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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生50巻7号

1986年07月発行

雑誌目次

特集 新しい地域活動の展開を求めて—コミュニティ・ワーク

コミュニティ・ワークの概念

著者: 岡村重夫

ページ範囲:P.436 - P.440

■コミュニティ・ワークの多義性
 コミュニティ・ワーク(community work)という用語は,英国のものであるといわれているが,その英国においてもコミュニティ・ワークの意味内容や機能については,必ずしも見解は一致していない.その実情については,すでにわが国にも早くから紹介されているので,その例をここにあげておく.
 「ある活動が機関の外部でなされたり,事業が法令に基づかないで行われるとか,そしてボランティア,とりわけ誰よりもコミュニティを代表する青年ボランティアを巻き込んでいるだけで,それがコミュニティ・ワークと考えられがちである.

コミュニティ・ワークのための社会調査

著者: 似田貝香門

ページ範囲:P.441 - P.445

■はじめに
 かつて筆者は住民運動の調査後の覚書として「社会調査の曲り角」1)という表現を使ったことがある。地域社会の中で生活している住民が否応なく自ら関わってしまった出来事の中で,問題を解決していくために自立し,多くの新しい活動を生みだしてきた.そのなかで,社会調査とはいかなる役割を果たすのか,ということがテーマであった.
 このテーマは住民運動が盛んだった70年代にさまざまな領域で広がり,いろいろな課題が提起された.テーマの中心は,イッシュウをめぐる研究者,専門家,プランナー,知識人等なんらかの専門的技能や知識を有する人々と,当事者(地域住民,被害者,患者)の関係のあり方を問う問題であった.しかし,80年代になるとこの種の議論は急速に下火になっていった.

福祉施設の地域活動—在宅障害老人とその介護者への支援

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.446 - P.451

■はじめに
 寝たきり老人と痴呆老人のケアをめぐって,社会的注目を集め始めたのは,昭和40年代の初め頃からであった,地域保健活動の面からよりも,福祉事業サイドでこの問題への調査や対策が早く取り上げられる.国の施策としては老人福祉法による居宅福祉事業や,寝たきり老人家庭への経済的支援もなされる.地方公共団体もまた,老人医療費無料化などを中心にして,病気をもつ老人,とりわけ長期ケアを必要とする障害老人への諸対策を単独で実施してきた.
 今日,国の財政ひっ迫を理由にして,従来の諸施策の拡大はもとより,新しい事業は大きな壁に当面している.国はある面では在宅福祉施策を重点にすると政策提示をしてはいるが,増加する一方のニーズに追いついていけないでいるのも事実である,病院に入院する寝たきり老人と痴呆老人とが急速に増え,在宅でこれらの老人をみる人は「少数派」になりつつある.

要介護老人をめぐるコミュニティ・ワーク

著者: 飯村富子

ページ範囲:P.452 - P.458

■はじめに
 人生80年時代を迎え,寝たきり老人や,痴呆老人など,介護を必要とする人々が地域の中に増えている.
 「健やかに老いる」ことは,すべての人々の願いである.しかし,不幸にして寝たきりになった人たちも,家族や地域社会の人々との関わりの中で,疾病や障害と闘いながら生活している,介護を必要とする人々が,家族に支えられて疾病や障害と共存しつつ,残された力や命を大切にして,一生懸命生きようと努力する姿は,周囲の人々に感動を与え,健康の大切さを身をもって教えてくれる.また,現代人が失いかけている,いたわりの心や,やさしさを育んでくれてもいる.

