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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生50巻5号

1986年05月発行

雑誌目次

特集 保健・医療情報の活用

情報化社会と保健・医療情報システム

著者: 大島正光

ページ範囲:P.292 - P.294

 情報化社会といわれる今日,保健・医療の分野がこの情報化の波に洗われずにすむわけはないと考える必要がある.ニューメディアの種々のアンケートの結果についても,保健・医療については期待の大きい分野である.
 そしてその中でもホームケアについての期待が,一般の人々からかなり高く叫ばれていることも事実である.これは患者側からの希望でもあり,また医療関係者側も入院を希望する患者の多い今日,どうしてもできるだけ退院をしてもらいたいことも考えると,ホームケアはこれから多くなってゆく医療のあり方ではなかろうか.いずれにしても情報化社会・高度選択社会の今日,種々の医療の形態が望まれ,実現してゆくことは必然性があるといわなければならない.

保健・医療情報システムの動向

著者: 廣瀬省

ページ範囲:P.295 - P.299

■はじめに
 20世紀後半における情報化の波は,80年代に入りますます大きくなり,情報処理技術や通信技術の進歩は目を見張るものがあり,また新聞,雑誌,テレビ等では,コンピュータをはじめとする情報処理機器,また,CATV(ケーブルテレビ網),光ファイバー等の通信技術に関するニュースが連日のように話題となっている.企業や商店においてはオフィスコンピュータの設置が当たり前になり,家庭においても,パーソナルコンピュータ等の普及には目覚ましいものがある、他の分野に比べて遅れているとはいえ,保健・医療及び福祉の分野でも着実に情報システムの導入が進みつつあり,今後の保健・医療及び福祉サービスの効率化にとって重要なものとなりつつある.

情報システム活用による便益

著者: 開原成允

ページ範囲:P.300 - P.304

■はじめに
 情報システムはひとつの道具にすぎない.それは使い方によって便益を生みだす場合もあり,また有害である場合さえもある.また,便益もそれをみる人によって同じ効果が便益と映ったり,また損失と映ったりする.
 従って,情報システムの便益を論じる時にはその立場をまず考えておく必要がある.

病院情報システムの現状と課題

著者: 大道久

ページ範囲:P.305 - P.309

■病院情報システムの普及の現状
 改めて述べるまでもなく,ここ数年来の情報関連技術の進歩は止まることを知らないように見える.技術開発の速さもさることながら,ユーザー側から見た情報機器の普及も目に見えて著しい.また,政策面からも,テレトピア構想や,ニューメディア・コミュニティ構想など,社会システムの構築を目標としたプロジェクトが各分野で開始されている.
 いわゆる情報化時代へ向けての急展開とも見てとれるこれらの流れが,医療の現場にどのように影響を及ぼし,どの程度効果を上げているかを把握することはなかなか難しい問題である.おそらく本号の他の項においても触れられることと思うが,昭和59年度の厚生省医療施設調査の結果によれば,わが国の全病院9,574施設中,病院として電算機の導入をして何らかの業務を行っているのは5,142施設,53.7%,また診療所については,78,332施設中11,956施設,15.3%となっている.

神奈川県の保健情報システム

著者: 中森寛二

ページ範囲:P.310 - P.314

■はじめに
 神奈川県では「地域保健」という概念を広義に解釈して,地域医療および福祉の一部まで含むと理解しているので,本稿でもそれに従うこととする.
 現在,神奈川県では広域救急医療情報システムを始め,西区老人医療データバンク,がん登録システムなど,保健・医療・福祉に関し推定約50の情報システムが稼働している.

農村型健康管理情報システムとその改良

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.315 - P.320

■はじめに
 農村地域における健康管理活動の中で,対象が最も多く,また,その健康管理が遅れているのは成人および老人であり,これらを対象とした健康管理活動に不可欠の情報処理システムを構築することが急務と考え,昭和54年度より研究開発に着手した.昭和58年度までの5年間で一応のシステムの完成をみたが,その間老人保健法の施行やME機器の急速な技術革新等により,システムの改良も要求されている.そこで,本文では当初のシステムだけでなく,その後の県内における改良システムへの取り組みについても言及したい.

都市型健康管理情報システムの開発

著者: 石須哲也

ページ範囲:P.321 - P.327

■はじめに
 都市型健康管理情報システムは,財団法人医療情報システム開発センターの委託を受け,三重県の伊賀地域(上野市と名張市の一部及び大山田村)をモデルとして研究開発を行ったものである.

老人保健福祉情報システム—富山県砺波広域圏

著者: 窪木外造 ,   須河弘美

ページ範囲:P.328 - P.331

■はじめに
 わが国の人口の高齢化が急速に進む中で,本県における65歳以上人口は138千人,総人口に占める割合は12.4%で,これは全国平均の9.9%を大きく上回っている(59年10月1日現在).この割合は今後さらに増加を続け,昭和80年には20.4%に達するものとみられている.
 このような老年人口の増加に伴い,保健医療の需要が増加するとともに,ねたきり老人等要援護老人の問題,老人一般の社会適応の問題等,解決すべき問題が山積みされてきている.これら保健医療・福祉両分野にまたがる諸問題を有機的に結合して効果的な保健福祉サービスを提供することが考えられなければならない.

