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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生49巻9号

1985年09月発行

雑誌目次

特集 障害者歯科

障害者歯科の現状と将来

著者: 上原進

ページ範囲:P.572 - P.579

■はじめに
 障害者のための歯科医療対策の歴史を追ってみると,大変に新しい分野の感じをする部分と,意外に古くから存在していた印象とがある.いわば,古くて新しい分野といったものであろう.
 古い部分は,研究報告の題材としての特定の障害に関するものの登場であったり,地方の有志歯科医の奉仕活動としての存在ということになる.

障害者歯科に対する国の施策

著者: 三井男也

ページ範囲:P.580 - P.582

■はじめに
 わが国における障害者の実態とその施策がどうなっているか.また障害者の歯科保健医療に関する対策はどのように進められているか.それぞれの概要について述べてみたい.

東京都における障害者歯科対策

著者: 足立マリ子 ,   今北律子

ページ範囲:P.583 - P.587

■はじめに
 障害者に対する歯科治療は,治療上の困難さ,障害者歯科医療設備の不備,不採算性などの理由から,健常者と異なり対応が遅れていた,東京都においても小児歯科を中心とした大学病院の一部や,障害児施設,篤志的な歯科医師たちによって主に障害児の治療が行われてきたが,その数は少なく,障害者の大多数にとって歯科治療受診は困難な状況であった1,2)
 このため東京都は,障害者の歯科医療を確保するための施策を展開するに至った.

京都歯科サービスセンターの活動15年

著者: 多田丞

ページ範囲:P.589 - P.595

■はじめに
 わが国の障害者歯科医療は,近年急速に発展してきた.
 その一つに,地域医療活動として,歯科医師会が,積極的な役割を果たしているのが大きな特微で,他の国ではみられないことである.いまやほとんどの府県で,歯科医師会が主体となってセンターを設立し,障害者歯科医療を行っている.

病院における障害者歯科

著者: 神田剛

ページ範囲:P.596 - P.600

■はじめに
 障害者の歯科医療についての取り組みは,種々の理由で立ち遅れている.しかし,一部の歯科診療所,施設,大学,歯科センターなどにおいて,障害者の歯科医療要求を受け止めて,すぐれた実践をしている所もある.
 今回,私たちは,小規模な一般病院の歯科における,障害者への取り組みを報告する.当院歯科は障害者歯科専門医師はいないし,障害者用の診療台など特別なものはない.ただし,車椅子で入れるトイレがある.

地域の中の障害者歯科医療

著者: 緒方克也

ページ範囲:P.601 - P.606

■はじめに
 障害者の歯科医療の問題が取り上げられ,学術集会が開かれ,地方の歯科医師会が地方自治体と一緒に取り組み,歯学教育の一部に組み入れられ,スタディグループのテーマにも上げられるようになったのは,1981年の国際障害者年がきっかけであった.以来まる5年を経た.しかし,地域の中の障害者歯科医療の問題が解決したとは言いがたい.むしろ地域格差が歴然とした感さえある.全体としては歪な進歩ともいえるが,ともかく何かの形を持って進歩をしてきた.そして,他の全てがそうであるように,この間題においても,次々に新しい難問と直面してきた.
 障害者にとって地域とは生活のほとんどである.従って,歯科的に何らかの問題,すなわち疾病が発生すると,まず地域の歯科医院で解決をしようとするのが通常である.ところが,現実として障害者の持つ歯科疾患に十分に対処出来る地域の歯科医療機関はほとんどない.その原因は,地域の歯科医師や診療スタッフが障害者についての知識,情報に乏しく,また,治療のための設備やマンパワーも十分でないことにある。さらにほとんどの地域行政が,障害者福祉の中の歯科的問題,特にその管理についての重要さに気づいておらず,従って何の対策も講じていないことも原因の一つである.これらの事が,今後一気に解決するとは考えられないが,開業歯科医院として地域の中で障害者歯科医療に携わっている立場から,若干の意見を述べたい.