諸外国におけるコミュニティ・ワーク—開発途上国と先進工業国とでの差異と共通点の事例的検討を中心に

著者: 園田恭一

ページ範囲:P.459 - P.463

■はじめに
 コミュニティ・ワーク(community work)の定義を『現代社会福祉事典』(全国社会福祉協議会刊,昭和57年)で見てみると,「その概念を規定すれば,〈コミュニティ〉の自己決定を促し,その実態に即した自治の達成を援助するため,〈コミュニティ・ワーカー〉の専門的参加を得て,ニーズと諸資源の調整を図るとともに,行政への〈住民参加〉を強め,コミュニティの民主化を組織する方法といえよう1)(阿部志郎)と説明されている.
 これはかなり幅広いとらえ方ではあるが,本稿では「諸外国におけるコミュニティワーク」とはいっても,筆者がこの数年の間に直接訪れる機会があった国々のうちから,開発途上国としてはタイ,中進国としてはシンガポール,そして先進工業国からはアメリカを選んで,その特徴的な動きのいくつかを紹介していくこととしたい.

座談会 地域活動の実践を通して

著者: 大島素行 ,   木谷宜弘 ,   黒岩卓夫 ,   久常節子

ページ範囲:P.464 - P.474

 久常 今日は,保健・医療の立場から活動をなさってきた黒岩先生,社会福祉協議会の活動の指導をなさり,今は基礎教育にも携わっておられる木谷先生,地域活動の住民リーダーとして活躍してこられた大島さんにお集まりいただき,地域活動の新たなる展開としてそれぞれの実践をお話しいただきますが,その活動のねらいや方法などはもちろんですが,ぜひそのような活動を進めていくエネルギーはどこからわいてくるのか,お話ししていただきたいと思います.それでは黒岩先生お願いします.

発言あり

アスレチック

著者: 生田恵子 ,   大塚知雄 ,   加納克己 ,   久常節子 ,   渡部正

ページ範囲:P.433 - P.435

近代文明社会への警告
 周知のように,わが国の平均寿命は現在世界最長,乳児死亡率は世界最低であり,これらの指標でみる限り,わが国は「健康大国」と称することができよう.しかし,有病率は以前と比べ高くなり,病院に行くほどではないがなんとなくからだの調子が悪いと,半健康を意識する人たちは結構多い.その背景は様々な角度から考察できるが,その一つに"運動不足"があげられよう.都会の人たち,とりわけ中高年齢層の働き盛りの人たちの中に運動不足のために体力的な充実感がなく,十分に健康でないと意識する人が意外と多い.これらの人たちにとって健康な状態は,ただ単に病気がないということだけでなく,生き生きとし,体力的にも充実し,何事にも積極的に取り組めることをいっている,我々の住む文明社会は生活が豊かになり,便利になった反面,からだを動かす機会を著しく少なくしてしまった.例えば,マンションやデパートなどにおいても数階のぼるのに当然のようにエレベーターを使ったりするし,すぐ近くに出かけるにも,車を使ったりする.その結果,筋力が衰え,休力も低下してしまったといえる.ヒトは狩猟時代までさかのぼらなくてもごく最近まで,文明諸国においてすら生きていくために,あるいは生活をするために,からだを動かさなければならなかった.社会が文明化され,都市化が続く限り,運動不足状態は必然的に増加し,その不足を様々の方法で積極的に補おうとするであろう.それは無意識のうちの本能的な動物としてのヒトへの回帰でもある.

調査報告

施設痴呆性老人の日常生活機能評価尺度作成とその検討

著者: 藤田綾子 ,   青木信雄 ,   稲垣裕子 ,   石原美智子 ,   村井純子 ,   山田裕子 ,   敷島妙子

ページ範囲:P.475 - P.480

●はじめに
 特別養護老人ホーム(以下,特養と略)における痴呆性老人の出現率は,長谷川1)や柄沢2)らの推計によると30〜40%といわれ,施設処遇の中で,痴呆性老人の占める割合が決して小さいものではないことを示唆している.
 痴呆性老人の処遇については,各施設の中で試行錯誤的になされており,痴呆性老人の特有なニーズに必ずしも対応できていないのが現状である3)

大都市における胃がん検診受診率の向上について

著者: 川島清輝 ,   中村孝臣 ,   稲垣哲夫 ,   石井紀恵子 ,   田村登輝子

ページ範囲:P.487 - P.492

●はじめに
 わが国においては,がん,脳卒中,心臓病等の成人病が主要死因となり,国民保健上大きな問題となっている.特に胃がんは,男女共にがん死亡の第1位を占めており,昭和59年の胃がんによる死亡者数は49,785人(男30,879,女18,906)である.まさに,胃がんの制圧は全国的な重要課題である.
 昭和58年2月に老人保健法が施行され,厚生省は61年度に胃がん検診受診率を30%(約1,060万人)目標にしていることから,全国的に今後の胃がん検診のあり方に大きな関心が集まっている.

