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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生50巻12号

1986年12月発行

雑誌目次

特集 家族

わが国の家族の変化と保健・福祉

著者: 山手茂

ページ範囲:P.784 - P.789

■はじめに—家族問題と保健・福祉の課題
 今年の8月末から9月にかけて,第23回国際社会福祉会議が東京で開催された.この会議のテーマは,「家族とコミュニティの強化」であった.
 「家族」が国際社会福祉会議のテーマに選ばれたのは,世界各国において,それぞれ状況は異なっているが,共通に家族問題が深刻化し,その対策が重要な課題になっているためである.急激な社会変化が進んでいる今日,家族はその基本的機能である「家族員の健康で文化的な生活を営むことを保障する機能=保健・福祉機能」を果たすことが困難になり,その結果,家族にかかわる保健・福祉問題が社会問題として顕在化・深刻化しており,その予防および問題解決の援助が,保健・福祉政策および保健・福祉活動の緊急な課題になっている.保健・福祉の目的が,「すべての人びとが自立して正常な生活を維持すること」にあるとすれば,家族問題の発生の予防と解決の援助は,保健・福祉活動の最も基本的な課題であるといえよう.

地域保健活動と家族

著者: 華表宏有

ページ範囲:P.790 - P.795

■はじめに
 現代のわが国は世界一の長寿国となり,国民一人ひとりの人生80年型の生活のあり方が,さまざまな角度から議論の対象とされている.わが国が急速な勢いで突入しつつある「高齢化社会」での生存の条件とその対応策は,公衆衛生の領域で働いている者にとっても,大きな関心事であることはいうまでもない.
 本誌では1973年4月号に,今回と同じテーマ(家族)で特集をしているが,当時はそれほど顕在化していなかった家族をめぐる諸問題について,13年後の現在では,研究者のみならず一般大衆やマスコミの目が一斉に向けられるようになった.確かに社会の様相が少しずつ変化してきていることを実感しないではいられない.その主たる点を列挙してみると,離婚率の漸増に象徴される,家庭の崩壊現象が少しずつ広がってきていることがまず第一に挙げられる.このほか寿命の延長と核家族化の促進による単身老人世帯の増加,そして痴呆性老人の介護の問題.中年期の単身赴任による本人とその家族に与える心身両面での健康問題や,うつ病と自殺の増加.小・中学校でのいじめの増加と,それを助長しているといわれている家庭での両親の教育の姿勢等も,見逃すことのできない今日的な社会問題である.

母子保健と家族

著者: 長谷川浩

ページ範囲:P.796 - P.800

■はじめに
 わが国の母子保健サービスは,戦後40年間に,母性・小児医学の発達を基盤にした各種法律制度の整備と保健所や医療機関の不断の実践に支えられて,飛躍的な前進を遂げつつある.もちろん,健康問題に悩む多くの人々の切実なニードとして,さらにきめ細かいサービスが求められているし,急激な社会変化に伴う健康阻害要因としての環境問題とか母子の疾病構造の変化などに対して,保健サービスの現状が合わなくなってきているのではないかという識者の批判もある.これらの要望や批判は,母子の健康増進に向けての重要な問題提起であり,母子保健サービスがつねに社会のニーズに応えるものであるかぎり,重視されなければならない.
 しかしながら,母子保健サービスの現状は,わが国の乳児死亡率の急激な低下とか各種難病児の治療にみられるように,基本的に高く評価されてよいであろう.妊娠初期から出産,そして乳幼児期の各年齢段階における健康チェックは実に丹念に行われており,またその利用度も高く,疾患の早期発見と治療に貢献している.従って,今後の改善の余地はあるにしても,主として身体医学的な面での母子保健サービスは効果的に機能しているとみてよい.ただし,母子の心理・社会的な問題についての援助には,まだまだ課題が多いように思われる.

青年期における家族の問題—家族カウンセリングの立場から

著者: 国谷誠朗

ページ範囲:P.801 - P.806

■はじめに
 青年期は自分自身の主体性を確立し,依存していた親という保護者から離れる時期である.E.H.エリクソンのライフ・タスクの理論によれば,青年期の中核となる人生の課題はアイデンティティ(自我同一性)の確立であり,その課題の失敗は自我同一性の拡散という,病的な結果を招くことになる.
 青年期の心身症や精神衛生上の諸問題が,家族関係を密接に反映していることは今日,臨床家の間で常識的ことがらになっている.青年期の患者たちは家族との関係を否定したり,その束縛から脱出しようと必死の努力をしているのにかかわらず,家族関係のきずなは重いストレスとして彼らにのしかかっている.青年期の患者をかかえる医師や教育相談員は,「家族がもっと協力さえしてくれたら」という切実な願いをもつことが多いであろう.治療や相談指導が一応成功したかのように見えても,ひとたび家庭に帰ると問題が再発するというケースがあまりにも多いのである.

