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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生50巻6号

1986年06月発行

雑誌目次

特集 国際保健医療協力

国際保健医療協力の必然性

著者: 水野宏

ページ範囲:P.364 - P.367

■はじめに
 アジア・アフリカ諸国に対する保健医療協力の必要性について書くようにとの話があったとき,おことわりするほかないと思った.経験は乏しく勉強も不十分だからである.しかし考えるうちに,半世紀近くも昔のことが記憶によみがえり,さらに以後筆者がたどってきた細い,きれぎれの道が一つのつながりをもつようになってきた.筆者の海外保健医療との縁は古く,長い.筆者のささやかな営みは,必要性を考量してというよりも,やむにやまれぬ思いに迫られて,という面が強い.かなり私的な内容になることをおそれながらも,表記のテーマで書いてみることにした.

医学教育における国際協力

著者: 加納六郎

ページ範囲:P.368 - P.372

■はじめに
 政府も近年国際交流に力を入れており,国際保健医療協力の必要性が高まっている.その中で医学教育における国際協力について考えてみたいと思う.
 開発途上国への医学教育における協力は,大きく分けると二つになる.

臨床検査の推進を含めた保健医療協力

著者: 熊岡爽一

ページ範囲:P.373 - P.376

■プロジェクトの概要
 日タイ協同の地域保健活動向上計画については,1982年1月に報告した1).このプロジェクトが本来,臨床検査の向上のみを目指すものではなく,地域における保健活動の向上を目指すものであることが述べられている.
 しかし,プロジェクトのカウンターパートか日本の予研に似た機能を持つDepartment of Medical Sciences(医科学局)であり,その中でもDivision of Provincial Health Laboratory Serviceが対応機関となったために,Laboratoryに対する技術援助は容易になった反面,地域保健活動へのアプローチにはかなりの努力を要した.

感染症予防における国際協力

著者: 大谷明

ページ範囲:P.377 - P.379

■はじめに
 昭和60年2月23日衆議員予算委員会において社会党の上田哲議員から,感染症は開発途上国の重要な死亡原因となっており,わが国はこの分野の国際協力に大いに力を用いる必要がある旨の指摘があったことが動機となって,国際協力事業団(JICAと略)に昭和60年7月5日感染症対策協力研究会が設置され,本問題についての具体的施策を検討することとなった.
 筆者は推されてこの研究会の委員として参画し,福見秀雄元予研所長を長として,本問題に対し豊富な知識と経験を持っておられる蟻田功,深井孝之助,田中寛の諸氏および外務省,JICA等行政事情に明るい方々と討論をする機会を持つことができた.この研究会の討議結果は昭和61年1月まとめられたが,今回は本誌から与えられたテーマがまさにこの研究会の目的と一致しているので,この研究会討議の結果を紹介しながら,私見も加えて論じてみたいと思う.

感染症予防における国際協力—フィリピンのバコロドでの1例

著者: 小張一峰

ページ範囲:P.380 - P.382

■はじめに
 主題の感染症とは,いわば古典的な伝染病を意味するものだろう.伝染病の予防といえば,感染源ならびに感染経路対策および予防接種対策である.WHOが掲げている一大目標,"西暦2000年までにすべての人が健康であるように―Health for All by the year 2000" へのアプローチに,EPI(Expanded Programme on Immunization)と呼ぼれる予防接種強化対策とCDD(Control of Diarrhoeal Diseases)という略称の下痢対策プログラムがある.前者は,ジフテリア,百日咳,破傷風,麻疹,ポリオおよび結核のいわゆる予防可能疾患6種を対象としてその予防接種の普及を目的としたものであり,後者は,年間500万を数えるといわれた乳幼児の下痢による死亡を救うための対策であり,環境整備が対策の重要な一つになっている.
 ところが,わが国では,この二つのプログラムに対する関心はきわめて薄い.それも当然のことかも知れない.

