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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生5巻5号

1949年03月発行

雑誌目次

論説

Influenza Pandemic

著者: 野邊地慶三

ページ範囲:P.249 - P.250

 昭和7-10年(1918-20)の前回のインフルエンザ世界流行は我國に於ては39萬餘,又インドに於ては5百餘萬の生命を奪ひ,更に全世界の犠牲は20億に及んだものと推定されて居る。インフルエンザは30年内外の週期を以て去來するものと考えられて居るが前流行(1917)以來既に30餘年を經て居るのと,世界戰爭下不良生活條件により民衆の抵抗力が減弱して居るので,ここ數年來インフルエンザの世界的大流行の襲來がおそれられて來かものである。この時に當り果然本病がイタリヤに勃發し,その流行が隣接諸國に波及して居ると報ぜられたので衞生當局は大いに緊張させられて居るのである。尤も本流行は良性であつて致命率が低いとのことである。
 この流行は果して世界的大流行の起始であるか,或は時々見られる比較的大規模な地域的流行に過ぎないか未だ不明である。インフルエンザの世界的流行の週期は30年内外であると考へられたのは前2回の世界的流行(1889及び1917)の間隔が約30年であつたからなのである。然しながらそれ以前の本病の世界的流行は10乃至50年をおいて起つて不定期なのである。從つて前流行から30年前後を經て居ることの理由で今次の流行は世界的大流行であらうと考へるのは當を得て居らないのである。

このごろの小兒衞生行政

著者: 齊藤潔

ページ範囲:P.250 - P.250

 古くて新しく,世の移りかわりごとに改めて取り上げられる問題は小兒の福祉である。荒れくるう戰亂の中にあつては,後事を托しやがて戰う小兒の育成が強調せられ,戰やんで人々は平和をねがい,文化國家の建設を望む世ともなれば,やがて平和を愛好する小兒,文化人となるべき小兒の育成が論議される。ここに小兒の數が問題となることがある。人口問題で扱われる小兒である。この間にあつて小兒衞生は小兒の質を主として取扱うものであつて,數はその結果として現われるに過ぎない。健全なる質の小兒の育成が小兒衛生の目標である。また小兒の健康状態は民族の健康状態を反映するものであるから,乳兒の死亡率は文化の目標であるともいわれている。衞生の進歩は文化の向上と並行している。また小兒の衞生が考慮されずに一般衞生が始めらるべきでわないから,小兒衞生は凡ての衞生の出發點であり,根柢でもある。わが國の衞生行政面に於ては,從來小兒衞生は兎角困却されがちであり,寧ろ社會事業としての兒童保護の形でより多く取扱われきたが,兒童保護に於ての小兒の問題は,特殊の小兒のみが對象となつて,小兒が全體としてわ考えられていない。厚生省行政組織の大改革に際し,小兒衞生が衛生行政の組織の中に顔を出しかけたが,遂に兒童保護の色彩の中にうづもれたような姿となつた。僅かに保健所の中の1系として取扱われている。

綜説

インフルエンザの流行病學的考察

著者: 福見秀雄

ページ範囲:P.251 - P.261

(1)
 私はこゝで,インフルエンザを流行病學的に詳細に考察してみたい。
 インフルエンザと言へば私達はすぐに.大正7,8,9年のあの世界的な大流行,Pandemic Influenzaを思ひ出す。それほどインフルエンザは,Pandemicな性質とむすびつけられている。併し,1933年にインフルエンザの病原體としてインフルエンザ,ヴィールスが發見され,その基礎のもとに次々と新しい研究が進められ,インフルエンザ,ヴィールスによつておこる病氣をインフルエンザと命名することが出來るようになると,この病氣の流行病學は面目を新たにせられねばならない。その流行病學の研究乃至考察はあくまでも,ヴィールスを中心として展開されねばならない。

原著

亂切接種法に依るBCG接種局所反應の研究

著者: 金光正次 ,   石原良一

ページ範囲:P.262 - P.268

 豫防接種法の制定に依りBCG接種は愈々廣汎強力に施行される事になつた。從前の皮下注射法に較べると,現行の皮内注射法では,接種に伴ふ副作用は著しく輕減されたと云えるが,之の方法を以てもツベルクリン反應を精密に檢査して,確實に陰性な者にのみ接種を行つても,平均5%位に膿瘍,潰瘍が生ずる。そして完全治癒迄に少からぬ日數を要し,治癒の後も醜い瘢痕を貽す事も決して稀でない。又BCGの効果を持績せしめる爲に再接種の必要な事が注目されて來たが,一般に再接種術の局所反應は初接種に較べて強く,從つて膿潰瘍の形成も多い事が認められている(1)。増子(2)はツベルクリン,アレルギーの残存する天竺鼠にBCGを重ねて接種すれば,免疫が加重増強される事を示したが,人體に於ては接種局所に生ずるコッホ氏現象の爲に高率に潰瘍が現はれ,且つ難治の傾向が認められるので(3),その應用は戒心を要する。最近ローゼンタールの亂刺法,及び種痘術式に依る亂切法が,ツ反應陽轉率に於て皮内注射法に匹敵し,而も局所反應が著しく輕微な點で注目されて居る。依つて我々は特に此の副作用を觀察する爲,ツ反應陰性者のみならず,陽性者に對してもBCG接種を行い,局所反應の推移を追及した結果,亂切法に依つてツ反應が極めて高率に陽轉する事,及び局所反應がツ反應陽性者に於ても著しく輕微な事を認めたのでその大要を報告する。

