなされている.したがって,肥満者に対して早期に減量をすすめることは,予防医学的見地からも意義深いといえる.
 肥満とは,摂取エネルギー量が消費エネルギー量を上回ったため,余剰のエネルギーが中性脂肪として脂肪組織に蓄積された状態といえる.したがって肥満治療の大原則は,摂取エネルギー量と消費エネルギー量のバランスを負に保つことである.一般に肥満者の減量には1,000〜1,500kcalの減食療法がすすめられている.しかし,こうした減食療法では減量がはかどらないことも日常診療上よく経験されているところである.

肥満者の減量と運動

著者: 西牟田守

ページ範囲:P.461 - P.466

■はじめに
 肥満は成人病の危険因子である高血圧,高脂血症,高尿酸血症,糖尿病などを伴っている場合が多い.また,肥満者の場合,体重の低下に伴い臨床検査成績の改善をみることが多いので,肥満の解消,すなわち減量を指導することは成人病予防,健康増進の観点上重要な位置を占めている.
 しかし,実際に減量を指導しても,なかなか期待される成果が得られず,逆に,誤った減量によって貧血等を起こし,健康を害する場合も稀ではない.

成人肥満のコントロール

著者: 香川芳子

ページ範囲:P.467 - P.472

■成人肥満の意義
 肥満は最近特に健康上有害として問題視されており,その治療は公衆衛生上の大きな課題となって来ているが,果たしてその基本的な意味を確認した上でコントロールしているか否かは,成人肥満に対処する際に大切である.
 肥満がエネルギーの貯蔵である貯蔵脂肪の過剰であることは周知の事である.他の栄養素と違ってエネルギーを貯蔵する理由は,生き続けてゆくためにはエネルギーを出し続けねばならないこと,そして,現在のような恵まれた環境は稀であって,普通は充分に食物がない中を生き延びねばならないことが,人間を含めた動物の運命であるからで,もしエネルギーが充分に摂取できれば,これを直ちに貯蔵して非常時に備えるためである.

肥満度と皮脂厚計測

著者: 豊川裕之 ,   佐伯圭一郎

ページ範囲:P.473 - P.478

■はじめに
 肥満は成人病の促進要因ないし遠因として,医学的にも日常的にも強い関心を集めている.そのこと自体は,かつて肥満を"恰幅のよさ"として評価する傾向が世俗的にはあり,かつ,医学的にも栄養不良ではないという漫然とした範疇に位置づけられていたことに比べて進歩した状態である.
 しかしながら食糧不足が食糧過剰に,飢えが飽食にと環境も実態も変化するなかで,日常の生活活動量が漸減したために,摂取エネルギーが消費エネルギーを凌駕しやすくなり,体内の脂肪蓄積が極めて普通に進行するようになった,つまり,肥満化がごく普通に進行したのである.しかも,肥満の定義は世俗的には誤解されているのではないだろうか.そして,肥満ではない正常な,むしろ健康な体型をも肥満と判断して,極端に食事制限を図る風潮が目につくようになった.その結果,筋肉の緊張が低下した(atonia)弱々しい体躯に美的評価が偏ることさえ生じている.竹久夢二の描いた女性像が女性美として受け入れられるようになったのである.もっとも,ルノアールの描く豊満な女性像は肥満体であって,これも健康美とはいえない.同じことが男性像にもいえるのであり,医学的に評価される体型は容易に容認されがたい.

肥満予防に新しい栄養所要量の使い方

著者: 福井忠孝

ページ範囲:P.479 - P.485

■はじめに
 今回の日本人の栄養所要量を肥満者に利用する場合に注意しなければならないことは,日本人の栄養所要量1)は,昭和65年における推計基準体位を持つ健康者について性別,年齢別栄養所要量が示されていることである.したがって基準体位と著しく異なる体位をもつ肥満者に対して,そのまま使用することには問題がある.
 しかし肥満が成人病の発生につながることから,肥満を予防することや体重調節を行うことは,健康で長生きするために肝要なことであることは言うまでもない.