保健・医療情報とプライバシー

著者: 里村洋一

ページ範囲:P.332 - P.336

■プライバシー保護の認識
 情報処理技術の進歩と社会への応用が盛んになって,様々な個人のデータが,世の中に流通しやすくなった.それに伴って,この10年ぐらいの間に,プライバシー保護の問題が,にわかにクローズアップされることになってきた.元来,医療は,個人の最もプライベートな部分に立ち入る形の活動であるから,何ものにも先がけて論じられてしかるべきであると思われる.しかし,現在のところこの点が声高に議論に上る事はあまり多くない,公的機関が個人の情報の管理を行う事には,かなりの警戒感が社会にあって,マスコミにも取り上げられる事は多いのに比べると,ちょっと不思議な気もする.
 しかし,これには理由がある.元々,プライベートな活動である医療であるが故に,その記録やデータ保護に関しては,法的にも,比較的明瞭に規定されてきており,機密の漏洩に関しては,罰金刑がはっきりと示されているのである(医療法第5条,第73条).一般社会にも,医療関係者は患者の機密を洩らす事はないという信頼感が定着しているように思える.

高度情報化社会と医療—三鷹市におけるINS実験に参加して

著者: 村田欣造

ページ範囲:P.337 - P.343

■はじめに
 三鷹市のINS実験が始まって1年半になる.当医師会はこのINSが将来,地域での医療活動にどのような影響をもたらすのか,興味と責任から,いち早く参加したので,今ユーザーの立場より私見を交えて報告する次第である.

発言あり

いじめ

ページ範囲:P.289 - P.291

競争社会から共存の社会へ
 「いじめ」の構造はまだ明確にされてはいないが,かなり複雑であることは容易に想像できる.青少年に関連した社会病理現象としては,かつては非行が中心であったが,時代が進むにつれて非行に家庭内暴力が加わり,それが家庭内から学校内における集団的暴力に拡大してきた.さらに,その性質もきわめて陰湿なものに変化してきていることが報告されている.
 「いじめ」は病める社会の一現象であるが,その表出の仕方は習慣病といわれる成人病と酷似している.慢性疾患の病理過程が人の日常生活の中で徐々に進行していくのに似て,子供達が成長していく過程で,親たちの価値観に舵をとられながら人生が方向づけられていく.教師も子供達の能力を発見し,それを伸ばしていくという教育本来の目的を忘れて,一流高校,一流大学への進学を最大の目標にした知識偏重の教育に全力投球する.一流大学から一流企業や上級官庁への就職,あるいは高い社会的地位が約束され,その結果幸福な人生が送れるという期待がある.その期待が確かに実現できる可能性が現実にあるから,全国の青少年達が受験競争に挑戦するのであり,また親も教師もしった激励するのである.こうした教育の中でついていけない子供に,本来あってはならない「落ちこぼれ」というラベリングがなされ,学業成績によって序列化されていく.

研究

身体計測に基づく骨格筋肉量の測定について

著者: 中尾俊之 ,   藤原誠二 ,   田中剛二 ,   笠井健司 ,   宮原正

ページ範囲:P.357 - P.358

●はじめに
 筋疾患や栄養障害のある患者などでは,骨格筋の消耗を認める.このような骨格筋の消耗の判定は,従来一般に視診や触診などの主観的な判断にゆだねられてきたが,病勢の進行や治療の効果をより正確に把握するためには,計測に基づく客観的な表現が望ましい.
 身体計測に基づく骨格筋肉量の表現方法としては,上腕の周囲径と皮下脂肪厚を測定し,上腕筋肉周囲径を算出する方法が報告されているが1),筆者らはこの身体計測法に改良を加えて,その有用性および健常人での測定値について検討した.

調査報告

河川水からの腸管系ウイルスの分離

著者: 谷直人 ,   井上凡己 ,   吉田哲 ,   足立修 ,   中野守 ,   島本剛 ,   西井保司 ,   板野龍光

ページ範囲:P.345 - P.348

●はじめに
 水中から分離される腸管糸ウイルスとしてエンテロウイルス,アデノウイルス,レオウイルス等が挙げられる1,2).これらのウイルスは通常経口的に宿主に侵入し,咽頭や腸管で増殖し,便とともに体外に排泄され,水中に流れ込む.水中では増殖することなく,自然に不活化してゆくが,なかには環境中において感染性を保持したまま長時間生存し3),しかも,水を介して人へ感染することが報告されている4).このため感染症の対策上,水中のウイルス監視が重要となってくるが,本邦では水中ことに河川水中のウイルスに関する報告が少ない5〜7).そこで筆者らは河川水について腸管系ウイルスの分離を行い,若干の知見を得たのでその成績を報告する.