在宅ねたきり老人への地域保健活動のネットワークづくり—歯科問題を通じての連携

著者: 植野和子

ページ範囲:P.607 - P.610

■はじめに
 急速に高齢化現象の進むなかで,洲本市においては65歳以上の老齢人口は,昭和59年2月1日現在15%と推定され,兵庫県9.9%に比してはるかに高率であり,老人問題は重要な課題である.
 地域における老人問題への取り組みとして昭和57年度から,保健所及び市の保健婦により,在宅ねたきり老人を対象に,家庭訪問等の事業を実施してきた.

老人・障害者への在宅歯科診療—歯科往診治療

著者: 鈴木俊夫 ,   夏目長門

ページ範囲:P.611 - P.616

■はじめに
 日本は,他の先進諸国に比して例をみないほど急速に高齢化社会を迎え,人口構成は昭和75年(2000年)には65歳以上の老人が国民の15.6%,昭和95年(2020年)では23.7%にも達すると推定されている.国連の定義によると,65歳以上の老人が7%台以上になると「高齢化社会」14%以上になると「高齢社会」としており,わが国では「高齢化社会」を超えて一挙に「超高齢社会」へと突入することになり,WHOも先進諸国も,その成り行きを見守っているのが現状である.
 このような現実を目前にして,国は「老人保健法」をはじめとする各種の施策を打ち出して対応しようとしている.最近よく耳にする「自助自立」ということも,その一つの表れである.

障害者歯科の国際動向

著者: 金子芳洋

ページ範囲:P.617 - P.622

■はじめに
 世界各国における歯科医療がどのような制度のもとに,どのように国民に提供されているかは,その国の国土の広さと人口,歴史,教育,文化,政治,経済,社会保障や福祉のあり方,あるいはもっと直接的には歯科医療関係者の数など,多くの因子によって左右され,それぞれに特徴を持っている.例えば歯科医師の国民人口比をみると,発展途上国と先進諸国,福祉の進んだ国々では大きな差がみられる.その概略をみると,アフリカ西海岸の新興国(1961年に独立)であるカメルーン連邦共和国では,約1/800,0001)と極端に歯科医師の数が少なく,またタイ,フィリピンなどでは約1/50,000,スペイン1/9,000,イギリス(イングランド・ウェールズ)1/3,500,西ドイツ,フランス,アメリカ,日本などでは約1/2,000,北欧3国(ノルウェー,スウェーデン,デンマーク)では最も比率が高く約1/1,000を示している2)
 特徴のある歯科保健制度(Dental care delivery system)としてはニュージーランドのSchool Dental ServiceにおけるSchool Dental Nursesの役割,イギリスにおけるNational Health Service内での歯科医療,北欧における歯科保健サービス機構(PDS:Public Dental Service)などが,比較的知られているものであろう3〜5)

発言あり

中間施設

ページ範囲:P.569 - P.571

老人医療福祉制度の確立を
 老人保健法の成立,施行を契機として「健康福祉施設—中間施設」について議論されるようになった.人口の高齢化に伴い,傷病老人,病弱老人,障害老人の増加は必須で,これら老人に対する生活援助を行う,新しいタイプの施設の整備の是非については論をまたない.
 現在種々論議されている事をそく聞すると,中間施設構想の背景には,専門の領域を異にする者にとっては,医療保険財政上の問題などもあり,議論に介入し得ない難しい要素があるやに聞く.老人医療福祉制度,医療保険改革の構想なりを確立してほしいものである.

レポート

高齢化社会の健康問題(2)—高齢化に関する日米国際会議

著者: 小泉明 ,   森本兼曩 ,   熊谷文枝 ,   小川直宏 ,   松本信雄

ページ範囲:P.629 - P.638

●はじめに
 本分科会はDr. J. Beck(UCLA)と重松逸造博士(広島放影研)を座長とし,討議のレポートはDr. A. Kagan(広島放影研),及び森本兼嚢(東大)により,また,討議の中心となる報告はDr. L. White(NIH),及び吉川政已博士(東京警察病院)により行われた.この分科会の討議は籏野脩一博士(公衆衛生院),長谷川和夫博士(聖マリ大),松本信雄博士(慈恵医大),Dr. D. Ross(Kuakini Medical center),Dr. J. Vogel(Kuakini Medical Center),西川滇八博士(日大)の参加によって行われた.
 さて,討議の内容は大きく三つに分けられる.それは,(1)痴呆に関する諸問題(主としてAlzheimer症に関する問題),(2)老人性疾患における新しい疾病分類に関する問題,並びに(3)Osteoporosisに関連する問題である.