講座 臨床から公衆衛生へ—感染症シリーズ・10

ボツリヌス中毒の疫学と対策

著者: 阪口玄二

ページ範囲:P.486 - P.488

 ボツリヌス中毒は,ボツリヌス菌の菌体外毒素の摂取で起こる,致死率の高い急性食中毒である.本菌は芽胞を形成する嫌気性菌で,毒素の抗原性でA〜G型の7型に分類される.ヒトの中毒はおもにA,B,E型毒素で,動物の中毒はおもにC,D型毒素で起こる.

発言あり

科学万博—つくば'85

著者: 秋山高 ,   安西愈 ,   大井玄 ,   佐藤和雄 ,   松崎俊久

ページ範囲:P.425 - P.427

人類永遠の繁栄のために
 21世紀まであと15年.現在5歳の幼児が成人式をする頃,世界は2000年を迎える.
 科学万博は,かれら未来人のための祭典であり,21世紀という大舞台の前夜祭であるが,単なるお祭り騒ぎに終わらせず,21世紀に向けての科学技術立国をめざすステップとし,新しい時代に生きる青少年に大きなインパクトを期待しているという.

調査報告

19世紀以降近江農村の母性健康障害—過去帳成人女子死因の考察

著者: 大柴弘子

ページ範囲:P.489 - P.495

●はじめに
 滋賀県野州郡野洲町南桜の19世紀以降,昭和20年代までの月別出生数は,農繁期の旧暦6月・現7月と,農閑期の旧暦1月・現1〜3月に集中していた1).旧暦9月,現10月の農閑期受胎より生じた農繁期出生ピークは,母性に著しい健康障害をもたらすと予想されたので,過去帳から成人女子死亡数を月別に算出し,その背景となる生活実態を社会調査により把握した.
 その結果,出生ピークと成人女子死亡のピークがほぼ一致し,死因となる母性健康障害が当時の食生活,衛生状態,とくに農業労働に起因していることが判明したので,その結果をここに報告する.なお.この過程で成人・子供の月別死亡の年代別推移など.今後の研究の参考となる結果がみられたので付帯して報告する.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

10.不潔なヨーロッパ

著者: 北博正

ページ範囲:P.446 - P.446

 ヨーロッパを訪ねると,王宮,寺院,劇場等,立派な建物が多くて圧倒されるが,別天師の時代の庶民はどうだったか? 結論を先にいえば,彼等はひどく不潔な生活を強いられていた.神聖ローマ帝国がおとろえはじめると,領主間の戦争や悪疫流行,飢饉,その他の災害に加え,外部からの侵攻があり,住民は疲憊し,「ヨーロッパ人は千年沐(ゆあみ)せず」と暗黒時代を記した史家がいたくらいである.英国のエリザベス一世女王の竈臣でタバコの紹介者ローリー卿(Sir Walter Raleigh 1552-1618)が女王のお伴をして,ロンドンの街角でぬかるみがひどく,女王が通れないのを見て,さっそく自分のマントをぬかるみの上にひろげて女王を渡らせ,女王の信任をいよいよ厚くしたという話があるが,当時は男女ともハイヒールをはいていた.わが国の高下駄(足駄)はぬかるみ用の履物であるが,屋内に入るときは,これを脱いで足を洗うのとは大分ちがう.
 ベルサイユ宮殿は17〜18世紀の最高に立派な建物といわれるが,当時は便所がなく,王侯貴族は別室のおまる(御虎子)で用を足していた.

日本列島

保健所の立場からみたアブラソコムツ事件

著者: 土屋真

ページ範囲:P.460 - P.460

仙台市
 深海性の魚「アブラソコムツ」は,バラムツについで昭和56年1月,厚生省が食品衛生法第4条で食品としての販売を禁止しているが,仙台市内の冷凍倉庫にも大量に保管されていることが判り,荷主が逮捕された.この事件は東京都内で摘発された食品衛生法違反事件と関連して,都庁からの在庫有無の確認依頼があって発見したものである.
 この魚は以前は蒲鉾の材料等に使われ,現在も他の魚に混ざって捕れるが,筋肉脂肪中に人体に吸収されないワックス分が多いため,食べ過ぎると下痢などの消化器症状をおこし,食用が禁じられた.しかし食用魚に似ているので,加工したりして利益の対象にされやすい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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