静岡県富士川流域の日本住血吸虫症の調査成績

著者: 佐野基人 ,   寺田護 ,   記野秀人 ,   松下寛 ,   豊川秀治 ,   大堀兼男 ,   寺島綾子 ,   時田源一 ,   大枝十兵衛

ページ範囲:P.349 - P.351

●はじめに
 静岡県富士川流域の日本住血吸虫症(日虫症)は古く大正初期の1914(大正3)年に,駿東郡と富士郡にまたがる浮島地方においてすでにその分布が知られていた.
 1958年前後には,新たに富士川流域の富士川町で,上流の甲府盆地と共に本症の流行分布が確認され,当流域は再び注目を集めることになった.

VDT作業者の自覚症状と健康管理

著者: 増野純 ,   渡辺登 ,   原眞由美 ,   大澤維大

ページ範囲:P.352 - P.356

●はじめに
 近年,マイクロエレクトロニクスを中心とした技術革新によって,様々な分野でオートメーション化が試みられている.なかでも情報の入力・検索・加工や文書作成,プログラム作成等を合理的かつ能率的に行うために,VDT(Video Display Terminals)が官公庁や企業へ続々と導入されている.ところが,それに伴いVDTが作業者にいろいろな心身の障害を惹起させているとの報告も急増しており2,3,8,13,23,25,27,29,30),労働衛生対策を推進するうえで健康管理に多大の配慮を行う必要が生じてきた.しかし,VDT作業は従来無かった新たな作業形態であるため,VDTの心身に及ぼす影響について十分な解明が未だなされておらず,したがって健康管理対策も確立されていない現状にある.
 このたび通産省はVDT作業者の健康管理対策の一環として他の中央官庁にさきがけてVDT健康診断を企画し,我々がそれを実施する機会を得た.そこで,その結果をもとにVDTによる健康障害の実態把握を試み,さらに職場での健康管理対策について検討をえたので報告したい.

日本列島

沖縄県公衆衛生学会総会開催さる

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.304 - P.304

沖縄
 第17回沖縄県公衆衛生学会総会が去る昭和60年11月14日那覇市で,沖縄県公衆衛生学会と財団法人沖縄県公衆衛生協会の主催により開催された.沖縄県公衆衛生学会は毎年1回学会総会を開催し,その成果をまとめた学会誌も刊行されて,県民公衆衛生の向上に大きな役割を果たしている.
 今学会では食品衛生,環境衛生,精神衛生,母子保健,地域保健及び成人保健の各分野にわたって24席の発表が行われたほか,特別講演として「地域保健計画—沢内村の実践から」と題し,仙台市衛生局次長加藤邦夫博士(前沢内病院長兼厚生部長)が,沢内村の保健・医療分野における取り組みについて,豊富な資料と体験に基づいたお話をされ,大きな感銘を与えた.一般演題には沖縄県に特微的なものがあり,例えばユウガオによる食中毒事例報告,海域における赤土汚濁の測定法と県内各地における測定結果,捕獲器を用いたハブの密度推定,生食用食肉(山羊・牛刺身)の細菌学的実態調査について,などが出席者の関心を集めた.また,成人病との関連では八重山地区における胆石保有状況,当県における糖尿病の頻度,健康度測定受診者における乳糜陽性者の医学的検査結果と食生活状況,あるいは肥満と生化学検査値の関連についてなどの発表がなされた.

地域における大腸の集団検診

著者: 土屋眞

ページ範囲:P.309 - P.309

仙台市
 「仙台市医療センター鶴ケ谷オープン病院」の望月医師らは,県対がん協会と共同で昭和54年以来,県内の職域および地域の大腸集団検診を行っている.大腸がんや大腸ポリープなど,かなりの患者を発見しているので,その概要を紹介したい.

一般健康診査における既往のない異常者頻度

著者: 土屋眞

ページ範囲:P.344 - P.344

仙台市
 過日,「宮城県成人病検診管理指導協議会循環器疾患等部会」(東北大学吉永教授部会長)が当県でもたれたので紹介したい.
 一般健康診査では多くの患者が発見されるが,初めて見つかる頻度が話題になった.今回の報告は当市の市民における貧血・肝機能・糖尿病の異常者頻度と既往症の有無との関係をまとめたものである.

ぷりずむ

頼りない禁煙活動

著者: 園田真人

ページ範囲:P.359 - P.359

 通勤途中の駅のプラットホームに,2,3人の男子高校生がうずくまっていた.そのうちの一人は真っ青な顔をしている.よくみるとタバコを吸っているようだ.「どうした」と声をかけると,「おじさんは,どこの先生かい」と言う.「先生は先生だが,学校の先生でなくて保健所の先生だ.それはそうと,タバコはうまいのかい」,「うん」,「きみたちはスポーツをやるのかい」,「バレーボールをやっているけど,どうして?」,「スポーツをするものが,タバコを吸っていては駄目だよ.先日,羽田空港でプロ野球の選手たちがいたが,ほとんどの選手がタバコを吸っていた.S球団の選手だよ.この球団はいつもどん尻だろう」と言うと,「さすが,おじさんの話は迫力があるね」と言って,タバコを吸うのを止めた.迫力があるといわれたのには苦笑したが,素直にタバコを止めたのには,好感がもてた.
 タバコの害については,もう言い古された感がある.しかし喫煙率は,やや低くなったとはいえ,依然としてイギリスやアメリカに比べると高く,成人男子の喫煙率は64.4パーセントである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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