中年期の精神保健と家族

著者: 岡野嘉宏

ページ範囲:P.807 - P.812

■はじめに
 中年期とは,青年期と老年期の中間(ミドル)にあり,壮年とか熟年とも言われ,人生の一つの頂点を経験することのできる世代である.それはまた頂点を境に上り坂と下り坂の人生を経験する世代でもある.
 上り坂においては,人生の中で最も活力にあふれ,思慮深く,経験豊かな充実した年代で,社会的な地位を確立し,家庭的には一家の中心的存在として最も自信の高まる年代である.

老人と家族

著者: 今井典子

ページ範囲:P.813 - P.817

■語られぬ旅の思い出
 妻のことで相談室を訪れた73歳の男性が,物静かに次のように語った.「私の仕事の関係で,戦前も戦後もよく転勤したんです.行き先ではなるべく妻と旅行に出かけたものですよ.私達には子供がいなかったせいもありますけど.ずいぶん回ったんですけど,日本も広いもので行きたいところがまだたくさんあって…….退職後に,その残ったところを順々に回ろうって,あれだけ言ってた妻が,そんなことを何にも言わなくなりましてね.今は私のことを私とわかっているのか,わかってないのか…….会うなり,もう帰っていいよなんて,すまして言うんですから.」
 この男性の妻は,糖尿病で入院し,軽快した時期に骨折をしたため,入院が長びいているうちに,少しずつ痴呆の症状がでてきている,66歳の入院患者である.夫は週4回の面会を欠かさず続け,他の日は家事,所用をこなしながら,いつもこざっぱりした身なりで病院へやって来る.「せめて,前の旅行の思い出話ぐらい話し合えるといいんですけどね.まあ話せなくても,旅の思い出の財産は残っているのだろうと,勝手に思うようにしてます」と,夫はさらに言葉を続けた.これを聞いた時,理解力の低下と日常生活能力の低下を示す妻に対してみせたこの夫の態度に,強い印象を受けたことを今でも覚えている.

公衆衛生における家族療法的アプローチ

著者: リンダ・ベル ,   福山和女 ,   阪上裕子

ページ範囲:P.823 - P.828

 ■はじめに
 家族療法は,教育現場および心理・精神療法の分野において,最近とくに注目を浴びてきた興味深い療法である.家族療法は,家族のなかの各個人の相互の関わりを認識することを基本としている.家族とはひとつの組織だったシステムであり,各家族メンバーは,それぞれ独自の感情・思考・行動をもっている.それが,他の家族員との関係のなかでさらに複雑になり,補完的な方法で関わりあっている.どの家族メンバーの行動も他の家族メンバーに影響をおよぼし,そしてそれが順に他の家族メンバーの反応をひきだす.このように,家族メンバーはそれぞれ循環的に影響しあっている.
 家族メンバーの性格と,相互作用・交流が家族パターンをつくりあげる.ある個人を理解するにはその人の家族パターンを理解する必要がある.その人がその家族にどのように適合し,またその人の性格や行動あるいは症状や問題となっていることが,その家族のパターンのなかでどのように機能しているかを見るのである.症状・問題は,家族パターンに対するその人の反応であると同時に,家族パターンを維持するための手段ともいえる.

インタビュー

日米の家族のかかえる課題

著者: ジーン・モイ ,   阪上裕子

ページ範囲:P.818 - P.822

 阪上 今日は,公衆衛生での家族療法の可能性について考えるためにジーン・モイ先生のご経験とお考えを,おうかがいしたいと思います.先生は,アメリカで臨床ソーシャルワーカーとして,個人療法,集団療法,家族療法を長く実践してこれらたベテランのセラピストでいらっしゃいます.また.最近10年間は,日本でのワークショップを通して日本人の現状について,広く深くご存じであるという点でもユニークな方です.そこで,先生のご経験を踏まえて家族療法と日本の家族について,感じておられることをご自由にお話し頂きたいと思っています.まず,家族療法について大まかにご説明頂けますか.

