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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生5巻7号

1949年05月発行

雑誌目次

論説

BCGワクチンについて

著者: 染谷四郞

ページ範囲:P.373 - P.378

まえがき
 わが國では結核豫防對策の一つとしてBCGワクチン接種が今日まで各方面で廣く實施せられ,着々その効果をあげていることは一般のよく知悉しているところである。また最近は西歐諸國,アメリカ合衆國においても盛んにBCGワクチン接種が行われ,その豫防効果が確認せられるようになつた。このような状勢から昨年豫防接種法が制定せられ,結核に對しても30歳までの結核未感染者は毎年BCG接種をうけねばならないことになり,その實施は1年の猶豫期間を以つて本年7月より開始せられることになつている。從つて一般の認識も益々高まり,普及も容易になつてゆくものと思われるのであるが,また他方BCGワクチンの改良,接種方法等についても尚研究すべきところが少くないのであつて,私はこの機會において現在までのBCG研究の經過と今後の方向とについて,その概略を述べ,讀者の御參考に供したいと思う。

原著

原蟲性疾患に關する研究—昭和23年度研究業績要約(學研傳染性疾患研究特別委員會)

著者: 小泉丹 ,   石井信太郞 ,   松林久吉 ,   澤田藤一郎 ,   宮崎一郞 ,   森下薰 ,   山田弘三 ,   宮川正澄 ,   細田盂 ,   鈴木成美 ,   林直敬 ,   村上榮 ,   寺坂源雄 ,   後藤正勝 ,   佐藤八郞

ページ範囲:P.379 - P.386

 本年度の協同研究課題は,マラリアの問題として,地域的マラリアと,その戰後の變化,戰後マラリアの新發生,新流行,特に熱帯マラリア患者の發生を取あげ,其他の原蟲性疾患の課題としては赤痢アメーバ及びアメーバ赤痢の治療を問題とした。マラリアの新流行及び舊來の有病地の状態に關して詳しい調査が進められて,その實状が明確にされ始めたこと,熱帶マラリア患者の發生,及びその流行と云われた例の再檢討がなされたことも喜ばしいことである。赤痢アメーバに關しては,培養に於ける共在細菌の問題が進んだことが重要な收獲と思われる。
 本年度最後の會合で報告された成績の大要は下の如くである。

研究と資料

松本市外淺間温泉に發生した腸チフスの爆發的流行

著者: 小島三郞 ,   福見秀雄 ,   山本繁夫 ,   草間秀夫 ,   加藤英市 ,   石丸隆治

ページ範囲:P.386 - P.392

流行状況概説
 昭和23年6月の下旬から,長野縣淺間温泉に熱性疾患が發生し,漸次數を増して集團發生の相貌を呈して來たが,なおその病名については確たる決定はなされず,種々の流言も亂れ飛んで,奇病説も出る状況であつた。丁度このような状勢にあるとき,6月30日に某旅館業者の家族がやはり同様の發熱を主徴として發病した。7月1日某開業醫の往診の結果は腸チフスの疑い濃厚であつて,翌々日の7月3日松本市の松本病院に收容され,7月5日この患者の血液から腸チフス菌が證明された。
 かくしてこゝにこの熱性疾患の集團發生は腸チフスと決定されたのであるが,この時には患者數は既に100名を突破し,事態は既に慘憺たる状態に立ち到つていたのである。この間傳染病研究所に於ても武田教授を主班とする調査團が出張して,病原決定に多大の活躍をされたことを承つている。

マラリアの地域的偏在に關する一考察

著者: 細井輝彦

ページ範囲:P.405 - P.409

 本邦の土着性マラリアが水田地帶に多いことは,一般に認められているところであるが,水田地帶ならどこでもマラリアが多いかというと,決してそうでない。東京都の水田地帶は,荒川と江戸川との流域で,足立・葛飾・江戸川・板橋の4區にまたがるものが最大であり,これに次いで北多摩・南多摩の多摩川流域がある。ところで近年の都内マラリア新感染は,過半數が江戸川1區のみからでており,しかも同區の南半東寄りに集中されていて,その他の水田地帶では少數が平均に散在しているに過ぎない。
 このような水田マラリアの地域的偏在は,どうして起るのであろうか。マラリアの浸淫度を支配する因子としては當然,住民と蚊族の兩方を考えねばならない。しかし住民の生活状態に關する限り,江戸川區は他の水田地帶と大差ない。從つて問題は傅播蚊たるAnophelesの發生状況にかかつてくるのである。