わが国の肝がん死亡の動向—肝硬変死亡との関係

著者: 角南重夫

ページ範囲:P.493 - P.497

●はじめに
 わが国の肝癌死亡率はアメリカ(白人),イングランド・ウェールズと比べて著しく高く1),世界的にも高い方に属しており2),最近上昇傾向1)にある.また悪性新生物死因順位も男で第3位,女で第4位と上位を占めている1)ので,肝癌対策はわが国にとって重要な課題と考えられる.
 肝癌は生存率3)が低いのでその対策は第一次予防が中心となるが,肝癌は肝硬変との関係が深いとされて2,4,6,8,11)いるので,肝硬変予防は肝癌対策として有意義と思われる.ところが,最近における肝硬変死亡率の推移は肝癌のそれと異なり1),両者の関係に疑問を抱かせる.これには肝硬変の生存率の影響も考えられるが,肝癌死亡の動向およびこれと肝硬変死亡との関係などについての研究は十分でない.そこで,これらを探るため,肝癌死亡率の年齢分布,推移および地域(都道府県)分布と肝硬変のそれらとの関係を調べた.

論考

難病患者の地域ケアと保健所の役割

著者: 黒田研二

ページ範囲:P.481 - P.485

●はじめに
 わが国の難病対策では,対策の対象を「特定疾患」として指定する方式が採用されている.この方法は,原因や治療法の解明という目的には有効であろうが,頻度の少ない疾患,研究の進展が期待される疾患等が優先的に選ばれがちである.しかし特定疾患以外にも難治性でかつ介護負担,経済的負担,精神的負担の大きな疾患という,社会的な意味での難病患者は地域社会には多く存在しており,そのような状態の患者をも対象に含めた地域ケアの体制を組織化していくことも,難病対策の重要な課題である.そのためには,障害者や要援護老人に対する医療,福祉サービスとも一定の共通の基盤をもった難病患者に対する地域ケア体制が構築されなければならない.そのような地域ケアは,保健,医療,福祉等の各領域が連携しなければ成立しないが,地域ケアの組織化を推進する主体としては,これらの各領域のサービスに責任を負っている地方自治体の役割が,まず第一に重要となろう.本稿では,私どもが大阪府で実施した難病患者の要望とサービスに関する調査結果を紹介するとともに,府下のいくつかの保健所での経験をもとに難病の地域ケアにおける保健所の役割を検討したい.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

28.女王陛下の疎開

著者: 北博正

ページ範囲:P.458 - P.458

 大気汚染といえば,火山の噴煙などの自然的大気汚染よりも煤煙などによって起こる人為的のものを考えるのが普通で,それも蒸気機関が発明されてから始まった産業革命(18世紀後半〜19世紀前半)により,まず英国に始まったといわれている.
 しかしそれ以前にも英国では大気汚染があり,被害も大きかった.これは暖房の熱源に薪を使っていたものが,段々と資源が枯渇して値上がりし,代わりに石炭を使いはじめたが,この地方は冬に霧が発生するという特有な気象条件と重なって,いわゆるロンドン・スモッグという名物にまでなったのである.時の女王エリザベスI世(1558〜1603)が煤煙で喘息発作が起こるというので,ウエストミンスターの醸造業者が石炭の代わりに薪を燃料とするよう協定したり,女王がロンドンからノッチンガムに疎開するという騒ぎまで起こった.