乳幼兒身體發育の研究—第1編 本邦乳幼兒身體發育の現状—第1部 新生兒に就て(全國に亙り49地區に於て24,767乳幼兒の計測に基づく)

著者: 齋藤潔 ,   淸水三雄

ページ範囲:P.268 - P.275

緒言
 乳幼兒期は人の1生で最も身體發育の盛な期間であり,而もこの期間の身體發育は,その後の發育にも,また健康状態にも大きな影響を及ぼし,ひいては民族の健康そのものにも直接につながるものであるというも過言ではない。從つてこの期間の發育を明らかにすることは,一般健康状態の現状を知り,時代の衞生及榮養等の實態を窺い,更に民族の體質の改善にも寄與するところ大であると信ずる。然るに乳幼兒は專ら家庭内にあるので,多數の研究對象を得ることに困難があるために,從來この種の調査研究業績には全國的の對象から得たものがない。勿論身體發育の研究としては,少數例特に同一人について詳しく行う方法もあるが,その結果を全國的の大衆に適用することは無理がある。何となればこの期の小兒の身體發育には大きな個人差があるから,少數の對象についての計測値に基づくものでは發育の眞相を把握し難い。かかる點からみて乳幼兒の發育の研究は困難な仕事である。
 著者等は多年この問題の解決に努力して來たが,恰も,昭和15年日本學術振興會の援助を得ることとなつたので,これが共同研究の實施計書を立案した。先づ廣く全國に亙り一定の計測方法に依り,計測の精確を期せんとして主として全國に散在する保健所を各地調査中心とし,保健所長の協力を求めた。其他府縣都市の衞生行政當局並に農村に於ける開業助産婦にも助力を依頼した。

最近に於ける本邦乳兒死亡率に及ぼす社會的諸因子の影響

著者: 松田摩耶子

ページ範囲:P.275 - P.286

緒言
 さきに水島が「本邦に於ける乳兒死亡率に及ぼす社會生物學的諸因子の影響」(1)なる論文を發表し,本邦に於ける乳兒死亡率に,如何なる社會生物學的因子が重要なる影響を及ぼしているかを部分相關法を以て檢討した。即ち,大正14年の府縣別の乳兒死亡率の最低と,出生率,人口密度,1世帯平均人員,醫師數,教育の普及,女子の平均初婚年齢,個人所得等7種の社會生物學的因子との相關を檢討した結果,是等7種の因子を考慮した範圍内に於ては,女子の平均初婚年齢と教育普及度が,乳兒死亡率に對し比較的重要なる因子として作用していることを明かにした。
 而して,本邦に於ける大正14年(1925年)の乳兒死亡率は生産1,000に付き142.4であり,全國的に乳兒死亡率の算出されている最後の年である昭和18年(1943年)の乳兒死亡率は86.6で,大正7年(1918年)の最高値188.5の1/2以下に減少している。しかし今なほ歐米諸國と比較すれば2倍乃至2倍半の高率にある(4)(5)。元來乳兒死亡率は衞生状態の良否を鋭敏に反映するものであり,それ故に乳兒死亡牽は1國の衞生状態を比較する第1の示標と思われる。此の乳兒死亡という社會生物學的現象に影響する因子を擧げれば物理的,人文的,社會的,生物學的因子等際限もなく,これらが直接に或は間接に相互に複雑に交錯していると考えねばならぬ。

研究と資料

昭和23年の國民死亡著減分析

著者: 渡邊定

ページ範囲:P.287 - P.290

 厚生省豫防局衞生統計部の調査によると昭和23年の國民死亡數は約96萬人である。
 茲に約96としたのはこの中には多少前年度屆遅れの死亡を混じて居るからである。之を昭和22年の國民死亡1,138,238人に比べると實に18萬人弱の減少である。明治33年以來。わが國の國民死亡が1ヶ年100萬人以下を示したのは,人口の少なかつた明治34,5年頃であり,以後は110萬乃至120萬を示したに對し昭和23年の死亡が96萬餘となつたのは洵に驚嘆すべき事實である。しかも昭和22年の國民死亡も大戰前で最も死亡状態の良好であつた昭和10年に比べて約15萬人の減少を示して居ることを考えると,昭和23年の死亡の減少の著しいことが餘計に分るのである。之を人口1000對の死亡率で言えば,昭和10年は16.8であるのに對し,昭和22年は14.9で昭和23年は12.0を示して居る。昭和22年に比べてどうして18萬も死亡が減少したかについて先ず其の死因を死亡實數について速報的に分析してみよう。たゞ死因については目下11月分までしか判明して居ないのでその材料による。