幼虫採集法によるシナハマダラカの發生量調査について

著者: 細井輝彦

ページ範囲:P.409 - P.412

 ある地域内の蚊族發生量を計測する場合に,幼蟲を對象とすべきか,または成蟲によるべきかは,調査の目的,條件,或いは蚊の種類によつても,それぞれ得失があろう。本邦の代表的なマラリア傅播蚊であるシナハマダラカ(Anopheles hyrcanus sinensis)の發生状況調査方法論については,すでに野村健一(1943,47)が詳細に報告している。水田や沼澤地帶では,この蚊の發生水域が非常に廣汎なため,こういう地域における幼蟲發生量を具體的に表示するには,どうしても比較的少數の代表的な水域調査結果から,全體を推定しなければならない。では,どのような水域をどのくらい調査したなら,その地域全體の幼蟲發生量について,どの程度の判斷を下すことができるだろうか。以下この問題に關する一つの調査資料を報告したいと思う。
 調査のため特に選んだ場所は,東京都江戸川區の中央部で,東西1.5Km,南北2.5Km,水田を主とする村落および小市街地である。江戸川區のシナハマダラカ發生状況については,すでに本誌4巻2號に報告してあり,また都内の他地區との比較も別稿にゆずるが,2年間にわたる延べ3,000箇所に近い水域調査の結果からみて,東京ではこの蚊の幼蟲出現量が7月を頂點とすることは確實である。越冬成蟲の産卵にもとずく前驅發生は4月に見られ,これが羽化する5月には一時幼蟲が減少し,6月から本格的な發生が始つて10月まで績く。

アメーバ赤痢の統計的觀察

著者: 安東喜四夫 ,   山岸芳雄

ページ範囲:P.412 - P.416

緒論
 日本内地に於て感染せるアメーバ赤痢の最初の報告は明治34年高洲氏にて姫路近郊に在住する4例の患者に關するものである。以來日本内地に於ても感染發病せるアメーバ赤痢は散在性に認められ,南は九州から北は北海道に及んでいる。今次戰爭により外地感染のアメーバ赤痢の増加と共に内地感染の患者も急激に増加せるは經驗されている所である。我々は内地感染の發病者と外地感染發病者との比較及び發病季節,性別,年齡別,下痢回數,發熱,赤痢既往症,合併症,死亡率其他につき調査した。材料は昭和20年より23年初頭に到る間,東京都及びその近郊に於て赤痢症状を呈し,榮養型の赤痢アメーバを確認せるアメーバ赤痢患者53例につき調査した。

醫藥品の細菌汚染度及び有害物質に關する研究

第2報 内用水藥,點眼藥,注射藥,各種スルフオンアミド劑中の細菌について/第3報 發熱物質について

著者: 八田貞義 ,   靑山好作 ,   丹治園枝 ,   春田正氣

ページ範囲:P.392 - P.404

まえがき
 表題の如き研究を,世には言葉をなす人があつて,空氣中の落下菌を調査するにも似た當然のことを,表に組み立てる効なき一勞作と見做す人もあるかも知れない。しかしこれは公衆衞生上甚だ好ましくない,皮相的な見解であることは,以下に記載する實驗成績を吟味して下さるならば,容易に諒解されるところであり,水や食品(牛乳)に對する衛生管理の如き規定が,醫藥品についても是非採りあげられるべきだとの意見に同意されることゝ思う。

論述

新しい學校身体檢査改正の要點

著者: 川畑愛義

ページ範囲:P.417 - P.418

 新しい身體檢査は,昭和24年3月19日,文部省令第7號をもつて改正された。
 これによれば,從來のものは昭和19年の改正が,いわゆる戰時型の身體檢査で,坐高その他の測定事項を省略し,改惡のそしりがあつたのを,平時型にかえるとともに,2,3最近の醫學上の進歩をとりあげたものであつた。

