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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生5巻6号

1949年04月発行

雑誌目次

論説

公衆衞生と寄生蟲

著者: 宮川米次

ページ範囲:P.311 - P.314

寄生蟲の侵淫度は文化のバロメーター
 私は大學の學生時代,衞生學の横手先生から,一國の文化は石鹸の使用量の多寡に比例するものだと教えられて,そういうものかなとは思つたが,ピントしなかつた。然るに今日此頃それが,ひしひしと首肯かれてならない。熱帶病學の大家シヤウデインは一國の文化はその地の寄生蟲の浸淫度と正比例すると喝破して居られるが,今次の體驗をうるまでには,誠に金言だなと思われなかつた。今から約十數年前に,チエコの靑年のシヤウリツチといふ學徒が,文化交換學生として,私の所へ約1ケ年計り留學したことがあつた。彼はバルカン地方の蛔蟲の浸淫の如何にも激しいことを常に口にし,北歐の文化地帶とは,隔世の距りがあるとつくづくと述懷したことも思い出されてならない。かくして我等の現状を觀るに,我等の文化は,正に文字通り一世紀後戻りしたといつてよいのではないかと思われてならない。

文化國家と寄生蟲

ページ範囲:P.314 - P.315

 蛔蟲,鉤蟲,日本住血蟲病,肝臟ヂストマ,絲状蟲等による寄生蟲病及びアメーバ赤痢,マラリヤ等の原蟲病とは糞便によつて傳播されるか或は昆蟲の媒介によつて蔓延する疾患があるがこの種の疾病は先進文化國家に於ては環境衞生の改善によつて夙に防遏されたもので所謂PreventableDiseasesの隨一とせられて居るものである。然るに我國に於ては蛔蟲病は戰前から農村に濃厚に蔓延して農村民の健康を害して居つたものであるが太平洋戰爭以降都市菜園の普及により都市民の蛔蟲昆蟲率は倍加して種々の症状を頻發して居る。又鉤蟲病は戰前は主として農村病であつたのが現在は都市民の間もその浸染を受け健康を蝕まれて居る状態である。日本住血吸蟲と肝臟ヂストマ流行地に於ては戰前は強力に對策が講ぜられてその危害が減じつゝあつたが戰時下の諸衞生施設の弛緩は再びその跳梁を許す状態になつて居る。久しく奇病視されて居つた長江浮腫は我駐支軍によつて有棘顎口蟲病であることが明らかにされたが本病は戰時中食用として中支から輸入された鱈魚の媒介によつて九州中國地方に次第に淫浸し來り關東地方がその侵襲を受けるのも時の問題となつて居る。
 アメーバ赤痢は戰前も國民の間に5%内外の胞子保有者が見られたが患者は稀であつた。然るに戰後上記保有率は10%内外に上昇し且つ新原蟲株の病原性のためか發病者が頻發するやうになつた。

原著 最近における寄生蟲の諸問題・1

學術研究會議傳染性疾患研究特別委員會寄生蟲科會報告

驅蟲藥に對する蛔蟲の習慣性に就て

著者: 生田啓吉

ページ範囲:P.316 - P.318

 實驗者はRescorcin系統の藥物に對し蛔蟲が耐性を獲得するのではないかを疑い,今囘次の樣な實驗を行つてみた。
 被檢者(9〜30歳)をA,B及びCの3群に分け,A群にはOctylchlororesorcinol(本藥物の效力に就ては前報で述べた)0.5gを夕食前2時間2日間隔で2囘與へ10日後基準量(13歳以上1.0g,8〜12歳0.8g)を朝食2時間前に投與した。B群は0.2gを毎夕食2時間前5日間つゞけて與えた後10日後同上の基準量を同樣に服藥させ,C群は對照で前處置投藥を行わず基準量のみを同一條件で與えた。服藥は嚴重に實驗者の手で毎囘個人別に行つた事は勿論である。この樣に服藥させた被檢者の實驗前,基準量投與前,同2週間後Stoll氏法で檢した蛔蟲卵數(糞便1g中の卵數の總和)は次の樣でA,B兩群とも意外にも減少は全然認められず却つて服藥後増加の結果を示した。又兩群とも卵消失者は全くない。

蛔蟲驅蟲より再感染迄の觀察/蛔蟲再感染に關する研究

著者: 矢島敏夫 ,   森下薫

ページ範囲:P.318 - P.324

 昨年2月より略々中位の生活を營める家族を毎月數組宛,基礎檢査後投藥し,蟲卵陰性者を投藥日より換算して10日目毎に檢便し,排卵日を以て感染とみなした。檢査はすべて塗抹法を矢尾板式遠心沈澱法を併用した。檢査總人員は1月現在41家族227名で,本抄録では1月末現在で感染可能圈内に這入つた26家族127名に付き述べた。
 〔實驗成績〕Ⅰ 1)驅蟲藥投藥前蟲卵陰性者39名中10名(25.6%),2)驅蟲藥投藥前蟲卵陽性者88名中63名(71.6%),合計73名(57.4%)が感染した。