疫学ワークショップ・1

疫学とHFA(Health For All)

著者: 廣畑富雄

ページ範囲:P.829 - P.831

 日本衛生学会の第2回疫学ワークショップが,昭和61年5月31日福岡で開催された.私がこのワークショップをお世話させて頂いたのだが,世話人としてこのワークショップの主題やワークショップの概観につき,記してみたい.
 まずワークショップの主題であるが,テーマは「疫学とHFA」とした.HFAはHealth For Allの頭文字の略で,現在広く使われている.WHOは「西暦2,000年までにすべての人に健康を」"Health for all by the year 2,000."というモットーをかかげ,マーラー事務局長(Dr.Mahler)以下この目標に向かって活発な運動を展開しているのはご承知の通りである.

保健所の疫学調査—新しい実践を求めて,特に成人病予防推進運動のために

著者: 河内卓

ページ範囲:P.832 - P.837

●はじめに
 保健所は保健衛生行政の第一線機関であり,「Health For All」は保健所活動の基本概念である.「保健所の疫学調査」は保健衛生行政のための調査であって,いわゆる,調査のための調査ではない.第一線機関であるから,しばしば保健所には調査依頼が舞い込む.必要な重要な調査もあるが,あまり意味のない,思いつきの,いきあたりばったりの調査も多く,保健所に戸惑いを与えることも少なくない現状である.
 地域保健といわれるように,地域の保健衛生行政には,地域特異性を伴う.保健衛生行政の最大の課題の一つである「成人病対策」は,特に地域特異性を把握して行う必要がある.「保健所の疫学調査」は実践のためのものであって,住民のニードを考え,地域の特異性を横に見たものでなければならない.

久山町研究と健康管理

著者: 上田一雄

ページ範囲:P.838 - P.844

●はじめに
 最近の循環器疾患に関する疫学研究の動向をみると,仮説の検定を目的とする実験的疫学から,大規模な疾病予防を目標にかかげた管理研究に流れが移行しつつあるようにみえる.疾病予防は疫学研究の最終ゴールであるが,その遂行の過程では純粋な研究の枠を踏み出して,システム化された広報活動や,公衆衛生上の予防活動が重要となってくる.本邦でも循環器疾患の予防戦略は老健法の施行に伴い,やっと端緒についたが,残念ながらその実態は,末端にまでシステム化された対策とは,いまだいい難いのが現状であろう.
 一方,過去20数年間に,日本人の循環器疾患は変貌をとげてきた.脳卒中死亡率の著明な減少がみられ,循環器疾患の予防上の関心は心疾患に向けられている.久山町研究はこの20年間に,内科臨床医によって展開されてきた,循環器疾患の疫学研究である.この研究の展開のプロセスと,久山町住民間にみられた循環器疾患の動向を踏まえて,日本人の循環器疾患の予防上の諸問題を提起してみたい.

循環器疾患の疫学と国民の健康

著者: 小町喜男

ページ範囲:P.845 - P.851

●はじめに
 国民の健康に対する関心は,近年,非常に高まっている,しかし,科学的な根拠をもつ理論に従った生活指導なり,食生活の指導がなされないとその将来は大いに危惧される1).ここに健康科学の確立を唱えるゆえんがある.
 そして,日本人を対象とした健康科学の確立のためには,日本人の健康に関する長期的な観察成績に基づいた調査結果を収集する必要がある.また,それらの観察成績には,個人を対象としたいわゆる臨床医学の丹念な積み重ねに基づくものと,集団を対象としたいわゆる集団医学的なアプローチに基づくものがある.

発言あり

自由課題

著者: 生田恵子 ,   大塚知雄 ,   加納克己 ,   久常節子 ,   渡部正

ページ範囲:P.781 - P.783

変容を迫られている母子保健
 保健所の母子保健に係わる時代は終わったと言われ,その再編成が求められているが,保健所における母子保健の役割は本当に終わったと言えるのだろうか.
 確かに母子保健の水準を示す各種の数値は改善され,先進諸国の中でも上位を占めるに至った.しかし,核家族化の進行や居住環境の変化,地縁,血縁関係の稀薄化,女性の社会進出や意識の変化等により.世代間の断絶や育児の仕方などの違いからくる亀裂が生じている.その一方では,子育てに対する母親への期待感が一層大きくなっている.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

34.上水道水へのフッ化物添加

著者: 北博正

ページ範囲:P.844 - P.844

 さきに記したように,斑状歯は飲食物(主として飲用水)を通じて,フッ化物の過剰摂取によって発生することが明らかになった.ここまでは限定された地区に発生する小規模な地方病の原因をつきとめたというだけのことであるが,事は意外の方向に発展し,世界中から注目されることになった.
 即ち斑状歯患者には齲蝕がみられないか極めて少ないこと,斑状歯地帯の住民に齲蝕がみられないか,みられてもごく僅かであるということである.つまりフッ化物には齲蝕の発生を阻止する作用があるということである.