地域保健対策における国際協力

著者: 橋本道夫

ページ範囲:P.383 - P.386

■はじめに
 戦後の復興期における保健所医師としての地域保健活動は,筆者にとっての原体験ともいうべきものであった.急性伝染病の流行と防疫対策,これに伴う環境衛生活動,高い乳児死亡率を改善するための村々における母子衛生活動,結核患者の早期発見と予防のための集団検診及びそれにつぐ患者管理活動等は,30余年の遠い昔の活動であるが,これらの問題は世界の人口の3/4を占める発展途上国にとっては技術,社会,文化等の違いはあるものの現在の問題である.
 昭和29年から1年間ハーバード大学公衆衛生学部でうけた修士課題の教育の中で,人間生態学コースにおける文化人類学者の各国における事例研究や,国際保健コースにおけるパキスタンの農村発展事業などの単位を修得したことは,筆者にとって将来発展途上国に対する国際協力に必ず参加してみようという夢を与えてくれた.奇しくもハーバードにおける農村発展事業のケースとして取り上げた同じ場所に,昭和33年に国連の地域開発セミナーで1ヵ月を過ごし,更にロックフェラー財団に招かれてプエルト・リコの地域開発における保健・医療・福祉の統合計画を学んで更に蓄積を増すことが出来た.厚生省の保健所課ではWHOのフェローの受け入れを担当させられたこともまた役立っている.その後,公害行政に従事して以来WHOの専門委員会に4〜5回出席して,環境汚染をめぐる先進国と発展途上国の対応の違いを知ることが出来たのも貴重な経験である.

プライマリ・ヘルス・ケア発展と国際協力の基本

著者: 小野寺伸夫

ページ範囲:P.387 - P.391

■はじめに
 プライマリ・ヘルス・ケア(PHC)を発展させ,人々の日常生活を通じての健康を亨受しようとする考え方は,世界における保健医療政策の一つの良識ともなってきている.
 人々は,それぞれ地域社会において,一人一人が持つかけがえのない生命をより和やかに,より充実した生涯たらしめ,しかも創造力豊かな活動を営む,健康で文化的な生活を築く大いなる努力がはらわれてきた.

国際協力事業団の保健医療協力活動

著者: 長谷川豊

ページ範囲:P.392 - P.398

■はじめに
 国際協力事業団(Japan International Cooperation Agency;JICA)は,昭和49年に設立された特殊法人で,開発途上国に対する「政府ベース,すなわち,国と国との約束に基づく技術協力」を一元的に実施し,かつ,殆ど全ての無償資金協力(途上国に必要な施設・設備の建設,機材の調達のための資金の贈与)の実施業務を行っている.
 その前身は,海外技術協力事業団と移住事業団が主体であったので,移住関係の事業も実施している.

国際保健医療協力のあり方をもとめて

著者: 深井孝之助

ページ範囲:P.399 - P.402

■はじめに
 公衆衛生学の育ての親の一人であるRaymond Pearlの本の中に有名な挿絵があります.人間がその生涯の道をたどって行く時に,死神があらゆる機会をとらえて彼の死の鎌を振りおろそうとしている絵です,現在の先進国はかつては,今の発展途上国よりもはるかに貧しい社会状態にあったので,このような絵が中世に描かれた訳ですが,人間と死神との関係は今でもそれほど変わっている訳ではありません.
 筆者がウイルス学の研究を始めたころ,ウイルスの実態はそれほど明らかではなく,恩師谷口先生のおすすめもあって,まず電子顕微鏡によるウイルス粒子の形態学の勉強という,全くの基礎から始めました.研究が進むにつれていろいろな国の研究者とのつながりができ,タイ国からの留学生を受け入れることになったのは1965年のころでした.筆者が居りました大阪大学微生物病研究所は,タイ国公衆衛生省に所属するウイルス研究所と協力関係にありました,そして日本政府から新しい電子顕微鏡が贈られることになり,その設置と研究者の教育のために,筆者もバンコックで仕事をする機会を持ったのです.滞在は3ヵ月ほどの短いものでしたがタイ国の研究者を始め,いろいろの階層の人たちと一緒に働く事ができ,この時初めてこの国の人たちの考え方をじかにのぞき見ることが出来ました.そして,この国でウイルス学の研究を進めるなら,この国の人々の生活に密着したテーマを取り上げなければならないことを痛感しました.

先達を訪ねて

環境衛生学のパイオニア 北博正先生

著者: 北博正 ,   西川滇八

ページ範囲:P.403 - P.409

 西川 本日は,「先達を訪ねて」ということで,日本衛生学会,日本公衆衛生学会,あるいは日本産業衛生学会,日本体力医学会などに先生が長い間,お尽くしいただきました輝かしい業績を振り返って,若い人たちに将来の励ましの言葉をいただきたいと思います.
 北 責任 "重" かつ "大" だね(笑).まず第一にちょっと文句言いたいのは,「先達」というのはもっと偉い人のことだ.ぼくなどは,ただ馬齢を重ねただけだから.そのように心得て話してもらいたい.ぼくはその資格がないよ.