調査報告

高齢者の歯科衛生の実態と生涯保健事業の推進

著者: 新庄文明 ,   多田羅浩三 ,   朝倉新太郎 ,   安積宗 ,   池田昭江

ページ範囲:P.623 - P.627

●はじめに
 地域における歯科保健活動は従来,母子保健活動を中心として推進されてきた.近年,幼小児の歯科衛生の改善がみられる中で,障害児の歯科治療への積極的な取り組みも各地で進められている.しかし,成人の障害者やねたきり老人が,生活している地域で必要な歯科治療を受けられるところは決して多くない.口腔状態の改善は全身状態,ひいては生命にとって極めて重要な役割を持っているにもかかわらず,障害者や高齢者の多くは口腔機能改善のための歯科治療を受ける機会もないまま,不十分な食生活を余儀なくされているのではないかと考えられる.ねたきり老人や高齢者の歯科衛生については実態すら十分には把握されていないのが実情であろう.
 日本歯科医師会も「一生自分の歯で食べよう」をスローガンとして,生涯を通じた歯科保健を重視してきているが,その活動を定着させるためにも,地域において具体的な取り組みを積み重ねる中で,高齢者の歯科衛生の実態や歯科保健事業推進の方法を明らかにしていくことが重要であろう.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

12.コレラさわぎ

著者: 北博正

ページ範囲:P.628 - P.628

 前記のようにヨーロッパは誠に不潔で,非健康的であった.別天師の時代にはしばしばコレラが流行し,多数の犠牲者を出したが,対策も十分に立てることはできなかった.前出のハイネの"パリ通信"にも,パリの第1回の流行時に,病毒をあちこちにまきちらす者がいるとて,怪しい者を袋だたきにして殺し,街中をひきずりまわすのを見たと記している.丁度,関東大震災のとき,井戸に毒物を投入したということで,多くの朝鮮人が虐殺されたのと同様に,パニック状態になると,このようなことも平気で行われる.
 衛生学者である別天師がこれに挑戦するのは当然で,むしろ義務ともいえよう.彼の立場は,環境の不潔,とくに土壌(地下水も)の汚染に注目し,精力的に各地の土壌汚染とコレラの発生数との関係を,今日の言葉でいえば"疫学的"に調べた.調査の対象になった地区は,広く国外にまで及んでいる.その結果,彼の出した結論は,汚染された土壌中の空気が地表に放散される際,瘴気(ミアスマMiasma)を含有しており,これを人間が吸入して発病する.従って土壌を清潔に保つことが,コレラ予防の第一歩であると強調した.これはマラリアに関して,蚊が媒介するということが知られる以前に,ミアスマ説が唱えられたのとよく似ている.

日本列島

胃ガン検診受診率30パーセント

著者: 園田真人

ページ範囲:P.588 - P.588

福岡県
 「胃ガン検診受診率30パーセントをめざして」という運動が始まっている.30パーセントといっても大変な目標であり,それ以上の受診率をあげている市町村に対しては,心から敬意を表したい.
 公衆衛生の仕事を進めるには,早期発見・早期治療,集団検診(スクリーニング・テスト),衛生教育という三つの要素が十分に機能することが大切とされている.患者の早期発見・早期治療のための技術は,さらに進歩するだろう.とくに,胃ガンの集団検診が能率よく,多数が受診できる方法を開発してほしい.集団検診でいうスクリーンとは,網の目のことであり,網の目を通して,健康な集団から異常のあるものをふるいわけるものである.結核も梅毒も,この方法で患者を発見して,早期治療によって,めざましく減らすことができた.