勞働省ニュース 炭鑛勞働衞生の實態—勞働衞生實態調査抄報・1

1.炭鑛の珪肺

著者: 黑田芳夫

ページ範囲:P.419 - P.420

 昭和23年度勞働省で全國の勞働基準局を通じて行つた事業場勞働衞生實態調査1)の主な成績を本誌面を借りて抄報する。本報告にはその第1報として,炭礦で實施された調査の概要を記載する。

2.炭鑛の熱中症

ページ範囲:P.420 - P.421

 調査對象:J. I. 炭礦(福島)。
 Y坑,U坑,I坑。

3.炭鑛夫の腸内寄生虫

ページ範囲:P.421 - P.423

調査對象:M.B.炭礦(北海道)
H.Y.炭礦(〃)

厚生省のうごき

1.厚生行政と豫算

ページ範囲:P.425 - P.427

 民自黨の公約問題にたたられて4月20日ようやく成立を見た昭和24年度の厚生省所管歳出豫算總額は30,942,443,000圓で,前年度に較べると7,234,755,000圓の増加になつている。しかしこれを國の總豫算7,046億から見ると僅か4%強に過ぎず。21年6%,22年6%,23年5%の比率がこんなに引下げられたことは,國民の福祉と健康の増進をはばむものと憂慮される。さらに衛生關係豫算總額(公衆衞生,醫務,豫防,藥務4局分を含む)の厚生省豫算總額に對する比率が,前年度の33.4%から一擧に25.5%と大幅の低下を見たことは,公衆衞生の向上が強く要請されている秋,何といつても殘念なことである。

2.優生保護法と施行規則

ページ範囲:P.427 - P.429

 かつての國民優生生活の基調であつた"生めよ殖やせよ"の軍國的人口増殖政策から"量より質へ"の平和的優生保護政策へと,180度の轉換を遂げた新しい優生保護法は,戰後の變貎した社會や經濟情勢に即應して,惡質者を取除くことによつて國民素質の向上を圖るとともに,母性の生命と健康を保護することを目的として昨年9月11日から施行されたが,わが國現下の重大問題である人口問題とも密接な關連性を持っているところから,同法について昨今さらに新しい檢討が加えられている。ことに最近避姙藥の公賣等によつて,産兒制限に對する國民の關心が昂まつて來た折柄,ともすれば同法が無條件に堕胎を認めるものであるかのような誤解もあるので,とくに同法に對し,一般の正しい理解が望まれる。
 同法の主要な點は

海外文獻

原子力委員會醫學計劃

著者:

ページ範囲:P.429 - P.430

 Shields Warren博士は最近原子力委員會醫學計劃に關し次の様にのべている。人體に及ぼす放射線イオンの影響は2大別して考えることが出來る。即ち從來のX線放射管よりする體外放射の影響と,他は放射性物質を内服した場合に起る體内放射の影響の二つである。この二つは單に1細胞又は1組織を檢査しただけで區別することは困難であつて,その主要變化は細胞の核酸障害に由來するものと考えられる。體内放射の場合には或る組織は特殊の元素に特異的親和性を有し,又各種同位元素より放射される放射線には長短各種の差異があり又特異的限局的放射性が認められる。
 放射性同位元素の治療價値を決するには次の條項を考慮せねばならない。

不具補正器

ページ範囲:P.430 - P.430

 小兒麻痺其の他の原因で不具となつた小供の足骨にステインレス鋼釘を打ちこんで歩行を補正する方法を米國醫學者が發表している。釘を入れる一つの目的は足の長さを左右同長にする爲めであり,又他の目的は膝のがくかく折れ曲るのを防止するためである。本方法は最初にウイスコンシン州Milwaukee市小兒病院で試驗された。Walter P. Blount,George R. Clarke兩博士は米國整形外科學會專門醫會席上2,000名の醫師の前で本示説を行った。
 Blount博士曰く,本法は發育停止期前少くも2年前より實施しなくてはいけない。又本法は8才位から實施することが出來る。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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