発言あり

自由課題

ページ範囲:P.361 - P.363

保健医療従事者としての責務
 人々の行動には健康のためにプラスになる行動とマイナスになる行動がある.保健医療従事者,特に医師や保健婦の専門的業務には,この二つの行動を判定する規準が必要であり,その専門的教育を受けてきた.
 しかしながら,行動医学や保健行動論の視角からいえば,わが国の保健医療従事者は,この分野に関する専門的教育を十分受けたとは決して言えない.しかし,少なくとも健康にマイナスになる日常生活行動は,臨床的にも公衆衛生学的にも保健指導,あるいは健康教育という形で活用されている.

レポート

高齢化社会の健康問題—高齢化に関する第3回日米国際会議報告

著者: 小泉明 ,   森本兼曩 ,   籏野脩一 ,   長谷川和夫

ページ範囲:P.410 - P.419

会議の位置づけとKuakini Medical Centerオープンフォーラムについて
●会議の位置づけ
 1983年の第1回から数えて第3回の「高齢化に関する日米国際会議」が1985年11月,米国ハワイ州のホノルル市で開催された.
 高齢化に関する会議がなぜ日米の国際会議として開かれ,それが回を重ねているのか.そもそものきっかけは何かといえば,すでに私どもが本誌(49巻8号p549,9号p629)に紹介したように,ハワイ在住の日系人の平均寿命が日本のそれを1〜2年上回っているという事実に気づき,なぜそうなのか,その結果としてどういう問題が生じているかを解明しようというところにあった.そして,回を重ねて開催されている理由は,関連して新しい事がらが知られ,その情報交換ないし意見交換の必要が生じたこと,ならびに特定の研究課題たとえば骨粗しょう症,あるいは老人性痴呆について日米の専門研究者の間で協同研究が進み,その研究発表・討論の場になってきたことにあるといえよう.

研究

ぼけ老人の在宅介護を支える要因に関する比較事例研究—ショートスティ利用後の在宅介護継続例と施設入所例について

著者: 三徳和子 ,   鎌田ケイ子 ,   簑輪眞澄 ,   藤田利治 ,   八代悠紀子

ページ範囲:P.420 - P.427

●はじめに
 日本の人口は急速な勢いで高齢化が進行しており,各地で老人の健康問題が取り上げられている.なかでも障害を持つ老人,とりわけぼけ老人については,家族のぼけに対する理解の乏しさと対応の困難さを背景として多くの問題点を呈示している.ぼけ老人の介護については昭和55年に東京都が行った実態調査1),中島ら2,3)が行ったぼけ老人をかかえる家族の会の全国調査,鎌田ら4)が行った小金井市の実態は把握されているが,ぼけ老人の在宅介護を支える要因と限界を生じさせる要因についてはまだ十分に明らかにされているとは言えない.
 そこで岐阜県内の特別養護老人ホームS施設において,ぼけ老人ショートスティを利用して退所した後,在宅ケアが限界に至った事例と在宅ケアを継続している事例を比較し,ぼけ老人の在宅介護を支える要因を探った.

資料

都市における健康教育の試み—横浜Tデパートでの「サロン・ド・サンテ」

著者: 吉田亨 ,   佐藤建 ,   高橋武夫 ,   林秀

ページ範囲:P.428 - P.431

1)現代社会にふさわしい健康教育の展開方法を探るため,民間健康管理機関が主体となり,都市のデパートを会場とした健康教室を2年にわたり実施した.
2)のべ定員2,300人に対し,1,815人(78.9%)の出席者があり,一応の成果があったと考えられた.
3)多様な健康問題を抱える主婦層を対象に,都心で開催される健康教室にふさわしいテーマは,慢性で軽度な疾患についての第一人者による講義と,興味ある健康法についての実習であると考えられた.
4)保健衛生分野以外の機関との共同作業によって,より多くの人々に働きかけ得ることが明らかになり,効率的・継続的な健康教育の展開のためにも,この種の共同作業は有意義だと思われた.
5)今後この種の教室を元に,特定の健康問題ごとに継続的なグループ活動をしていくことが,対象者の行動改善につながり,望ましいと思われた.
 稿を終わるにあたり,御校閲いただきました女子栄養大学宮坂忠夫教授,東京大学川田智恵子講師にお礼申しあげます.
 本研究は第43回日本公衆衛生学会総会で発表した.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

