衛生公衆衛生学史こぼれ話
29.ブタクサ東大を救う
著者:
北博正1
所属機関:
1東京都環境科学研究所
ページ範囲:P.485 - P.485
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1945年8月15日,日本が降伏すると直ちに連合軍は進駐を開始,既定計画に基づき,焼け残った建物の接収を開始し,東大もその対象になっていた(後日彼らの東京軍政部を訪ねた時,じゅうたん爆撃を示す大きな地図を見せられたが,占領後,彼らの使用する予定の建物はほとんど無傷といった爆撃の精度に驚かされた).さて東大に乗りつけた進駐軍の高級幹部の一行は,予想に反し接収を見合わすとのことで,帰って行った.なぜ彼らは断念したか? 大きな理由の一つは,構内に繁茂しているブタクサ(Ambrosia artemisiifolia L. var. elatior)であった.構内には畑となっている空地もあったが,手入れをせず雑草の繁茂にまかせてあるところも多く,この草むらの中にブタクサが多数生えていたのである.
当時の日本人はほとんどブタクサの存在に気付かなかったのであるが,アメリカではブタクサの花粉によるアレルギー性疾患が多発し,いわゆるブタクサ公害が大変問題になっていた.(そんなわけで,ブタクサは東大を救った功労者といえよう.―この話は当時東大の中枢部におられた先生からお聞きしたものである).