驅蟲劑の寄生蟲産卵能及び卵の發育能に及ぼす影響の研究

著者: 森下薰 ,   竹山治 ,   伏見純 ,   永井光 ,   西村猛

ページ範囲:P.325 - P.327

 驅蟲劑投與の場合,當該寄生蟲の宿主體内に於ける産卵能に何らかの變化が起らないであろうか。從來恐らく一時的に産卵が阻止されるのではないかと考えられて居るが,確實な基礎の上に立つた議論は殆どない。又驅蟲劑の寄生蟲子宮内卵或は宿主の糞便内卵の發育能に影響する所はないであろうか。これに就いても何ら云うべき知見が得られて居ない。以上のことがらは臨牀的にも流行學的にも關係する所が少なくない。これらの問題に關連して次の研究を行う所があつた。

蛔蟲驅除藥の研究/農村に於ける蛔蟲,鈎蟲の撲滅作業

著者: 石井信太郞

ページ範囲:P.327 - P.329

1.邦製Hexylresorcinの效果及び副作用の研究
 邦製Hexylresorcinの所定量(成人1.0瓦)を45名の蛔蟲症患者(入院患者)に投與して效果及び副作用如何を檢した。
 a.效果
 糞便檢査を行つて蛔蟲卵數を算えた。其方法は石井等の考案による次の法式を以てした。

Cyclohexylchlorresorcinの臨牀藥理學的研究

著者: 山崎英正 ,   足利三明 ,   久米政夫 ,   矢野豐 ,   久池井巖 ,   三宅健二 ,   吉原重彌

ページ範囲:P.329 - P.332

 山崎,足利の研究によるとCylclohexylresorcinalにmono-Chlorを導入する(京大藥學科富田教授,上尾助教授)と蛔蟲驅除效力は飛躍的に増強し,毒性竝に局所刺戟性はHexylresorcinolより遙かに弱い物質が得られることが知られた。そしてこの化合物Cyclohexylchlororesorcinolの生産はHexylresorcinolより遙かに容易である(上尾助教授)。
 今囘吾々は收容所にある浮浪者成人96名に就て特に藥用量及び食事との關係を考慮しつゝ本藥物の驅蛔蟲效果と副作用に關する檢索を行い,併せて驅除蛔蟲の状態を調べた。被檢者を8群に分け何れも服藥當日朝食を抜いて早朝第1〜3群に夫々0.5,0.8及び1.0g,第4〜8群何れも1.0g,但し第4,5群は粥100gと鷄卵1個を服藥の30分前又は後に,第6〜8群には服藥30分前に夫々粥,葛100g及び食パン50gを與え,何れも以後4時間食物を禁じた。藥物は何れも人工胃液中で30分内に崩解することを確めたゼラチンカプセル劑として與え服藥24又は48時間後硫苦20gを使用した。實驗成績の大要は次のようである。

蛔蟲の排卵能と驅蟲藥の影響

著者: 足利三明 ,   生田啓吉

ページ範囲:P.332 - P.334

 驅蛔蟲藥の效果を驅除された蟲數だけで比較判定することは危險である。このことは吾教室で今迄に行つた諸種の藥物に就ての驅蟲實驗の經驗が示すところである。その主要な理由は長時日に亙つて排蟲を含む可能性のある被檢者の糞便を殘りなく且つ完全に調査することの非常に難しいことや,死蟲の腸内消化のあることもあるが,今一つ重要なことは保蟲程度の違ふ被檢者のSampling如何が問題になることである。次に示した例は保蟲程度の異る2つのGroupに同じ條件で同じ藥物の基準量を與えたものであるが,保蟲程度(卵數)の多い方は排蟲者率や排蟲數が多く,反之卵消失者率は少い。併し兩Group共卵數減少率は非常に近似した値を示している。
 吾教室では以上の樣な經驗から蟲數計算と竝行して常に卵數計算法を行い,可及的判斷を誤らぬ努力をしている。然るに卵數計算法の信頼度は蛔蟲の排卵能如何,特に藥物により如何に影響されるやの問題と重要な關係があるのでこの點を追究しつゝある。今迄の成績は次のようである。

研究と資料

腸チフス豫防接種の皮下法・皮内法の比較—殊にその接種後の凝集價の消長に就いて

著者: 近藤勇

ページ範囲:P.344 - P.349

緒言
 腸チフス豫防接種に際しての副作用,殊に終戰後試みられている強力ワクチン接種後の種々の強い副作用に關しては既に吾々の等しく經驗している所であり當學第一分院の木村,照井兩氏はワクチン接種後賦活化されて發現したと見做される結核性腦膜炎2例に就いて報告されている1)
 ワクチン接種に關しては第一に當該ワクチンに依る強き豫防效果の發現が望ましい事は今更言を俟たぬが然し豫防接種の普遍化と言う面から考えるならば不慮の災害防止は勿論,副作用の輕減と言うことも又重大な一要素と言はねばならぬ。殊に豫防接種の實施は多人數を一場に集め短時間内に行はれる關係上個々の健康状態及びそれに適應した種種量等々の判斷が粗雜に流れ勝ちなのも又避け得ぬ事情故,尚更にワクチン自身及びその接種法には副作用の無いものが選ばれねばならぬ。