日本腦炎の虱及蠅の傳播實驗

著者: 北岡正見 ,   三浦悌二 ,   中村能子

ページ範囲:P.290 - P.295

 日本腦炎は吸血双翅昆虫殊に蚊によつて傳播されるであらうと最初に唱えたのは三田村,山田(1)である。當時(昭和8年)この蚊傳播説は流行病學的諸事項並に衞生昆虫學的調査から推論されたのみで實験的根據が缺けていたため世の激しい批判をうけた。然し昭10和年日本腦炎病毒が我が國の多くの學者によつて,マウスを用い分離されるに及んで,脳炎の感染經路についても廣汎な實驗が進められた。そして日本腦炎の蚊傳播説は今日では揺ぎない實驗的基礎の上に築き上げられたのである。三田村(2)は蚊以外の吸血昆虫による腦炎の傳播は流行病學的諸事項から容認することが出來ないと指摘した。然し蚊以外の吸血昆虫,或は夏季に出現する昆虫については一應實験的に檢討の必要がある。先づ我々の實驗の對象として取り擧げたものは非衞生的な生活條件の下で繁殖する。發疹チフス或は再歸熱を傳播する虱(Pediculus vestimenti)と,近時小兒麻痺病毒(Francis(3)-Sabin)(4)の傳播者として問題となつているイエバエ(Musca domestica)である。

昭和22年の東京都に於ける發疹熱の疫學的觀察

著者: 池田和雄 ,   吉田修一

ページ範囲:P.295 - P.298

緒言
 發疹チフスは我國では外來傳染病であつて海港檢疫の對象の一とされて居る重大な傳染病であるが發疹熱は我國に於ては常在病であつて常時散發流行を見て居る。兩病は其症状類似し且つW.F.反應も共に陽性である。それ故に一朝發疹チフスの傳染原が國内に侵入して流行の勃發する場合は,内地に常在流行する發疹熱とこれを區別する必要に迫られるものである。そして兩病の鑑別は補體結合反應と凝集反應の他,兩病の對蹠的な疫學的特性によるものである。私達は昭和22年東京都に發生したtyphus fever172例中,北岡氏による血清反應の結果發疹熱と診定された125例より他機關の血清反應の一致しなかつた養育院内集團發生例58例を除いた殘り67例にっき其疫學的觀察を行つたので其結果を報告する。

蛔虫の新感染率に就いて

著者: 野澤孝

ページ範囲:P.298 - P.299

 近年蛔虫の感染率が著しく高くなつた事は,多くの人々の感じている所であり,我々も既にその増加の程度を數字を以て示すことが出來た(醫學と生物學,11,29,昭22)。此の異常な國民生活のもとに於て,蛔虫の感染が如何なる速度で擴まつて行くかを調査しておくことも必要な事であると思う。
 昨年(昭21)慶應病院看護婦144名,一般都内居住者121名に檢便を施行した處,蛔虫非感染者は前者に於て62名,後者に於て42名であつた。これら非感染者中檢査可能の89名に就き今年再檢査を行つた。檢査に當つては塗抹標本と共に,矢尾板氏法に從つて集卵を行い,その沈渣より2枚以上の標本を作つて鏡檢した。檢査回數は昨年は1-2回,平均1.2回,今年はすべて1回である。

死因統計より見たる日本腦炎の疫學的考察

著者: 平山雄

ページ範囲:P.299 - P.304

緒言
 我々は昨夏の日本腦炎の大流行に鑑み,本症の疫學的研究を企て,その第1段階として過去の流行状況を死因統計を資料として研究し若干の考察を加えたので報告する。

ニユース

學校基本調査

ページ範囲:P.307 - P.307

 その1 學校教員調査の結果,文部統計速報10(昭和23年11月)文部省調査局統計計課發表による。以下の數は昭和22年12月1日現在のものである。
 大學:本務教員數7354名,兼務教員數2121名,以上合計9475(延數を入れての合計9938名)

インフルエンザの襲來に備えて

ページ範囲:P.308 - P.308

 昨年12月の半頃,イタリアの一角にインフルエンザが發生すると,忽ち北ヨーロッパから中部ヨーロツパ,パルカン方面に擴がり,現在フランスでは全人口の20%がこれに罹つていると傳えられる。
 去る大正7,8,9,10の4年に跨つて全世界に猛威を振つたあのインフルエンザ(スペイン風邪)が,わが國でも罹患者實に2300萬,40萬という人命を奪い慘鼻をきわめた事實は,未だ吾々の記憶に鮮かであるが,病氣の性質から見て,今度のインフルエンザも何時またこの二の舞を見ないとは限らない。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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