ヘリコプターによる救急医療システム

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.610 - P.610

岐阜
 救急医療対策のポイントの一つは救急患者発生現場から適切な医療機関に如何に迅速に応急処置し搬送するかである.わが国では消防署の救急車による救急搬送方式が定着しており,先進諸国のように空輸による搬送システムは確立されていない.
 59年度国土庁は,ヘリコプターによる救急医療システムの実験を,福島県等と取り組んでいるようであり,これに参加した製作会社が60年2月岐阜県で展示会を催し,全国から関係者が見学に来た.実験機は全長約13m,標準重量1,600kg,航続距離500km,航続時間2.8hrsの中規模のヘリコプターを装備したものであり,双発エンジンにより安全性の高いものである.機内は操縦士席,副操縦士席の他.第1担架の頭側に医師席,左側に救急隊員席,さらに第2担架も装着できるようになっている.人工蘇生器,吸引機,心電計,救急薬品,点滴一式.気管切開一式,保育器など応急措置に関する器材が,すべて医師席から手の届くところに備えられている.本機の特長は双発エンジンであるため,一方のエンジンにトラブルがあっても走行できることや,尾側を開き戸で開け担架のまま患者を収容できること,ドクターズヘリとして応急処置を施しながら飛行できることなど,従来のヘリコプターに見られないものである,本機は国内メーカーと西ドイツのメーカーが共同開発したものであり,救急器具等は外国製品が多く,最新の器具が多い.

老人保健法一般診査(一次検診)実施の多様性

著者: 天野正也

ページ範囲:P.616 - P.616

八戸市
 昭和59年度現在八戸保健所管内1市2町4カ村(八戸市,五戸町,階上町,福地村,南郷村,倉石村,新郷村)における老人保健法一般健康診査の在り方が,それぞれの市町村によって異なった独自の形態で行われている.もちろん実施主体は市町村自治体であり,その地域地域の保健需要は異なり,その特異性は重視されなければならないし,また好ましいことではあるが,以下述べるような市町村間のアンバランスは,地域オルガナイザーとしての保健所の立場からみて妥当なものと考えてよいのかどうかいささか疑問がある.もっとも国の示す一般健康診査実施要領の内容は概ね充足されているので,その点は問題ないものと思われる.以下市町村ごとの実施形態についてみると,一般健康診査実施機関として八戸市は財団法人八戸総合検診センター(八戸市,商工会議所,医師会共同出資)に,また65歳以上は任意に一般医療機関に,五戸町,倉石村,新郷村は農村検診センター(五戸地区広域事務組合立)に,階上町は結核予防会青森県支部にそれぞれ委託し,南郷村(村立国保診療所技術協力)と福地村(保健所技術援助)は自主検診を行っている.
 検診会場については八戸市,五戸町,倉石村,新郷村はそれぞれ委託機関での施設検診(送迎バス運行)階上町,南郷村,福地村は部落集会場ごとの巡回検診である.

長野県乳房検診の現況

著者: 藤島弘道

ページ範囲:P.639 - P.639

長野
 長野県で乳癌の集団検診をはじめて5年目を迎える.今度55〜58年の結果がまとめられた.県が成人病予防協会に委託し行っている事業であるが,検診方式は検診車による出張検診で,日本対癌協会の標準方式に超音波検査を加えている.1日の検診人数は午後半日で100人〜120人とし,原則として2名の検診医があたる.1次検診は医師による乳房の診察と保健婦による自己検診法の教育が2本柱である.検診医師は視・触診を行い,イ 明らかに悪性と考えられる,ロ 悪性の疑いあるが,触診だけでは決めかねる,ハ どちらかといえば良性と考えられる,ニ 今のところ異常なし,の4段階に分け,イロハのものには超音波検査を受けさせる.超音波断層撮影は5mm間隔で35mmフィルム9枚の連続撮影及び腫瘤中心付近のポラロイド撮影を行う.検診医は,ポラロイド写真を参考にして精検を要す者を決定する.更に乳頭に異常分泌ある者は全員要精検となる.長野県では精密検査機関として特定の施設を指定していないが,穿刺吸引細胞診あるいは生検を含めた診断ができ,自己施設内で手術ができる医療機関が適切であると指導している.成人病予防協会では検診受診者名簿から乳癌症例を抽出し,保健婦の家庭訪問で,乳房集団検診発見乳癌患者調査票を提出させ,乳癌症例を把握している.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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