小麥藁煎劑の驅蟲作用

著者: 酒井威

ページ範囲:P.349 - P.350

 戰時戰後を通じて,疎開,家庭菜園其他種々の原因により,國民の蛔蟲寄生率は甚だしく高度となり,且つ從來に較べて,時に重篤な症状を來す例も稀ではなく,加うるに驅蟲藥品は,質量共に極度に不如意であるため,手を併いて寄生蟲の跳梁に委ねる外なき實情にある。偶々長野縣及び千葉縣の一部農家では,小麥藁を煎じて服用して驅蟲を果す事もあるを聞き及び,時局下看過するは惜しく考えて,些か試驗を行つた。

論述

赤痢の集團發生例から觀た化學療法の適用領域

著者: 乘木秀夫

ページ範囲:P.351 - P.358

緒言
 赤痢の流行を,疫學的に考察する事は,今更新しい事でない。しかし,化學療法による赤痢の撲滅を確信し,一朝にして,赤痢が我が國より消滅するが如き妄想に落入り易い今日,尚お,流行が相次いで起り,未だ消滅のきざしさえ認め難い時,再び取上げて,そのよつて來る原因を考え,如何にして化學療法の域に導くかを,疫學的に考究する事は,不必要とは考えない。
 赤痢の化學療法の效果は,實驗的1)2)にも,臨牀的3)にも,更に防疫上4)にも認め得る。確かに,昨年度は非常な減少を示し,又昭和23年度は更に減少している5)。しかし,現在の減少を以てしても,尚お,過去の赤痢動態を改變するが如き效果は,認められて居ない6)7)

學校衞生のページ

學校身體檢査規定改正さる

ページ範囲:P.359 - P.363

 昭和19年,文部省令第33號を以て戰時型に改需された「學校身體檢査規定」はこのたび改正された。種々改善,刷新された點もすくなくない。

文獻

短波照射に依る組織の加温成績

著者: 宮入

ページ範囲:P.365 - P.366

 著者等は2.400〜2.500×5サイクルの高周波と最大出力25ワツト最長12cmの波長の何れが生體組織の深さ2インチの部分を10.4°F迄に加温するが,又治療結果としての熱度傾斜が正常かどうか,即ち表面より深部の組織に至るにつれ温度が減少したか或は此の正常熱度傾斜の逆戻りがあつたかを決定する一連の實驗を行つた。研究にあたり高周波による實驗動物には犬の腿,目,前額竇と人間の腿を用いた高周波に曝された犬の腿の最高温度は皮下層で觀察され深度が増すにつれ温度は減少したと著者は述べている。皮膜表面から1インチの間隔を置く6inch hemispherieal directorを使用した10の實驗で深さ2インチの平均温度は104.1°Fであつた。犬の目での實驗で短波治療を受けた強健な體の平均温度は105.8°Fである事が分つた。3過間に渉り一連の6つの治療を受けた犬の目及び近隣組織には何の損傷もなかつた。6つの實驗で短波照射を受けた犬の前額竇の平均温度は105.1°Fであり,24の實驗で直接短波を照射された人間の大腿の深さ2インチの平均温度は104.2°Fであつた。1つの表在性小水泡が生じ10日にして消滅した。此の治療は患者にとつて快適であつた。紅疹が出始めるのを注意して見逃さない樣にせねばならぬ。

菌類の抗ペニシリン性

著者: 宮入

ページ範囲:P.366 - P.367

 兵隊の戰傷や創傷感染にみられる種々の寄生物のペニシリンの感受性と抵抗性に關する研究中に種々の菌類が發見された。又少數のものはFitysimons綜合病院やDuke大學醫學部で分類培養されたペニシリン感受性の研究は,平板法を用いサブロー酸トリプローゼ培養器及び他の代表的培養器に於ける繼代培養によつて行われた。12種の人間に對し病原性のある19の菌類についてペニシリン感取性を檢査すると,
 Actinomyces bovisを除いて全て1cc中50.0單位或は其れ以上の濃度に於てもペニシリンに對し抵抗力がある事が分つた。

ニユース

1948年度ラスカー賞(Lasker Awards)獲得者

ページ範囲:P.369 - P.370

 米國に於ては毎年公衆衞生分野に最も貢獻獻した者にラスカー賞を授與してその名譽を讃えているが1948年度に於ける受賞者は下記の通り發表された。
 1.Dr. S. A. Wachsman and Dr. R. J. Dubos
共にペニシリン其の他微生物抗菌性分質の研究に關する研究寄與者

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文獻紹介

ページ範囲:P.370 - P.370

米國公衆衞生協會雜誌(Journal of American Public Health Association)1949年2月號
 1948年11月Lemuel Schattuch記念米國公衆衞生協會第76囘學會講演集米國に於ける公衆衞生先覺者Lemuel Schattuch……W. G. Smillie昨日の衞生と將來……Abel Wohman衞生統計の意義……Huge Muench LemuelShattuch 1948年の辭……C. E. A. Winsiow

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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