27.群集中毒と人毒

著者: 北博正

ページ範囲:P.372 - P.372

 産業革命以降,人間が室内に長時間滞在する機会が多くなった.事務所,学校,劇場,交通機関等々.寒い季節には窓や扉が閉ざされ,密閉環境に長時間滞在する機会はさらに多くなった.
 このような場合,気分が悪くなり,頭痛,吐き気などの症状があらわれ,当時は群集中毒(crowd poisoning)と称し,この空間中の空気に毒物が存在するのではないかと考えた.ひどい口臭や腋臭などは,思わず呼吸が止まってしまうほどであるから,このように考えるのも無理はない.フランスの有名な生理学者ブラウン・セカール(Brown Séquard 1817〜1894)はこれに着眼し,大量の呼気を集め,化学操作を加え,ついに微量の物質を抽出し,これを動物に注射したところ死んでしまったというので,この物質を人毒(Anthropotoxin)と命名し,人々は大いに恐れたが,追試の結果だれも人毒を取り出すことができなかった.筆者の高校時代(大正末から昭和のひとけた時代),結核の大家として有名だった某大先輩の著書にはまだ人毒が登場し,その対策として換気をよくするよう教えていたのを思い出す.

日本列島

実年死亡率の提言

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.409 - P.409

岐阜
 人口の高齢化に伴い,成人病対策も再検討が必要のように思われる.地域の成人病対策の基礎データである成人病死亡率は,一般に死因別の粗死亡率が訂正死亡率(あるいは標準化死亡比SMR等)が用いられている.老人保健事業の推進策の一環として厚生省では委託研究により,脳卒中,胃がん,子宮がんなどの市町村別のSMR値を算出し健康マップも作られている.
 他方,昭和60年には高齢化社会に向けて,70歳以前の人達に対し保健福祉策の上からもイメージアップを図るべく,厚生省は50,60歳代の新しい呼称を公募し,「実年」を採用している.この実年である50〜69歳の年代層をみると,がん年齢,50肩などのように身体諸機能の摩耗や成人病の発生の時期であり,その実態を把握し経年的に経緯をみることが実年対策の基本であろうと思われる.

ぷりずむ

近頃気になること

著者: 関矢敦子

ページ範囲:P.427 - P.427

 朝刊に目を通していると,某月某日発売週刊誌に『昏睡21年,主婦を抱えた家族が受けた美談の重圧』という広告が目についた.不幸の渦中の者とまわりの人達の受けとり方がずれてしまったのか,それにしても『美談の重圧』とはよほどの事情があったにちがいないと思い,この週刊誌を買ってみた.記事の概要は次のようである.
 5人目の子供の出産を終えた40代はじめの主婦が脳の病に冒され植物人間の状態になった.当時,木の伐採などの日雇いの仕事をしていた夫は,その後妻の看護に専念する生活に入り,中学三年生の長男をはじめ5人の子供達は,施設など他人の手によって養育されることになった.病状が固定してから3,4年くらいして,マスコミがこれを美談として取り上げ,例えば某週刊誌は《眠れる妻を見つめて「妻よ明日も生きてくれ!」看護日誌に綴る夫△△さん(50歳)の愛と願い》という記事を掲載した.以来,病院や養護施設の方々,親戚の方などが愛妻美談の陰の立て役者になったという,親戚の一人は「△△はマスコミに持ち上げられて悦に入り,陰で泣いとる子供達を無視してしもうたんや」という.今はもう両親とも失った長男(35歳)は「もう過去は振りかえりたくない.すべては終ったことです」と語っているという.

ニュース

日本国際保健医療学会第1回設立総会開催

ページ範囲:P.391 - P.391

 地震,洪水,火山噴火など大規模な自然災害に対する国際的な医療救援活動,干ばつや戦争による難民への医療援助,発展途上国の実情に応じた長期的な保健医療協力などの推進を目指して設立された日本国際保健医療学会の第1回設立総会がさる3月16日,会長=津山直一氏(国立身体障害者リハビリテーションセンター総長)のもと,東京・小石川のエーザイホールで開催された.
 総会の開会の辞で津山会長は,これまでの日本の国際保健医療協力を概観した後,とくに発展途上国に対する医療協力について,"研修生の受け入れ施設,専門家の派遣など現在はごく限られた人に負担が集中しているが,早急に態勢を整えるとともに,医学教育カリキュラムにも国際医療協力のコースを設け,世界のどこでも通用する医学の実現を図りたい"と述べた.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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