日本列島

血液需要と献血対策

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.789 - P.789

岐阜
 全国的に血液の需要が高まっている中で,岐阜県においても供給力を高めるべく,献血運動が推進されている.献血目標本数は10年前の倍以上となっており,昭和60年度では12万本であるが,実績は60年度においては目標の95%にとどまった.献血率(本数対人口)は全国の7.2%に比べ5.5%と,47都道府県中ワースト3であり,当然県内の血液需要に対し供給不足の状況を来している.昭和60年度においては,献血のPRを兼ねた固定献血点として献血ルームを開設したが,その献血ルームに要員等が一部さかれたため,ペースダウンとなって目標本数に満たないこととなった.
 岐阜県での献血者をみると,20代,30代を中心とし,16〜49歳で90%であるが,女性は30歳以上で半減し,男性の半数近くとなっている.献血時の不適格者は10%強みられるが,その半数は血液の低比重によるものであり,女性に多い.採血後に不合格となる内訳は肝機能障害,HB抗原,梅毒等であり,献血者数に対し6.8%となっている.前述の献血ルームは,岐阜市の繁華街である柳瀬の一角に60年10月12日にオープンし,毎日40〜50人の献血を実施している.献血車(バス)による場合は会社,学校など集団的な献血が多いが,献血ルームでは個人的小集団的なボランティアが多く年齢的にも10代,20代で3分の2を占め,また女性が55%を占めるなど,献血車とは異なった特徴がみられ,当初の目的のPRも十分な成果をあげているように思われる.

沖縄女性の長寿

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.806 - P.806

沖縄
 沖縄女性の死因第1位は悪生新生物で1年間に1,222人が死亡,第2位心疾患872人,そして第3位は脳血管疾患625人,合計2,719人で全死亡の51.5%を占めている.
 沖縄県環境保健部が発表した昭和60年の人口動態統計(概数)によると,この三大死因の順位は昭和57年から4年間続いており,全国平均より3年早く2位心疾患,3位脳卒中となった順位は固定したといえよう.また60年には前年と比較すると出生は増加したが,死亡,婚姻,離婚,死産,乳児死亡の数は減少している.出生数は20,658人で前年より266人増え,人口千人対出生率17.6(全国平均11.9)で47都道府県中第1位となり,過去60年間以上も統計的には第1位をキープしている。死亡数は5,283人で前年より66人減少,死亡率4.5(対前年比-0.1)は全国最下位(前年は45位)となった.この結果自然増加15,375人,増加率13.1となり,全国平均5.6を大きく上回り,1位となっている.しかし乳児死亡率は5.6で26位,新生児死亡率2.9, 43位で,その差が大きく,生後4週を過ぎてからの乳児死亡が多くなっている.この事は施設分娩産褥後,自宅での乳児ケアのあり方(親,家族,社会環境などの)と関係していることが考えられる.

身体障害者の実態調査

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.812 - P.812

岐阜
 岐阜県では.福祉行政推進の資料とするべく昭和60年6〜7月,身体障害者手帳の交付を受けている身体障害者とその世帯を対象として調査を実施した.対象は51,523人で,有効回答の得られた40,657人(78.9%)について集計分析されている.
 調査結果の概要の主なものをあげ,昭和52年の同様調査結果とも対比してみたい.

救命救急センターの評価

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.837 - P.837

岐阜
 昭和52年の救急医療対策の強化に伴い,3次救急医療施設として救命救急センターが全国各地に整備され,100施設近くが稼動しているが,その評価については個別の具体例はあっても,統計的な分析例は少ないようである.
 岐阜県では昭和58年11月より,県立岐阜病院に30床の救命救急センターが附設され,3年近くを経過しているが,年間1,000人近くが入院し,多くの人命が救われている.この中で,救命救急センターの主要な対象疾病である心筋梗塞,脳卒中,頭部損傷の3疾患の60年度189例の分析例を紹介したい.

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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