29.ブタクサ東大を救う

著者: 北博正

ページ範囲:P.485 - P.485

 1945年8月15日,日本が降伏すると直ちに連合軍は進駐を開始,既定計画に基づき,焼け残った建物の接収を開始し,東大もその対象になっていた(後日彼らの東京軍政部を訪ねた時,じゅうたん爆撃を示す大きな地図を見せられたが,占領後,彼らの使用する予定の建物はほとんど無傷といった爆撃の精度に驚かされた).さて東大に乗りつけた進駐軍の高級幹部の一行は,予想に反し接収を見合わすとのことで,帰って行った.なぜ彼らは断念したか? 大きな理由の一つは,構内に繁茂しているブタクサ(Ambrosia artemisiifolia L. var. elatior)であった.構内には畑となっている空地もあったが,手入れをせず雑草の繁茂にまかせてあるところも多く,この草むらの中にブタクサが多数生えていたのである.
 当時の日本人はほとんどブタクサの存在に気付かなかったのであるが,アメリカではブタクサの花粉によるアレルギー性疾患が多発し,いわゆるブタクサ公害が大変問題になっていた.(そんなわけで,ブタクサは東大を救った功労者といえよう.―この話は当時東大の中枢部におられた先生からお聞きしたものである).

日本列島

東保健所の成人病予防週間

著者: 土屋眞

ページ範囲:P.451 - P.451

仙台市
 2月の成人病予防週間行事として,仙台市でも3保健所がそれぞれ主催し,毎年種々の計画が練られている.人集めの難しい時代だが,少しでも意義のある集いにするために,行事内容とともに対象の選び方に心を砕いてきたので紹介したい.

昭和60年度がん制圧大会長野市で開催

著者: 藤島弘道

ページ範囲:P.480 - P.480

長野
長野県成人病予防協会創立20周年を祝う
 財団法人長野県成人病予防協会は,昭和40年3月29日に創立され,46年からは胃集団検診,55年からは乳房検診を行い,昭和59年度末では,胃検診人員1,074,826人,乳房検診人員は97,790人となった.発見胃がん件数は1,077件,乳がん件数は79件である.昭和60年9月12日,その創立20周年記念式典が長野市で催された.経過報告,受診率の高い市町村・事業所の表彰等の後,宮城県対がん協会の,菅原伸之先生の記念講演が行われた.「胃がん検診の効果と評価」と題し,胃集検の意義づけと,精度管理の必要性を強調され,有意義な内容であった.
 翌13日は,がん制圧全国大会であった.長野市の県民文化会館に,2,000人余が集まった.表彰式等に続き,NHK解説委員行天良雄氏の特別講演「すこやかに楽しい老後を生きるには」があった.「近代日本には,価値観が180°転換する時期が3度あった.第1の明治維新では,他の価値観と一緒に,健康観も変わったが,第2の敗戦時には,健康観は変わらなかった.今,第3の文化革命"高齢化社会"を迎えようとしている.高齢化社会を乗りきるには,若年・中年の時代から,健康を自分の問題として考えるようにならなければいけない.100年間は元気で楽しく生き,最後は1週間という期待のもてる現代である.」といった内容であった.

痴呆性老人対策ネットワークづくり

著者: 笹井康典

ページ範囲:P.486 - P.486

大阪
 大阪府では,昭和57年に設置された「大阪府痴呆性老人対策研究会」を中心に痴呆性老人対策が検討されてきた.58年に行われた実態調査によって,痴呆性老人が65歳以上人口の4.3%にみられることや介護上の様々な問題点が明らかにされた.そして,「相談体制の整備」,「予防と介護知識の普及・啓発」,「在宅サービスの充実」,「入所・入院施設の整備」を柱とする提言がなされた.
 それらの提言をふまえて,59年に「大阪府痴呆性老人対策ネットワーク推進会議」が設置された.この会議の目的は,痴呆性老人に関する相談や処遇を総合的かつ一体的に進めるための指針を策定することであった.会議の事務局は民生部に置かれたが,この課題に対して,民生部と衛生部が対等の立場で,共同事業として取り組むという原則が一貫している点が大きな特徴であった.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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